「対症療法」から「予防医療」に
美ら地球は僕と妻とで起業した会社で、飛騨に受け継がれてきた暮らしを体験できるSATOYAMA EXPERIENCEというB to Cと、地域の事業開発や人材育成の支援というB to Bの二つの事業を行っています。SATOYAMA EXPERIENCEのツアー参加者は9割以上が外国人のため、今年3月上旬からほぼゼロに等しい状態となり、4月の緊急事態宣言後は全てのツアーをクローズしました。
コロナショック以前の日本のインバウンドは、約3000万人のうち、約8割がアジアの人々です。弊社はちょっと異質で、参加者の9割がインバウンド、そのほとんどが西洋の人々でした。コロナ収束後に旅行業界がどのように元へ戻るかという話で言えば、順番はやはり近くから、つまり国内、アジア、欧米の順でしょう。また、その国の親日度合いなど、別のくくりの戻り方もあるかもしれません。
ただ、どのみち弊社のインバウンドが再スタートするのは、早くて1年後くらいからと見通しています。取引のある海外の旅行会社からは、今年4月に予定していたものを来年の4月にずらした問い合わせがあり、おかげさまで来年の4月、5月のブッキングはちらほら入り始めました。とはいえ、来年の春に2019年度並みに戻るわけではないので、それまでの1年と、その後の観光ビジネスについて再検討、再構築の必要性があります。
弊社の大きな課題は、これまで1割だった国内のお客さまにどうやって飛騨へと来ていただき、かつSATOYAMA EXPERIENCEのサービスを使っていただくかです。これまで私自身が各地に出向き対応することが多かった事業開発や人材育成のなどの他地域支援のB to Bサービスを、SATOYAMA EXPERIENCEとその業務に従事するスタッフとを段階的に融合し、シームレスなサービスを構築することで、国内の新たなユーザー層に新たな価値提案を実現できるのではないかと仮設を立てて、準備を進めています。一例として挙げられるのが、今後、加速化するであろうワーケーション領域への対応です。一定規模の宿泊キャパを持つ飛騨エリアにおいて、一般観光客以外の訪問機会をいかに生み出すかということは、自社のみならず、地域全体の再生にも寄与するのではないかと考えています。
個人的な意見ではありますが、コロナショックは観光業界にとって悪いことだけでもないと思います。例えば台風、地震、噴火、暖冬など観光における危機的状況は以前から頻度が上がっていました。今は当然コロナに対してどう向き合うかが大事ですが、コロナウイルスを封じ込めればOKという単純な話でもなく、今後起こり得る全ての予測不可能な出来事にどのように耐性、抗体をつけておくかが重要だと思うのです。それも組織だけでなく、個人一人一人が持つ必要がある。
これはどの業界、どの会社も同じだと思いますが、経営資源である「ヒト・モノ・カネ」をどう工面するかがコロナ禍での目下の課題でしょう。弊社も去年なら入ってきたお金が入ってこない状況なので、一つ目は他に入ってくるものを探す、二つ目は出ていくものを減らすという非常にシンプルなことを進めました。前者は、別のビジネス、別のお客さまを探し、弊社のスタッフやサービスでどう新しく展開できるかを考える。後者は、昨年一年間の支出をチェックし、徹底的なコスト分析を行いました。これまでの環境であればやらなくても特段問題が起きなかったことで、今はやむなく「対症療法」としてやっていますが、今後はこの経験を生かして、これを「予防医療」にまで持っていくことが、今回のコロナショックに学ばなくてはいけないことではないかと考えています。