移動や行動の不自由が物事を見る解像度を上げた
新型コロナウイルス感染症の世界的大流行という未曽有の事態に直面し、私たちの暮らしは大きく変化しました。人が集まって働いたり楽しんだりする行為はリスクとみなされ、移動や行動を厳しく制限された人々は自宅で過ごすことを余儀なくされました。
私自身、これだけ長く自宅で過ごしたことは人生で初めての経験です。私は数年前に住まいを都内から神奈川県葉山町に移していたのですが、そこで「STAY HOME」を続ける中で気付いたことがあります。
例えば、時間の使い方について。まず、打ち合わせや会議のほとんどがオンラインに移行したため、都内に出向く往復2時間の通勤時間が不要になりました。オンラインだと移動の概念がなくなるので、テトリスのように空き時間を埋めながら効率よくスケジュールを組めます。物理的な移動や行動を制限されたことで、逆説的に時間を密に使うことができるようになったわけです。これは私だけでなく、多くの人々が感じていることだと思います。
物の見方や見え方にも大きな変化がありました。同じ空間に長く居続けると、無意識に脳が見慣れた風景の中に変化を感じ取ろうとするのでしょうか。これまでなら気にも留めなかったような物事に意識が向かうようになりました。例えば、庭の一角に咲いている小さな花の存在や、風とともにふいに漂ってくる潮の香りに気づいてハッとするような。目に映る物事の解像度が上がり、生活の場である空間をより精細に捉えられるようになった気がします。