物理世界から引き離されて、初めて見えたこと
コロナ危機によって世界は今、大きく変容しています。あらゆる物理的な接触が避けられ、在宅勤務が当たり前になり、家族と過ごす時間が増える。私自身にとっても、それはこれまでの人生で味わったことのない大きな変化といえます。
一方、Takramとしてはコロナ危機の前から業務のデジタルシフトはかなり進んでいて、これまでも海外とのオンラインで会議やリモートワークは日常的に行っていました。しかし、そんな私たちでさえ、やはり「ビジネスの軸足は物理世界にあった」ということを強く実感しています。
それはつまり、組織としてビジネスを進めていく際、私たちは前の世代の人々が試行錯誤して編み出した最適な仕組みを無自覚に活用していた、ということです。そもそも快適なオフィスがあり、会議室があり、それぞれに机と椅子があるのはなぜなのか。昼休みが1時間と決まっているのはなぜなのか。それは人が集まって働くようになった産業革命以降、誰かがオフィスや昼休みを「発明」したからにほかなりません。これまで全く意識しなかったけれど、そういった働く場のベストプラクティスは常に発明され、ひっそりと改善され続けていたわけです。コロナ危機によって、改めてそのことに気付かされました。
と同時に、そういう部分にこそ、ポストコロナ時代にデザインが果たすべき役割のヒントがあると思うのです。そもそもデザインとは、人間と人工物の間にある融合し得ない断面を滑らかに接合し、より快適に使えるようにするための手法です。コロナ危機によって人間と物理世界の距離が広がった今、人間の身体と人工物との間のギャップは、極大化しつつあります。その不一致をできる限り埋めるためには、これまでに僕らが築き上げてきた社会インフラや知識を大きく見直し、デザインの力で再構築する必要がある。僕はそう思っています。