森俊子
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ポストコロナ、建築はどう変わるべきか

より良い未来を望むデザイン思考

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タイムアウト東京 >ポストコロナ、新しい日常。> インタビュー:森俊子

テキスト:マーカス・ウェブ
翻訳:トノタイプ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。

今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第8弾では、Toshiko Mori Architectのファウンダーで、ニューヨーク在住の森俊子にコロナ危機が起きて以来の生活を形づくるデザインの役割について話を聞いた。

これからは働く場や生活の場に変化を

コロナ危機が起きて、建築家たちは今とても忙しいです。適応しなければならない多くの新しい課題があり、今後、空間をどう利用するかについて賢明な決定をしていくためにクライアントと話し合っています。大きな問題は、社会的距離を保ち、換気や衛生状態を改善し、誰にとっても衛生管理の整った場所をどのように導入すればいいかということ。図書館ではどうすればいいか。植物園や美術館、学校ではどのようにすればいいのか。私は全く無理なことではなくて、適応することができると思っています。

誰でも使える公共スペースは不可欠となり、さまざまな施設でそのための空間を見つけていかなければならないでしょう。例えば、複合商業施設。人々が歩き回れるような空間を作るとき、単に大きな花壇を作る代わりに花を眺めて散策できる空間を考える。そういったことへの考慮が必要でしょう。現在、私たちは桟橋を公園にするプロジェクトを担当していて、桟橋は非常に興味深い場所だと感じています。なぜなら、長くて狭く、非常に簡単に社会的距離やその場所に入れる人数をコントロールできるからです。前から話があった仕事ですが、この公園は今の時代にフィットするものになるでしょう。

今回の危機は人々の家も変えています。住宅案件も多いのですが、私たちのクライアントはみんな私たちのデザインした別荘で暮らして仕事をしています。この状況は今後も続くだろうと思っています。職場へ行く必要はなく、自宅で仕事をすることで生産性を高めることができると、みんなが感じています。そのため今後の住宅には、子どもやペットに気を取られずに、快適に仕事ができるような空間が求められることが増えると思います。

より共栄可能な包括性の高い都市に

自宅で仕事をする人が増えることは、オフィスビルの扱い方が大きく変ることも意味します。私が住んでいるニューヨークでは、社会的距離の確保が理由で利用が減り、高層ビルが空になってしまうかもしれないという心配があります。東京も同じ状況でしょう。しかし、私はこの危機が都市の終わりになるとは思いません。

都市は魅力的です。どこへでも歩いていけますし、文化的な楽しみも充実しています。美術館は今後も残るでしょう。コンサートも、オーディエンスの数は減るかもしれませんが、開催はされるでしょう。文化は滅びません。これもまた、都市に特徴的な現象ですが、フードビジネスは活況を呈しています。実際私たちは、ほとんどのものをデリバリーで頼んでいて、Amazonだけでなく、ニューヨークでは地域の農家、デリ、商店もデリバリーを行っています。今後も続く現象でしょう。都市のコミュニティーであれば、優秀で規模の大きい病院や医療システムを支援することも可能です。そんな風に、私は都市のコミュニティーを強く信じています。もし、オフィスが空になるのなら、リノベーションをすればいい。そうすれば、そこに人々が住むようになるでしょう。

ニューヨークで私たちが最も心を痛めているのが、新型コロナウイルス感染症の流行で、所得格差の明確な差が露呈されたということです。感染患者数が最も多いのは、生活状況がより悪い、低所得層のコミュニティーです。このままでは許せません。私たちは市民が平等な暮らしが営める都市を目指すべきです。貧富の差は都市が持続できない大きな理由であり、破壊の可能性があります。我々は個人ですがいろいろな層の人々に助けられてやっと生活ができるのです。市民、コミュニティー、小規模のビジネスを巻き込み、人々に街の一員であり役割もあると再び感じてもらうために、みんな一緒に生活の質を良くできる都市社会を目指します。

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行動するのは今

未来を形づくる上で、建築家の果たす役割は大きいと思います。しかし、私たちはもっと柔軟性と適応性を持たなければならないでしょう。完成まで10〜15年もかかる昔ながらのマスタープランは、なくしたほうがいいです。私たちに必要なのは、既存のリソースを利用して適応させる、そして、短期的な戦略を示していく、という考え方を持つことです。低い枝に実る果物を収穫するように、まず手近なことから着手するといいでしょう。一日もあればオフィスのレイアウトは変えられますし、次の1週間で、今より多くの手指を消毒する設備を導入ことも可能です。今の時代、建築家は空間だけでなく時間についても考えなければならないのだと思います。不意に我々が経験することになった今回の事象に早く適応するべきでしょう。これ以上待つことはできません。

東京が世界へ発信できること

東京、また日本の発表では、人口と密度の比較でも世界的に大変少ないコロナ感染死者の数値が出ています。日本の衛生管理を目的とした習慣と関係があると思います。それからこまめに清めて、手洗い、マスク、うがいが習慣になっていて、家などでは靴を脱ぐ。家族にはそれぞれに決まった茶わんや箸があります。古いものでも新しいものでも、日本の知恵やライフスタイルは、海外の人が実践できるいくつかのアドバイスになります。

「清掃」という観念も大切ですね。東京は、世界一であろう公共交通機関における衛生管理の方法を世界の基準として発表するべきでしょう。ニューヨークでは最近毎晩地下鉄を殺菌していると発表がありましたが、東京はゴミが滅多に落ちていないし、通りもきれいに整備されているなど、都市全体の清掃プランなど大変参考になると思います。

森俊子(もり・としこ)

世界で最も尊敬される建築家の一人。建築事務所、Toshiko Mori Architect を1981年にニューヨークで設立。環境に配慮した立地計画や歴史的背景、新旧のマテリアルの融合といった革新的なアプローチで知られている。最近のプロジェクトに、ブルックリン公共図書館基本計画とバッファロー植物園、シンチアンのスレッド文化センターとアーティストレジデンス(セネガル)、およびブラウン大学ワトソン国際公共問題研究所のロバート '62 ホール。また、ハーバード大学デザイン大学院建築学科教授も務めている。

  • Things to do

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。ここではアーカイブを紹介していく。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第1弾では、ビジネス、テクノロジー、クリエイティブに精通し、プロダクト、サービスからブランド構築まで幅広く手がけるTakram代表の田川欣哉に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第2弾では、世界最大の旅行プラットフォーム、トリップアドバイザーの日本法人代表取締役を務める牧野友衛に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第3弾では、雑誌『自遊人』の編集、米や生鮮食品、加工品などの食品販売、里山十帖(新潟県南魚沼市)や箱根本箱(神奈川県箱根町)などの宿泊施設を経営&運営する自遊人の代表取締役 、岩佐十良に話を聞いた。 ※現在クラウドファンディングも実施中、公式サイトから確認してほしい。  

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  • トラベル

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第4弾では、岐阜県飛騨古川にて、里山や民家など地域資源を活用したツーリズムを推進する、美ら地球(ちゅらぼし)代表取締役の山田拓に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第5弾では新宿、歌舞伎町の元売れっ子ホストで現在はホストクラブ、バー、美容室など16店舗を運営するSmappa! Group会長の手塚マキに話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第6弾では、ウェブデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティーデザイン、空間デザインなど年間300件以上のプロジェクトを手がけるロフトワーク代表取締役の林千晶に話を聞いた。

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音楽界の先駆者であり、ユネスコの親善大使でもあるジャン・ミシェル・ジャールが、4月に行われた第1回『レジリアート(ResiliArt)』に参加した。ユネスコが主催する『レジリアート 』は、新型コロナウイルス感染症が世界的流行している現在の、そしてポストコロナ時代のクリエーティブ産業について、主要な文化人が語り合うバーチャル討論会だ。 シリーズ第7弾では、ORIGINAL Inc. 執行役員でシニアコンサルタントを務める高橋政司が、ジャン・ミシェルに新型コロナウイルス感染症の大流行がアーティストにもたらした課題、この危機でクリエーティブ産業がどう良くなる可能性があるのか、などについて聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第9弾では、イギリスでホテルを経営しているデボラ・クラークに、新型コロナウイルス感染症がホスピタリティー業界にもたらした影響とホテル経営者たちが進むべき道について聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第10弾では、現在WIRED CAFEを筆頭に国内外で約80店舗を展開、カフェ文化を日本に浸透させた立役者であるカフェ・カンパニー代表取締役社長の楠本修二郎に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第11弾では、イギリス帝国戦争博物館の館長で、国立博物館長評議会の会長を務めた経験も持つダイアン・リースに、世界中の博物館が新型コロナウイルス感染症の流行にどう対応すればいいかについて聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビューシリーズを行っている。 第12弾は、風営法改正やナイトタイムエコノミー推進におけるルールメイクを主導してきた弁護士の齋藤貴弘だ。国内外の音楽シーンやカルチャーに精通する齋藤に、日本のナイトタイムエコノミーや文化産業が直面する現状、そして、そこから見える日本の新しい文化産業の可能性を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画を連載している。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第13弾では、廃棄物処理事業者として都市のごみ問題と向き合ってきた日本サニテイション専務取締役の植田健に、コロナ危機下の東京におけるごみ問題にどのような変化が起き、ポストコロナ時代のごみ処理にとっての課題は何か、話を聞いた。

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  • Things to do

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画を連載している。 緊急事態宣言下、外出自粛要請が出された東京都心は、ゴーストタウンのように静まり返った。そこで改めて浮き彫りとなったのが、過密都市東京の抱える課題だ。あらゆるものが密に集まる都市のリスクとは何か。人々が快適に暮らし、働き、楽しむ理想的な街の姿とはどのようなものなのか。シリーズ第14弾では、都市空間の在り方を問い直し、さまざまな実験的アプローチで新たな空間価値を提案し続けるライゾマティクス・アーキテクチャー主宰 、齋藤精一に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビューシリーズを行っている。 第15弾はロンドンのタイムアウト編集部からニューヨーク在住の気候科学者ゲルノット・ワーグナーにインタビューを申し込んだ。ニューヨーク大学准教授として活動する気鋭の研究者が、新型コロナウイルス感染症による危機が地球に与える影響について語ってくれた。

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