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牧野友衛
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インタビュー:牧野友衛

何事も「自分事」に捉えられる時代へ

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タイムアウト東京 >ポストコロナ、新しい日常。> インタビュー:牧野友衛

テキスト:堀 香織

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。

今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第2弾では、世界最大の旅行プラットフォーム、トリップアドバイザーの日本法人代表取締役を務める牧野友衛に話を聞いた。

コロナ禍が「バランスの取り方」を考えるきっかけに

日本政府観光局(JNTO)が発表した資料によると、今年2月に世界各地で渡航制限が出て以降、3月に日本を訪れるインバウンドの旅行者は前年同月比約93%、日本人旅行者の海外旅行は約86%マイナスとなり、当社の3月のサイト閲覧数も同様のトレンドが見られました。一方、国内旅行に関しては、緊急事態宣言が出される以前の3月後半まで、かなりニーズがありました。実際に行くかどうかは別として、調べるという行動は続いていたということです。しかし、さすがに3月後半からは落ち込みました。

現在、移動が制限されているために、旅行業界は壊滅的です。ただし、人には「出かけたい」「新しい世界を見たい」という欲望があるので、外出規制が解けたら、旅行業界は回復するのが確実です。弊社の直近のデータによれば、首都圏の人々は近場の温泉地を探すケースが多い。週末のキャンプ場も混んでいるという情報があり、電車や飛行機を使わずに車で行けるエリアを探しているのでしょう。

実際、重症急性呼吸器症候群(SARS)やリーマンショックのような有事を振り返っても、収束後は国内旅行から回復している。観光スポットを何カ所か回るよりは1泊または日帰りで、一つの場所でゆっくりと過ごす、といったタイプの旅行から徐々に回復していくのではないでしょうか。

では、日本においてインバウンドはいつ回復するのか。そもそも、回復できるのか。僕は今回の新型コロナウイルス感染症をきっかけに、インバウンドに対する考え方をあらためないといけないと思っています。

例えば、韓国人観光客が多数を占めた観光地は、日韓関係の悪化により、昨年の韓国人観光客が激減して多大な痛手を被りました。この事実は、インバウンド特需に依存することなく、「どの国の人に、どうやって来てもらうか」という、訪日外国人の国別の内訳を戦略的に考える必要性を、日本全国の観光地に気付かせるきっかけになりました。

昨今の京都もインバウンドで潤いましたが、その分、日本人観光客は減少しました。この3月、久しぶりに錦市場に行ったのですが、人がいなかった。以前はスズメの焼き鳥などを売る「ローカルの台所」という印象でしたが、想像以上に外国人向けにシフトしており、地元客が訪れない商店街へと変貌していたのです。

それは観光地だけでなく、レストランも同じこと。インバウンドだけにシフトしていた店は、今回のように外国人旅行客が来なくなれば早々に大きなダメージを受けてしまう。一方、地元住民に愛されている店は、いまもテイクアウトで賑わっている。「ローカルにも愛されてこそ」ということに観光地も飲食業も気がついたと思いますし、今後はインバウンドと国内のバランスを、よりシリアスに考えていくべきではないかと思います。

「何がオンラインでできないのか」を考える

アフターコロナに関しては、「何がオンラインでできるか」ではなく、「何がオンラインでできないか」という発想の転換が起き、それによってさまざまな変化が起こるでしょう。 

例えば、「脱ハンコ」。外資系企業では、サインした契約書はPDFにしてメール転送、社内決済ですらメールで了承するのが当然です。これは日本企業でも一気にオンライン化が進むかもしれません。

また、弊社は2月半ばから時差通勤と在宅ワークを始めていますが、オフィスに行く必要が週に一度でよいのであれば、そもそも東京に住む必要はないのではないかと考えるようになりました。今回の在宅勤務の成果によっては、自宅を引っ越すかもしれないし、オフィスのサイズを縮小してもいいかもしれない。オフィスの機能自体、みんなが働く場ではなくて集まるための場になるかもしれません。

では、オンラインでできないものは何か。旅行はその最たるもので、インターネット台頭後も旅行代理店がオンライン化しただけであり、人が行って帰ってくるという「リアル」にこれまでオンラインは入り込めませんでした。

ただ、外に物理的に出られない今、オンラインコミュニティーやバーチャルな世界のリアリティー感が上がるような気がします。スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』(2018年)は、環境汚染や気候変動、政治の機能不全により荒廃した世界で、スラム街に暮らさざるを得なくなった人類の多くが『オアシス』というVR世界に現実逃避する、というストーリーですが、まさに日常とオンラインの距離がこれまで以上に近くなるのではないか。そうなったとき、VR世界での観光ガイドや口コミが生まれたら面白いかもしれません。それらが実際の世界を生きる中でのTips(助言、秘訣、コツ)的なものになりそうな気がします。

また、私はアート鑑賞が趣味なのですが、コロナ禍を機に日本の美術館が作品をアーカイブとしてオンライン展示するようになったのはようやく海外に追いついたとうれしく思う一方、美術鑑賞こそまさにリアルな体験でないと魅力が半減することをあらためて感じました。美術館は一気に解放するのは無理でも、体温を測ったり、時間と人数を制限したりして、早々に再開してほしい。ヨーロッパでは当たり前なオンライン予約も、この際追いついてくれることを願います。

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「他人事」から「自分事」へ

UberやAirbnb、カーシェア、シェアハウスなど、シェアリングエコノミーが日本でも数年前から浸透しはじめています。今まさにアルバイトや職を失った人がUber Eatsで短期収入を得ているとも聞きますが、私はそもそもレストランがそれぞれに出前をするより、出前部分だけをシェアリングすればいいと以前から思っていました。

例えば、昔の庶民は銭湯に通っていましたが、高度成長期に各家庭に風呂ができて銭湯に行かなくなりました。でもこれからは、それぞれの家で水を沸かして入浴するのは効率が悪いと、また銭湯に戻っていくかもしれません。つまり、「シェアできるシステムがあれば、各自一つひとつ物を持たなくてもいい」という考えがさらに浸透していくと、豊かさの定義も変わっていくのではないでしょうか。

定義が変わると言えば、個人的には感染症はすごく面白いと思います。「面白い」というのは語弊があるかもしれませんが、今回の新型コロナウイルス感染症は、「自分が罹患すること」よりも、「自分が相手にうつす可能性があること」を考えなければいけない。それが、これまでの病気とぜんぜん違う。がんであれば本人だけが死にますが、新型コロナウイルス感染症の場合は、本人は死ななくても、うつした相手は死ぬかもしれない。つまり、自己責任を超えているわけで、その発想の転換が、今後の社会にも影響していくのではないでしょうか。

例えば、ホームレスやネットカフェ難民に対しても「そういうのは自己責任だろう」と切り捨てるのではなく、「自分にも起きる未来かもしれない」と自分事として捉える人が増えるかもしれない。「情けは人のためならず」と、彼らに対して救いの手を差し伸べることが、結局は自分にもいずれ返ってくるのだと素直に信じられる人も増えるかもしれない。それが、今回のアフターコロナに起こりうる、非常に良きことのような気がしています。

牧野友衛(まきの・ともえ)

トリップアドバイザー日本法人代表取締役。1973年、東京都生まれ。AOL、グーグル日本法人、Twitter Japanで、製品開発や業務提携、利用者数拡大などに尽力。2016年より現職。総務省が管轄する、ICT分野において既存の価値や常識にとらわれない独創的な人材発掘を目指す『異能(INNO)vationプログラム』や農水省、東京都のスーパーバイザーも務める。

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「文化は良き時代において享受されるぜいたく品ではない」「アーティストは生命の維持に必要不可欠な存在である」。この言葉は、ドイツのモニカ・グリュッタース文化相がコロナ禍における文化支援について語った時のものだ。 日本では、4月7日に発表された緊急事態宣言に際して、108兆円規模の経済対策が用意された。そこには事業者向けの支援策もあり、「個人事業主は上限 100万円の範囲内で、前年度の事業収入からの減少額を給付」する旨が明記されている。フリーランスのクリエーターやアーティストも受けることができる補償がようやく整備されつつある。 しかし、クラスター発生のリスクが高いとされる「3密」空間であるナイトクラブやライブハウス、劇場、ギャラリーを活動の場にしてきたアーティストたちは、最長で来年の夏から秋ごろまでステージでの活動を自粛または制限し続けなくてはいけない可能性がある。もしそうなった場合、補償だけを頼りに食いつなぐことはできない。なにか新たな道筋が必要だ。 先の支援策が発表される数日前、ある音楽プロダクションが2つのプロジェクトを発表し、話題となった。 そのプロダクションとは、OvallやKan Sano、mabanuaら、ジャズやソウル、ヒップホップをバックグラウンドに持つ人気プロデューサー、ミュージシャンが所属しているorigami PRODUCTIONSだ。  origami PRODUCTIONS プロジェクトの一つは、ライブができなくなり収入源を断たれたアーティストに向けて、同プロダクションに所属するプロデューサーやミュージシャンたちの楽曲を版権フリーの素材として無償提供する『origami Home Sessions』。もう一つは、代表の対馬芳昭が自己資金の2,000万円を音楽シーンに寄付する目的で立ち上げた『White Teeth Donation』である。 大きな反響を呼んだこれらの企画は、コロナ以前から対馬のなかにあった音楽業界に対する問題意識がベースになっているという。2,000万円の資金は、業界のシステムや意識の構造改革のために自らが行動できるようにと、かねてから貯めていたものだ。 窮地をしのぐだけでなく、文化を守るためのプロジェクトはどのような道筋を作るのか。対馬にプロジェクトの経過について、そして今後の展望について聞いた。 拡散するコラボ音源、継続的な収入源にも 3月30日にスタートした『origami Home Sessions』は、すでに多くのコラボレーション音源を生み出している。この斬新なプロジェクトがすんなりと受け入れられ拡散されたのは、もちろんプロダクションの所属アーティストたちの人気によるところも大きいが、それと同時に作り手目線での「使い勝手の良さ」がしっかりと想定されていたことにある。 「このプロジェクトのメリットは、アーティストが録音物をオンラインにあげてその場ですぐに利益化できることです。また、利益のためだけでなく、遊びやプロモーションとしてデモ段階のものをアップして楽しんでもらう。その上で、良い反応が得られたら本格的に録音するなど、さまざまな使い方ができると思います。 ファンにとっては、同じ曲をさまざまなシンガーやラッパーが歌い、ミュージシャンが演奏を重ねる様子を楽しむことができます。みんなを巻き込み、かつ家にいながら楽しめるものなんです」 mabanua (マバヌア)さんのビートをアレンジし歌いました本日よりYouTubeとhttps://t.co/GYsE4B7dgXSoundCloudで配信htt
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議論を呼んでいるオーストラリア連邦政府の接触追跡アプリが、4月26日にローンチされた。「CovidSafe」と名付けられた同アプリは、シンガポールで開発されたというTraceTogetherから着想を得ている。主な機能は、人との接触の記録と新型コロナ感染リスクの警告だ。人との接触の記録は、近くのデバイスとのBluetooth通信を利用して行われる。 ユーザーが15分以上、1.5メートル未満の間隔で密接に接触した人を濃厚接触者として記録。感染リスクの警告は、ユーザーの濃厚接触したうちの誰かが検査で陽性になった場合に発信される。警告は、自身の検査の受診と自己隔離を開始するタイミングの判断に役立つというわけだ。 連邦政府は、全土で現在も行われている厳しい社会的制裁の撤回に向けて、準備を進めている。そのなかで重要な役割を担うとされているこのアプリは、保健当局における市中感染の調査、追跡を強化できる。アプリの開発に加えて、各州政府はここ数週間、検査能力と救命救急施設の設置を大幅に拡大してきた。 CovidSafeが有効に機能するためには、人口の40%がこのアプリをダウンロードする必要がある。これに成功すれば、数週間以内に小売店、職場、飲食店などに対する規制緩和が期待される。このアプリは国の急激な景気後退を反転させるための重要な足がかりとして、連邦政府関係者から歓迎されている。しかしその一方で、データの安全性やプライバシーの保護に対する懸念がアプリ発展の足かせになっている。 首相のスコット・モリソンと内務大臣のピーター・ダットンは、国民に対して、このアプリは行動追跡装置のようなものではなく、収集されたデータには警察を含むどの連邦政府機関もアクセスできないことを保証した。ユーザーのプライバシーをさらに保護するため、アプリをダウンロードする際に要求されるユーザー名は仮名での入力も可能だ。また、年齢、携帯電話番号、郵便番号も入力する必要があるが、経歴や医療情報などそれ以外の情報は必要ない。 アプリによって収集されたデータは暗号化され、ユーザーのスマートフォン内に21日間保存された後、陽性が確認された人との接触がなければ削除される。もしユーザーが感染したと診断された場合は、データはそのユーザーから許諾を得た上で、保健当局とのみ共有される。アプリのダウンロードは完全に任意で、アンドロイドとiPhoneで利用が可能だ。 原文はこちら 関連記事 『ポストコロナ時代、航空機の座席はこうなる? イタリア企業がプロトタイプを発表』 『Netflixが新型コロナウイルスを特集したドキュメンタリーを放送』
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