ダイアン・リース
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コロナ禍で見えた、博物館の未来

イギリスの博物館館長に聞く、これからのミュージアム運営

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タイムアウト東京 >ポストコロナ、新しい日常。> インタビュー:ダイアン・リース

テキスト:マーカス・ウェブ
翻訳:トノタイプ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。

今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第11弾では、イギリス帝国戦争博物館の館長で、国立博物館長評議会の会長を務めた経験も持つダイアン・リースに、世界中の博物館が新型コロナウイルス感染症の流行にどう対応すればいいかについて聞いた。

ニューノーマルに普通はない

BC(ビフォアコヴィッド)の時代がまさにバラ色の世界だったと思い返すことには注意が必要ですが、チャーチル博物館、HMSベルファスト号、ダックスフォード帝国戦争博物館、帝国戦争博物館ノース、帝国戦争博物館ロンドンの五つの施設で構成される帝国戦争博物館は、集合体として見て、私たちの歴史の中でも最高の時期を迎えていました。感染が拡大するまで、資金調達、入場者数、展示、新たな顧客の獲得において、驚くほどの成功を収めていたのです。そして、それらの全てが崖から落ちるように崩れてしまいました。

客商売をしている人たちと同じように、私たちも金銭的にも大きなダメージを受けており、毎月約百万ポンドも失っています。これは本当に奇妙な時期ではないでしょうか。私たちは「どうぞいらしてください。素晴らしいものが見られます。遊びに来てください」と言うことに時間を費やしてきた組織なのですから。そして、それら全てを「ご案内できません。来ないでください。ステイホームでお願いします」に変えなくてはならなくなったのです。これは、私たちが目指してきたことではありません。

恐ろしい時代であることを忘れないことが重要

私は35年間、博物館に携わってきました。いつも人をマネジメントしてきましたが、これまで怖がっている人に向き合わなければならない機会はありませんでした。

私は信じられないほど献身的なチームに恵まれています。彼らは理念や目的を理解し、ただそれらを実現したいと思っていますが、それでも何人かは新型コロナウイルス感染症を怖がっているのです。彼らは自分自身、家族、生活、目標について心配しています。

その恐怖心をどうやって取り除くかは、個人差があるため、至難の業でしょう。でも、話すことが助けになることが分かってきました。恐怖心を声に出してもらえれば、彼らの怖さに一緒に向き合えるのです。

博物館の再開について言えば、私たちの大きな懸念の一つは、スタッフが恐れないで仕事に戻れるようにすること、それをできるだけ賢く実現すること。来館者のためだけでなく、スタッフにとっても博物館を安全な場所にすることが、私たちの仕事であることを忘れてはなりません。

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再オープンはスローペースで

私たちは閉鎖を続けるという方針に耐えられなかったので、再オープンについて多くの計画を立てました。もちろん、私たちは政府の助言に完全に従い、何が何でもウイルスの拡散が博物館で起きないようにしなければなりません。帝国戦争博物館の傘下にある施設は、それぞれに違いがあります。例えば、今のソーシャルディスタンスのルールを適用しようとしても、HMSベルファスト号とダックスフォード帝国戦争博物館とでは全く違うのです。ベルファスト号は、現存する第二次世界大戦で最も重要なイギリス海軍の軍艦で、ダックスフォードは広い飛行場です。ですから最終的には、再オープンのフェーズを区切ることになるかもしれません。

ほかにも考慮しないといけないことがあります。経済的に成り立つだけの人が来るかどうか、人々は博物館にまた来たいと思うか、ということです。公共交通機関を利用して来ることに心配がないかも考えなければなりません。そうしないと結局、私たちはただスタッフを休暇から引き戻して必要経費を増やすだけで、収入をもたらしてくれる来館者が来ないということになります。

バランスのとれた行動が大事です。何よりもまず安全であることが必要ですが、その次は、生き残れる方法であるかどうかでしょう。海外旅行の再開や海外からの来館者に対するあらゆることについても同じです。残念ながら、海外から来館者を迎えるのは、もう少し後になると思われます。

デジタルは違いをもたらす

私たちが今すぐできることの一つは、デジタルでの体験を提供することです。私たちの博物館では、家庭で楽しめるものを含めた非常に強力なデジタルプログラムを用意してきました。新型コロナウイルス感染症の流行の前から取り組んでいましたが、より広い範囲に届くようにこの機会に強化しました。

オーストラリアの家庭でホームスクーリングをした方から、とても素晴らしい感想が届きました。お母様から届いたそのメッセージには、第二次世界大戦パックの活動の一つである、空襲シェルターをテーブルの下に作ったとあり、これまで家族でしたことの中でも一番楽しいことだったと言ってくれました。子どもたちは授業とは思えないくらい楽しかったと感じてくれただけでなく、その中で寝ていて、今では毎晩寝るのが待ち遠しいとまで言ってくれています。

これは私たちにとって一つの成功なのです。第二次世界大戦とその結果を理解してもらうだけでなく、彼らがポジティブな体験をして楽しんだことを忘れないでいてくれているという事実が、大きな収穫でした。これは今までとは違うことをデジタルで行うことで、インパクトを与えられることを意味しているのです。

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未来に向けたコストの見直しを

最も差し迫った懸念は財務状況の整理でしょう。特に国立博物館は、新型コロナウイルス感染症の流行により経済的に大きな影響を受けており、これは一部には海外からの観光客がいないことも関係しています。政府が資金を出して収蔵品を守るという話もあります。収蔵品は個々の博物館のものではなく、国民のものなのですから。私たちは今回の危機以前から博物館における資金のニーズについて、政府と会話を始めていました。建物に深刻な問題を抱えていたからです。その話は、信じられないほどうまくいっていたのですが、今後どうなるかは分かりません。

国立の博物館が一堂に会して、より多くのものを共有する機会があってもいいでしょう。国立の博物館のミュージアムショップポータルと配送センターが一つにまとまっていれば、この危機の影響をもう少し抑えられたかもしれません。それぞれの博物館が独自にやっていくよりも、ある程度のお金を稼ぐことができたと思います。デジタルについても同じです。私たちの認知を広げるために協力し合えば、もっと人々に芸術や科学、歴史を理解してもらうことができます。

私たちがどこまで通用するのか、何ができるのか、考え直す時が来たのです。準備しなければなりません。悲しいかな、危機が再び起こるかどうかではなく、いつ起こるのかと考えるべきだからです。

ダイアン・リース

イギリスで最も人気のある五つの観光スポットから成る帝国戦争博物館の館長を務めている。また、WLMN(Women Leaders in Museums Network)のメンバーであり、アーツカウンシルの外部諮問委員、Museums + Heritage AwardsやCMI Book of the Yearの審査員でもある。2013年4月から2017年3月まで国立博物館長評議会の会長を務め、2014年12月には、イギリスの博物館への貢献が認められ新年叙勲者リストに入り、大英帝国勲章を受けた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。ここではアーカイブを紹介していく。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第1弾では、ビジネス、テクノロジー、クリエイティブに精通し、プロダクト、サービスからブランド構築まで幅広く手がけるTakram代表の田川欣哉に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第2弾では、世界最大の旅行プラットフォーム、トリップアドバイザーの日本法人代表取締役を務める牧野友衛に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第3弾では、雑誌『自遊人』の編集、米や生鮮食品、加工品などの食品販売、里山十帖(新潟県南魚沼市)や箱根本箱(神奈川県箱根町)などの宿泊施設を経営&運営する自遊人の代表取締役 、岩佐十良に話を聞いた。 ※現在クラウドファンディングも実施中、公式サイトから確認してほしい。  

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  • トラベル

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第4弾では、岐阜県飛騨古川にて、里山や民家など地域資源を活用したツーリズムを推進する、美ら地球(ちゅらぼし)代表取締役の山田拓に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第5弾では新宿、歌舞伎町の元売れっ子ホストで現在はホストクラブ、バー、美容室など16店舗を運営するSmappa! Group会長の手塚マキに話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画をスタート。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第6弾では、ウェブデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティーデザイン、空間デザインなど年間300件以上のプロジェクトを手がけるロフトワーク代表取締役の林千晶に話を聞いた。

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音楽界の先駆者であり、ユネスコの親善大使でもあるジャン・ミシェル・ジャールが、4月に行われた第1回『レジリアート(ResiliArt)』に参加した。ユネスコが主催する『レジリアート 』は、新型コロナウイルス感染症が世界的流行している現在の、そしてポストコロナ時代のクリエーティブ産業について、主要な文化人が語り合うバーチャル討論会だ。 シリーズ第7弾では、ORIGINAL Inc. 執行役員でシニアコンサルタントを務める高橋政司が、ジャン・ミシェルに新型コロナウイルス感染症の大流行がアーティストにもたらした課題、この危機でクリエーティブ産業がどう良くなる可能性があるのか、などについて聞いた。

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  • ナイトライフ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビューシリーズを行っている。 第12弾は、風営法改正やナイトタイムエコノミー推進におけるルールメイクを主導してきた弁護士の齋藤貴弘だ。国内外の音楽シーンやカルチャーに精通する齋藤に、日本のナイトタイムエコノミーや文化産業が直面する現状、そして、そこから見える日本の新しい文化産業の可能性を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画を連載している。 今後、私たちの社会、環境、生活はどのように変わっていくのか。その舞台装置となる都市や空間は、どのようにアップデートされていくのか。シリーズ第13弾では、廃棄物処理事業者として都市のごみ問題と向き合ってきた日本サニテイション専務取締役の植田健に、コロナ危機下の東京におけるごみ問題にどのような変化が起き、ポストコロナ時代のごみ処理にとっての課題は何か、話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビュー企画を連載している。 緊急事態宣言下、外出自粛要請が出された東京都心は、ゴーストタウンのように静まり返った。そこで改めて浮き彫りとなったのが、過密都市東京の抱える課題だ。あらゆるものが密に集まる都市のリスクとは何か。人々が快適に暮らし、働き、楽しむ理想的な街の姿とはどのようなものなのか。シリーズ第14弾では、都市空間の在り方を問い直し、さまざまな実験的アプローチで新たな空間価値を提案し続けるライゾマティクス・アーキテクチャー主宰 、齋藤精一に話を聞いた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、私たちは今、かつてないほどの変化の時代を迎えている。グローバルなシティガイドとして東京のさまざまな情報を発信してきたタイムアウト東京は、ポストコロナ時代のシティライフを読み解くための試みとして、国内外の識者によるインタビューシリーズを行っている。 第15弾はロンドンのタイムアウト編集部からニューヨーク在住の気候科学者ゲルノット・ワーグナーにインタビューを申し込んだ。ニューヨーク大学准教授として活動する気鋭の研究者が、新型コロナウイルス感染症による危機が地球に与える影響について語ってくれた。

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