0か100かではない方針を
とにかく私は悩んでいます。感染症がまん延する社会という初めての経験で、商売人として、また一人の人間としてどう対峙(たいじ)すればいいのか、皆目見当がつきません。「今は何も正論がない」という気持ちが強く、そんな「ない正解」を模索しながら、この数カ月を過ごしてきました。
歌舞伎町の多くのホストクラブは、東京都の緊急事態宣言が出る以前の3月末に「土日営業を自粛する」という声明を共同で発表しました。「歌舞伎町のホスト業界もそういうことを意識しています」というアピールも兼ねて。
でも私は、週6日営業を週4日に減らしたら余計に密が上がると思った。クラスターを作らないようにするためには、営業日数を増やして顧客を分散させるほうがましなのではないか。顧客にとってもまんじりと家にいるよりは、週に1、2時間店で酒を飲むほうが心の健康をキープできるのではないかと。そこで弊社は、例えば50坪の店内に1、2組のみ、顧客一人に対してホストとヘルプ計二人で対応するというようなガイドラインを出しました。ホストも顧客も1週間きちんと検温を続け、互いに健康な状態で憩うのであれば感染率は低いと思ったからです。
一方、従業員に対しては教育を行うことにしました。「0か100かではない」、つまり「どんな状況でも営業したい」もしくは「営業するのは絶対におかしい」という両極端な判断に走らず、その考えに至るまでの過程について考えてもらおうと思ったのです。具体的には4月の報酬を100%保証し、コロナについての情報と知識をまとめた従業員向けの動画を配信して、それを見ることやレポートを書くことを課題として与えました。
実は2011年の東日本大震災の時も、従業員一人一人と面談して「そもそも何のために働いているのか」ということを考える機会にしたのです。店は1日も休まなかった。「誰かのために門戸を開いておく」ということが、私たちのような店、そして歌舞伎町という街の社会的意義だと思っていたからです。
そこで今回もきちんと誰かのより所になってあげられる店であること、誰かのより所になれる人間であることを考えてもらう機会になればいいなと思っていました。しかし、残念ながら私が期待するような結果は得られなかった。特に最近雇った若い従業員は家にじっとしていることができず、教育動画もまったく見ず、ちょっと具合が悪いというだけで一般病院に駆け込んでしまったのです。