ゴールド バー アット エディション
Photo: Kisa Toyoshima「ゴールド バー アット エディション」
Photo: Kisa Toyoshima「ゴールド バー アット エディション」

東京、注目のバーテンダー5選

麻布十番の世界目線のバーから、メスカル、ジン、日本酒や焼酎を使ったユニークな店まで

寄稿:: Sahoko Seki
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バーでの流儀は日本独自の文化ともいえるが、近年は海外のように、自由に楽しめるバーも増えてきている。若者の酒離れが叫ばれながら、一方でエンターテインメントを追求した店や専門性を持ったヴェニューが出現し、若者でにぎわうバーも少なくない。

そんな新たな日本のバー文化をけん引するにふさわしい、東京で5人の注目のバーテンダーを紹介したい。

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  • 蒲田

日本人では唯一のメスカルアンバサダーを務めるバーテンダーが、蒲田にある「Bar 若林」の若林祐一だ。テキーラやメスカルの魅力を広める彼だが、「28歳で初めてウイスキーの味を知りました。ずっととび(職)をやってたんですけど、いつか地元の長野に戻って小さな居酒屋でもできたらと思って」という異色の経歴の持ち主だ。

飲食店経験はなかったが、蒲田にあるDJバーでのアルバイトをきっかけに、酒の世界にはまっていった。そして観光本を片手に初めてメキシコを旅して、本格的にテキーラやメスカルに情熱を注ぐ。メキシコでは食前から食中・食後まで、いつでもどこでもメスカルやテキーラを楽しんでおり、陽気な空気が肌に合っているそう。

「気がついたら初対面の人と蒸留所へ行ったりして。どんどん話が進んでいくんですよ」。社交的な性格から、独自にメキシコでのルートを切り開いていった。

「お客さんや周りのバーテンダーたちのおかげでここまできました」と謙遜しながらも、作り出すカクテルはもちろん一流だ。取材では「ヴォルティセ」というメスカルをベースに、バナナ、カカオパルプ、シャンパーニュにミルクを加えながら、透明で美しい「メスカルパンチ」というカクテルを作ってくれた。

「個人的にはストレートが一番おいしいけど(笑)」と、気さくな人柄も同店の魅力だろう。

  • 麻布十番

東京タワーの絶景を前に、おいしいカクテル、会話と音楽が自由に交差するバー。ヘッドバーテンダーを務める村田和香菜は、日本では珍しい「エンターテインするバーテンダー」として、存在が広まっている。

スタートは、学生時代のアルバイト先で出会ったシンガポール人のバーテンダーだった。「カクテルを作りながら、お客さんを楽しませている姿にほれて、彼みたいになりたいと直感しました」。新卒で入った企業を1年で辞め、シンガポールでバーテンダーを志す。4年働いた頃、大好きなホテルブランド「エディション」が日本にオープンするということで声がかかった。

「追いかける背中ができ、技術も身に付いたと思います」。その後、SNSだけでつながっていた世界的にも有名なバーテンダー、ホリー・グラハム(Holly Graham)からダイレクトメッセージをもらい、今の店の立ち上げから関わることになる。「使っている種類は多いけど、繊細な味わいのカクテルが好き」と言うように、ダイナミックな所作でテキーラや日本酒、アロエヨーグルトやピーチを入れてカクテルを差し出してくれた。何ともノスタルジックな味わいだ。

同店が「Asia’s Best 50 Bars」に選ばれ、日本にない風を吹かせる未来を描いているという。

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  • 神谷町

若手注目株として紹介すべきは、「東京エディション虎ノ門」1階にある「ゴールド バー アット エディション」のバーテンダー、岸田茉利奈だろう。バリスタとしての顔も持つ彼女は、コーヒーカクテルを武器に、バー業界をにぎわす存在となっている。バーテンダーとしての経験はわずか数年だが、覚悟を持って身を投じた。

大学卒業後に大学職員として働く約3年間の中で、カフェ文化好きだったことから、週末にはカフェでアルバイトをしていたという。「働いていたカフェでカクテルも出していて、バーにも興味を持ち始めました」。そんな時に世界はコロナ禍へ。飲食業界は逆境の時代に突入したが、「そこで生き残れたら人生をかけた仕事になる」と、大きな決断をした。

カフェとバーでのアルバイトを経験後、バーテンダーとして「バー アンバー(Bar Amber)」に就職。カクテルの大会に出場しながら腕を磨いた。さらに、憧れの先輩、村田和香菜からの紹介で、日本で最も世界に近いバー「ゴールド バー アット エディション」に移籍した。「和香さんのように、世界のバーシーンで活躍したいと思いました」。年齢こそ若いが、同店にとっても岸田の存在は大きい。

岸田の移籍によりメニューにコーヒーカクテルというジャンルの幅が広がったことはもちろん、「体力の続く限りは息が擦り切れるくらい挑戦すると決めています。去年落ちてしまったソムリエ試験には、今年必ずリベンジしたいです」。という強い意志もまた、ほかのスタッフを鼓舞していることだろう。

エスプレッソマティーニを日本の喫茶店に置き換えて考案したという「Coffee & Smoke」は、苦みの中にたばこを吸った後のような爽快感を感じるカクテルで、2024年4月から正式メニューとして提供する。

  • 日比谷

有楽町駅と新橋駅の間にある、100年以上もの歴史あるれんが造りの高架下「日比谷オクロジ」。その中の茶室を思わせる入り口を入ると、数寄屋造りの静かなバー「フォークロア(FOLKLORE)」が現れる日本酒や焼酎を使ったカクテルを楽しめる唯一無二のバーで、ジェネラルマネジャーを務めるのが佐藤由紀乃だ。

大ぶりなワイングラスに、白い花のような繊細な香りの日本酒をベースにした「ブーケ」という名のカクテルを作りながら、彼女はバーテンダー人生を振り返った。

「(ミクソロジストの第一人者として知られる)南雲主于三の作ったジャックローズにほれ込み、ここで働かせてくださいと言いました。あれから約13年。さまざまな店舗の立ち上げスタッフを経験しながら、彼の背中を見失わないように走ってきました」

いまだ南雲にはかなわないと添えたが、スタッフのチームワークを安定させ、メニュー開発に携わるなど、佐藤が店を基盤に乗せた立役者であることに間違いはない。背中を見せる側になった彼女だが、今でもメニュー開発には苦労すると話す。「毎回玉砕していますよ(笑)」、そう言って近年認められた満身のカクテル「オリジン」を作ってくれた。

岩手県・遠野の酸味の強い「権化どぶろく」をベースに、ふくよかさを出すためにカモミールと洋梨のウオッカ、蜂蜜を加えた。稲が敷かれたガラスの中に浮かぶそのカクテルは、日本酒ができる情景までもが浮かび、何とも味わい深い。これこそが、歴史を深く知った上で現代に昇華させることを使命とする彼女の腕なのだろう。

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  • カクテルバー
  • 高田馬場

国内ジン市場が急拡大している中、ジンラバーたちの間で注目を集めているバーが「ザ・ヒサカ」だ。2019年に高田馬場にオープンしたわずか約13平方メートルのバーが人気を博し、2023年にクラフトジンを扱う酒販店、ジントニックが楽しめる角打ち、隠し扉の中に本格的なバーという3つの顔を持って、約59平方メートルに拡大された。全てを戦略的に考えたのが、穏やかな笑顔でカウンターに立つ店主の小倉広康だ。

「スペイン料理屋で働いていた頃に、クラフトジンを初めて飲んで驚きました。その感動を共有できる武器がほしいと思っていたときに、これだと直感しました」。今では約200種類のジンを揃え、ジンラバーたちからの信頼も厚いが、マニアのためだけのバーにはしたくないと話す。

クラフトジンの価値を伝えるため、日々工夫を凝らしている小倉。「ジンを知らない人にも魅力を広めたいですね。メニューには初心者でも分かりやすいように、スパイシーやフローラルという表現でジンをジャンル分けしています」と話す。

取材時には、「ネオン東京」というカクテルを差し出してくれた。新宿の伝統野菜「内藤とうがらし」を使ったクラフトジンをベースに、パッションフルーツやラベンダー、牛乳、さらにはIPAの泡などを加えたカクテルだ。

フルーティーでありながらスパイシー、誘惑のある甘さがありながらも苦い思い出が舌に残るような……自身が持つ「東京」を表現したという。

店には象徴的な犬のイラストが描かれている。「出身地である岐阜県久瀬村日坂は合併して名前がなくなりましたが、どこかに残したいと思って」。地形が犬に見えることからポップなイメージでロゴにしたという。目にすれば、このバーに一層の親しみを感じることだろう。

もっとバーを楽しむなら……

残業中のオフィスから眺める夜景は時に涙を誘うが、どうせ同じ景色なら、好きな相手とグラスを傾けながら眺めたい。東京には、仕事など忘れて堪能すべき、美しい夜景がそこら中に広がっているのだ。 輝く高層ビルを後ろ盾にすれば、キザなセリフも少しは様になる。ここでは、東京の夜道を知り尽くすフードライター、たまさぶろが、夜景を愛でるバー11軒を厳選して紹介する。 ここぞという時の2軒目に、さらっとエスコートできるのが大人の証。ブックマークに加えておこう。

秘密にしておくということは、他人に共有できないほど素晴らしいものがあるということもある。都内には隠れた穴場のバーがいくつかあるが、ここでは誰もが体験すべきという信念に基づいて、特別に紹介しよう。

路地裏にひっそりとたたずむおしゃれなバーや人づてに聞かないと見つけられないプライベートな店の中から、気になるスポットを訪れてみては。

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日常の延長線上にありながら、時に非日常へと誘ってくれる夜の読書時間。ここでは、ほっとひと息つきたいときにアルコールとともに読書が堪能できるブックバーを紹介する。

友人宅のようにゆったりできる西荻窪の書店から、日本のブックバーカルチャーの原点となった西麻布の老舗バーまで、店主の個性が光るよりすぐりの5軒の中からお気に入りの空間を見つけてみては。

新型コロナウイルス感染症の影響で、営業時間などは変更の可能性がある。訪れる前に必ず公式ウェブサイトなどで確認してほしい。

これまではジンといえば、イギリスなど海外の銘柄がほとんどであったが、近年、日本でもクラフトジンの新銘柄が続々と誕生。ついには都内にも蒸留所ができるなど、その人気は止まらない。

ジンは、薬草成分であるジュニパーベリーを基本に、植物由来のハーブやスパイスを独自に調合した蒸留酒。日本で作られるクラフトジンは、和の素材を使った独特の味が楽しめるものが多い。たとえば、茶やユズ、サンショウなど日本の伝統的な植物や、焼酎や泡盛をベースとしたものもあり、香り高いので料理の仕上げにも合う。

ここでは、クラフトジンを美味しく飲めるバーを紹介したい。

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