東京の魚料理の名店では、毎朝豊洲市場から新鮮な食材を仕入れていることをうたい文句にしていることが多い。だが、南青山の「ネモ(NéMo)」を営む根本憲一は、その一歩先を行っている。10代の頃から付き合いのある漁師の協力を得、その日に獲れた魚を、漁港から店へと直送してもらっているのだ。届いた魚介類は、根本の手によって、フランス料理にインスパイアされたコース料理へと姿を変える。
取材時のコースの一品目は、頭から尾まで食べられるアユの炭火焼きだった。ネギと海苔のさっぱりとしたソースと新鮮な野菜が添えられ、仕上げにオリーブオイルがかけられている。
コースの中盤で出されたカンパチは焼き加減が絶妙で、皮はパリッと黄金色に、身はほんのりと赤みが差すミディアムレアに仕上がっていた。その周りにはソテーされたアンズダケや、さいの目切りのトマト、バジルソースが添えられる。支配人兼ソムリエの寺島唯斗がこの料理にペアリングしてくれたのは、透明感のあるソーヴィニヨン・ブランで、地中海を思わせる完璧な組み合わせだった。
「ネモ」のもつ洗練された雰囲気を一層素晴らしいものにしているのは、無垢の木を使った内装や、シェフの熱意だ。3万円の重々しいプライスタグは無くとも、ベストレストラン50に入る要素を持ち合わせている。開店したのは2021年の夏なので、まだまだこれからが楽しみだ。
昼の6品コースは9,075円(サービス料・税込み)で、店の評価が高まっていることを踏まえると、価格設定がこのままというのはおそらく難しいだろう。まだ価格が手頃で予約が取れる間に行くのがおすすめだ。