若者や観光客でごった返す原宿。その喧噪から離れた裏通りには、静かで小洒落た店が多く存在する。明治通りから路地を入った裏通りに、ガラス張りが開放的なこじんまりとしたビストロ風の店がある。シェフ、野田雄紀のレストラン、キキ(kiki)だ。旬のフルーツをふんだんに使ったフレンチを、カジュアルなスタイルで提案する。オープンから6年目を迎え、野田の料理にはファンが増え続けている。22歳で渡仏した野田は、名店タイユヴァンなどで学び、帰国。その後、ルグドゥノム ブション リヨネのクリストフ・ポコシェフの右腕としてスーシェフを務め、2011年に独立した。
格式高いフレンチの名店で学びながらも、自身の店はリーズナブルでカジュアルだ。これまで敷居の高かったクラシックなフランス料理を、食材も技術もハイクラスのまま気取らない日常の一コマへと落とし込む。若い人たちにも食の魅力を体験してほしいとの考えから、5皿3,800円という安価で、素晴らしいコース料理を提供する。コースで出される『リヨン風サラダ』ひとつとっても、その願いが込もっているのが分かる。一流農家から取り寄せるカラシ菜やルッコラ、ビーツなどの瑞々しい野菜に、イチゴやラズベリーといった果物の酸味をアクセントに加え、ベーコンやヒヨコマメ、ブラウンマッシュルームでコクと厚みを持たせている。さらにトウモロコシとローズマリーのケークサレが添えられる。ひとつひとつの素材の味が濃いから、ドレッシングはほんの少しだけ。あらためて食の楽しみ方を教えてくれる一皿だ。
フルーツに限らず、野田は日本の各地に伝わる食材を使う。「和の食材の、和ではない側面を見せる」ことこそが、日本のフレンチの意義だと考えるからだ。時間があれば、あちこちの農家や漁港を訪ね、「本物」と思えるものを自身の血肉とし、店に帰って早速試してみる。「産地に行くと必ず何か発見があり、世界が広がるんです。食材の意外な組み合わせを思いついたり、レシピが浮かんだりとインスピレーションを受けます」。「もっとレストランは自由であるべき」という考えが、彼を厨房の外へと向かわせ、レストランは日々広がり深化する。野田はコースだけでなくアラカルトにも力を入れており、コーヒーやデザートだけでも寄ってほしいと言う。モーニングの開始も構想しているそうだ。