『東京2020』がもたらしたもの
日本が大会を積極的に誘致した理由の一つに経済がある。ケンブリッジ・イノベーション・センター(CIC)と世界的な経営コンサルタント会社であるA.T. カーニーの日本法人会長を務める梅澤高明は、「日本経済は何十年も停滞しています」と指摘し、その理由として労働力人口の減少、2011年の震災、過去の経済政策の失政などを挙げている。「オリンピックは、経済が必要としている大きな起爆剤になるものでした」。
東京では、2013年から2020年の間に250軒のホテルが建設されたが、パンデミックの間は旅行者がいなかったため、増設された5万3000室の大半は2021年の間、空室のままだった。「豊作の夏」を期待していた地元のレストランやバー、カフェのほとんども同様だ。
また、2013年の開催決定を受けて、東京都内の各所で大規模な開発プロジェクトが始動していた。戦後の工業化で多くの水路が広範囲に汚染され、1964年の東京オリンピックの都市計画では高速道路で覆われたり、コンクリートで固められたりした。こうした水路を再生する計画もその一つである。
隠された川を再発見する開発の対象となった街の一例が、若者文化で知られる渋谷だ。意欲的なベンチャー企業を誘致するために、渋谷は超高層ビルが立ち並ぶエリアから緑豊かな街に生まれ変わった。
再開発の目的の一つには、東京を「アジアの金融・ビジネス都市」として再構築することもあった。中国の影響力が強まる中で、欧米の銀行や企業の多くがアジアの拠点として香港を見直していることから、東京にもチャンスがあると考えたのだ。
経済産業省の顧問も務めた梅澤は「(『東京2020』は)東京がイノベーションを生み出す都市であることを世界にアピールし、アスリート、観光客、そして大会を訪れるビジネスリーダーや政治家たちに日本の能力を示す機会だと、政府も民間も心を踊らせていたのです」と語る。「しかし、最終的にはアスリートを受け入れただけでした」。