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正直なところ、この困難な状況で東京オリンピックを開催するのは、簡単なことではなかった。選手たちは新型コロナウイルスの影響で、制限のある中トレーニングに励んだ。そして、コロナ禍に大規模な世界的イベントを開催することが適切であったかどうかについては、いまだに多くの議論がなされている。しかし、悲惨な状況が続いた1年半を経て、オリンピックは必要な気晴らしを与えてくれたとも言えるだろう。
今年のオリンピックは、開催に向けて長い期間準備をしてきた人々にとって思い描いていたものとかけ離れていたが、それでも多くの点で驚くべきことがあった。例えば、ヒディリン・ディアス(Hidilyn Diaz)がフィリピン史上初の金メダルを獲得したり、エレイン・トンプソン(Elaine Thompson Herah)が100メートル走で金メダルを獲得し世界最速の女性になったりと、画期的な出来事が起こった。
しかし、今年のオリンピックはメダルをこえた感動が生まれたことは確かだ。前例のない親善、スポーツマンシップ、プレッシャーの中での優しさを通して、学びや勇気、インスピレーションを与えられた瞬間がたくさんあった。これこそが、今後振り返ることができるレガシーだろう。
新競技がオリンピックに若さを与えた
今年のオリンピックでは、4つの新競技が導入された。サーフィンやスケートボード、スポーツクライミングなどが加わり、大会をよりエキサイティングなものにしただけでなく、オリンピックに若々しさを与えた。
新競技の中では、採点方法が物議を呼んだものもあった。特にスポーツクライミングは「どれだけ速く登れたか」を競う、スピードクライミングを含めたことが批判された。しかし、新しいスポーツが加わったことで、若い世代がスポーツを始めるきっかけになると同時に、伝統的ではない競技で優れた能力を発揮するために必要な能力に対して尊敬の念を高めることになっただろう。
何歳でも偉業を達成できることを証明した
スケートボードといえば、史上最年少のオリンピック王者が誕生したことでも話題になった。わずか12歳の開心那(ひらき・ここな)と13歳のスカイ・ブラウン(Sky Brown)は、女子パークの決勝で銀と銅メダルを獲得し、世界中の人々を魅了。彼らは、オリンピックの新しい顔となると同時に、スポーツ界のチャンピオンの多様化にも貢献した。
神童たちが歴史に名を残すのを見て、老いを感じた人もいたのでは? しかし、オリンピックは、一定の年齢までにどれだけのことができるかということを競うものではない。馬術のアンドルー・ホイ(Andrew Hoy)は、オーストラリア初のオリンピック8連覇を達成しただけでなく、オーストラリア最高齢の62歳で出場している。
このような選手たちの活躍は、ベストをつくすことに年齢は関係ないことを物語っている。
優雅さと優しさ、金メダルを獲得したムタズエッサ・バルシムとジャンマルコ・タンベリ
男子走り高跳びの決勝で、カタールのムタエッサ・バーシム(Mutaz Essa Barshim)とイタリアのジャンマルコ・タンベリ(Gianmarco Tamberi)が、同記録で金メダルを分け合った。両選手ともノーミスで迎えた2メートル39センチを失敗。苦しい時間の後、順位を決めるかどうか審判から選手へ委ねられたが、2人の選手は競技をやめることを選択。1位のタイトルを分け合うことになった。
この瞬間を迎えるために何カ月もかけてトレーニングを行っていた2人は、相手も同じように金メダルに値する選手であると確信していたのだろう。
LGBTQ+のアスリートたち
今年のオリンピックでは、これまで以上に多くのLGBTQ+のアスリートが出場し、スポーツ界に変化をもたらす画期的な出来事となった。水泳の男子シンクロナイズドダイビング10メートル高飛び込みで金メダルを獲得したイギリスのトム・デイリー(Tom Daley)は、感動的な勝利のスピーチを行い、若いLGBTQ+の人たちに向け、「あなたは1人ではなく、何だって達成できるということを知ってほしい」と、重要なメッセージを残した。
ニュージーランドの重量挙げ選手で、トランスジェンダーのローレル・ハバード(Laurel Hubbard)は、ウエイトリフティング女子87キロ超級でメダルを獲得することはできなかったが、彼にとって、戦いはすでに勝利していた。ハバードは、オリンピックで初めてオープンリー・トランスジェンダーの選手として参加することを認められるために長い間戦い続け、43歳で引退を発表する前に目標を達成することができた。
LGBTQ+コミュニティーにとって誇らしい瞬間はまだある。女子サッカー決勝でカナダチームが勝利のゴールを決めたときだ。選手ーの一人、DF クイン(Quinn)は、オリンピックで金メダルを獲得した初のトランスジェンダーおよびノンバイナリーのアスリートになった。
シモーネ・バイルスのメンタルヘルスを優先した決断
世界で最も多くのメダルを獲得しているアメリカの体操選手、シモーヌ・バイルス(Simone Biles)は、東京オリンピックでも金メダルを獲得することが期待されていた。そのため、バイルスが団体戦を棄権すると発表した時、ファンはより一層驚いた。これまでの大会では、このような行動は失望を招いていたかもしれないが、セルフケアを優先し、自分自身のために立ち上がったヒーローとして称賛された。
過去最高の金メダル獲得数を記録した日本
開催国である日本が、これまでの大会を上回る数の金メダルを獲得したことは、特に注目に値する。
新競技の空手、野球とソフトボールの復活など、日本が最も得意とするスポーツで実力を発揮した大会でもあった。スケートボード女子ストリートの西矢椛(にしや・もみじ)のように、予期せぬ形でメダルを獲得もあり、最終的に27個の金メダルを獲得した。
しかし、日本の功績は、記録的な数のメダルよりもはるかに大きい。大会開催までのさまざまな試練を経て、奇跡的にトップに立った日本は、メダル以上の価値があることだ。
話題になった心温まるストーリーの数々
大会を生で見ることはかなわなかったが、トム・デイリーが(飛び込み女子3メートル決勝を見ながら)編み物をしているという様子はファンを笑顔にさせた。
さらにアスリートたちは、余暇にソーシャルメディアを利用し、さまざまな情報を発信してくれた。選手村で「最高の餃子」を食べたことや、段ボール製のベッドを試してみたことなど、競技以外のアスリートたちの一面を見ることができたのはとても魅力的だった。
例えば、毎朝必ず選手村に訪れ「メダルを取らなくてもあなたは最高の選手だ!」というアスリートのやる気を引き出す看板を持っていた男性のような人もいた。このような気持ちの良い瞬間が、この困難な時代に世界をつなぎ、オリンピックはそのイベントの枠を超えた、温かい人間性が垣間見られるものとなった。
世界がこれ以上ないほど散りぢりになってしまった時に、東京オリンピックは16日間という短い期間ではあったが、人々を一つにし、勝利の達成と偉大さを支援した。そして、私たちは東京に感謝したい。
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