大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)
1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。
タイムアウト東京 > Open Tokyo > 車いす目線で考える > 車いす目線で考える 第34回 東京2020パラリンピックを振り返って
緊急事態宣言下、2021年8月24日開幕の東京2020パラリンピックが、12日間にわたる全競技を終えて閉幕した。同一都市での2回目となるパラリンピック開催は史上初、日本が獲得したメダルは金13個、銀15個、銅23個、合計51個。この数字は2004年のアテネ大会時に次いで2番目で、大躍進を遂げたと言えよう。
パラリンピックは、大会を通じて共生社会の実現促進を目指している。今回はこれまでに経験のない無観客での開催の中で人と社会にどんな変化をもたらし、どんなレガシーを残せるのか。歴史上最も成功したと言われる2012年のロンドンパラリンピックでは『Get Set』という教育プログラムを、2014年のソチパラリンピックでは「I’M POSSIBLE」というメッセージを残してきたが、東京大会が、これから社会にどんな影響を与えていけるのか注目したい。
Photo: Alex Pantling/Getty ImagesFireworks during the opening ceremony of the Tokyo 2020 Paralympics
東京大会の開会式は、「WE HAVE WINGS」をコンセプトに、競技場内をパラエアポートという名の空港に見立てた、見事な演出を披露。比較できるものではないかもしれないが、SNS上で「オリンピックより良い」がトレンドワード入りするくらい、称賛の声が飛び交っていた。それは一つ一つのパフォーマンスが、多くの人の心を揺さぶり、率直にカッコイイと思える開会式だったからだろう。
国際パラリンピック委員会(IPC)会長のアンドリュー・パーソンズがあいさつの時に紹介した「#WeThe15」の動画も忘れがたい。全世界の障害者は総人口の15%を占める12億人だ。同キャンペーンは、社会全体でこの障害者への意識を変え、差別や偏見をなくし、障害の可視化やインクルージョン、アクセシビリティを宣言する世界的な運動として知られる。動画では、「多様化してきた現代社会で何が求められるのか」「共生とは何か」を端的に伝えており、とても良いインパクトを与えるものだったと思う。
国歌斉唱や天皇の開会宣言の際、会場内に起立を求めるシーンでは、オリンピックとは異なり「可能な方はご起立ください」というアナウンスになっていたのも配慮があり、良い影響を与える言葉だと感じた。日常生活においても、それぞれの人が置かれた環境や状況に配慮した言葉を使うことは大切だということを示している。
競技についても振り返ってみよう。パラリンピックでは、競技結果に大きく差が出るため、障害の程度や種類によってクラス分けがされているのが特徴で、健全な平等性が確保されている。
Photo: Marcus Brandt/Getty Images Ibrahim Hamadtou of Egypt plays against Korea's Hong Kyu Park in the Class 6, Group E men's table tennis
車いすバスケを例に挙げると、選手は障害の程度によって持ち点が1.0〜4.5点で設定され、重い人ほど持ち点が小さくなる。試合中のコート内にいる5人の持ち点合計を14点以内にして試合に臨むため、重度だから出場できないというわけではないし、ローポインターならではの役割もある。つまり、障害によって排除されないということだ。もちろん実力において出場機会に差は出るが、スタートラインに立つ機会は平等に与えられている。
それぞれの特徴や強みを生かし、人が持つ可能性の限界を超えていくような数々のプレーを見て、何事も諦めず、困難に打ち勝つ強い意志や勇気を持つことの大切さに気付かされた人も多いはずだ。そうだとしたら、パラリンピックの父と呼ばれる医師ルードウィッヒ・グットマンの「失ったものを数えるな、残されたものを最大限生かせ」という言葉通りのパフォーマンスを全てのアスリートがしたとは言えないだろうか。
ところで、IPCの公式ウェブサイトには、パラリンピックの価値として次のように書いてある。
どれも大切なことだが、特にインスピレーションは大事だと思う。社会を変えていくには、人の心を動かし、行動を起こす力が必要だ。だからこそ競技だけでなく、アスリート自身にもフォーカスして「もっと知りたい!」と思ってもらえるような選手のストロングポイントやストーリーを、実況や解説などに取り入れてほしいと思っている。そうやって知る機会を増やしていけば、次第に障害に対する意識も変わり、特別扱いの壁をなくすことができるだろう。
ほかにも、体重別や男女別で競技が分かれているように、「障害別」という新たな枠組みでオリンピックとパラリンピックが融合して開催されれば、さらに認知度や注目度も上がり、理解も深まるのではないだろうか。近い将来、実現することを願っている。
今大会の開催で、「共生社会の実現」という名の種がまかれた。あとはきちんと芽が出て、花が咲くように心の土壌を肥沃(ひよく)にしておきたい。そのためにも、僕自身が「OPEN TOKYO」ならぬ「OPEN KUNPEI」であり続けたいと思う。
大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)
1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。
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