画像提供:くくのちステイ-見晴らしの家
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羽咋市でレインボーフラッグを掲げたシャワールームの無料貸し出しを続ける理由

能登半島地震シリーズ「小さな声を聞く」3:くくのちステイ―見晴らしの家・上田寛インタビュー

編集:
Time Out Tokyo Editors
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2024年1月1日の能登半島地震で被災した石川県羽咋市にあるゲストハウス「くくのちステイ―見晴らしの家」では被災地した人を対象に、1月10日からシャワールームの無料貸し出しをスタートしている。案内文の「更衣室とシャワールーム一体なので、少しプライベート感あります」という言葉には、レインボーフラッグの絵文字が添えられていた。 

くくのちステイは2023年に性の多様性を考えるトークイベントを行うなど、LGBTQ+フレンドリーなスペースでもある。

シャワールーム無料貸し出しはどんな思いで始めたのか、どんな人が利用したのか。今も、必要であれば事情を問わず、どの地域からも受け入れ歓迎だというくくのちステイ。運営する上田寛に話を聞いた。

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画像提供:くくのちステイ-見晴らしの家

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復旧作業員をはじめさまざまな人が利用

ーシャワールームを貸し出そうと思った経緯を教えてください。

きっかけは、被災した兄弟家族の「落ちついてシャワーを浴びたい」といった何気ない会話からでした。無料で受け入れている温浴施設はあって、今は羽咋市内でも2カ所の温浴施設が対応しています。 

ただ、発災直後は市内全域が断水していましたから、金沢方面まで行かないと入浴できなかったんです。毎日往復1、2時間かけてお風呂に行くのは、やっぱり負担が大きいです。 

羽咋市も最大震度5強の地震に見舞われましたが、幸いくくのちステイは大きな被害は受けず、1月10日ごろに羽咋市の断水が復旧し始め、問題なくシャワーを使えるようになりました。しかし、隣町はまだ断水エリアでした。羽咋市の町はどこも人口が少なく、顔が見える規模のエリアです。そんなご近所さんでも、シャワーを他人の家に借りに行くというのはやっぱり抵抗があるだろうと、無料シャワールーム貸し出しをスタートしました。

利用者は近隣の町の方だけでなく、ほかのエリアからもいらっしゃいました。印象的だったのは、夜間工事の作業員の方です。自治体が無料の回数券を発行しているんですが、疲れてチケットを取りに行くタイミングがないということで、利用されていました。羽咋市の商工会青年部の方々や、2月下旬には能登町からも来られました。 

ー言われるまで想像できませんでしたが、復旧作業などに従事する人は、入浴のためだけに何時間も時間を取れないですよね。性的マイノリティーの方の利用はありましたか。

くくのちステイのシャワールームは、更衣室も含めて、個室のシャワールームになっています。案内文にレインボーフラッグの絵文字を入れたのは、そういった誰かに裸を見られる心配がなく入れる場が、体を見られることを気にする人にとって必要だと思ったからです。

ただ、利用者の性別の確認は特にしていないので、利用者の中に当事者がいたかは分かりません。私自身が特に気にしないのもありますが、それ自体がアウティングにつながりかねないとも思うんです。羽咋市は人口約2万人で、神子原町に限れば226人と、東京とは比べ物にならないくらい少ないです。

性的少数者は「能登にいない」のではなく「いると言えない」だけ
2023年6月トークイベントでの上田寛(画像提供:くくのちステイ-見晴らしの家)

性的少数者は「能登にいない」のではなく「いると言えない」だけ

くくのちステイは昨年のオープンに先駆け、スウェーデン人の男性と結婚し、パパ2人の子育ての日々をつづったゲイのみっつんさんを招き「能登にもおるげんよLGBTQ+」と銘打ち行ったイベントを行いました。

イベントタイトルの通り、私自身、ゲイというセクシャリティをこの地域で隠していませんが、周辺エリアで当事者だと打ち明けられたことはまだありません。私も誰からかまわずオープンにしているわけではありませんが、隠さず生きられるのは、東京で働いてきて他地域での実績やつながりがあること、自分で事業をしているからです。 

ー東京でカミングアウトすることと、地元でカミングアウトすることは、全く別物に思えます。

性的マイノリティーは、なにかと「いないもの」として扱われる存在です。特に地方ではそれが顕著で、言い出すことさえ難しいですしね。私がUターンで戻ってきた時も、「ご結婚されてるんですか」と悪気なく聞かれました。私に同性パートナーがいるとか、同性婚の法律がないから結婚できずにいるなんて、全く考えもつかないんです。

テレビや新聞で見たことがあっても「都会の話」だと思っていて、仮にいたとしても「私の周りにはいない」と思い込んでしまっています。「いない」のではなく「言えない」だけなんですけどね。だからカミングアウトできている私がイベントをやれば、周りの意識が変わるきっかけになるかもしれないと思ったんです。

実際、「やってくれてありがとう」「知らなかった」「そういうのもあるんやね」と純粋に捉えてくれる人が多く、伝える意義を感じました。 

今でもくくのちステイでは、レインボーフラッグやみっつんさんの本のほか、金沢レインボープライドのチラシを目立つところに置いてあります。また、地域でも理解がある人が増えているように思います。

みっつんさんと能登で開催したイベントがきっかけ、というわけではないでしょうが、地域の図書館でもLGBTQ+の特集を組んでくれました。2023年11月には羽咋青年会議所主催で、全国各地で行われている法律上の結婚ができないカップルの声を伝えるパネル展「私たちだって“いいふうふ”になりたい展」を開くことができました。羽咋市で開催できたのは、本当にうれしかったです。

もっと動きが広まって、地域に生きる性的マイノリティーの人の安心できる場が増えていけばと思います。

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大規模な災害こそ個人のアクションが必要
画像提供:くくのちステイ-見晴らしの家

大規模な災害こそ個人のアクションが必要

ー発災から1カ月以上が過ぎましたが、奥能登ではまだ断水復旧のめどすら立たないエリアもあります。シャワールーム無料貸し出しはいつまで続ける予定ですか?

必要がある限りは続けます。近隣に限らず、全ての断水エリアの方に利用してもらいたいと思っているので。うちのような小さなゲストハウスの取り組みがどこまで役に立っているか分かりませんが、意味はあると思っているからです。以前、行政の方と話す機会があった際にこう言われました。

「すごくありがたい。いろんな人がいるのは分かっているから本当はそういうサポートをしたいが、これだけ大きな災害となると手が回らない。個別の事情で公衆浴場へ行けない人はたくさんいるだろうから、ぜひ続けてほしい」

地方自治体の職員は、日常業務もギリギリの人員で回しています。こんな大規模地震が起きては、彼らだけができる支援には限界があります。

「公衆浴場に行けない人」を想定する私の支援は、ニーズの少ないニッチなことかもしれません。しかしLGBTQ+だけでなく、多人数がいるとパニックになってしまう発達障害や精神疾患など、諸般の事情で公衆浴場を利用できない人もいるはずです。それ以外にも遠方へ行く足がない、ストレスを抱えているなど、どんな人にも公衆浴場以外の選択肢が必要なタイミングはあると思うんですよね。そんな時の受け皿になれたらうれしいです。

また、この記事を読んでくれている人の多くは被災地以外の人だと思います。今や災害はどこに住んでいても起こり得るものです。その時に手を差し伸べてほしいですし、誰かを助けられるよう災害への備えを整えておいてほしいと思います。

築50年の古民家を改装し2023年6月にオープンしたゲストハウス。木造二階建てで、1階にはカフェ・バーがあり、地域の人と旅人の交流拠点ともなっている。かつてローマ法王にも献上された神子原米の産地で石川県内最大級の棚田を眺めながら、敷地内ではBBQも楽しめる。「くくのち」とは、日本神話の木の神「ククノチノカミ」が由来。バーカウンターには杉の一枚板が使われるなど、木のぬくもりを生かした造りも魅力の一つだ。

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  • Things to do

2024年1月1日、能登半島で最大震度7を観測する地震が起きた。度重なる激しい揺れで土砂崩れや道路の損壊が各地で相次ぎ、多くの命が失われた。石川県によれば、1月30日までに県内で238人の死亡が確認され、今も行方不明者の捜索が続けられている。

「一人でも多くの命を救いたい」。行方不明者の捜索には、警察や消防、自衛隊など訓練を受けた救助隊が尽力しているが、中には民間のレスキュー隊員の姿もあった。2日、生存者の発見・救出に成功した「空飛ぶ捜索医療団ARROWS」の捜索救助チームリーダー、黄春源(Civic Force所属)が、救出の現場を振り返るとともに被災地や日本への思いを語った。

  • Things to do

移動スーパーとくし丸(以下、とくし丸)」が、石川県珠洲市や経済産業省と連携し、2024年1月7日から被災地で救援物資の無償配布を行っている。 野菜などが描かれた軽トラックの荷台の扉を開けると、食品や日用品がずらりと陳列されている。冷蔵庫も完備され、牛乳や豆腐のほか、寿司などの総菜も揃っていた。

とくし丸は、買い物をするのが困難な高齢者に向けて、軽トラックに約400品目を乗せて販売する移動型スーパーマーケット事業である。北海道から沖縄まで日本全国141社のスーパーと提携し、1164台が稼働している(2023年12月時点)。

普段は移動スーパーだが、今回の災害のような非日常では物資運搬車となり「フェーズフリー」に活躍する面も見せた。地域に慣れ親しんだ販売パートナーが、そのエリアの人たちのことをよく知っているから、信頼度も高く、安否確認もしやすいだろう。

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  • Things to do

2024年1月1日に発生した能登半島地震では、石川県のみならず北陸エリアが震度5強以上の地震に見舞われた。石川県では、自治体の1次避難所だけでも約6400人が今も避難所生活を続け、多くの人が先の見えない状況にある。多くの人が巻き込まれる広域での災害の場合、支援の手が行き届かないことも少なくない。その一つが、被災したウクライナからの避難民たちだ。

一般社団法人全国心理業連合会(以下、全心連)は、福井県で被災したウクライナ避難民の家族を京都と東京に1週間程度の短期的な避難をさせた。心理カウンセラーの業界団体である全心連は、ロシアによるウクライナ侵攻後の2022年4月から「ウクライナ『心のケア』交流センター渋谷ひまわり」(以下、渋谷ひまわり)を立ち上げ、日本に避難した人々の支援を続けている。

本記事では、全心連の代表理事兼、渋谷ひまわり代表で、他エリアへの短期避難にも同行した浮世満理子に話を聞いた。そこには言葉の問題だけではなく、戦争避難民ならではの深刻な問題があった。

  • Things to do

石川県によると「令和6年能登半島地震」による死者・行方不明者の数は250人以上におよび、同県だけで4万1000件以上の家屋が全壊・半壊・浸水など何らかの被害を受けているという(2024年1月25日時点)。

あの日からもうすぐ1カ月、断水が続く地域もあり被災地の状況は依然厳しく、災害関連死で亡くなる人も増えている。

そんな中、いち早く被災地へ入り、外国人や障がい者など見えにくい被災者への支援を続けているのが「難民を助ける会(以降、AAR Japan)」だ。

県内に住む外国人は約1万7000人(2021年時点)、被害の大きかった能登半島北部の6市町には約600人の技能実習生がいる。ここでは、実際に七尾市や能登町で暮らすインドネシア・ネパール・ベトナム出身の人々へ支援活動を行っているAAR Japanのプログラムコーディネーターである櫻井佑樹に、被災地で暮らす外国人の状況や彼らへの支援について聞いた。

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  • シティライフ

2024年1月1日、石川県能登半島で最大震度7を観測した地震が発生した。被災状況の全容はいまだ不明瞭だが、一つだけはっきりしていることがある。それは、現地では多くの人が今まさに危険と不安にさらされており、援助を必要としているということだ。多くの人が今自分にできることを探しているかもしれないが、簡単にできることはいくつかある。ここでは、寄付で今すぐ支援する方法を紹介する。どこに寄付すればいいのか悩んでいる人は参考になるだろう。

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