杉山文野
杉山文野(Photo: Keisuke Tanigawa)
杉山文野(Photo: Keisuke Tanigawa)

6年で日本は「ジェンダー平等」に近づいたのか、公平な制度の実現へ

「東京レインボープライド」の共同代表理事、杉山文野インタビュー

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※本記事は、『UNLOCK THE REAL JAPAN』に2021年7月19日付けで掲載された『Without equals』を翻訳、加筆修正を行い転載

トランスジェンダーである自身について書き下ろした『ダブルハッピネス』で話題となり、2015年から日本最大のLGBTQ関連イベント「東京レインボープライド」の共同代表理事を務める杉山文野。持続可能な開発目標(SDGs)5つ目の指標「ジェンダー平等の実現」は、ここ日本でどれほど「実現」に近づいてきたのか。当事者として感じるこの6年間の変化と、新たな課題について語ってもらった。

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意思決定の場に当事者を

2020年の「ジェンダーギャップ指数*」で、日本は149カ国中、121位と過去最低を更新した。足を引っ張っているのは、経済参画と政治参画の分野だ。

「先日、面白い事例を見つけました。『ピルとバイアグラから見るジェンダーギャップ』というのですが、日本でピルが導入されたのは、欧米から約40年遅れの1999年。一方、バイアグラは1998年にアメリカで爆発的な人気を誇った翌年、わずか半年という異例の短期審査で日本に導入されている。女性の権利がなかなか認められない原因の一つとして、大事な意思決定の場に当事者である女性がいなかったことが言えるのではないか。男性に悪気があるわけではなく、構造的にゆがみがあることが、そもそもの問題だと思っています」と杉山は語る。

今年4月にオンライン開催した『東京レインボープライド』のテーマを、杉山たちは「声をあげる。世界を変える。Our Voices, Our Rights.」とした。

大切なことは公平性

「世界を変えるというのは、具体的には、世界を形作っているルールを変えること。大きく言えば法律だし、身近なルールもある。例えば『風呂は父親が最初に入る』というルールは、家計を経済的に支えるのが父親のみだった時代の単なる名残かもしれない。社会がどんどん変化していくのに、ルールだけがアップデートされないから、今のようなちぐはぐな状況を生み出しているんです」

では、構造的なゆがみを解消し、より良い社会にするために最も大切なことは何か。杉山は「公平性」だと断言する。

「平等というのは、皆等しく。公平というのは、偏りなく皆等しく。特別扱いではないんです。LGBTQの議論でも必ず言われることですが、同性婚を認めるのは特別扱いではない。全ての人に同等の権利を認めること、スタートラインをそろえることが、重要なのです」

とはいえ、この6年間で「ジェンダーやLGBTQに対する国民の理解が深まった」との実感もある。特に2015年11月、東京における渋谷区と世田谷区で同性カップルを結婚に相当する関係と認める『パートナーシップ証明書』が発行されたことは大きい。現在、パートナーシップ制度が施行された自治体は、110まで増えた。

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制度を作ることで理解が進む

制度が整うことは、当事者に対して「社会に受け入れられた」という安心感を与えるのみならず、第三者への理解の近道にもなる。杉山も、茨城県の大井川和彦知事が「(周囲の)理解より(個人の)基本的人権が先」とし、20197月に都道府県で初めて同性パートナーシップ証明制度を導入したことに希望を感じたという。

「知事の言葉通り、理解がないから制度ができないのではなく、制度を作ることで理解が進むことがある。道路交通法は安心・安全に暮らすためのルール。それと同じく、ジェンダーやLGBTQに関する法律を作ることによって、当事者は安心してこの国に暮らせるし、無理解による差別や偏見で人を傷つけるという意味での『加害者』も作らなくて済むのです」

*ジェンダーギャップ指数:「経済参画」「教育の到達度」「健康」「政治参画」の4つの分野で、男女不平等の度合いを指数化(女性÷男性)し、4つの分野を総合して算出される。

杉山文野(すぎやま・ふみの)

1981年、東京都生まれ。フェンシング元女子日本代表。トランスジェンダー。早稲田大学大学院教育学研究科修士課程終了。2年間のバックパッカー生活で世界約50カ国+南極を巡り、 現地でさまざまな社会問題と向き合う。日本最大のLGBTプライドパレードである特定非営利活動法人東京レインボープライド共同代表理事や、日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ条例制定に関わり、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。現在は父として子育てにも奮闘中。著書に『ダブルハッピネス』『元女子高生、パパになる』。

20216月から公益社団法人 日本フェンシング協会理事、日本オリンピック委員会(JOC)理事に就任。

テキスト:堀香織

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