焼鳥やおや ハナレ
Photo : Keisuke Tanigawa
Photo : Keisuke Tanigawa

東京、注目の居酒屋オーナーの店5選

焼き鳥から天ぷら、公園内フードコートまで新しい飲食店を担う人々

寄稿:: Sahoko Seki
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テーブルのある店内でお酒と食べ物を楽しめる場「居酒屋」は、東京に3万軒以上あるといわれる。その中で選ばれる店になるためにはどんな理由があるのだろうか。

人気居酒屋を作り出した、注目のオーナーたちに話を聞いた。

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  • 信濃町

新国立競技場を臨む都立明治公園の中に、複合型フードホール「明治パークマーケット(Meiji Park Market)」がオープンして話題となっている。ベーカリー「パークレット(Parklet)」、コーヒースタンド「パークレット キオスク(Parklet Kiosk)」、 バターミルクフライドチキン専門店「ベイビージェーズ(Baby Jʼs)」が一つの空間に並ぶ。緑豊かな公園の中に、誰もが食事とドリンクを楽しめる場を作ったStapleの代表取締役・岡雄大を、あえて居酒屋企画のトップバッターとして紹介したい。

彼は岡山県生まれのアメリカ・コネチカットと東京育ち、外資系の金融出身。誰もが憧れるような略歴だが、「2つの国で育ち、アイデンティティを見失って、自分のルーツを探すようになりました。今の時代、どの国のどの街へ行っても同じような空間があり、同じような食体験ができ、同じような空間が広がります。自分が好きなのはこの街にしかないあのビストロや家族経営のブティックホテルです」

自身のルーツに立ち返りながら、ルーツが消費されない唯一無二な場所探しが始まり、出合ったのが岡山県の隣、広島県瀬戸田だった。忘れられない瀬戸内海の風景と寂れた街並みにポテンシャルを感じ、彼は「ご近所」を作り続けている。

「まずは小さなホテルを作り、そこから徒歩20分圏内にさまざまな交流拠点を作っているイメージです。スタッフの半数が瀬戸田に住んでいて、生活者だから分かる住人の悩みに寄り添って事業を進めています。例えばせっかくオーガニック野菜の畑があるのにそれを買える場所がないこと、街の人も旅行者も入れる大浴場を願っていたこと……やることはたくさん。街に行けば、暮らしや人々の雰囲気が分かるようにしたいですね」

画像提供:Meiji Park Market | 明治パークマーケット内の「パークレット」では、酸味のある天然酵母のパンや、自家製クラフトビールのほか、ナチュラルワインも15種ほど用意

瀬戸田と日本橋の2拠点を活動の場としながら、今回の明治パークマーケットのプロジェクトを共同オーナーであるジェイジェイ(Jerry Jaksich)とケイト(Kate Jaksich)とともに進めた。

「公園の中の公園をイメージし、子どもも大人も和やかな時間を過ごすことができる優しい場所です。この街に住んだら人生良さそうだなと思ってもらえたらうれしい」と話す。

取材日も、晴れた春の気持ち良い気候の中で、ビール片手にバーガーを楽しむ大人と、店内を走り回る子どもたちが心地よく共存していた。店をオープンするだけでなく、街の風景を美しく変えていくことが彼にしかできない仕事だ。

  • 目黒

2023年末、学芸大学にオープンしてすぐに繁盛店となった焼き鳥屋がある。遊津拓人が手がける「焼鳥やおや ハナレ(HANARE)」だ。

遊津は新卒で入った飲料メーカーで営業マンとして働いていた頃、取引先の飲食店オーナーを前に「向こうの方が人生楽しそうだ」と感じて独立を決意。「見ている世界が違うと思ったのがきっかけです。自由だし、やり方次第で稼げるし、世界を見れると思いました。エンヤフードサービスの曽我社長との出会いも大きかったですね。人間力が高く、勉強になる部分が多くありました」

しかし独立とはいえ、オーナー業に専念するつもりはなかったという。そこで、手に職をつけるために焼鳥業態を選び、曽我の下で修行した。

「現場の魅力は分かりやすさです。1日4時間ほど粛々と仕込みをした後、ようやくお披露目(営業)すると分かりやすい反応がある。コミュニティもどんどん広がっていく。それが面白いんですよね」

そうして2019年に28歳で1店舗目を、4店舗目に同店をオープンした。どの店もライブ感を大事にしている。「高級店はもちろんとてもおいしいけど、居酒屋ほど話しやすくはない。自分の声が大きいのもあるのですが(笑)、ハイクオリティな料理を和気藹々と食べられる場所を作りたいと思いました。だから自分の店では音楽の音量は大きく、スタッフ同士の指示も大きい声です。焼鳥を焼く時も、あえて煙が見えるようにダクトの位置を上にしたり、外食らしい臨場感を大事にしています」

Photo: Keisuke Tanigawa

目指すのは「琉球チャイニーズTAMA」のオーナー・玉代勢文廣のような現場主義オーナーだという。「ちゃんとおいしくて、ちゃんと人が立っていて。タマさんに会いたくて多くの人が来ますよね。ああいう説得力のある飲食人になりたいと思っています」

ヒップホップ好きで、楽しいことが好きだった学生が、今フーディーたちをにぎわす存在になっている。次は学生時代に一番世話になったエリア、渋谷での出店が間近に控えている。

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  • 渋谷

20年以上前、飲食店でのたった数カ月のキッチンアルバイトで出会った友人同士が、大人になってタッグを組み、人気店の共同オーナーとして注目を浴びている。

渋谷百軒店にある「カメラ(KAMERA)」でその存在を知った人も少なくないかもしれない。IT業界で活躍する目良慶太と、三軒茶屋「Bistro Rigole」でオーナーシェフを務めていた亀谷剛だ。

そして2023年、カメラと同じく渋谷というエリアながら、全く異なる閑静な住宅街に天ぷらと白ワインをテーマにした「テンキ」をオープンし、またも業界をにぎわすこととなった。

「カメが天ぷらがおもしろいのでは?と言っていて、社員旅行で行った福岡の天ぷら居酒屋で見えてきたんですよ」(目良)

和食の代表・天ぷらが唯一無二の天ぷらに生まれ変わるのはここからだ。目良が素材や衣、ソースといった要素を分解した天ぷらマトリックスを作り、それを亀谷が味付けなど実際の調理で見事に実現していく。天ぷらの可能性が何通りもに広がる瞬間だ。

「楽しかったです。天ぷらといえ、国を変えればいろんなスタイルがある。世界の料理を勉強していましたし、無限の可能性があってやりがいがありましたね」(亀谷)

「実は一緒に住んでいたこともあるんですよ。カメは味覚のストライクゾーンを一度も外したことがない」(目良)。味の信頼関係が店を作り上げていく。そしてあえて「白ワイン」という酒の縛りをつけた展開がヒットした。

Photo: Keisuke Tanigawa

1店舗目のカメラも同様に、シウマイとウーロンハイという誰もが口にしているアイテムを面白く調理して人気となったのだ。

次なる店舗の構想も既にあるという。「日本酒と47都道府県をテーマにするのも面白いかなと思っています。食べ物と飲み物の組み合わせにこだわっているわけではありません。ほかの組み合わせでも、掛け合わせることが楽しいんですよね」(目良)

  • 学芸大学

生活に便利な人気エリア、学芸大学駅から41メートルという好立地にあるビルの2階に、19時を過ぎた頃からにぎわう酒場がある。澤出晃良が手がける「ホドケバ」だ。2021年にオープンした店だが、「実は黒字化して先が見えてきたのは最近なんですよ」と笑う。

そもそも、35歳までのらりくらりと生きてきて、焦りを感じながらスタートした飲食人生だった。「自分には恥ずかしいことがいっぱいあるんですよ。若い頃はずっとブラブラしていて、気がついたら周りは結婚や独立……そこで35歳の時にカレー屋をやろうと、自己資金で物件を借りました。でも工事をしていくと想像していた以上にお金がかかり、途中で逃げたんです」

また何者でもない自分に戻ってしまった。それでも仕事をしなければ生きていけないからと働き始めたのは居酒屋「根室食堂」だった。朝から晩まで働き、週末には六本木の高級クラブのボーイの仕事と掛け持ちをしながら何とか300万円をため直して学芸大学に「アオギリ」をオープン。ようやく手に入れた自分の店だった。

根室食堂で学んだ簡単な調理と仕入れ力、原価計算などの店舗の基礎だったが、「安さ」を売りにするあまり、店が軌道に乗るまでには長い時間がかかった。

「何とかなると思ったけど客が入らず、そうなると商品を安くして、人件費を削り、ケチってビールの洗浄を1年間していなかったこともありました。でもお客さんに指摘されて、洗浄し、人を1人増やし……少しずつ修正しながら何とか回るようになるまで6年もかかっちゃった」

Photo: Kisa Toyoshima

そうして2店舗目の「はんろく」、3店舗目の同店をオープンするまでになったのだ。しかしホドケバも当初のイタリアン居酒屋から微修正を繰り返し、今の酒場に落ち着いた。

それでも客がいなくなることがないのは、店が良くなるためなら客の声もスタッフの声も聞きながら潔く手直しする澤出の姿勢と、人懐っこい人柄だろう。「見栄を捨てたんですよ。ある種の開き直りです。スタッフも増えましたし、もう逃げられませんね(笑)」

今後はアオギリの多店舗展開を目指している。

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  • 日本料理
  • 渋谷

表参道から青山通りを少し入ったところにある「うどん愛」を知っているだろうか。夜は居酒屋になり、ファッション関係の客でにぎわっている。

「元々は客として通ってたんです。愛ちゃんが平日しか開けていないから、土曜日だけ借りないかと言ってくれて。副業で始めたら、いい稼ぎになったんですよね」

そう話すのは、今回紹介したい渋谷「酒処 ニュー萬斎」のオーナーの一人、今井洋だ。飲食店経験ゼロ、服飾デザイナーだった料理好きの彼が、間借りでおばんざいを並べながら始めた店だったが、オーナーの高齢化によって正式に受け継ぐことになる。そこから個人で2店舗の居酒屋を運営した後、客として来ていたアパレル事業を営む添田慎也と手を組んだ。

「本格的に飲食店をオープンしようと考えていた頃、添田が店に来て、前に飲食をやりたいと言っていたことを思い出して、企画書を見せたんです。すぐに物件を一緒に見に行って、始めることになりました」(今井)

どちらも即断即決タイプ。「勝てる未来が見えたらどんどん行きます。リサーチはほとんどしません。今の規模なら肌感を大事に、今までずっといろんなところで遊んできて、おいしいものを食べてきた僕たちの肌感です」(今井)

「お互い面白いことをやるのが好きなんですよね」(添田)。「自分が話を持ってきて、添田は労務や税理関係も強いので、そこは任せています」(今井)

肌感の合った二人の話には勢いがあって面白い。「最近は今井に話せば何かしてくれるだろうと、不動産屋から話がきたりします」(今井)と言うように、彼らなら何かしてくれるという期待が生まれることにも納得できる。

画像提供:酒処 ニュー萬斎

しかしもちろんオープンしたら終わりではない。酒処 萬斎は、今井が個人で運営していた「ミュージックバーながさき」と「うどん酒場 萬斎」を一つにし、2024年にリニューアルオープンしたばかりだ。

売上の波を安定させるための解決策。何てことのない居酒屋だが、その使い勝手の良さがちょうどよく、居心地のいい店として早くも広まっている。飲食店の運営に決まりごとなどない。

東京のフードシーンで活躍する人々を知る……

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