新国立競技場を臨む都立明治公園の中に、複合型フードホール「明治パークマーケット(Meiji Park Market)」がオープンして話題となっている。ベーカリー「パークレット(Parklet)」、コーヒースタンド「パークレット キオスク(Parklet Kiosk)」、 バターミルクフライドチキン専門店「ベイビージェーズ(Baby Jʼs)」が一つの空間に並ぶ。緑豊かな公園の中に、誰もが食事とドリンクを楽しめる場を作ったStapleの代表取締役・岡雄大を、あえて居酒屋企画のトップバッターとして紹介したい。
彼は岡山県生まれのアメリカ・コネチカットと東京育ち、外資系の金融出身。誰もが憧れるような略歴だが、「2つの国で育ち、アイデンティティを見失って、自分のルーツを探すようになりました。今の時代、どの国のどの街へ行っても同じような空間があり、同じような食体験ができ、同じような空間が広がります。自分が好きなのはこの街にしかないあのビストロや家族経営のブティックホテルです」
自身のルーツに立ち返りながら、ルーツが消費されない唯一無二な場所探しが始まり、出合ったのが岡山県の隣、広島県瀬戸田だった。忘れられない瀬戸内海の風景と寂れた街並みにポテンシャルを感じ、彼は「ご近所」を作り続けている。
「まずは小さなホテルを作り、そこから徒歩20分圏内にさまざまな交流拠点を作っているイメージです。スタッフの半数が瀬戸田に住んでいて、生活者だから分かる住人の悩みに寄り添って事業を進めています。例えばせっかくオーガニック野菜の畑があるのにそれを買える場所がないこと、街の人も旅行者も入れる大浴場を願っていたこと……やることはたくさん。街に行けば、暮らしや人々の雰囲気が分かるようにしたいですね」
画像提供:Meiji Park Market | 明治パークマーケット内の「パークレット」では、酸味のある天然酵母のパンや、自家製クラフトビールのほか、ナチュラルワインも15種ほど用意
瀬戸田と日本橋の2拠点を活動の場としながら、今回の明治パークマーケットのプロジェクトを共同オーナーであるジェイジェイ(Jerry Jaksich)とケイト(Kate Jaksich)とともに進めた。
「公園の中の公園をイメージし、子どもも大人も和やかな時間を過ごすことができる優しい場所です。この街に住んだら人生良さそうだなと思ってもらえたらうれしい」と話す。
取材日も、晴れた春の気持ち良い気候の中で、ビール片手にバーガーを楽しむ大人と、店内を走り回る子どもたちが心地よく共存していた。店をオープンするだけでなく、街の風景を美しく変えていくことが彼にしかできない仕事だ。