Babusya REY
Photo: Akane Suzuki左から小笠原裕典、ビクトリヤ、アントン、エウゲニア
Photo: Akane Suzuki

「食べている時はただ幸せを感じてほしい」、吉祥寺のウクライナ料理店へインタビュー

週末限定の間借り店舗「バブーシャレイ」、ペリメニやボルシチを提供

寄稿:: Mie Yoneya
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吉祥寺駅北口から徒歩5分。2022年4月28日にオープンしたウクライナの家庭料理店、「バブーシャレイ(Babusya REY)」がある。利用客の投稿したSNSが話題となり、1日100人以上の客が狭い階段に列を作る。

8席ほどの小さなバーを間借りして土・日曜・祝日の昼間のみ営業。「ボルシチ」やマッシュルームとジャガイモを包んだウクライナ風餃子「ヴァレーキニ」、キーウ発祥のウクライナ風チキンカツレツなどを提供している。

プロボクサーとして活躍する小笠原裕典(以下、小笠原)とウクライナ出身の妻、ビクトリヤ、その姉のエウゲニア、夫のアントンの4人で切り盛りする。エウゲニア夫妻はウクライナから3月末、ビクトリヤを頼って息子と両親と避難してきたばかり。狭いカウンターの中では日本語、英語、ロシア語が飛び交う。

東京で活躍する外国人にインタビューをしていくシリーズ「International Tokyo」。第6回は、「バブーシャレイ」の小笠原夫妻に、同店の魅力とオープンに込められた思いを語ってもらった。

避難民である家族の生活を守るために開業

きっかけは、ロシアによるウクライナ侵攻だ。小笠原が保証人となり、ビクトリヤの両親、続いてエウゲニア一家を迎え入れた。避難民には都営アパートが住居として提供されるが、日本政府からの支援金は保証人がいることで支給されないという。

そこで小笠原夫妻が考えたのが、バーを営業している弟の店を間借りしてウクライナ料理店を始めること。生活するために必要な費用を捻出するのと同時に、彼らの生活にメリハリをつけることも念頭においた。

「多くのお客さまから、ウクライナを支援したいという優しい気持ちを感じます。ウクライナ語でエウゲニアやアントンに声かけてくれる人もいて、彼らも元気付けられているようです」(小笠原)

最初はウクライナへの興味から同店を訪れた人も、ウクライナの家庭料理のおいしさに魅せられ、リピーターとして足を運ぶ人も少ないという。

「ボルシチ」はウクライナ人の味噌汁的存在

おすすめのメニューとして小笠原が真っ先に挙げたのは、ボルシチだ。ビクトリヤの得意料理の一つで、日本ではロシア料理だと思う人も多いが、実はオリジナルはウクライナの家庭料理。日本人にとって味噌汁のような存在だと教えてくれた。

同店の「ボルシチ」(1,000円、以下全て税込み)には、牛肉、ビーツ、トマト、ニンジン、タマネギ、ポテトにたっぷりのキャベツが入っており、上にはサワークリームが乗っている。同店では新鮮な生のキャベツを用いているが、中には酢漬けのキャベツを使っている家庭もあるという。

ミネストローネにも似た味のボルシチは、日本人の胃にも舌にもマッチして、とても食べやすい。野菜が豊富に入っているので、キックボクサーの小笠原が減量中に食べることもあるという。

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首都・キーウの名前を冠したカツレツ

「チキンキーウ」(1,000円)もぜひ食べてほしい一品だ。ウクライナの首都キーウ発祥のチキンカツレツだ。ボルシチの味が家庭ごとに違うのに対して、カツレツは地域ごとに異なるのだとか。

同店のものは、鶏胸肉の中にたっぷりのバターを入れて、包み揚げた料理。熱々の「チキンキーウ」にナイフを入れると、中に閉じ込められたバターソースがかぐわしい香りとともに広がる。柔らかくてジューシーな胸肉と、香草がきいたバターソースの組み合わせが絶妙。ぜひ熱々を食べてみてほしい。ピクルスがアクセントになった卵サラダとマッシュポテトが添えられている。

ウクライナのファストフードを皮から手作り

客のほとんどが注文する大人気メニューは「THE ペリメニ」と「ヴァレーキニ」(各700円)。ペリメニとは、ウクライナ風のゆで餃子のようなものだ。各家庭でそれぞれが作り置きしたり、店で冷凍品が売られているなど、ポピュラーな料理である。ウクライナ人にとってはファストフード的な存在で、多くの人から愛されている。

同店では生地から手作りしており、中は、牛、豚、鶏のひき肉をブレンドしたオリジナル。ゆであがったペリメニにはサワークリームがよくマッチする。

同店で提供するサワークリームは、ウクライナの味に近づけるために、日本製のサワークリームにヨーグルトをミックスして、ガーリックを加えているそう。苦手な人には、ガーリックなしのサワークリームにしてくれるのはうれしいサービスだ。

「ヴァレーキニ」は、マッシュポテトとキノコを手作りの皮で包み、ゆで上げ、サワークリームを付けて食べるシンプルな料理。「ペリメニ」はロシア発祥といわれているが、「ヴァレーキニ」はウクライナの料理なので同店は特に人気を集めている。

アップルシナモンとストロベリーミックスの2種を展開する「デザートヴァレーキニ」も忘れずに。ウクライナではゆでて提供されるのが主流だが、ここでは日本人に好まれるように甘さを控えめにして揚げたものを提供している。

このほか、揚げたペリメニである「フライドペリメニ」も用意。ゆでと揚げを両方注文した人には、サワークリームの代わりにオリジナルのオーロラソースが添えられる。

「日本でも冷凍のペリメニを手に入れることはできますが、フレッシュな手作りのペリメニに出合えることはめったにありません。先日、店に来てくれたロシア人のお客さまが『手作りのペリメニを食べるのは久しぶりだ』と話していました」と小笠原は語る。

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「おいしい」をただ共有する幸せ

日本人にとって、これまであまり馴染みのなかったウクライナ料理。ロシア料理だと思って食べていたボルシチも実はウクライナに起源があると聞いて、グッと親近感が湧いてきた。実際に食べてみると、クセがなく、食べやすい。近い将来、イタリアンや中華料理を食べに行くように、ふらっとウクライナ料理を食べられる日が訪れるかもしれない。

「ロシアによる侵攻が始まってから、ウクライナの話題というとネガティブな話ばかりです。でも、ここに来ておいしいウクライナ料理を食べている時は、嫌な話題は忘れて豊かな気持ちになって、ただ幸せを感じてほしいです」と小笠原とビクトリヤは語る。

今後の展望について聞いてみると、小笠原からは意外な答えが返ってきた。

「近い将来、戦争が落ち着き、国交が正常化して、みんなが帰れる状況になるまで営業できればいいのかなと思っています。エウゲニア一家も、ビクトリヤの両親も、故郷に帰るという希望を捨てていませんからね」

これだけ客が押し寄せているのだから、もっと広い場所に移ったり、営業時間を延ばしたりすればいいのにと思ってしまった自分がちょっと恥ずかしい気がしてきた。

食は国境や争いも超える、そんなことを実感できるウクライナ料理店「バブーシャレイ」。ぜひ訪れてほしい。

バブーシャレイの詳細情報はこちら

  • 吉祥寺

※2022年4月28日にオープン

ウクライナの家庭料理を提供するレストラン、「バブーシャレイ(Babusya REY)」。8席ほどのバーを間借りして土・日曜・祝日の昼間のみ営業している。提供するのは、「ボルシチ」やマッシュルームとポテトを包んだウクライナ風餃子「ヴァレーキニ」、キーウ発祥のウクライナ風チキンカツレツなど、いずれもクセがなく日本人でも食べやすいメニューばかり。

プロボクサーとして活躍する小笠原裕典とウクライナ出身の妻、ビクトリヤ、その姉のエウゲニア、夫のアントンの4人で切り盛りする小さな店だ。エウゲニア夫妻はウクライナから3月末、ビクトリヤを頼って息子と両親とともに避難してきたばかり。狭いカウンターの中では日本語と英語、ロシア語が飛び交う。

避難民である家族の生活を守るために開業したという同店、「ウクライナのおいしい家庭料理が食べられる」とSNSで話題を集め、行列になることも珍しくない。オープンのタイミングを狙って訪れるといいだろう。

国際都市、東京を楽しむ……

  • Things to do

東京で活躍する外国人にインタビューをし、実際に東京で暮らす中で、何を思い、人や街とどんな風に関係しているのかを聞いていくシリーズ『インターナショナル トーキョー』。第3回は、有限会社セルチェの取締役、トルコ出身のメテ・レシャット・キュプチュに話を聞いた。

メテは、仕事で日本に来た際に出会った妻と結婚するために来日して18年。トルコのおいしい食品を輸入して日本人に食べてほしいという思いから、トルコ産オリーブオイルの輸入販売をスタートした。2019年には品川区荏原町商店街縁日通りに、トルコ食品店のターキッシュ フード アンド ワインマーケット ドアル (Turkish Food&Wine Market Dogal)、2021年には数軒隣にカフェ&バーを開店。テレビなどにも多く出演している、街の名物オーナーだ。

東京で店を開くことについての苦労話を聞くと、「日本人はみんな優しいから大変なことはない」と笑い飛ばす。実際に話を聞くと、筆者なら苦労と捉えるエピソードもあったが、持ち前の明るさと、店前を人が通るたびに気軽に声をかけるような人懐こさで、人々をたちまち味方にしてしまうのだ。

近い将来、荏原町をトルコの店でいっぱいにする「荏原町トルコ村計画」を構想中だ。一体どんな計画なのか尋ねると、目を輝かせて語ってくれた。

  • Things to do

東京都生活文化局の調べによると、東京都内で生活する外国人は184カ国と地域の約54万6000人(2021年1月1日時点)を数える。10年前から比較すると、その数は12万人以上増加した。

街に出ればさまざまな国旗が掲げられたレストランやショップを目にするだろう。そんな多文化都市としての横顔にスポットを当てるべく、東京で活躍する外国人にインタビューをしていくシリーズ『International Tokyo』を企画。実際に東京で生活する外国人がどんな思いで暮らし、人や街とどんな風に関係しているのかを聞いていく。

第1回は、パキスタン出身で2012年に日本国籍を取得した味庵・ラムザン・シディークに話を聞いた。味庵は、パキスタン料理店のシディークやアジアン食材店のナショナルマートなどを経営する和新トレーディングの取締役を務め、東京にハラルやパキスタン文化を浸透させている立役者だ。

彼は日本の魅力や東京でビジネスを成功させるコツ、東日本大震災やコロナ禍の影響などを語ってくれた。

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ここ数年、東京を中心に中国人が現地の味をそのまま再現した中華料理を提供する店が急増している。筆者はそのような中華料理を、日本人向けにアレンジされた「町中華」に対して「ガチ中華」と呼んでいる。

花椒(ホアジャオ)や唐辛子などのスパイスをふんだんに使った本格的な四川料理、特に鍋の店は2019年から2021年の間で、知っているだけでも15店舗以上増えた。

そんなガチ中華出店ブームの流れに乗って、日本では珍しい四川料理の専門店、楽串が2021年7月に新小岩にオープンした。名物料理は「鉢鉢鶏(ボーボージー)」だ。

海外に行きたくても、気軽に行けなくなってしまったこのご時世。気分転換に、大使館が多く存在する国際色豊かな広尾という街で、海外グルメ巡りに出かけてみるのはいかが。イスラエル、香港、イタリア、メキシコなどの味を現地そのままに再現した店から、フランスや韓国、ベトナム料理を日本の料理や調理法と組み合わせることでさらに進化させたモダンクイジーンまで、その懐は深く多様だ。

ここでは、フードインスタグラマーTOKYO HALFIEが全て実食し、味はもちろんコストパフォーマンスやプレゼンテーション、店の雰囲気などを加味して厳選。10カ国にまつわる珠玉のレストランを紹介する。

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東京在住の駐日大使にインタビューを続けている「Tokyo meets the world」。この中では、世界各国のSDGsの取り組みを学べるほか、「世界随一の美食都市」としての側面を持つ東京が、いかに多様な国の料理を提供しているかも掲載してきた。ここではインタビューの中で、各国の大使が「東京で自国の味を楽しむなら」と、勧めてくれた店を7カ国分紹介しよう。

本格ギリシャ料理、コロンビア産の本物のカカオ、オランダ人が愛する絶品つまみ、日本に1軒しかないクロアチア料理の専門店など、いずれも未知と美味の驚きに満ちている。ぜひ堪能してほしい。

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