楽串
串に具材を刺した四川名物「鉢鉢鶏」(Photo: Keisuke Tanigawa)
串に具材を刺した四川名物「鉢鉢鶏」(Photo: Keisuke Tanigawa)

新小岩に四川名物「鉢鉢鶏」専門店、27歳中国人オーナーが描く夢

静岡おでんスタイルの「ガチ中華」、自家製ラー油をたっぷり付けて

寄稿:: Asheng
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ここ数年、東京を中心に中国人が現地の味をそのまま再現した中華料理を提供する店が急増している。筆者はそのような中華料理を、日本人向けにアレンジされた「町中華」に対して「ガチ中華」と呼んでいる。

花椒(ホアジャオ)や唐辛子などのスパイスをふんだんに使った本格的な四川料理、特に鍋の店は2019年から2021年の間で、知っているだけでも15店舗以上増えた。

そんなガチ中華出店ブームの流れに乗って、日本では珍しい四川料理の専門店、楽串が2021年7月に新小岩にオープンした。名物料理は「鉢鉢鶏(ボーボージー)」だ。

「鉢鉢鶏」は、その字面から鶏肉料理を想像してしまうかもしれないが、全くの別物。ゆでた野菜や肉類を竹串に刺し、鉢に入った特製だれに漬け込んで食べる串料理で、四川省楽山市の名物として知られている。日本で例えるなら、大阪の串カツや静岡のおでんのようなスタイルで、酒のつまみや軽食にもってこいのご当地グルメだ。

東京で活躍する外国人にインタビューをしていくシリーズ『International Tokyo』。第4回は、楽串を経営する袁楽添(えん・らくてん)に、日本で鉢鉢鶏専門店を開いた理由を聞いた。

ソウルフードを食べてほしい

袁は1994年生まれの27歳。東京の「ガチ中華料理店」でも30代のオーナーは少しずつ見かけるようになってきたが、20代のオーナーはかなり珍しい。

2015年に日本語を勉強するため来日した袁は、東京の語学学校を卒業後、接客好きが講じて静岡の飲食店に就職した。そこで飲食業の楽しさを知った彼の心に浮かんだのは、子どもの頃から屋台や家庭でよく食べていた鉢鉢鶏だ。

「自分にとってソウルフードである鉢鉢鶏を多くの人に食べてもらいたい」――そんな思いとともに20211月に開店を決意し、東京に戻ってきた。当初は、都内のどこに出店するか非常に悩んだという。

「東京に住んでいる中国人は東北地方出身者が多いんです。彼らからすると四川は日本よりも遠いので、鉢鉢鶏を食べたことがない人も珍しくありません。もちろん日本人にも食べてほしいのですが、まずは在日中国人をターゲットにすることを考えました」

そのため、池袋や高田馬場といった中国人居住者が多いエリアを出店候補にピックアップ。しかし、鉢鉢鶏を気軽に食べに来てもらうには駅近1階の物件が必須だと考え、最終的に新小岩駅から徒歩1分の店舗に決めた。

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肝は13種類のスパイス配合の自家製ラー油

「調味料はラー油にこだわっています。四川料理というと辛さばかりが注目されますが、実は香りが大事なんです。研究を重ねて、鉢鉢鶏に一番合うラー油を作りました」と、袁はうまさの秘密を教えてくれた。

聞けば高校生の頃から自分でスパイスを調合し、ラー油を手作りしていた袁。本国では家や店ごとに異なるラー油があり、鉢鉢鶏の味わいもそれぞれ異なるそうだ。野菜、魚介、肉、練り物など何でも串に刺して食べるため、このラー油やたれこそが鉢鉢鶏の味と言っても過言ではないという。

楽串の自家製ラー油には、唐辛子や花椒、陳皮(ちんぴ)、八角、クローブ、ローリエなど13種類のスパイスが使われている。真っ赤な見た目とは裏腹に、思ったよりもマイルドな辛さでコクがあり、串を取る手が進んでしまう。一度食べたら癖になってしまう絶妙な味付けだ。サイドメニューのよだれ鶏やマーラー麺も、自家製ラー油の味が決め手になっている。

40種類以上ある具材からお気に入りの串を選ぶのも、鉢鉢鶏の楽しみの一つだ。野菜や肉類を刺した竹串が並んでいる冷蔵ショーケースから自分が食べたい具材(1130円)を選び、食べた串の数だけ食後に精算する。

各テーブルには自家製ラー油と鶏ガラスープで作られた特製だれを用意。利用者はショーケースから串を選び、そのまま席で串を漬けて食べられる。

本国の屋台では、巨大なたれつぼの中にさまざまな串が刺さっているのを手に取ってその場で食べるという、ストリート感あふれるスタイルだ。同店では衛生面に気を遣い、串を冷蔵ケースから取り出して、自ら漬けて食べる方式にしている。

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日本人のファンも増加中

オープンからわずか半年だが、楽串の鉢鉢鶏は新小岩以外でも多くの場所で販売している。11月には西川口と練馬にフランチャイズを展開、12月には世田谷にテイクアウトの店をオープンした。

このほか、池袋や横浜、神戸など20店舗以上の中華物産店にパック詰めした鉢鉢鶏を卸しており、購入客からの反応も上々だという。UberEatsなどのフードデリバリーアプリでも提供し、日本人の客をじわじわ獲得している。

「新小岩の本店には地元の常連客の人(日本人)がいて、毎週のように鉢鉢鶏を食べに来てくれるんです。人づてで来てくれる新しいお客さんも多いですよ。コロナ禍で大変だけど頑張ってねと、日本人のおばあちゃんから果物の差し入れをいただいたこともありました。お客さんの優しさに触れた時、店をやっていてよかったなと思います」(袁)

オープン当初は、中国のSNS「WeChat」や「RED」を見て食べに来る中国人が多かったというが、最近は日本人のファンも増えているようだ。

鉢鉢鶏を日本でもっと広めたい

フランチャイズ、フードデリバリー、物産店への卸売りと精力的に鉢鉢鶏の普及に勤しむ袁。「鉢鉢鶏の認知度を上げていけるように今年も頑張ります。地元の料理をたくさんの人に食べてもらいたいですし、それで好きになってもらえたらとてもうれしいです」。

麻婆豆腐、青椒肉(チンジャオロース)など日本人にもなじみ深い中華料理とはひと味違う、四川ローカルな屋台料理を試してみては。

楽串の詳細情報はこちら

もっと東京の異国を知る…

  • Things to do

「你好!几位?(いらっしゃいませ、何名様ですか?)」。店員さんの発する第一声が中国語の中華料理店がここ数年、高田馬場や新大久保などで急増している。中でも池袋はその総本山だ。

輸入食材がそろう中華物産店や、中国各地の郷土料理が楽しめるフードコートなど、まるで本国を旅行しているような気分に浸れる。町中華とはまた違う、現地で食べるような料理や雰囲気が楽しめる店を7軒紹介する。

  • Things to do

東京のコリアンタウンといって、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは新大久保だろう。しかし、東京には新大久保よりも古い歴史を持つコリアンタウンがある。荒川区の三河島エリアだ。日暮里駅から常磐線でわずか1駅、上野からは2駅の場所にある。新大久保と比べると観光要素は皆無といっていい。普段着の街並みのなかに、小さな焼き肉屋や韓国食材店、雑貨屋などがいくつも点在。至るところでハングルの文字が目に入り、店先からは韓国語が漏れ聞こえてくる。

もともとは、韓国最南端に位置する済州島から日本に渡ってきた人が作り上げたマーケットでといわれており、済州島のオモニ(母)の味が楽しめるのは三河島ならではだ。旅する気分とともに、済州島の下町の飾らない日常を味わいたい。

韓国とは関係はないが、三河島にはリーズナブルなマグロの店や、情緒たっぷりの銭湯もあるので、きっと散策もきっと楽しいはずだ。

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「ご飯食べた?」を意味する「呷飽没?」があいさつになってしまうほどおいしいものであふれる台湾。気軽に旅ができない今、台湾ロスに陥っている人も多いだろう。

そんな人の願いをかなえるべく、ここでは「東京の台湾」をピックアップ。本場の味が楽しめる店はもちろんのこと、現地感のある内装でプチ旅行気分に浸れる一軒や話題の新店、隠れた名店などをタイムアウト東京の台湾出身スタッフ、ヘスター・リンとともにセレクトした。台湾の豆知識も時々交えたヘスターのコメントとともに紹介するので、台湾の情報収集としてもぜひ活用してほしい。

  • カフェ・喫茶店

ここ数年、海外で人気を博したカフェやコーヒーショップの日本初出店が増えている。海外旅行はまだ気軽にできなくとも、都内で外国のカルチャーに触れたり、異国情緒に浸ったりするのはどうだろう。今回は中でも海外の雰囲気が満喫できる店を厳選して紹介する。

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