Derek Toro(デレク・トロ)
Photo : Keisuke Tanigawa
Photo : Keisuke Tanigawa

憧れのDIVAはシュワルツネッガー、ドラァグキングのDerekが語る男らしさとは

SEX 私の場合 #18 ジェンダー規範の脱却に向けて、「反抗」と「パイオニア」の存在へ

テキスト:: Honoka Yamasaki
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タイムアウト東京 > LGBTQ+ SEX:私の場合 > #18 ジェンダー規範の脱却に向けて、「反抗」と「パイオニア」の存在へ

国内最大級のドラァグクイーンショー「OPULENCE」。その演目の一つとして、新人ドラァグパフォーマーが競い合うコンテスト「Sparkle」で優勝を果たしたDerek Toro(デレク・トロ)は、「ドラァグキング」として活動するパフォーマーの一人だ。

ドラァグクイーン、ドラァグキングともに用いられる「ドラァグパフォーマンス」とは、ジェンダーの規範を曲げることを目的としたものである。一般的には、メイク、衣装、リップシンク、ダンスなどを通して、記号としてのジェンダー(社会一般的な男性・女性らしさ)を大げさに表現している。

ドラァグクイーンは大げさに女性らしさを表現するのに対し、ドラァグキングは男性的な表現をする。昨今メディアでドラァグクイーンの露出が増えつつある一方で、ドラァグキングの存在を知らない人は多いのではないだろうか。Derekが一般投票により優勝を勝ち取ったことは、日本のドラァグ界における歴史的快挙ともいえるだろう。

今回は、いまだ未知の存在であるドラァグキングについて知るべく、OPULENCEに出場したDerekにインタビューを実施。これを読めば、ドラァグキングとは何かという一端を知ることができるだろう。

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「ドラァグショーはLGBTQ+版のスポーツ観戦のよう、そんな楽しさがある」

ーDerekさんの活動内容について教えてください。

私はドラァグキングとして活動しながら、フリーランスの映画監督として仕事をしています。私にとってパフォーマンスをすることは、映画と同じように物語を語るようなものであり、両者が関連しています。

なので、Derek Toroという名前は「Directorial」(directorの形容詞)から名付けました。友人が名前に男らしさを加えるため、語尾に「雄牛」を意味する「toro」を付け加えることを提案してくれて、今の名前になったんです。

ードラァグクイーンやドラァグキングは、LGBTQ+コミュニティーと強い関わりを持っています。Derekさんの、LGBTQ+コミュニティーとのつながりについて教えてください。

私はフィリピン出身で、日本に来たのは2010年でした。そこで今のパートナー・Reynaと出会い、彼女が主催するLGBTQ+イベント「Qlove」のビデオ制作に携わったことで、ドラァグやLGBTQ+コミュニティーとつながりを持つようになりました。制作した動画にはドラァグクイーンも登場し、そこでドラァグの美しさを知り、2021年ごろから新宿二丁目に定期的に足を運ぶようになったんです。

二丁目ではみんなと一緒にドラァグショーを見ることの楽しさを感じることができました。スポーツバーのLGBTQ+版みたいな、そんな楽しさがあります(笑)

ー二丁目に初めて足を運んだ時はどんな気持ちでしたか?

フィリピンでは大学在学中、LGBTQ+支援団体に所属していたので、多くの当事者と関わる機会がありました。でも、母親が勉強に厳しく外出できなかったため、クィア(LGBTQ+)のナイトライフや、ビアン・ゲイバーについてはあまり知りませんでした。

大学卒業後、日本に来て二丁目を初めて訪れた時はとても楽しかったのを覚えています。普段、自分のセクシュアリティーを隠しているわけではありませんが、やはり当事者の仲間たちがいる場所は安心するし、楽しいです。

ー日本の社会全体として、LGBTQ+コミュニティーの現状をどう捉えていますか?

2年前にReynaとパートナーシップ宣誓制度をするために婚約したのですが、クィアカップルとしてこの社会で生活する中で困難に感じることもありますし、現在もどのように結婚するかを模索中です。東京都では、同性カップルに対してパートナーシップ宣誓制度が適用されます。でも正直、これは単なる証明書のようなものです。

結婚したカップルと同様に法律上で家族として扱われるわけでもなく、どこでも私たちが受け入れられるわけでもありません。当事者であることで直接的な暴力や嫌がらせを受けた経験はありませんが、恐怖心は常にあります。だからこそ、私は婚姻の自由が認められるために、ドラァグを通じてメッセージを伝えていきたいと思っています。

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「男らしさ」を表現するドラァグキング

ードラァグキングを始めたきっかけは何ですか?

東京のボールルームコミュニティー「tokyo kiki lounge」が主催するイベントに参加したことがきっかけです。ボールルームとは、アメリカのクィアやトランスコミュニティーから生まれたもので、参加者は「カテゴリー」と呼ばれるバトルに参加し、ランウェイ上でそれぞれの表現を魅せながら競い合います。

もともとReynaがtokyo kiki loungeに参加していたのを見て「楽しそうだな」と思い、最初は「OTA BEST DRESSED SPECTATOR」のカテゴリーに参加したんです。これは衣装を中心に審査されるので、私は芸術学部の修士課程の経験を生かしてセットや小道具を製作しました。それを見た人が「ドラァグやらないの?」と言ってくれて、ドラァグキングへの道が開かれました。

ー初めてドラァグショーをした時のことを教えてください。

ドラァグキングとしてデビューしたのは、2022年3月20日です。ドラァグキングのイベント「Kings of Tokyo」の方から「この日空いてない?」と声をかけてもらい、人生初のショーをしました。

私は映画「ゾロ」シリーズの主人公・ゾロ役の格好で「デスパシート」をリップシンクしました。スペイン語の曲なので、リップシンクができるようになるまで何度も練習したことを覚えています。

ー普段はどのようなスタイルのパフォーマンスをしていますか?

私のドラァグショーでは「典型的な男性性」を表現しながら、ストーリーを加えます。例えば、あるパフォーマンスでは、椅子を組み立てる描写からスタートし、最終的にはその椅子がポーズを取るためのものだと分かるのです。男性が力強さを見せつける一方で、実は自分の見た目にも非常にこだわっているというのがポイントです。

男性の中には、マスキュリンな女性を笑ったり、見下したりする人を目にすることがあります。彼女たちが男性ではないからです。でも、マスキュリニティは男性のものでもなければ、深刻なものでもありません。もっと自由に表現してよいものです。

なので、私のパフォーマンスを見たお客さんが「あのステージにいた人は男性じゃなかったんだ」と気づいてもらうことで、男女二元論に縛られる必要がないことを知ってもらいたいですね。

ーDerekさんが手本としている人物やDIVA(アイコン的な存在)はいますか?

私が思うDIVAは、アーノルド・アロイス・シュワルツェネッガー(Arnold Alois Schwarzenegger)です。なぜなら、彼はマッチョな男性をキャラクターとして演じていることを自覚しているから。

また、ドラァグを始めた頃、1990年代のマッチョな映画を鑑賞する中で、ジャン=クロード・ヴァン・ダム(Jean-Claude Van Damme)も印象的でした。彼のハイパーマスキュリンなキャラクターを演じる姿を見ると、ドラァグと似ているなと感じます。

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マッチョな骨格や筋肉の作り方は?

ードラァグキングのメイクは、ドラァグクイーンとはまた違いますか?

ドラァグキングはドラッグクイーンのメイクとは異なり、顔の輪郭をよりシャープに仕上げます。顔の骨格が違うので、基本的には目をくぼませることや、額を強調することを意識しながら、コントアーで影を作るんです。

あとはひげも重要ですね。実際の毛をのりで付ける人もいますが、私はアイライナーで描いてキラキラさせるのが好き。大体10分くらいで描き終わります。

ー体形を男性らしく見せるための工夫もしているのでしょうか。

シリコン製のマッスルスーツというものがあります。でも、過去にマッスルスーツを着用してショーをしたところ、すぐに破損してしまいました。それに体に密着するため動きづらく、スーツを脱ぐのに30分ほどかかってしまうので、今は使っていません。

代わりに、胸をサイドに寄せて胴体に筋肉を描いています。胸を目立たなくするために胸をつぶす方法もあるんですけど、とても窮屈で息がしにくいので、あまり好んではしません。

あとは、股間の膨らみを再現するジョックストラップというものを着用することもあります。基本的にはビジュアルに特化した見せ方をしたい時、撮影の時などに使っています。

ーメイクや衣装のアイデアをどのように考えているのでしょうか。

最近は、Instagramで海外のドラァグキングをフォローして、メイクのインスピレーションを得ています。特にアメリカのリアリティショー「The Boulet Brothers' Dragula」のシーズン2の優勝者、ランドン・サイダー(Landon Cider)は最高です!

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ただ、ドラァグが好きな人の中には、ドラァグキングのメイクはドラァグクイーンほど優れていないと考える人もいる、と聞いたことがあります。それは、ドラァグキングがまだ表に出ていないことも理由の一つだと考えられるのかなと。なので、私自身もドラァグキングがもっと世に知られるよう、できる限りパフォーマンスする機会を増やしていきたいと思っています。

ドラァグキングは「反抗」であり「パイオニア」である

ー日本ではドラァグキングの認知が低い中、Derekさんは国内最大級のドラァグクイーンイベント「OPULENCE」で行われたコンテスト「Sparkle」で見事優勝しました。1000人以上の前でドラァグキングとしてショーをした時の気持ちを教えてください。

コンテストに出演したほかのクイーンはすでに人気があったので、とても緊張していましたし、「ドラァグキングはみんなにどう受け入れられるのかな?」と不安でもありました。そんな時、Reynaは「楽しむことが大事」「あなたが楽しめなかったら観客は楽しめない」と言葉をかけてくれたんです。

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彼女は私にとって最高のマネジャーです。そして、「Sparkle」で優勝したことで、お客さんにとってパフォーマーがドラァグクイーンであるかドラァグキングであるかは関係ないこと、大切なのはショーを楽しむことだと確信しました。

ーズバリ、Derekさんにとってドラァグキングとは?

私にとってドラァグキングであることは、「反抗」という言葉はちょっと大げさかもしれないけれど、パイオニアのような存在。以前からドラァグキングは存在していますが、それぞれの在り方が認められるような、多様な社会に近づくためのパイオニアになり得ると思っています。

人間はそれぞれ違いがあり、男性・女性であることについて争いがなくなることで、より安全な場所にできると信じています。全ての人が自分自身の表現をすることが許され、快適に感じられるようになるべきだと思います。自分の美しさをどのように表現してもいいのです。

ー最後に、タイムアウト読者にメッセージをください。

人生はストレスでいっぱいです。でも、自分の表現方法を気にしないでください。なぜならば、それは他人がコントロールできないことだからです。自分の思い通りに表現することが、社会のストレスを和らげる一助になると信じています。

Contributor

Honoka Yamasaki

レズビアン当事者の視点からライターとしてジェンダーやLGBTQ+に関する発信をする傍ら、新宿二丁目を中心に行われるクィアイベントでダンサーとして活動。

自身の連載には、タイムアウト東京「SEX:私の場合」、manmam「二丁目の性態図鑑」、IRIS「トランスジェンダーとして生きてきた軌跡」があり、新宿二丁目やクィアコミュニティーにいる人たちを取材している。

また、レズビアンをはじめとしたセクマイ女性に向けた共感型SNS「PIAMY」の広報に携わり、レズビアンコミュニティーに向けた活動を行っている。

https://www.instagram.com/honoka_yamasaki/

SEX:私の場合

  • LGBT

「レズビアン」という存在はまだ十分に可視化されていない。4月26日「レズビアン可視化の日」は、「L」(レズビアンの総称)コミュニティーの祝福であると同時に、「見えない」存在であることを痛感させられる。

レズビアンが直面する主な問題は、不可視化と圧倒的な知識不足ではないだろうか。家父長制が浸透する男性中心的な社会では、男性を必要とせずに生きる女性の存在が稀有とされがちだ。

しかし、レズビアンは男性異性愛者のための「スケベ」な存在でもなければ、一時の遊びでもない。現状、レズビアン当事者がのびのびと過ごす社会とは程遠いものの、そこには必ず存在している。

表で語られることの少ないレズビアンは、どのようにしてコミュニティーとの関係性を構築し、同じ当事者と出会うのだろうか。今回、レズビアンやクィア女性に向けたSNSアプリ「PIAMY」代表の星マリコ、レズビアン当事者であり広報を務める雨谷里奈山﨑穂花が、出会いやつながりについて語る。

また、PIAMYが制作した、新宿二丁目を中心に開かれたビアンバー42店舗を収録した「ビアンマップ」を通して、LGBTQ+新宿二丁目のLコミュニティーを探求する。

  • LGBT

1900年初頭から、アメリカを中心に女性たちは賃金格差の解消、職場環境の改善、選挙権などを求めて闘ってきた。そして1975年、国連によって3月8日が「国際女性デー」として制定された。

女性の権利を守り、ジェンダー平等を実現する国際女性デーは、全ての女性のための日であることを忘れてはならない。そこには、*1シスヘテロ女性だけでなく、もちろんレズビアン女性、バイセクシュアル女性、トランスジェンダー女性なども存在する。

世界から見ても、あらゆるLGBTQ+店舗が密集した特殊な街、新宿二丁目。「LGBTQ+タウン」として知られているが、レズビアンに開かれたバーは少ない。伏見憲明の著書「新宿二丁目」によると、二丁目にあるバーは約450軒。その中の381軒がゲイバーと想定され、*2レズビアンバー(通称:ビアンバー)は30軒ほどだ。

少数派の中でも少数派であるレズビアンの歴史は、当事者が語ることも他者から記録されることも少ない。届かぬ「L」の声とは何か。そして、「L」の居場所はどのように作られているのか――。

今回は、新宿二丁目にあるレズビアンを中心としたバー「GOLD FINGER」のオガワチガ、「鉄板女酒場 どろぶね」の長村さと子、「おむすびBAR 八『はち』」のアバゆうが集まり、オーナーから見た新宿二丁目、さらには女性たちの居場所について語り合った。

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  • LGBT

ゲイのクラブカルチャーを担う存在といえば、ドラァグクイーン(女性性を誇張し、派手な衣装や化粧をしてショーに出演するパフォーマー)が有名だが、実は「GOGOボーイ」という存在も欠かせない。

GOGOボーイとは、主にゲイパーティーで活動するダンサーのことを指す。セクシーな衣装を身にまとい、ステージ上で鍛え上げられた肉体を揺らす彼らは、何人もの観客の目を奪いフロアを沸かせてきた。ゲイコミュニティーではアイドル的存在とされているからこそ、当事者が口を開いてジェンダーを語ることはあまりない。

世間が思う「男らしくて強いGOGOのリアル」とは何か。筆者と親交を持つGOGOボーイのTAIGAが、心の内を打ち明ける。

  • LGBT

11月19日は、1999年、トリニダード・トバコにある西インド諸島大学の歴史講師、ジェローム・ティールックシン博士により設立された「国際男性デー」。「国際女性デー」と比べるとまだ馴染みがない言葉かもしれないが、男性が直面するさまざまな社会問題に焦点を当て、意識を広げる機会となっている。 

家父長制をはじめとするさまざまな社会システムでは、性別で区別された「特権」が存在する。また、職場や家庭、パートナーとの関わり方など、生きる上でのさまざまな場面で「男らしさ」の概念は無意識的に染み付いている。つまり、男性について考えることは、社会について考えることだ。

今回は、国際男性デーに合わせて「男性とは」についてアンケートを実施。20〜40代の9人の回答を掲載する。

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  • LGBT

1970年代にニューヨーク・ウエストブロンクスのブロックパーティーから誕生したヒップホップ。時代とともにさまざまなスタイルが生まれ現在に継承されているものの、マチズモ(男性優位主義)でヘテロセクシズム(異性愛中心主義)な文化は未だに残っている。

「日本にはないらしいジェンダー差別 なら結婚選択肢はWhere at?」「俺は連帯するよトランスジェンダー」といったリリックをラップし、LGBTQ+差別に「NO」を示すREINOは、バイセクシュアルを公言して活動する19歳のラッパーだ。陽気でノスタルジックな曲調にダイレクトなワードを浴びせることで、一言一句が深く心に刻まれる。

本記事では、まだまだホモフォビック(同性愛嫌悪)な発言が飛び交うヒップホップシーンで、LGBTQ+差別に対抗し続けるラッパー、REINOにインタビューを試みた。ヒップホップとクィア、2つのコミュニティーの共存は可能なのか、日本のシーンの実態を探るとともに質問を投げかけた。

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