TAIGA
Photo: SHINYA
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ナルシズム、エロ、ファンタジーを体現、GOGOボーイがジェンダーを語る

SEX:私の場合 #15 ゲイのクラブカルチャーで生きるTAIGAが世間に求められていること

Hisato Hayashi
寄稿:: Honoka Yamasaki
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ゲイのクラブカルチャーを担う存在といえば、ドラァグクイーン(女性性を誇張し、派手な衣装や化粧をしてショーに出演するパフォーマー)が有名だが、実は「GOGOボーイ」という存在も欠かせない。

GOGOボーイとは、主にゲイパーティーで活動するダンサーのことを指す。セクシーな衣装を身にまとい、ステージ上で鍛え上げられた肉体を揺らす彼らは、何人もの観客の目を奪いフロアを沸かせてきた。ゲイコミュニティーではアイドル的存在とされているからこそ、当事者が口を開いてジェンダーを語ることはあまりない。

世間が思う「男らしくて強いGOGOのリアル」とは何か。筆者と親交を持つGOGOボーイのTAIGAが、心の内を打ち明ける。

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GOGOボーイになるまでの道のり

ーTAIGAさんの活動について教えて。

GOGOボーイとして活動して9年目です。主にゲイイベントのステージで踊ってフロアを盛り上げるほかにも、シャンパンボーイやイベントのフライヤーモデル、アプリや企業のアンバサダーとして活動しているよ。

GOGOといえば、素肌を見せて踊る男性といったイメージがあるかもしれないけど、必ずしもそうであるとは限らない。というのも、最近増えてきたビジュアルに特化したクィアイベントではファッションやメイクにフォーカスしたり、下着ブランドが協賛しているイベントではそのブランドが制作した衣装を身に付けてショーをしたり、それぞれのイベントに合わせて表現を変えることもある。

TAIGA and YUHEI

ファッショニスタたちが集まるクィアパーティー「fancyHIM」にて。GOGOボーイのYUHEIと出演した時の様子(Photo: YURI HORIE)

ーGOGOボーイを志したきっかけは?

今のルーツをたどると、小学生の頃。学校のイベントでバンドグループが来てくれた時、目の前で演奏してくれているのに周りは冷静に座って見てたんだよね。その時「こんなに楽しく盛り上げてくれてるのに、なんで座ってるの!?」と思って、500人以上の子どもたちがいる体育館で、居てもたってもいられなくなって自分一人で踊り出しちゃったの(笑)。 

そしたら、バンドの人がステージに上げてくれて、それを見た全校生徒は立ち上がって、体育館内がダンスフロアみたいに盛り上がった。その時の喜びやうれしさは大人になってからも覚えていて、いつか人前に立つ仕事がしたいと強く思うようになったかな。

TAIGA

メンズ下着ブランドGX3のランウェイモデルとして登場(Photo: SHINYA)

ーもともと目立つのが好きな性格だったんだね。

そうかも。少なくともシャイではなかったね(笑)。学生時代を経て初めてレインボープライドのアフターパーティーに行った時、GOGOボーイという存在を知った。間近で見て「この人みたいになりたい!」と思うと同時に「自分ならもっとこういう風に盛り上げられるかも」という妄想も湧いて。 

一般的には、「GOGO」になるためにはイベントの関係者やオーガナイザーに声をかけてもらうケースが多いんだけど、自分の場合、X(旧Twitter)のプロフィール欄に「GOGOボーイになりたいです」と書いて自ら志願したんだよね。それがきっかけで、とあるオーガナイザーさんと会うことになって、テキーラボーイ(フロアでテキーラをショット売りして回る男性のこと)から活動を始めてみることになった。テキーラボーイを2年間経験して、2014年にGOGOデビューしたよ。今にして思えば結構無謀だったと思う(笑)。

ーGOGOボーイになるには、テキーラボーイの経験が必要なの?

当時はGOGOボーイになる前の段階として、テキーラボーイからスタートして顔を広めたり、クラブでの立ち回りや振る舞いを修行する風潮があった。個人的にはGOGOボーイとテキーラボーイに優劣はないと思うし、それぞれの役割を生かして支え合っているイメージがあるけど。

コミュニケーション能力に長けていてお話しが上手だとか、お酒が売れる人ならテキーラボーイに向いているし、ルックスに秀でていて魅せ方がうまい人ならGOGOボーイが向いてると思う。だから今思えばGOGOになるまでの2年間はオーガナイザーがその素質を見極めるための試用期間だったのかもしれないね。

多種多様なキャラクターを持つGOGO

ーどんな人がGOGOボーイに向いてる?

GOGOボーイになるための絶対条件はないけど、精神力は必要。極端にいうと、GOGOはほぼ裸に近い格好で人前に出る仕事だから、それを見た全ての人が肯定的な反応を示すとは限らないし、人前に出る以上は自分の意図しない捉えられ方をする可能性もある。そういったことを踏まえて、仕事とどう向き合うかが重要になるのかなと。

あとは、一種のナルシズムも必要かな。自信がない状態で人前に出るのは応援してくれる人に対して失礼にもなるし、見世物になるということは自分に注意を引き付けるということで、それはつまり自らジャッジの対象になるということ。GOGOは精神面で強くないと続けるのは難しいのかも。

ーGOGOとして活動する中で気をつけていることは?

人によって大切にすることは違うと思う。自分の場合、頑張って鍛えてもボディービルダーのようにマッチョになれる体質ではないから、身体を鍛えるのはもちろんだけど、日々の過ごし方や人脈を大切にしてる。

いただいたDM(ダイレクトメール)にアクションをしたり、同じシーンで活躍する人達のイベントにお客さんとして応援しに行ったりね。それなりに健康的な体はキープしつつ、それ以外にできることは積極的にトライしたいと思っているかな。

ーいろんなキャラクターのGOGOボーイがいると。

それぞれのGOGOが違うキャラクターを持っていて、カリスマ的存在を貫く人もいるし、自分みたいに気さくなタイプもいる。「簡単に振り向かないでほしい、それでこそアイドル!」というお客さんもいるけど、自分はそういうタイプじゃないから普段から親しみやすく接して周りを楽しませたい。

実際、お客さんの中にはお目当てのGOGOと写真を撮りたいけど話しかけられない人や、GOGOのイベントに行くこと自体にかなり勇気が要る人もいるから、自分が緩和剤や架け橋のような存在としてそこに居ることで、みんなが遊びに来やすくなる。そんな存在でいられたらいいなと思ってる。

ただ、自分みたいなキャラばかり集まっても非日常感は味わえないし、かといってカリスマばかり集まっても緊張感があり過ぎるから、全体的なバランスとして様々なキャラクターが存在していていいんじゃないかな。

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2.5次元のようなファンタジーを提供

ーGOGOといえば、マッチョなイメージが強いよね。

GOGOは「セクシー!ワイルド!エロ!」みたいな要素が主張されていて、いわゆる「男性性」を色濃く、あるいは過度に誇張した存在とも言えるね。実在はしているけど、2.5次元のようなファンタジーを提供する存在でもある。

ーゲイコミュニティーでは、一般的に男らしい人がモテる傾向にあると聞いたことがあるけど。

まぁ「男性」が好きなんだから、「男性らしい」に越したことはないよね(笑)。ただ最近はゲイカルチャーも多様化が進んで、必ずしも王道の「筋肉!短髪!ヒゲ!」というルックスにだけに囚われず、その人「らしさ」を表現しやすい時代になってきている。なので、「男性らしさとは?」という根本的なスタンダードとは何か? が時代と共に揺れ動いてる感じがするね。

ーノンケ(異性愛者)とゲイコミュニティーの間でも「モテる」とされる男性像はかなり違うと思うんだよね。

例えば、女性の視点から男性のことを「かっこいい/かわいい」って思う時、おそらくそれは母性であったり本能的に愛おしいと感じる。つまり潜在的、先天的な要素でそう感じることが多いと思うけど、ゲイの視点から男性を「かっこいい/かわいい」って思う時はそれはある意味「エロい」であったり「見た目がタイプ」とかっていう表層的、後天的な要素でそう感じる事が多い気がする。

とはいえ、まだまだ王道の「男らしい」タイプの人気は根強いから、そういったゲイコミュニティーから期待される「イイ男像」のイメージを背負うのも、我々の役割の一端ではあるよ。

ー世間から求められるイメージがある中、どのような気持ちで仕事と向き合っている?

世の中のこうであってほしいという期待に苦しめられたり、自分が表現したいことと世の中から求められることにギャップを感じたりする人はGOGOに限らず人前に出る人なら少なくないんじゃないかな。

例えば、エロを提供するより、楽しくみんなが盛り上がれるような雰囲気を作る方が好きな人でも、イベント側にはその場ではセクシーを要求される場合もある。そういったやりたい事と求められる事のギャップとの向き合い方って難しいよね。 

TAIGA

「プライベートケアクリニック東京」とゲイバー「EAGLE BLUE」とのコラボ企画のフライヤーモデルとして登場(Photo:Yusuke Arai)

ー求められるイメージばかりを意識すると、自分のキャラがなくなってしまう可能性もあるよね。

まさにそう。だからそのイベントに自分が出る必要がなくなってしまう。デビュー当時は何事も経験と思って頂いたお話しは全て引き受けて来たけど、自分のルーツに気づいてからは、自分の気持ちと相談して「これは自分じゃなくてもできる。むしろほかの人の方が良さそう!」と感じた時は『待った』をかけるようにしている。それは仕事にも自分にも誠実に向き合うという意味で大切なことだから。せっかく頂いたお仕事を惰性でこなしたくはないしね。

ー具体的に「こうしてほしい」とお願いされたことはある?

自分は比較的しなやかな動きをするから、他のGOGOに混ざると一人だけ色味が違うとお客さんに言われたことがある。オーガナイザーさんにも、GOGOタイムの時はもっと男性っぽく踊ってほしいとお願いされたこともあって。

キャスティングしていただいたからにはそのイベントやお仕事のコンセプトにマッチするように、期待や要望に応えたい、添い遂げたいという気持ちの一方で、自分がそこに立つことの意味を証明したいという気持ちもある。みんなと同じことをするのは簡単だけど、自分にしか出来ない事を自分の頭で考えて自分らしく活動したい。だからオファーをいただいてから答えを出すまでに、オーガナイザーさんはどんな人で、どんなイベントで、どんなお客さんが集まっているのか、わりと慎重に調べてから返事するようにしてるかな。

当事者の数が減る新宿二丁目

ー昔と比べてGOGOの幅が広がったように感じる?

どうだろう……まだ狭いんじゃないかな。こうして取り上げてもらってる時点で、まだ世の中に浸透していないと思う。個人的にはもっと振り付けのあるGOGO SHOWやヒールを履いたり派手なメイクをするGOGOも出てきてほしいけど、それがゲイコミュニティーの市場として成り立つかは別の問題だからね。

お客さんの中には、踊りや魅せ方を重視する人もいれば、逆に踊れなくても見た目が良ければいいという人もいるから。どこまでを多様性として受け入れてもらえるかは、今後の課題かな。

あとは、キャリアの長い出演者陣や二丁目歴が長いお客さんの中には、今までとは違うイメージの人が出てくることに対して肯定的な意見を持たない人もいるかもしれない。「GOGOたるものがこうあって欲しい」というか。今よりもデビューするまでが厳しい時代に活動していたからこそ、新しい風を受け入れるのは難しかったりもするからそういう意味では、GOGOの市場は過渡期なのかな。

ー今の方がGOGOになるハードルは低くなった?

良くも悪くも、誰でもGOGOになれる時代には確実に近づいているよね。昔は披露する場がなければ自分を知ってもらう機会がなかったけど、今はSNSや各メディアを通して個人が発信できる時代だからより多くの人に認知されやすくなった。GOGOになるハードルは低くなったと思うし、自分で発信してキャラを売り出していきやすくなったと感じる。

TAIGA

自身の名前のモチーフとなるタイガーの衣装をまとって

ー二丁目で10年以上キャリアを築く中で、ゲイコミュニティーに変化を感じる?

二丁目のビジネス化が加速してると思う。10年前はまだそれほどメディア露出が多くなくて、メディアに出ても所詮ゲテモノ扱い止まり。パフォーマーは二丁目を中心に活動する人が多かった。けど、最近ではモデルやアンバサダーの仕事があったり、二丁目を飛び出してテレビやラジオ、さまざまなメディアにドラァグクイーンが登場したりと、活動の幅は明らかに変わったと思う。

イベントに関していうと、推しのGOGOやドラァグクイーンを見るためだけに来て、動画だけ撮ってドリンクも飲まずに帰ってしまうお客さんも少なくはない。集客としては1カウントではあるし、ありがたいけど出演者側の自分としてはちょっと複雑。手に入れたいものを手に入れたら終わり、見たく無いモノは見ない。無駄な時間は過ごさない。みたいな。現代ならではの現象が起こっている気がする。

ーその場での偶発的な出会いは減るよね。

クラブやバーにふらっと立ち寄って、ひょんなことから新たな繋がりを見つけたり、ちょっとタイプの気になる人とすれ違うたび目が合ってソワソワしてみたり、そういうのを楽しむ時間もいいものだと思うよ。でも二丁目に来る当事者の数は減ったよね。

コロナ渦を経て、オンラインでのコミュニケーションが発達したせいで、みんな現実でのコミュニケーションがどんどんヘタクソになっていっている気がする。せっかく窮屈な数年から解放されたんだからもっと「体験」や「リアル」にエネルギーやお金をかけてもいいと思う。

ー最近はゲイイベントで、女性のお客さんをよく見るようになった。 

ゲイイベントには、男性しか入れない「メンズオンリー」のほかに、誰でも入れる「ミックス」イベントがあるんだけど、ミックスのイベントでは以前より女性のお客さんを多く見かけるようになったね。

もちろん純粋にイベントを楽しんでいる人もいるけど、まだまだ女性が安心して夜遊びできる環境が少ない事がこういう事態を招いていると思う。ただ、ゲイイベントはセクシュアリティーをオープンにしていない人にとっての居場所でもあるから、単純にお金を払えばいいというわけではなく、自分がアウトサイダーである事の自覚と、そのコミュニティーへのリスペクトは必要。

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GOGOとして存在することは社会への反発となり得る

ーレズビアンバーで異性愛者の男性客を見かけるけど、中にはキャバクラより安いから来たという人もいて。コミュニティーに対するリスペクトがなければ、セーフティースペースとして機能するのは難しいね。 

当事者ではない人がそのコミュニティーを理解して居場所を獲得するには、時間がかかるよね。中身がゲイであろうが視覚的にはセクシーなパフォーマンスに変わりはないし、パフォーマーがゲイであれば性や嫉妬の対象にならない=異性間特有のトラブルを回避できるというメリットもある。ホストクラブやキャバクラよりも安いし異性愛者としては好都合かもね。

ただ、自分達もマーケティングの裾の尾をノンケ界に広げているという恩恵を預かっているから、一概にはそういう現状を責めることはできない側面もある。例えば、自分がGOGOとしてノンケイベントの営業に呼んでいただけるのは、ノンケ界においては「ゲイ」であるというそのセクシャリティー自体に価値があるから。

もし世論的に全てセクシャリティーやマイノリティのコミュニティーがフラットになってしまったら自分達の市場価値は大きく変わってくる。お互いを100%理解できることは無いからこそ、リスペクトは忘れずにお互いにそこは上手く共生しましょうって感じ。

ー世間が思うゲイ像は、リアルでは違うというか。

うんうん。ゲイコミュニティーにはGOGOやドラァグクイーンのような人たちばかりが居るわけではないんだよね。表に立つという職業柄、世の中には目立つタイプのゲイが発信されがちだけど。むしろ二丁目にも立ち入らずゲイであることを公言していない人のほうが圧倒的に多いし、そういう人達に世間が思うゲイ像をあてがうのはナンセンスだよね。自分達が世間に対してゲイ象の一端を担っていることの責任やプレッシャーは感じる。

ー最後に、TAIGAさんにとってGOGOとは?

10年近くやっている活動だから、ライフワークでもあるかもね。GOGOであることを自分から抜き取ったら何が残るんだろうと考えた時、パッと想像がつかない(笑)。GOGOを通して自分という人間を確認できる鏡みたいなものだと感じる。

この仕事はやっていて楽しいし、周りに夢や喜び、笑顔を与えられる職業だと思う一方で、自分が社会から批判される対象になり得るという意識は常に持ち続けているかな。同時に自分がGOGOとして存在することでそういった社会への反発にもなり得るし、自分のビジネスとしても、かつ自分のアイデンティティーの一部としても大切な表裏一体の存在だよ。

Contributor

Honoka Yamasaki

レズビアン当事者の視点からライターとしてジェンダーやLGBTQ+に関する発信をする傍ら、新宿二丁目を中心に行われるクィアイベントでダンサーとして活動。

自身の連載には、タイムアウト東京「SEX:私の場合」、manmam「二丁目の性態図鑑」、IRIS「トランスジェンダーとして生きてきた軌跡」があり、新宿二丁目やクィアコミュニティーにいる人たちを取材している。

また、レズビアンをはじめとしたセクマイ女性に向けた共感型SNS「PIAMY」の広報に携わり、レズビアンコミュニティーに向けた活動を行っている。

https://www.instagram.com/honoka_yamasaki/

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