Labianna Joroe
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ドラァグクイーンとして体毛を生やす理由「男・女」らしさで遊んで

SEX:私の場合 #1 女性は「ムダ毛」処理すべきなの?

Hisato Hayashi
テキスト:: Honoka Yamasaki
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タイムアウト東京 > LGBTQ+ > SEX:私の場合 > ドラァグクイーンとして体毛を生やす理由「男・女」らしさで遊んで

性教育パフォーマーを名乗るドラァグクイーンがいる。その名もラビアナ・ジョロー。端正な顔立ち、豊満な尻、青々と生い茂った胸毛。それを笑う者でさえも、いつしか彼女の魅力に吸い込まれていく。

軽快なトークときらびやかな踊りを披露する独特なパフォーマンスは、後に問いや話題のきっかけを生み出す。それは、彼女が培ってきた性の知識と社会の影に潜む問題をパフォーマンスと融合させ、我々に問いかけているからだ。ラビアナはなぜ胸毛を見せつけ、表現し続けるのか。話を聞いてみた。

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「社会の定義」を揺さぶるクイーン

ーラビアナちゃんについて教えて。

ラビアナ・ジョローと申します。ブラジル生まれ日本育ちの28歳で、現在は東京を拠点に、ドラァグクイーンとして活動しています。

自分のことを「性教育パフォーマー」と名乗っているのは、ドラァグクイーンのパフォーマンスで性教育を表現し、それを見た人たちに考えるきっかけを与えたいと思って日々活動してるから。SNSでも性教育に関する情報をゆるーく、たまにあつーく発信してるよ。

ーラビアナちゃんのドラァグクイーンの定義とは?

ドラァグクイーンといえば、男の人が誇張された女性の格好をして、ステージでパフォーマンスするイメージがあったけど、活動するにつれて、私の中でその定義が少しずつ確立し始めた。私にとってのドラァグクイーンは、社会が決めつけたり押し付けようとする「男らしさ」や「女らしさ」で遊びながらパフォーマンスする人だと思ってる。

なぜ女性に「ムダ毛」の概念があるのか?

ーそう思った理由は?

ドラァグクイーンを始めた時、なぜ体毛をそらなきゃいけないんだろうと疑問に思って、そるのをやめたんだよね。そこで、なぜ女性にだけ「ムダ毛」の概念があるのかを考えるようになった。私が体毛を生やした女性で、露出した服を身にまとうと「ミスマッチ」なんて言う人もいるでしょ?

だけど、なぜ「ミスマッチ」だと思うのか。なぜ女性だから体毛が似合わないのか。そういった疑問を生むようなビジュアルを作り上げたことで、誰かが考えるきっかけになればいいなと思ってる。

ーそういった性差の違和感の意味も込められているんだね。

そうだね。私は普段から性差を感じることがたくさんある。例えば、普段は夜道を一人で歩いても何ともないのに、ラビアナの格好で歩いていると声をかけられたり、腕を引っ張られたり。クラブに行けば、体や髪を触られたりとか。

そういうことは、女の子にとって日常茶飯事なんだよね。なのに、多くの男性がこの事実を知らない。私の力でこの問題をどうにかできないかと考えた時、ショーに来た子たちに対して、タブー視されたトピックを扱って考えるきっかけを与えたいと思ったの。

ー今までのショーの中でこれだけは見てほしい!というものは?

「産後うつ」のショーかな。以前、ある衆議院議員選挙の立候補者が「産後うつは甘えだ」と言っているのを聞いて、衝撃を受けたのを覚えてる。産後の母親の一番多い死因は自殺で、そういった苦しい状況の中でも育児を続けている。それを甘えだとは一言で片付けられないし、今までにそういう話がされてこなかったのも問題だなって。

ショーでは、赤子として誕生した私が大人になって出産し、育児でノイローゼになって自殺するというストーリーを披露した。(*1)ディップを自殺に見立てたから、もしかしたら自殺には見えないかも......。パフォーマンスはInstagramにアップしてるので、ぜひ見てほしいな!

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性教育とエロを切り離す必要はない

ー性に関する情報をパフォーマンスだけでなく、SNS上でも積極的に発信してるよね。現状をどう捉えてる?

私の個人的な見解だけど、性教育を発信する団体が増えるのはうれしさと同時に、性教育とエロがかけ離れ過ぎると分断を生んでしまったり、「自分ごと」とされなくなってしまうんじゃないかなとは思う。だって、キスとかしてる途中に「すみません、ここに手を置いてもいいでしょうか」と聞くのは難しいし。

だから、個人的には「どエロい性的同意の取り方」のワークショップを開きたい! 雰囲気を壊さない性的同意の取り方を知るという意味でね。

ーAV(アダルトビデオ)を教科書にすべきじゃないとはいうけど、たまにはまねしてみたかったり、そういうプレイが好きな人もいるよね。

100パーセント否定するのは難しい気がする。AVがどういうものなのかを知った前提で、行為に及ぶべきだよね。

AVはファンタジーとよくいわれるけど、映画も同じだと思ってて。殺人シーンのある映画を見たからといって、現実世界で誰かを殺そうとしないのは、その作品はあくまで映画だと分かっているからでしょ?

だけど性的なことに関しては、現実と区別できない人は少なくないのかもしれない。コンテンツとしてAVを好きになるのはいいけど、それとどう向き合っていくのかが大事だと思う。

AVのコンテンツには、現実で犯罪に当たる行為もあるよね。それに対してはどう思う?

小児、動物、同意のない行為に対して性的興奮を覚えることに関しては、現代医学の視点からは(*2)「パラフィリア」と捉えられていて、私個人としても同じように考えてる。

どのような性的行為にもいえるのは、同意が前提にあるべきということで、「胸を出してるから何してもいい」「自分がいいと思ったから手を出した」というのは、正当化されるべきではないよね。

ー性の問題はまだあるけど、それをポップに伝えるラビアナちゃんの活動はとても意味のあるものだと思う。最後に、何かメッセージがあればぜひ!

この記事を読んでいる多くの人がドラァグクイーンを実際に見たことがないと思うけど、意外とドラァグアーティストの数は多くて奥が深いので、ぜひ知ってもらいたいです。

コロナ禍でエンタメ業界は打撃を受けているけど、もしきっかけがあれば新宿二丁目に足を運んでもらって、お話しできたらうれしいな! また、性に関する悩みもあればメッセージも受け付けているので、いつでもSNSから連絡してくださいね。

*1. 立った状態から片足を曲げて地面に勢いよく倒れる技のこと
*2. 『パラフィリア障害群の概要』(MSDマニュアル(2019))

Profile

Contributor

Honoka Yamasaki

レズビアン当事者の視点からライターとしてジェンダーやLGBTQ+に関する発信をする傍ら、新宿二丁目を中心に行われるクィアイベントでダンサーとして活動。

自身の連載には、タイムアウト東京「SEX:私の場合」、manmam「二丁目の性態図鑑」、IRIS「トランスジェンダーとして生きてきた軌跡」があり、新宿二丁目やクィアコミュニティーにいる人たちを取材している。

また、レズビアンをはじめとしたセクマイ女性に向けた共感型SNS「PIAMY」の広報に携わり、レズビアンコミュニティーに向けた活動を行っている。

https://www.instagram.com/honoka_yamasaki/

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