SEX:私の場合 #12
SEX:私の場合 #12 ゆかタマとトミー
SEX:私の場合 #12 ゆかタマとトミー

女王様とM男が語る、精神と肉体が交差するSMの世界

SEX:私の場合 #12 緊縛、言葉責め、流血など、アンダーグラウンドな世界のオープントーク

Hisato Hayashi
寄稿:: Honoka Yamasaki
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タイムアウト東京 > LGBTQ+ > SEX:私の場合  #12 緊縛、言葉責め、流血など、アンダーグラウンドな世界のオープントーク

普段、職場で会う人でも、もしかしたら隠された性癖や嗜好(しこう)があるかもしれない――。私たちが日々目にしている物事はごく一部に過ぎず、表では見ることのできない裏の世界がある。

非公式の場で行われる遊戯の一つとして、SMの世界は興味深い。SMといえば、暴力や性の異常性、フェティシズムを描いた「ソドム百二十日」の著者、マルキ・ド・サドを思い出させるが、必ずしも「痛い」だけではないらしい。

「SMは肉体を超えて精神と結びつく」 

そう口を揃えて言うのは、30年以上のSM人生を送る女王様のゆかタマとM男のトミーだ。秘密裏に集まる大人たちは、普段とは違う面持ちで何を行うのだろうか。SMの世界をのぞいてみよう。

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「終電まで鞭の特訓をしてもらっていました」

ーお二人の活動について教えてください。

トミー:SM、フェチ、変態好きな人たちが集まる珍遊会の副会長を務め、「あやしすぎる昼下がり」「新!M男deないと」「スレイヴアカデミー」「変態バーベキュー」「SM・変態交感会」などのSMイベントを主催しています。

ゆかタマ:トミちゃんと一緒に「スレイヴアカデミー」を主宰しています。SM以外では私は超パリピで究極の遊び人ですね(笑)。クラブイベントや夜遊びが大好きなのであっちこっちで遊び倒してます。SM関係ではトミちゃんとSMイベントに行ってます。

トミー:ゆかタマとは2016年にSMコミュニティー「珍遊会」のイベントで出会い、一緒に「デパートメントH」や「トーチャーガーデン(Torture Garden)」などのSM・フェティシュ系イベントへ行くようになりました。 

ゆかタマ:トミちゃんと行くイベントではファッションや曲を楽しむより、写真を撮ったりプレイしたり、派手なことをして過ごしています。二人とも目立ちたがり屋なんです(笑)。

ゆかタマとトミー

ゆかタマとトミー

ーSMの世界に足を踏み入れたきっかけは何ですか?

トミー:20代前半のころ、書店でSM雑誌の女王様とM男の調教写真を見て「これだ!」と感じました。当時はSMの世界に飛び込めず、雑誌やビデオを見るだけでしたが、私生活がうまくいかないことも相まって、40代後半にM性感やSMクラブのお店へ通うようになったんです。気づけば趣味の外国製カメラの機材を売って稼いだお金を全てお店につぎ込むほど、夢中になってしまって。

そこからSMイベントにも参加するようになり、大勢のM男さんや女王様と出会ってから世界が広がりました。もともとM的な嗜好はあり、女王様にいじめてもらいたい欲求があったのですが「あなた何ができるの」と聞かれて、結局何もできなくて。これじゃまずいと思って、当時赤羽にあったSMバー「サイテスワン」で、終電まで鞭(むち)の特訓をしてもらっていました。

ー女王様に遊んでもらうには鞭に耐えなければならないと。 

トミー:イベントへ行くと、女王様2人に対して10人以上ものM男が正座して待ってるんです。当時は今ほどM男同士の横のつながりもなかったので、みんなライバルですよね。なので鞭に打たれて背中が真っ赤に腫れても、女王様に遊んでもらうには自分が耐えなきゃダメだと思っていました。

人生の一部となったSMの世界

ーゆかタマさんのSMとの出会いについても聞かせてください。

ゆかタマ:私もトミちゃんと同じく、雑誌を読んでSMに目覚めました。SMと出会ったのは約30年前です。当時の雑誌といえば「ビザール・マガジン(BIZARRE MAGAZINE)」「マニア倶楽部」「お尻倶楽部」「スナイパー」などでしたね。「スキンフィット」というヒョウ柄エナメルやキャットスーツを集めたパンフレットにハマっちゃって。 

当時の私は細身だったので、着てみたら似合うだろうと思って、ボンデージスーツ(全身が締め付けるようにデザインされた衣服)を着てグラビアに出たいが為にモデルプロダクションに入りました。脚フェチビデオに何本か出演しましたが、後はもらえる仕事がシャワーシーンやオナニーをするシーンばかりで、本来やりたい仕事とはかけ離れてしまったんですよね。

ーそこからどのようにしてSMに関わったのですか?

ゆかタマ:プロダクションを抜けました。本当はSMクラブに勤めたかったのですが、雑誌の求人の女王様の写真を見ると怖くて飛び込めなくて。ちょうどSMスナイパーの広告欄でショーモデルを募集していたので、ショーなら大丈夫だろうと応募しました。ショーの内容は、糞尿愛好家や排せつ物嗜好を持つお客さんの前で排泄するスカトロショーでしたが、特に抵抗感はなかったです。 

そこから本格的にSMの世界に入り、23歳でSMクラブに在籍し、結婚を機に辞めました。子どもを出産してからはM性感のお店で働きました。年齢的にキャバクラは無理だし、ヘルスはタトゥーNGだし……と考えると、SMしかなかったんですよね。「普通の女の子になりたい」と思って何度もSMから離れるのですが結局戻ってしまう。いやでいやで離れたいのに。SMは麻薬です(笑)結局、一生この世界に居続けると思います。 

ーSMが非日常的なものではなかったんですね。プライベートでもSMプレイを好んでいるのですか? 

ゆかタマ:20歳頃からプライベートでもプレイはしていました。SMプレイ初体験は、とある見知らぬおじさんから電話がかかってきたことがきっかけです。というのも私の友人がスナックで彼と出会い、リンチしてくれる人を探していると打ち明けられ、私の写真と電話番号を教えたみたいです。

私は彼から電話があったその日に会い、車内でプレイをしました。そこから6回ほど会うようになり、SMに興味が芽生えました。SMクラブで働くことが決まった時も、彼のおかげだと感謝しましたね。今は音信不通ですが、私の人生を変えた人なので今会ってきちんとお礼を言いたいですし、プレイもしてみたいですね。

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サービスのS、満足のMとは?

ーSMにはどのようなプレイ内容がありますか?

トミー:ソフトからハードまで幅広いですよ。

ゆかタマ:コンタクトレンズみたいに言うね(笑)。SMといえば緊縛(縄で相手を縛る行為)のイメージが強いかもしれませんが、「言葉責め」「緊縛」「尿道攻め(尿道に細い管を入れて攻める行為)」「針責め(針を乳首やペニスに刺す行為)」「金蹴り(睾丸を蹴り上げる行為)」「流血系(出血を伴う行為)」「アナルフィスト(アナルに腕を入れる行為)」など、たくさんあります。

ー個人的に好きなプレイはありますか? 

トミー:鞭、アナル責め、ローソク責め、焦らされながらの言葉責めが好きです。 

ゆかタマ:私は相手がが喜ぶことをしてあげたい。まさにSMは「サービスのS」、「満足のM」だなと思います。

トーチャーガーデンでのゆかタマ

トーチャーガーデンでのゆかタマ

ーどんな女王様が人気ですか?

トミー:「エゴマゾ(自分の快楽やしたいプレイだけを考えるマゾヒスト)」と言われてしまうかもしれませんが、自分を満足させてくれる人とのプレイは長く続く気がします。 

ゆかタマ:SNS上での女王様の発言内容で人柄を見る人もいます。プラス思考な人だと、広い心で受け入れてくれてくれるんじゃないかな、とか。文句ばかり言うような女王様を好むM男もいますが、負のオーラを受けてしまうリスクもあるので注意が必要かもしれないです。

ー女王様とM男さんの間でも心がつながっているといいますか、相性があるんですね。

ゆかタマ:セックスと一緒で、人によって相性はあると思います。あとは信頼関係ですかね。信頼関係がなければ一回きりで終わってしまいますし、面白くないと長続きはしないので。やっぱりSMイベントなどで実際に出会った人の好きなプレイや性格を見てからじゃないと、相性はなかなか分からないです。

「プレイ中は、飾らないありのままの自分を受け入れられます」

ーSMを通して新たな気づきはありましたか。

ゆかタマ:Sの意味が全く異なるものになりました。Sはサディスト(相手の体に苦痛を与えて快感を得る人)とマゾヒスト(肉体的・精神的苦痛を受けることに性的な快感を得る人)のイメージが強く、SはMをいじめてストレス発散しているだけだと最初は思っていました。ですが、実際にSMを経験すると、むしろストレスを感じるのは女王様の方なんじゃないかと感じることも多いです。

相手を気持ちよくさせるためにプレイを先読みしながら進めるので、頭が痛くなります。これが理由でいつもお店を辞めたくなるんですけどね。なので、M男には「その分、こちらも楽しませなさいよ」と言って、お互いの関係性を強めています。 

トミー:SMの世界に入ってから、人とのつながりの大切さに気づきました。信頼関係を構築するため真摯(しんし)に向き合う必要がありますし、そのためには自分の足でイベントなどへ出向かなければなりません。 

昔はインターネット上での出会いもありましたが、相手と会話を続けるには課金しなければならなかったり、S女性と称する相手が実はサクラだったり、出会いのハードルは高かったです。だまされてしまうこともあるので、実際に出会わないと怖いなと思います。

今は人とのつながりが強くなったので、SM界隈(かいわい)の仲間たちがたくさんできました。関係性を発展させるには、安心できる居場所を見つけて、温もりを感じられる出会いがないと難しいと今でも感じます。

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ーズバリ、SMとはどのような存在ですか?

トミー:今の自分になくてはならない存在です。SMがなかったらむなしい人生になるんじゃないですかね。私は会社員ですが、同僚との交流が全くなく、プライベートでも人と仲良くする機会がありません。なので、同じ楽しみを共有できる変態の世界は心が休まるというか、一番の生きがいです。 

プレイ中も自分を飾ることなくありのままを受け入れられます。職場とは違って相手と対等な関係性を築けますし、自由だなと思います。

ゆかタマ:私は友達が多く、SM仲間、地元の仲間、クラブ仲間、イベント仲間、海関係の友達、男関係仲間笑、刺青友達、仕事仲間、歌舞伎町仲間、新宿二丁目仲間、と常に沢山のカテゴリーの居場所があります。でも、やっぱりSMという存在は大きいです。 先程も言いましたけど SMはどんなドラッグよりも中毒性があります(笑)。

私には成人した娘がいますが、私にとってSMは秘め事ではなく生活の一部です。なので部屋に鞭をたくさん飾ってますし、ディルド、ペニバン、数多くの衣装がズラリと陳列してあります。娘は私が主宰しているスレイヴアカデミーの受付の手伝いもしてくれています。家族からの理解があることも、日常の一部として付き合えている理由なのかなと。

初心者でもOK! おすすめのイベントを紹介

ーSMの世界に興味があるけど踏み込めない人は、何から始めるといいですか? 

トミー:最初は10〜20人規模のイベントに参加してみるのがいいかもしれません。大規模イベントに参加する場合、1人だと孤立無援になってしまう可能性もあるので、主催者が目を配れる小規模イベントの方がフォローもあって楽しめると思います。 

あとは、入り口として鞭の体験は皆さん楽しんでいる印象です。革ひもが1本しかない「一本鞭」は、初心者がやるとM男がけがをしてしまう可能性があるので、比較的痛みを感じにくい「バラ鞭」からチャレンジするといいでしょう。 

ーSM初心者に向けておすすめのイベントはありますか?

トミー:ズバリ、ゆかタマと私が共同主催しているSM体験型イベント「 スレイヴアカデミー」です。初心者に優しい女王様が8人以上いるので、M男の希望を聞いてくれます。スレイヴアカデミーではドリンク代、追加料金は一切ありません。全員参加型のゲームも多数あり、アダルトグッズなどが当たるビンゴ大会が毎回あり、和気あいあいとしています。

あとは、2023年9月から「SM変態交感会」というイベントを開始します。参加費を抑えてチップ制度を導入したので、M男はチップを出せば希望の女性とSM体験ができ、女性はちょっとしたお小遣いにもなるのが特徴です。

少なくとも私が主催しているイベントでは、孤立したM男さんがいれば声をかけますし、気になる人がいれば仲介もします。なので、気軽に足を運んでみてください。

Contributor

Honoka Yamasaki

レズビアン当事者の視点からライターとしてジェンダーやLGBTQ+に関する発信をする傍ら、新宿二丁目を中心に行われるクィアイベントでダンサーとして活動。

自身の連載には、タイムアウト東京「SEX:私の場合」、manmam「二丁目の性態図鑑」、IRIS「トランスジェンダーとして生きてきた軌跡」があり、新宿二丁目やクィアコミュニティーにいる人たちを取材している。

また、レズビアンをはじめとしたセクマイ女性に向けた共感型SNS「PIAMY」の広報に携わり、レズビアンコミュニティーに向けた活動を行っている。

https://www.instagram.com/honoka_yamasaki/

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