ケロッピー前田
Photo:ケロッピー前田
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過激なカウンターカルチャーを追う男、ケロッピー前田が語る身体改造の魅力

SEX:私の場合 #6 身体における究極の自由とは?

Hisato Hayashi
テキスト:: Honoka Yamasaki
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タイムアウト東京 > LGBTQ+ > SEX:私の場合 > 過激なカウンターカルチャーを追い続ける男、ケロッピー前田が語る身体改造の魅力

世界には過激なカウンターカルチャーが存在する。体にフックを刺してつり上げるボディサスペンション、身体の一部を切断するアンピュテーション、マイクロチップを体内に埋め込むボディハッキング……、今回紹介するのは「身体改造」だ。身体に痛みをともなう行為には、儀式としての背景もあるのだとか。

筆者は、そんな長い歴史を持つ身体改造と、人間の奥底に眠る性(さが)の関係性に興味を持った。身体改造を追い続け、最も過激な身体改造本「モドゥコン・ブック」の出版を手がけたジャーナリストのケロッピー前田が、身体と精神について語る。

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儀式としての身体改造

ー世界中を飛び回っているケロッピーさんですが、現在の活動を始めたきっかけはありますか?

昭和40年(1965年)生まれのオカルト少年で、1970年にオカルトブームを体験してカウンターカルチャーに興味を持っていました。中学1年生の夏、イギリスに住むおばの家を訪ねた時、未確認動物ネッシーを探しにネス湖を目指したこともあります。結局、たどり着けずにエジンバラで引き返し、無念の帰国となりましたが……。それほど好奇心旺盛な子どもでした。

とにかく現場に行きたいという気持ちは今もまったく変わっておらず、気づけば世界中のカウンターカルチャーを現地レポートするジャーナリストになっていました。

ー身体改造に興味を持ったきっかけは何でしょうか?

1989年に出版された身体改造実践者たちを紹介する本「Modern Primitives」を読んだことがきっかけです。主に性器ピアスを含むボディピアスと、民族起源のある黒一色の文様が印象的なトライバルタトゥーについて紹介されていました。

その本の最初のページには、フックを身体に貫通してつり下げるボディサスペンションが載っています。それはファキール・ムサファーさんがアメリカ先住民の儀式を現代的に再現したものでした。

僕はこの本を手に入れた1991年には出版社に勤めて編集者として雑誌を作っていました。翌年には自分でピアスを入れて、その体験レポートを自分が担当していた雑誌に掲載。そして1994年にはファキールさんに会うため、サンフランシスコへ取材に行きました。

MODERN PRIMITIVES

V Vale, Andrea Juno「MODERN PRIMITIVES」(RE/Search Publications)

ーこの本のどのような点に惹かれたのですか?

タトゥー、ピアスを含む身体改造は、現代においては確かに「過激なファッション」ですが、実は人類の太古から世界各地に民族儀式や通過儀礼として存在する、全人類に共通するカルチャーであることに面白さを感じました。現代の流行は、そんなプリミティブな行為が現代的に復活したものなのです。

ー痛みを伴う通過儀礼や儀式もあると聞きましたが、なぜ必要なのでしょうか?

一般的には、子どもから大人になる通過儀礼として痛みをともなう行為が行われていたと言われています。実際、アフリカや南米、東南アジアの先住民などではごく最近までそのような儀式が残っています。タトゥーやピアスなどがイメージしやすいですが、その儀式を行った証に身体に文様やピアス穴が残ることで大人とみなされるのです。

以前、アムステルダムにあったタトゥー・ミュージアム(Amsterdam Tattoo Museum)では、来訪の記念にタトゥーを彫ってもらえました。そこを訪れたタトゥー愛好者たちは皆、同じ図柄を入れているので一種の巡礼の証となるのです。その図柄は古いキリスト教の巡礼に起源があり、過去に行われていたことが、今に通じているのは面白いですね。

人間の皮膚は意外と丈夫?

ー身体改造と聞くと「痛い」「怖い」のようなイメージを持つことが多いですが、それでも続ける人がいるのには理由があるのですか?

一般的に痛みを過剰に怖がる人は多いですが、本当のすごい痛みを体験すると、人は電気のブレーカーが落ちるみたいに一瞬で気絶してしまいます。実際、それは生命に危険が及びます。僕らが体験している身体改造の痛みというのは、平常の意識を保ったままある程度耐えられるレベル。しかも現代医学に基づく衛生が管理された状態で行っています。

あと、よく誤解されるのですが、僕らは痛いのが好きなわけじゃないんです。もちろん一部に例外はいますが「痛くてもへっちゃらだ」と言いたいんです。つまり、痛みを意識でコントロールしていくと、ランナーズハイのように脳内物質が出て、痛くても平気な状態に入れるんです。そうすれば、逆に楽しくなってくるのです。

ーボディサスペンションもそうなのですか?

そうですよ。皮膚をフックでつるすのでちぎれるのではないかと心配する人がいますが、実は皮膚は人間の体重を支えられるくらい丈夫です。ですから、つられている状態ではむしろ無重力の浮遊体験を楽しんでいて、全然痛そうな様子は見せません。

例えば登山が趣味で、険しい山と向き合う時に楽しさを感じる人がいます。一見、痛くてつらそうなボディサスペンションを楽しむ人も同じ。人間の身体は我々が想像する以上にいろいろな経験を受け入れるための潜在的な能力を持っていて、それを現代の人は使わなくなってしまっているだけなのです。

ケロッピー前田

コンセプト・トランスフォーメーションするモドゥコンの参加者(「モドゥコン・ブック」から)

ー数多くの取材を行ってきた中で、一番印象的な出来事はありますか?

僕が翻訳と出版を担当した「モドゥコン・ブック」で報告している、身体改造の世界大会「モドゥコン」に参加したことが一番印象的です。1999年に初めて開催された大会で、当時僕はインプラントを埋め込んでいたので参加資格がもらえました。改造実践者オンリーの招待のみの大会でした。

そこで実感したことは、「一般的には理解されないような行為であっても、本当にやりたいことをやっている人は幸せなんだ」ということでした。大会では「トカゲになりたい人」「ネコになりたい人」「女でも男でもない存在になりたい人」果ては「人間ではないものになりたい人」までいて、世間からどう思われるかは関係なく、皆さん自分の夢をかなえるために究極の自由を追い求め、実践されていました。

本の前書にもありますが、人間と動物を隔てる唯一の真実とは、人間は望むように身体を改造することができること。そのような自由を追求することは唯一人間ができる行為であり、人間の証なのです。

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最も過激な身体改造本を出版

ー「モドゥコン・ブック」は一般書店やAmazonでは販売していないとのことですが、その理由を教えてください。

「モドゥコン・ブック」は、世界最大の身体改造ホームページ「BME」を主宰するシャノン・ララットさんの著書「ModCon: The Secret World Of Extreme Body Modification」(2002年)を翻訳したもので、現地のカナダでも、一般書店では販売されていません。

日本でも同様で、一部のセレクトショップやインディーズブックを取り扱う書店のみで販売しています。内容的に過激過ぎるので、誰もがこの本を楽しく読めるとは思いません。一方で、どうしてもこの本を読みたいと切望している人たちがいることも確信しています。

実は20年前にも一度この「モドゥコン・ブック」を自費出版していて、今回はカラー16ページを増補してリプリントしました。20年前の初版が品切れてから増刷してほしい、ぜひこの本を読みたいという要望はずっと受けていたので、そういった人たちの手元に届けたいです。

あとは、TBS「クレイジージャーニー」での身体改造取材旅を書籍化した「クレイジーカルチャー紀行」(KADOKAWA)やカウンターカルチャー全般のレポートをまとめた「クレイジートリップ」(三才ブックス)は、一般書店やAmazonで買えますし、皆に読んでほしいです。

MODERN PRIMITIVES

シャノン・ララット著/ケロッピー前田訳「モドゥコン・ブック 増補完全版」

ー本を制作する上でのこだわりはありますか?

「内容を改変しないこと」ですね。著者のシャノンさんから日本語で出版してほしいと依頼された経緯があったので、「全ての情報を公開し、判断は読者に委ねたい」という彼のスタンスを貫いて、なるべくそのまま日本語に置き換えて読者に届けるべきですし、手加減しては意味がないと思っています。

一般的な出版社で出版するとなると、内容を大幅に改変する必要があるので、その点でも一般書店では扱えないのです。

ー本の中で特におすすめの内容はありますか?

やはり、男性器から火を吹く「フレイムスローワー・サウンディング(尿道拡張による火災放射)」は最高です!

進化し続ける身体改造の未来とは

ー今後、カウンターカルチャーはどのように進化していくと思いますか?

僕は身体改造というカウンターカルチャーと出合った1990年代初頭から一貫して、このジャンルは未来を先取りしていると思っています。「モドゥコン・ブック」も同様、20年前に出版されたこの本を読んで、新鮮に感じている人を多く見かけます。

現代人が抱える悩みは、20年前とは全然違うじゃないですか。でも、2022年に生きている人たちがこの本を読んで何かを発見しています。つまり、人間が生きるために必要なカルチャーは、同時代を生きる人にとって理解することは難しくても、次の時代が来れば理解する人は増えていくと思いますし、すでにそうなってきています。

ーカルチャーを取り戻す動きがみられているのですね。

今まで一般的に「カウンターカルチャー」とされているものの中で、身体改造や痛みをともなう行為はそれほど主流ではなかったかもしれませんが、徐々に現代人のライフスタイルの一部になりつつありますね。

たとえば、その実例のひとつとして縄文時代のタトゥーの復興プロジェクトがあります。私自身、「縄文時代にタトゥーはあったのか」という本を執筆しました。特に海外ではタトゥーブームの影響もあり、タトゥーを通じて人類史を一望するような視点が人類学や考古学でも注目されています。

そういう意味で、日本の縄文時代にタトゥーがあったのかという問いかけは、世界的にも関心を集めるテーマでした。このように身体改造からいろいろなジャンルへと広がってきているのは面白いと思っています。

ケロッピー前田

アンピュテーションの実践者たち(「モドゥコン・ブック」から)

ー今後取り上げたい分野はありますか?

航空宇宙企業スペースXで火星を目指したり、電気自動車のテスラ・モーターズでヒト型ロボットを発表したり、多岐にわたる活動を展開するアメリカの実業家イーロン・マスクが、脳とコンピュータを接続する「ニューラリンク」を開発し、年内に人間で実験すると話題になっています。

「モドゥコン・ブック」では、1960年代からごく一部の人が主張し始めた「頭蓋骨に穴を開けたら意識が覚醒するのではないか」という仮説を実証しようとした人も登場しています。穴の開いた頭蓋骨は縄文時代のお墓からも発見されていて、そんなに古代から行われている行為が、今では脳とコンピュータを接続する技術へとつながっています。BCI(脳コンピュータインターフェイス)が実用化されたら、未来の身体改造は「脳の改造」へ進んでいくと思います。

ーピアスを開ける時と同じように、脳の改造も行う人が増えると予想してますか?

もちろんです。僕が体内に埋め込んでいるマイクロチップやマグネットは、ゼロ年代初頭には試され始めていましたが、2013~2015年辺りになって広がりました。潜在的に自分の身体を改造したい欲求を持つ人たちは多いので、新しい身体改造が世に出たら、多くの人たちがすぐに試してみたいと挙手すると思いますよ。

Contributor

Honoka Yamasaki

レズビアン当事者の視点からライターとしてジェンダーやLGBTQ+に関する発信をする傍ら、新宿二丁目を中心に行われるクィアイベントでダンサーとして活動。

自身の連載には、タイムアウト東京「SEX:私の場合」、manmam「二丁目の性態図鑑」、IRIS「トランスジェンダーとして生きてきた軌跡」があり、新宿二丁目やクィアコミュニティーにいる人たちを取材している。

また、レズビアンをはじめとしたセクマイ女性に向けた共感型SNS「PIAMY」の広報に携わり、レズビアンコミュニティーに向けた活動を行っている。

https://www.instagram.com/honoka_yamasaki/

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