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「変態の総合デパート」とも呼ばれ、その手の人たちの間で熱狂的な支持を得る名物イベント『デパートメントH』。毎月、第一土曜日に開催される同イベントのなかでも、とりわけ盛り上がりを見せる5月の恒例パーティー『大ゴム祭』が、5月2日に開催された。全国各地から集うという「ゴムマニア」とは何者なのか、『大ゴム祭』とは一体何が行われる祭りなのか、その姿を窃視するべくタイムアウト東京スタッフが、この秘密の夜会に潜入した。
『デパートメントH』の現在の会場となる東京キネマ倶楽部は鴬谷駅から徒歩3分程度。開場時間の24時には、駅出口の目の前にまでイベント参加者による長蛇の列が続く。待ち受ける淫靡な世界への期待と不安を募らせている間に、意外なほど早く順番は巡ってきた。案内された小さなエレベーターを上って会場に入れば、ショーケースの中で蠢く頭部以外はほぼ全裸の女性がまず目に入る。
イギー・ポップやルー・リードなど錚々たるミュージシャンが参加したことでも知られる、1983年のカルトアニメーション『ROCK&RULE』の1シーンが延々とループされ続ける客入れのBGVからも、同イベントの妖しく危うい空気がひしひしと伝わってくる。会場の更衣室で変身を遂げた参加者が続々と姿を現し、フロアがゴム臭さに包まれ始める頃、『大ゴム祭』の唯一無二のショーはスタートする。
そう、「ゴムマニア」とはゴム(ラテックス)で作られた衣服を偏愛する人たちのこと。より事情通らしさを演出したいならば、ゴムを意味する英語「rubber(ラバー)」から彼らのことを「ラバリスト」と呼んでもいいだろう。レディー・ガガをはじめとしたアーティストにも着用され、その高いファッション性でもさらなる注目を集めるラバーファッションに身を包んだラバリストたちが、ステージ上でその艶姿を披露する。
マーガレットのほかにも、オナン・スペルマーメイドやダイアナ・エクストラバガンザなど豪華なドラァグクイーンも駆けつけフロアを盛り上げる。総合司会のマーガレットが着用するのは、ラバーファッションのオートクチュールブランド『KURAGE』のドレス。個性的なラバリストたちがゴム愛をそれぞれに激しく顕示した後は、『KURAGE』によるファッションショーで会場は最高の盛り上がりを迎える。
そのほかにも、「キャットスーツ」からの連想か、キャットファイトや、不可思議な音楽ライブなど様々なイベントがステージ上で繰り広げられる。
なかでも最も衝撃的だったのが、アーティストのサエボーグによる新作発表。今作では、デコった焼き芋販売車の『金時』で知られるYottaの木崎公隆が、電飾などで制作に協力をしており、サエボーグ独特の世界観に文字通り新たな光が差し込む。第17回岡本敏子賞の受賞者サエボーグと第18回岡本太郎賞の受賞者Yottaによる、貴重なコラボレーションを思いがけず鑑賞できたとあって、会場のアートファンも熱気に沸いていた。
秘密の夜会『デパートメントH』は、少し特殊な嗜好と技能を持つ人々が、真摯に愉快にフェティシズムを突き詰めるパーティーだった。冒頭のアニメーション作品『ROCK&RULE』の言葉を借りるならば、「愛しき魔物」であり「愛しき天使」とも呼びたくなる変態たちの、ひたむきな愛に鴬谷は包まれていた。以下、キャンプな夜会の雰囲気を写真で楽しんでほしい。
写真:阿部昇