インタビュー:REINO
REINO
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「差別はダサい」バイセクシュアルを公言したREINOがラップを通して伝えたいこと

SEX:私の場合 #13 バイセクシュアルデーに考えるヒップホップ×クィア

Hisato Hayashi
テキスト:: Honoka Yamasaki
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タイムアウト東京 > LGBTQ+ > SEX:私の場合 > #13 インタビュー:REINO

1970年代にニューヨーク・ウエストブロンクスのブロックパーティーから誕生したヒップホップ。時代とともにさまざまなスタイルが生まれ現在に継承されているものの、マチズモ(男性優位主義)でヘテロセクシズム(異性愛中心主義)な文化は未だに残っている。

「日本にはないらしいジェンダー差別 なら結婚選択肢はWhere at?」「俺は連帯するよトランスジェンダー」といったリリックをラップし、LGBTQ+差別に「NO」を示すREINOは、バイセクシュアルを公言して活動する19歳のラッパーだ。陽気でノスタルジックな曲調にダイレクトなワードを浴びせることで、一言一句が深く心に刻まれる。

本記事では、まだまだホモフォビック(同性愛嫌悪)な発言が飛び交うヒップホップシーンで、LGBTQ+差別に対抗し続けるラッパー、REINOにインタビューを試みた。ヒップホップとクィア、2つのコミュニティーの共存は可能なのか、日本のシーンの実態を探るとともに質問を投げかけた。

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ポリティカルなことをラップする

ーREINOさんのヒップホップとの出会いについて教えてください。 

小学5年生の頃、YouTubeで「LOW HIGH WHO?」(LHW?)というレーベルのチャンネルと出会い、ヒップホップを聞き始めたのがきっかけです。そこで当時、LHW?に所属していたラッパーのJinmenusagiさんやDAOKOさんの音楽と出会い、自分の持っているヒップホップの印象がガラリと変わりました。 

ーヒップホップの印象はどのように変わりましたか?

ヒップホップ=ギャングスタイルというイメージがあったんですけど、彼らの作る音楽は自分のメンタルと向き合い、心の内を包み隠さずにラップする内省的な側面が特徴でした。そこからヒップホップにのめり込み、中2の頃にラップを始めました。

ーREINOさんの音楽は、LGBTQ+差別、入管(​入国管理​)法改悪、Colaboへのヘイトクライムなど、あらゆる社会問題をテーマとしているのが印象的です。曲を作る際のインスピレーションはどこから得ているのでしょうか?

自分の経験や周りの人からインスピレーションを得ることが多いです。入管法改悪を受けて制作した「Get」のアートワークを元SEALDsのメンバーの長谷川唯さんに提供してもらったり、シンガーソングライターをしながらでも活動に多く活動しているのhirano taichiさんの楽曲「monologue(feat.REINO)」でラップさせていただいたり。周りを巻き込んだり巻き込まれたりして、音楽と関わっています。

ー海外ではポリティカルなメッセージを伝えるアーティストが増えていますが、日本だとREINOさんのように社会問題をラップするアーティストは珍しい気がします。

YGの中指を立ててドナルド・トランプをディスる「FDT(Fuck Donald Trump)」、N.W.Aの警察に対するプロテストソング「Fuck the Police」など、ポリティカルな内容でラップをする曲はたくさん出ています。カニエ・ウェストやドレイクもそうですよね。ですが、日本ではそれが珍しいこととされています。多分、「入管」というワードをストレートに使ったラッパーは俺が初めてなんじゃないかな。

ーまだ日本にはポリティカルな内容をラップする文化はないということですか?

あとは、ポリティカルなことを日本語ラップに乗せるとダサくなるんですよ。けど、それってメッセージを生理的に伝えたいという気持ちが先走ってしまっているから、音楽として聞けるラップではなくなっているだけで。NORIKIYOという日本人ラッパーは、政治をクールにラップしているのでおすすめです。

その時々のムードで音楽を生み出す

ーREINOさんの曲はチルで明るい曲調であるのに対し、歌詞はかなりリアルで心にずっしりと響きます。この2つの対比は意図的に作っているものですか?

そうですね。ラップを始めた頃は、いかに素晴らしいリリックを生み出せるかを重視していました。音楽用語で「リリシズム」というのですが、当時は歌い方やフローをまったく考えずに曲を作っていました。

ですが、徐々に音楽はリリックだけではないことを知りました。そこからはどれだけリリックを薄めて書いても、一生節だけ鋭い要素を入れるなど、強弱をつけるようにしています。明るい曲調に明るい歌詞を乗せても面白くないので。

ー曲ができるまでのプロセスを教えてください。 

その時々によります。2023年9月に出したばかりのアルバム「RAKASTA」に収録された曲は歌詞を先に書きました。ちょうどその時、入管法改悪の動きがあったり、SNS上でトランスジェンダー当事者に対する風当たりが強かったり、さまざまな社会問題が浮き彫りになった時期だったんです。

普段は音を先に作ることが多いですが、今回はとにかく伝えたいことがあったので、歌詞を書きたいという気持ちが高まりました。ほかには、アルバム全体を通してプロットを組んで、一曲ずつのテーマを決めるやり方もあります。その時の自分のムードによってやり方はそれぞれです。

ー社会の状況も曲作りに影響してくると。

ただ、政治的な内容は自分の伝えたいことの一部に過ぎません。その一部分を誰かが魅力的に感じてくれるのはうれしいですが、そこだけに依存するのは違うのかなと。10月にリリースする予定のEPでは、政治をやっているのではなく音楽をやっているということを伝える予定です。なので、今まではプロデューサーの方にビートを作ってもらっていましたが、今回は自分以外の人は関わっていません。

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ホモフォビアが根付くヒップホップシーンの今

ーここからはクィアとヒップホップの関係性について聞いて行きたいと思います。まず、REINOさんは自身がバイセクシュアルであることをオープンにして活動していますが、公にした時のことを教えていただけますか?

2021年の9月にカミングアウトしました。個人的にはカミングアウトを特別なこととして捉えていないので、バイセクシュアルであることを公にすることは大変ではありませんでした。むしろ言った方が楽だなと。

ー過去にはダベイビーがホモフォビックな発言(*)をしたことがニュースにもなりましたが、ヒップホップシーンにはLGBTQ+差別が根強く残っていると思いますか?

そうですね。社会全体を見てもホモフォビックな発言は多いので、ヒップホップシーンもそういうムードにならざるを得ないのかなと。

ーいまだにホモフォビアは根付いていると。ご自身の経験からも感じていますか? 

多すぎて……。今年の春に誘っていただいたイベントで共演する予定だった、あるラッパーからホモフォビックな発言をされました。そのことがきっかけでイベントにも出られず、開催地のライブハウスにも行きづらくなってしまって。挙句には「ラッパーなんだから直接マイクで言えよ」とSNS上でも言われ、日本にある二次被害の風潮も同時に感じました。

* 2021年に開催されたマイアミのフェスティバルで、ラッパーのダベイビー(​DaBaby​)が同性愛者/HIV感染者に対する差別的発言を行った問題。後に謝罪とともにHIV/エイズを支援する9団体の会合に参加したと報じられた。

出展:FRONTROW「ダベイビー、同性愛者やHIV/AIDS患者へのヘイト発言を受けブランドとの契約が解除
HIP HOP DNA「ダベイビーが9つのHIV/エイズ支援団体の会合に参加したと報じられる。自身の発言についても改めて謝罪。

ーセクシュアルマイノリティーであることをオープンにするのは、キャリアを築くうえで障壁となると感じていますか? 

難しいなぁ。ヘイトを向けられることはつらいですし、障壁はゼロではありません。ですが、その中で群れずに自分のやりたいことをやっている人と出会えば、結果良い音楽が作れるし、ライブにも呼んでもらえる。自分を貫くことで、音楽活動にいい影響を与えているのも事実です。

政治を語ることがクールな世界を目指して

ーホモフォビアをなるべくなくすためには?

日本全体のムードが変わればヒップホップシーンも変わっていくんじゃないですかね。例えば、黒人に対する差別的な意味合いを持つNワード。今は言うべきではない単語として知られていますが、10年前は曲中で繰り返し使われていました。全員が知らなくても常識として世間に広がれば、少しずつ「Nワードを使う人はダサいよね」みたいな雰囲気が生まれてくるのかなと。 

ヒップホップって何者にも染まらないイメージがありますが、実は周りがが右を向けば右を向くし、左を向けば左を向くような世界なんです。なので、全体が変わることが近道なように感じます。

ー社会問題に興味を持っている人に向けて、おすすめの曲を教えてください。

RAKASTAというアルバムは、軽く社会問題に触れたい人におすすめです。その中の「Get」や「Baby」という曲は聴きやすいと思います。おまけ程度でいいので、「入管って何?」「トランスジェンダーって何?」と考えるきっかけになればうれしいです。 

ー最後に、読者に向けてメッセージをください。

最近、自分よりも若い10代の人と話す機会があるのですが、多くがLGBTQ+を当たり前の存在として認識しています。時代と共に価値観は変わっているので、「差別するヤツ、ダサいよね」というマインドを大切にしていきたいです。9月30日(土)には御殿場で開催される「unscreened pride」というクィアなアーティストを集めたイベントにも参加するので、ぜひ!

イベント情報

日時:2023年9月30日(土) 14時オープン/14時30分スタート
場所:noctarium/マウント劇場
料金:2,000円(+1ドリンク)

アクセス:JR御殿場駅から徒歩3分
東京から:小田急ハイウェイバスでバスタ新宿→御殿場駅/約2時間/1800円

Movie Screening
「United In Anger: A History of ACT UP」
企画:ノーマルスクリーン
配給:FAV連連映展

DJ
DJ WARCLAY
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次世代カルチャーアイコンとの呼び声も高いMANON。音楽とファッションを横断した活動はもちろんのこと、最近はNHK総合で放送されたテレビドラマ「生理のおじさんとその娘」への出演など、どんどんその活躍の場を広げている。

そんなMANONは普段からどんなことを考え、どんな未来を思い描いているのだろう。曲作りから行きつけのスポット、遊び続けたい理想の街の姿や今後の展望まで、等身大の彼女を知るべく幅広いトピックで話を聞いた。

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