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Photo: Unsplash/Stavrialena Gontzou
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3.11以降、災害時のLGBTQ+コミュニティーへの対応は変わったのか?

SEX:私の場合#17 にじいろ防災ガイドを通して知る、可視化されにくい性的マイノリティーの困難

Hisato Hayashi
テキスト:: Honoka Yamasaki
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タイムアウト東京 > LGBTQ+ > 3.11以降、災害時のLGBTQ+コミュニティーへの対応は変わったのか?

東日本大震災以降、性的マイノリティーが直面する災害時の問題について語られることが増えてきた。しかし、被災地でLGBTQ+コミュニティーの人たちがどのように過ごしているのかは、いまだ十分に可視化されていない。 

災害時の避難所では、多くの時間を他人と共有することになる。本来ならば被災者には尊厳ある生活を営む権利があるが、性的マイノリティーということで排除・孤立させられる可能性があり、無理な生活を強いられているのが現状だ。

岩手レインボー・ネットワークを主宰している山下梓(やました・あずさ)は、「LGBTQ+の災害時の困難は、『それ以前の困難*1』である」と語った。レインボー・ネットワークが作成した、性的マイノリティーの災害時の困り事や対応策案をまとめた「にじいろ防災ガイド」を参考にしながら、その課題について聞いた。

*1 東北地方の性的マイノリティー団体 活動調査報告書「第6章『それ以前の困難』を伝えるため(岩手県・岩手レインボー・ネットワーク 山下梓)」から引用

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LGBTQ+コミュニティーの歴史は長いが社会的な認知は足りていない

ーにじいろ防災ガイドを作成したきっかけについて教えてください。 

東日本大震災をきっかけに作成し、2016年に完成しました。当時、日本の災害の中で特に知られていたのは、1995年に起きた阪神淡路大震災です。1980年代後半から1990年代初頭にはすでにLGBTQ+コミュニティーによる活動が行われており、災害時における性的マイノリティーの課題が可視化されることは不思議なことではありません。

しかし、東日本大震災が発生した2011年は、被災者の中に性的マイノリティーがいることは認識されていたものの、当事者が抱く課題やニーズの実態は明らかになりませんでした。そこで、岩手レインボー・ネットワークはこの課題に対応するため、ガイドを作成したんです。

提供:にじいろ防災ガイド

画像提供:にじいろ防災ガイド

ー東日本大震災が発生した2011年は、今と比べてLGBTQ+コミュニティーへの認知はされていなかった印象でしょうか?

LGBTQ+や人権課題について社会的に広く認知されるようになったのは、2015年前後という印象があります。日本で初めて、世田谷区と渋谷区でパートナーシップ制度が導入された時期です。

ただ、コミュニティーの歴史で言うと、例えば1990年代の「府中青年の家事件*2」で第一審、第二審ともにアカー(働くゲイとレズビアンの会)が勝訴、2003年には性同一性障害特例法が成立するなど、もっと古くから活動はありました。なので、社会の理解や認識が追いついていなかったのだと思います。それに加えて、災害自体が非日常的な出来事であるため、2011年以前は災害時の備えやニーズに関する意識がそれほど高まっていなかったと考えられます。

ーどのような人たちがにじいろ防災ガイドを使っていますか?

災害支援に出向くNPO、NGO職員、災害ボランティアを総括する地域組織の方、男女共同参画やジェンダー平等の活動をしているグループ、医療関係者、自治体の職員、性的マイノリティーなど、さまざまです。

今回の能登半島地震が発生してからも、さまざまな地域の方からお問い合わせをいただいています。多くの人にどこで災害が起きるか分からないという危機意識が芽生え、地域と連携し、災害に備える動きが見られるようになりました。

*2 1990年、東京都教育委員会が所轄する「府中青年の家」に市民団体「NPO法人アカー(働くゲイとレズビアンの会)」が宿泊が合宿を実施したところ、同日に宿泊していた他団体にいやがらせを受けた。善処を求めたアカーに対して、施設側は府中青年の家における今後の利用を拒絶した事件を指す。1991年、アカーは東京都を提訴。第一審、第二審ともに勝訴し、LGBTQ+の人権を巡る日本初の裁判として知られる。

「ない」ことにされる性的マイノリティーの存在

ー災害時における性的マイノリティーへの対応はどう変化していますか?

大きな点は、各都道府県や市区町村が地域防災計画や避難所運営マニュアルを定める際、(文言や内容にばらつきはあるものの)性的マイノリティーに対する避難所での配慮や災害対策上の考慮が記載されることが増えてきていることですね。

2011年時点では、地域防災計画や避難所運営マニュアルに関する文書に、性的マイノリティーに関する具体的な記載がほとんどなかったと思います。しかし、東日本大震災やその後の災害(北海道胆振東部地震や熊本地震など)で当事者たちが声を上げ、その結果として性的マイノリティーに対する災害時の配慮が反映されるようになりました。

ー性的マイノリティーに対する具体的な記載があることで、当事者の心理的安全性にも影響するのでしょうか?

安心して避難できた、避難生活が円滑に進んだという声はまだ聞きません。地域防災計画や避難所運営マニュアルへの記載は大きな進展ですが、その内容が実際に実践されているかどうかは別の問題です。

実際に、性的マイノリティーの方々が避難所へ行っても、配慮ある対応が行われていると感じられていない現状があります。当事者の存在が無視されるということは、災害時だけでなく、普段の生活にも言えることです。そのため、中には避難をためらう当事者がいるなど、性的マイノリティーが災害時に安心して避難できる環境が整っているとは言い難いですね。

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被災地での「住」の問題

提供:にじいろ防災ガイド

山下の以前の住まいの近く

ーにじいろ防災ガイドで紹介した中で、特に課題だと感じていることを教えてください。

地震発生から2カ月以上が経過した今、状況は前より改善されていると考えられます。しかしまだ避難所で生活している方々がいる場合、プライバシーの問題が依然として存在するでしょう。

特に同性パートナーがいることを公表していない人やノンバイナリー、トランスジェンダーの方たちにとっては、プライバシーがまったく確保されていない状態が非常に精神的な負担となる可能性があります。 

ー具体的に教えていただけますか?

一部の避難所では、スペースごとに長い白い布がしっかりと張られていたり、背の高い仕切りが設けられていたりするなど、プライバシーを考慮した設備が整っているところがあります。一方で、まだ雑魚寝のような状況が見られる避難所もあるようです。

また、テレビの報道を見る中で、ある避難所では土足での生活が続き、指摘されるまで運営者はそれが不衛生であることを認識していなかったという話も聞きました。避難所の運営者の認識や対応によっても、状況が左右されるということですね。

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岩手県盛岡市でのワークショップで集まった声

ーにじいろ防災ガイドには、トランスジェンダーの共有スペースにおける課題についても記載されていました。

特にトランスジェンダーやノンバイナリーの中には、共有スペースを利用する際、他者に驚きや嫌な思いをさせないようにするため、慎重に行動している人が多くいます。

中には避難所でトイレに行かなくてもいいようにと、できるだけ水分を取らないようにする人もいますが、それだと体へのリスクが生じてしまいますよね。性別だけでなく安全性などの観点からも、男女別のトイレだけではなく、個室のトイレを設置するなど、施設の在り方を考え直す必要があるでしょう。

ー被災者の中には公営住宅で過ごしている方もいます。その際の課題はありますか?

災害後に仮設住宅から移動する先として、災害公営住宅があります。ただ、入居条件に「世帯」と記載されている場合があり、同性パートナーと一緒に暮らせなくなるケースも珍しくありません。

厚生労働省による世帯の定義は、法律上の関係性が重視されています。そのため、パートナーシップ制度を導入している自治体であれば世帯の定義に同性パートナーが含まれるケースがあるのですが、そうではない場合、入居条件を満たすことが難しい可能性があります。

「それ以前の課題」と向き合うために

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山下の以前の住まいの近く

ー現状、性的マイノリティーが被災地で我慢を強いられることなく過ごすのには程遠いということでしょうか。

そうですね。災害などの被災者に対する国際的な人道支援活動のために制定された「スフィア基準」を見ると、最低限の生活が確保され、尊厳を持って災害時でも過ごせることが書かれています。

これは誰にでもある権利であり、ありのままに避難生活を送り、適切な支援を受けることが原則です。そのため、先ほど申し上げたような水の摂取を控えなければならないような状況は、最低基準にも達していないということになります。

ー人権の問題に直面しているということですね。

にじいろ防災ガイドでは性的マイノリティーのさまざまな課題をまとめましたが、東日本大震災の時に直面した最大の課題は、当事者たちの困りごとが聞こえてこない・見えてこないという、それ以前の困難でした。

例えば、「自分がゲイだと知られてしまうのではないか」という恐怖感があったり、トランスジェンダーであることや同性パートナーがいることを周りの人に言っていなかったり、避難所へ行っても自身のことを話すのが難しい状況にあります。

ー少しでも当事者が精神的負担なく過ごせるよう、できることはありますか?

本来なら性的マイノリティーであるか否かを明かす必要はないと考えていますが、それでも助けを求める際に、当事者であることが知られてしまうという不安を抱く人も多いでしょう。なので、被災者が匿名で回答できるアンケートなどがあればいいと思います。

当事者に関していうと、一人でため込むのではなく、専門家や理解のある人に相談する、地元のLGBTQ+団体に連絡を取るなど、周りに助けを求めることも大切です。自ら動くのにはためらいがある場合でも、団体や周りの人によってなど、さまざまなルートを通じて改善の働きかけを進めることができると考えています。 

ー災害時に対応可能な相談窓口や団体を教えてください。

能登半島地震の場合、金沢レインボープライドなどのLGBTQ+団体が災害支援に取り組んでいます。また、全国にも都道府県や自治体レベルで設けられた電話相談、性的マイノリティーや多様性に特化したホットラインなども存在するので、緊急時やそうでないときにも活用していただけます。

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傍観者にならないために周りができること

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岩手県宮古市での岩手レインボー・ネットワーク主催のワークショップの様子

ー寄付先などを含むさまざまな情報がインターネット上に流れていますが、正確な情報やしっかりと支援している団体を見つけるために意識できることはありますか? 

自分の目で確認することが大切です。本当に支援しているのか、過去にどのような活動を行ってきたのか、ジェンダーの視点から当事者を支援しているかなど、ホームページやLGBTQ+支援団体に電話して聞いてみるのもいいかもしれません。

草の根で地道に支援している団体もありますが、そういう場合はなかなか情報を開示できない状態があるので、複数の人に聞いたり、一緒に検証したりすることを勧めています。あとは、デマを拡散しないためにも、信頼できないと思った情報はむやみに拡散しないことです。

ー傍観者にならないために、周りができることはありますか?

能登半島地震が起きてから2カ月ほどたちましたが、今は世間の関心も高いと思います。ですが、復興するのには10年、20年かかるんですね。東日本大震災の復興も全然完了していない現状があるので、中長期的に関心を持っていきたいものです。

また、自分がいつどこで災害に遭うか分からない状況に備え、にじいろ防災ガイドを持ち歩いていただくことで少しでも性的マイノリティーの災害時の配慮について知っていただけたらと思います。そして、日本に住んでいる限り、災害からは逃れられないので、ご自身がいる地域の防災訓練に参加したり、備蓄品を見直したりするなどの備えにつなげてください。

もっと知りたいなら......

  • Things to do

2024年1月1日に発生した能登半島地震では、石川県のみならず北陸エリアが震度5強以上の地震に見舞われた。石川県では、自治体の1次避難所だけでも約6400人が今も避難所生活を続け、多くの人が先の見えない状況にある。多くの人が巻き込まれる広域での災害の場合、支援の手が行き届かないことも少なくない。その一つが、被災したウクライナからの避難民たちだ。

一般社団法人全国心理業連合会(以下、全心連)は、福井県で被災したウクライナ避難民の家族を京都と東京に1週間程度の短期的な避難をさせた。心理カウンセラーの業界団体である全心連は、ロシアによるウクライナ侵攻後の2022年4月から「ウクライナ『心のケア』交流センター渋谷ひまわり」(以下、渋谷ひまわり)を立ち上げ、日本に避難した人々の支援を続けている。

本記事では、全心連の代表理事兼、渋谷ひまわり代表で、他エリアへの短期避難にも同行した浮世満理子に話を聞いた。そこには言葉の問題だけではなく、戦争避難民ならではの深刻な問題があった。

  • Things to do

石川県によると「令和6年能登半島地震」による死者・行方不明者の数は250人以上におよび、同県だけで4万1000件以上の家屋が全壊・半壊・浸水など何らかの被害を受けているという(2024年1月25日時点)。

あの日からもうすぐ1カ月、断水が続く地域もあり被災地の状況は依然厳しく、災害関連死で亡くなる人も増えている。

そんな中、いち早く被災地へ入り、外国人や障がい者など見えにくい被災者への支援を続けているのが「難民を助ける会(以降、AAR Japan)」だ。

県内に住む外国人は約1万7000人(2021年時点)、被害の大きかった能登半島北部の6市町には約600人の技能実習生がいる。ここでは、実際に七尾市や能登町で暮らすインドネシア・ネパール・ベトナム出身の人々へ支援活動を行っているAAR Japanのプログラムコーディネーターである櫻井佑樹に、被災地で暮らす外国人の状況や彼らへの支援について聞いた。

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  • Things to do

2024年1月1日、能登半島で最大震度7を観測する地震が起きた。度重なる激しい揺れで土砂崩れや道路の損壊が各地で相次ぎ、多くの命が失われた。石川県によれば、1月30日までに県内で238人の死亡が確認され、今も行方不明者の捜索が続けられている。

「一人でも多くの命を救いたい」。行方不明者の捜索には、警察や消防、自衛隊など訓練を受けた救助隊が尽力しているが、中には民間のレスキュー隊員の姿もあった。2日、生存者の発見・救出に成功した「空飛ぶ捜索医療団ARROWS」の捜索救助チームリーダー、黄春源(Civic Force所属)が、救出の現場を振り返るとともに被災地や日本への思いを語った。

  • LGBT
  • LGBT

2024年1月28日、若手映画人育成を目的に毎年行われる「池袋みらい映画祭」で、東日本大震災後の福島を舞台にした作品「ハルを探して」が上映。その後、「震災を受けて」と題したトークイベントが行われた。能登半島地震を受けて緊急企画されたもので、語り手はYouTubeチャンネル「KANE and KOTFE」を運営するゲイカップルのKANEとKOTFEだ。

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  • Things to do

2011年に東日本大震災が発生した時、日本建築学会賞など数々の受賞歴を持つ建築家、千葉学は被災者支援を決意した。

千葉は、建築家の連帯である『アーキエイド』という復興支援ネットワークの実行委員として活動。震災の影響を受けた地域の再建に向けて時間を費やし、多くの実践的な専門知識を活用した。また、千葉の復興支援の取り組みの一つに、釜石市の復興公営住宅の設計がある。この住宅は、建物相互の関係性をデザインすることで、被災地における多様で複雑なコミュニティーに応えた建物として2018年度グッドデザイン賞グッドフォーカス賞(復興デザイン)を受賞している。

こうした事例の中から住宅のあり方を再考し、人々をつなぐことの重要性、そして自身が主催する『ポタリング牡鹿』というサイクリングツアーがコミュニティーにどのように役立っているのか、千葉に話を聞いた。

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