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元警察官・元消防士のゲイカップルが語る災害対策と緊急時のマイノリティーの困難

防災・防犯につながる対処法も紹介

トーク「震災を受けて」場面写真
Photo:吉田ミツイ
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2024年1月28日、若手映画人育成を目的に毎年行われる「池袋みらい映画祭」で、東日本大震災後の福島を舞台にした作品「ハルを探して」が上映。その後、「震災を受けて」と題したトークイベントが行われた。能登半島地震を受けて緊急企画されたもので、語り手はYouTubeチャンネル「KANE and KOTFE」を運営するゲイカップルのKANEとKOTFEだ。 

池袋みらい国際映画祭
Photo:吉田ミツイ

KANEが元消防士、KOTFEが元警察官という経歴のもと、KOTFEは2011年の東日本大震災で、行方不明者捜索で宮城県気仙沼市に派遣された経験を持つ。そんな2人が現在オープンリーゲイ*として生きる立場を踏まえて、災害に見舞われた際に気をつけておくべきことが語られた。

*社会に対して同性愛者であることをカミングアウトしている男性を指す

トーク「震災を受けて」場面写真
Photo:吉田ミツイ元消防士のKANE

目をけがすると動揺しやすい? 顔周りへのけが予防前提の家具配置

終始2人が語ったのは、予防・準備の大切さ。消防士として11年間従事した経験があるKANEは、元警察官のKOTFEの目から見ても、日々の暮らしの中で高い防災意識を無意識に備えているという。それはKANEが「目をけがすると動揺しやすい」と、けがの部位に着目することからも分かる。 

「僕が日常、対策していることは、自分の頭上に何も置かないようにしている点です。KOTFEと暮らし始めた当初、ベッドの枕元に絵を飾っていたんですが、絵が落ちてきたら怖いと外してもらいました。友人が泊まりに来てリビングに寝てもらう時も、テレビの方に頭が向かないようにしています」と語った。

「もし足を少しけがしても、動揺はすくないと思うんです。でも、目をけがして血が入ってしまったら? 見えないことで動揺したり、さらなるけがに繋がるかもしれません。もしもの時のために今日家に帰ったら、顔周りにけがをしにくい家具の配置になっているかチェックしてほしい」と言う。また、キッチンの生活用品の配置にも言及。「コンロ周りに燃えやすいもの、キッチンペーパーや油を置いていませんか?」と確認を促した。

トーク「震災を受けて」場面写真
Photo:吉田ミツイ元警察官のKOTFE

犯行させない・被害者にならないための対策と周りの心構え

東日本大震災など過去の災害時、避難所での女性や子どもへの性暴力が発生したことから、今回の震災でもSNSやnoteなどで防犯の呼びかけに注目が集まった。まずは、一人での行動を避けること。トイレに行く際、女性や子どもは複数人で行動すること、防犯グッズの携帯など、すでにいくつかの対策が挙げられている。 

トークの中でKOTFEは、日ごろの防犯にもなる立ち振舞のポイントをレクチャーした。それは「姿勢をよくする」「相手の目を見る」ということ。現役時代、逮捕術(犯人を制圧逮捕する武術)の指導者だったKOTFEは、特に若い警察官には「犯人になめられない」ために、まず姿勢から指導していたそうだ。一般の人も、姿勢や目線を整えるだけでも違うと教えてくれた。

トーク「震災を受けて」場面写真
Photo:吉田ミツイ

またKOTFEによると、人体の急所は「眉間」「鼻」「喉」「みぞおち」「下腹部」「金的」と、体の中心部「正中線」に集中。不審者に遭遇するなど身に危険を感じた際は、無意識にそこを守ろうと、縮こまった姿勢をしてしまいそうだ。しかし相手に対して半身になって手で正中線を守る、格闘技のファイティングポーズのような姿勢の方が、安全で逃げやすいと教えてくれた。

さらに、いざという時は「大声を出す」「逃げる」、もし一人でトイレに行かなくてはらならない時はペンなどの先のとがったものだけでも威嚇効果があるなど、万が一への備え方を語った。

トーク「震災を受けて」場面写真
Photo:吉田ミツイ

印象的だったのは、KOTFEの具体的な防犯対策を聞いていたKANEの「悪いのは犯人」という言葉だ。元消防士らしく180センチメートルを優に超え、筋トレが趣味のKANEは、これまで暴漢に狙われるなどの怖い思いをしたことがない。被害を受けることに想像が及ばないと言及した上で、「女性をはじめ、被害者が対策しないといけない社会は間違っている」と強調。当事者になり得なくとも、追い込まれている人がいないか「目を向けることの大切さ」を付け加えた。

トーク「震災を受けて」場面写真
Photo:吉田ミツイ

東日本大震災での景色や匂いを鮮明に覚えている。「一日一日を大事に」と誓う

2011年に起こった東日本大震災では、京都府警の機動隊の一員として被災地入りしたKOTFE。発災から10日後だったため結果的に生存者の救出はできなかったものの、「人生の再スタートになれば」と思い出の品などを土砂から掘り出した。崩壊した小学校や津波に流され、えぐられた住居を目にした時の「ここに家があったはず」という景色や匂いは、今も鮮明に覚えているという。

その経験から、「明日が来る保証は誰にもない」「一日一日を大事にしよう」と思うようになったそうだ。ゲイをオープンにしたのも、これがきっかけとなった。

トーク「震災を受けて」場面写真
Photo:吉田ミツイ

「避難所には入れないかもしれない」、もしゲイカップルが被災してしまったら?

2人が出会ったのは2011年の後半だったが、もし東日本大震災が起こった時期に交際中だったらと想像し、KOTFEは「今はカミングアウトしていて、堂々と『家族です』と言えますが、震災当時はカミングアウトしていない状態。被災しても『あいつら同性愛者じゃないか』と言われることを恐れて、避難所に行けないかもしれません」と不安を語った。KANEも「安否確認もしにくいです。血縁・婚姻関係がないから、何かあっても連絡は来ないでしょう」と付け加えた。

全ての人が無条件にさいなまれる災害では、マイノリティーの生きづらさがより顕在化する。体格に恵まれ、一見何不自由なく見える2人も、ゲイという性的マイノリティーを抱えている。平常時であれば問題なく暮らせる人の中にも、持病を抱えている人や年老いた家族、ペットとの同居など、災害発生時にはケアが必要になることも多い。KANEが防犯対策を話した際、「目を向けることの大切さ」を語ったように、緊急時こそ他者への想像力を忘れずにいたい。

テキスト:吉田ミツイ

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