新作歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」で演出に初挑戦
ー2023年の松也さんは、歌舞伎に現代劇にミュージカルにと大活躍でした。中でも新作歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐(つきのつるぎえにしのきりのは)」で演出に初挑戦されたのは、大きな経験だったのではないでしょうか?
ここ何年か、自分が企画をさせていただける公演が増え、いつか演出にも挑戦してみたいという気持ちが湧き上がっている中で、チャンスをいただきました。
いざ経験してみると本当に大変で、自分が役者として出演した作品でも、演出の方はこれだけの準備や打ち合わせをしていたんだな、と痛感しました。
特に刀剣乱舞は、これまでどのジャンルでやるときも設定だけがあり、物語は全部オリジナルでしたから、歌舞伎版では何を題材にし、どの刀剣男士を出し、どのような話にするかというところを、時間をかけて議論しながら決めていきました。そこから浮かんだ「こういう風にやってみたい」というイメージを稽古で皆さんにもしっかりと伝え、やりたいことを共有できたのではないかと思います。
その作業に当たっては、これまで(尾上)菊五郎のお兄さんが国立劇場の初春歌舞伎で事実上の演出と主演を兼ねてずっと勤めていらしたり、中村勘三郎さんや尾上菊之助さん、中村獅童さんといった先輩方が企画したものをなさったりする姿を出演者として拝見していたことが、自分の中ではいい準備と学びだった気がします。
ー「絶対にこれはやろう」と思い、やり切ったことを教えてください。
刀剣乱舞という題材は、主役が刀剣になった付喪神(つくもがみ)で、それが刀剣男士になっているわけですが、その裏には刀剣を作った方たちがいて、その方々によって刀剣男士が生まれ、僕らはこの物語を作ることができている、ということを言いたくて。ですので刀鍛冶が刀を作る場面で始まり、クライマックスの後は皆が刀に戻り、刀鍛冶が刀を打つ音で終わる、という演出にしました。
ー歌舞伎らしい格調高いオープニングで、原作に寄せるだけでなく歌舞伎でやる意義を表明されていたのも印象的でした。
原作に全部寄せることは意外と簡単なのですが、それは僕らがでなくてもできること。ファンが多い原作のイメージを「崩さず崩していく」、そのバランスが難しかったです。各刀剣男士のビジュアルを解禁していく時はとても怖かったですね。歌舞伎にするためにはかなりイメージを壊さなければならない部分もありましたので。ありがたいことに、歌舞伎好きの方にも刀剣乱舞ファンの方にも受け入れていただけて良かったです。
ー松也さん演じる三日月宗近と尾上右近さん演じる足利義輝の、美しい立ち廻(まわ)りも大きな見どころでしたね。
そういうお声を多くいただきました。僕が舞台を360度回転させたい、立ち廻りをしながら舞台上の全てを見せたいと伝えたのですが、となると盆の後ろ側に次の美術を用意して回すという場面転換ができなくなりますし、劇場に収められる道具の幅は限られているため、それだけ大きなセットを置くとなると制約が出てくる。しかもそれを、1幕の最後と2幕の最後で両方やりまして。
舞台美術の前田剛さんや大道具さんを悩ませてしまいましたが、譲りませんでした(笑)。それでも皆、面白いという感覚で取り組んでくれましたし、結果的には初日、あの場面が終わった後に拍手が鳴り止まなくて、本当に感動しましたね。
※「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」は2024年4月5日(金)から「シネマ歌舞伎」として各地の劇場で公開