「新作歌舞伎ファイナルファンタジーX」インタビュー:中村米吉×中村橋之助
Photo: Keisuke Tanigawa
Photo: Keisuke Tanigawa

若手俳優に聞く「新作歌舞伎ファイナルファンタジーX」の魅力

インタビュー:中村米吉×中村橋之助

Hisato Hayashi
テキスト:: Ayako Takahashi
広告

タイムアウト東京>カルチャー> 若手俳優に聞く「新作歌舞伎ファイナルファンタジーX」の魅力

テキスト:高橋彩子

日本のRPGの金字塔ともいうべき「ファイナルファンタジー」シリーズ。その中でも傑作の呼び声高い「ファイナルファンタジーX」が、360度に展開する舞台と円形の客席が特徴の「IHIステージアラウンド東京」で3月4日から新作歌舞伎になる。

架空のスポーツ「ブリッツボール」チームのエースである少年ティーダが、時空を超えてスピラの地に入り、出会った仲間とともにスピラの人々を苦しめる魔物シンに立ち向かっていくという物語は、青春群像劇のような雰囲気も感じられる。ヒロインのユウナを演じる中村米吉と、その幼馴染のワッカを演じる中村橋之助という、今回の出演者の中でも若い世代の2人に意気込みを聞いた。

関連記事
2023年春「新作歌舞伎ファイナルファンタジーX」が開幕
木下グループpresents「新作歌舞伎ファイナルファンタジーX」

アラウンドシアターで作る、現代的な新作歌舞伎の難しさ

―今回は、IHIステージアラウンド東京での稽古がたっぷり1カ月準備されています。稽古をしてみていかがですか?

米吉:とにかく、この規模と機構に圧倒されていますね。東西南北に分かれて飾り(美術)がありますから、飾りごとの使い方だとか、「あれ、どっちが西だ? どっちが北だ?」など、手探り状態です。

橋之助:本当に、まずはこの劇場がいかに大変か。使いこなせればものすごく面白いものになるはずなので、そのために、自分の中にこの劇場を落とし込んでいるような感覚ですね。身体の運動量は想像していたのですが、頭の運動量もかなりのものです。

―台本を読んで、ご自身の役について感じることを教えてください。

米吉:基本的には「ファイナルファンタジーX」の物語の世界が、ゲームを遊ぶような感覚でどんどん進んでいくのですが、そこに歌舞伎ならではの表現方法、演出方法が盛り込まれています。

難しいのは、ゲームでは主人公であるティーダの目線で話が進むので、映像上はティーダとユウナがいても、プレイヤーの感覚的には「対ユウナ」という感じになりますが、芝居の場合、お客様は俯瞰(ふかん)でご覧になるというところ。ティーダもユウナも登場人物として等しく舞台にいるわけですから、例えば2人の心がどこで通ってくるのかなどはゲームよりも丁寧に組み立てていかなければならないんです。

橋之助:お兄さんがおっしゃる通り、台本はだいぶ俯瞰ですよね。ワッカについては、役の心のお稽古はこれからなのでまだ明言できないのですが、普通のお芝居のように演じていたところ、菊之助のお兄さんに「もうちょっと歌舞伎でやってください」と言われまして。

普通のお芝居は、気持ちが切り替わる時に歩いたり体を振ったりという動作が自然に生まれるけれど、歌舞伎は絵面で正面を向くところもある。そういった「型」としての歌舞伎らしさを使ってくれと。

米吉:その中でこの機構をどう使うかですよね。歌舞伎座であるとか、あるいは普通の劇場でやるのであれば、歌舞伎的な精神性の落とし込みを用いるのも難しくないかもしれませんが、今回は客席が真ん中にあって、舞台が円形状に展開して、それも、通常の歌舞伎のような具体的な美術ではなく、どちらかというと抽象的な舞台が続く。そして巨大なスクリーンで映像を映している。しっかりと美しく見せるのはなかなか大変だなと感じます。

―お二人も、経験を積んできた20代後半の今だからこそ、こうした作品に挑めるというところがあるのではないでしょうか?

橋之助:そう思います。

米吉:お互いにまだまだではありますが、確かに、先輩方が「あれ、こうじゃない?」「これもありだね」とおっしゃった時、今なら自分なりに考えて対応できる。もちろん、それに対して違うなというところは演出の立場として(尾上)菊之助のお兄さん方が言ってくださるでしょうし。とにかく、自分の頭の中の引き出しを全部開けてやるしかないですね。

―米吉さんは「新作歌舞伎 風の谷のナウシカ」の経験も生きそうです。

米吉:同じようで少し違いますね。ナウシカはアニメになっている部分は序幕だけで、それ以降は原作漫画の世界になりました。今回は声から動きから全部ゲームの方にあるわけで、正解はその中にあるわけですよね。それをいかに歌舞伎として造形していくか。原作がお好きな方にも、ある種違う形で納得していただくというか、自分の思い出の中のゲームとこの歌舞伎をリンクさせて感動してもらわなければと考えています。

どうしたってゲームの美しさにはかなわないわけだけれども、それを歌舞伎の技術、演劇の手法でもって、お客さまに訴えかけるもの、お客さまの心に残る何かを作らなくていけない。

―橋之助さんはいかがですか?

橋之助:ミュージカル「ポーの一族」に出演した時、演出の小池修一郎先生にすごく指摘されたのが、「本意気でやろうとするとどうしても歌舞伎の出力のギアに入ってしまう」ということ。恐らく無意識だし、子どもの頃からやっているからそうなるのは仕方がないけれど、こうやって外の舞台に出る以上はそれ以外のギアを持ちなさい、と、お稽古でおっしゃっていただいたんです。

できたかどうかは分かりませんが、「歌舞伎以外のギア」を少し見つけたようなタイミングがあって、それを、米吉のお兄さんの言葉を借りるなら「引き出しの一つとして」持っているのかなとは思います。ただ、僕の次の課題は、さっきの「歌舞伎で」とおっしゃった菊之助のお兄さんの言葉。自分にむち打って頑張りたいです。

―「ギア」とは具体的にはどういうことでしょうか?

橋之助:例えば声の出し方。分かりやすく言うと、歌舞伎では、もちろん心があってこそですけれど、ある程度、声色で役の柄を作ることがあるのですが、ほかのお芝居ではそれだとクサくなってしまう。だから、地声の中で、声の「色」ではなく「臭い」みたいなものを変えるという感じでしょうか。

ただし今回、せりふが本当に現代口語的なのに歌舞伎でと言われているので、そのあたりはお客さまも僕も折り合いがつくポイントを見つけなければなりません。

広告

米吉と橋之助、同世代の仲間として

―お二人それぞれご自身が演じるキャラクターとご自分とで似ているところは?

橋之助:お兄さんのかわいいところじゃないですか、やっぱり!

米吉:いやそういうのいいから……(笑)。やはり、「究極召喚」を覚えてシンを倒したい、自分の命を捨てて世界を守りたいというのは同じですね(笑)。

でも実際、ユウナは、共通点なんてないなというくらい完璧な人。シンを倒す上で、葛藤はあってもなおやっぱり世界のために、と思うわけだから。

―橋之助さんから見た米吉さんとユウナは、かわいいところのほかに、いかがですか?

橋之助:自分の意思がすごくあることじゃないでしょうか。米吉お兄さんも……。

米吉:わがままってことでしょ?

橋之助:違いますよ! お兄さんの相手をさせていただいて、僕も生意気ながら「こういう風にしたい」と申し上げたりすると、「こういう意図があってやっているからここは変えたくないけれど、確かにここはそっちだね」というように、意思を持つところははっきり持たれる一方で、僕の意思も尊重してくださいます。良いところを合わせてくださるので、そこが似ていると思います。

僕はワッカ同様、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いという、悪い言い方をしたら決めつけが強いところがあるのが短所であり、時には長所であると思います。でも核心を突くことを言われて納得すれば、自分が思っていなかったことでも恥ずかしがらずにそっちへ行けるところも、似ています。

米吉:この人は、面倒見のいいところ、責任感も強いところがありますし、それが空回りするということも含めて、ワッカと同じかなと思いますね(笑)。

橋之助:そして、米吉のお兄さんは空回りする僕を助けてくれるんです(笑)。

―ユウナとワッカ同様、同世代のお二人。お互いの歌舞伎俳優としての長所も教えてください。

米吉:橋之助くんの良さかぁ……。なんだろう……。2人の素晴らしい弟がいるところですかね(笑)。

でも歌舞伎の世界に3兄弟でいるというのはやっぱり幸せなことですよ。兄は弟2人がいつ自分を追い越すか分からない危機感と戦い、下の子たちは兄の背中を見て……。なれ合いにならず切磋琢磨(せっさたくま)していけばすごくいいことではないでしょうか。

そして役者としては、男性的な魅力が強い役者さんだと思います。菊之助のお兄さんや(尾上)松也のお兄さんのような、女方も立役もおやりになる方はもちろん素晴らしいですが、これから先、女形をやりそうにないような、線の太い立役さんも、僕はすごく必要だと思っているんです。(中村)吉右衛門のおじさま、(松本)白鸚のおじさま、橋之助くんのお父様(中村芝翫)のような、ドーンと大きな存在。

今は「男っぽい」というような言葉はそぐわないような時代ですが、歌舞伎の中だからこそ男らしい立役さんの魅力が大切なのではないでしょうか。

橋之助:米吉のお兄さんの魅力は一つに絞るのは難しいのですが、誰でも分かるところで言えば、まずもう本当に、皆さんが出ていても目を引くような美しさ、かわいさ。それは役者にとって大切なことだし、お芝居の部分でも、ご自身が表現したいものに対して意志をはっきりと持っておられるから、それが客席にも伝わる。ハートがあるすてきな女方さんだと思っています。

今だからこそ、歌舞伎として届けたい

―2月頭に、米吉さんが踊る「異界送り」の動画が発表されました。公開されてみていかがでしたか?

米吉:繰り返しになりますが、原作が好きな方からしたら、どんな作品でも「あら?」というのは絶対にあるもの。そのハードルを超えることはものすごく難しいし、大抵は超えられないけれど、それでもやる以上は理解してもらわなければいけない。そこで必要になってくるのは、こちらがどれだけ原作に対して思いやリスペクトがあるかだと思うんです。

あの映像にトライさせていただいた時、ブーツではなくて、素足でやった方がいいのではないかと提案させていただきました。やっぱりイメージが強いのはキーリカ島での「異界送り」だと思いますから。そうやって、原作がお好きな方と歌舞伎がお好きな方の両方を向いて、舞台も作っていきたいです。

―異界送りには魂を鎮めるという、芸能の根本に通じる要素がありますね。

米吉:動画を撮る際、引き、寄り、上、右、左、追い、の6アングルがあったんです。それをテストし、本番をやって、微調整し、明かりを調整し……。1日で30回くらい踊りました。やっていく中でだんだんと頭が真っ白になっていったのですが、ある種のトランス状態の要素もこの異界送りにはあるわけだから、その感触を舞台の上で生かせたら、と。

お祈りをして亡くなった魂を異界に旅立たせてあげる、弔うということって、日本の宗教観に合いますよね。だから伝わりやすいはずだし、美しく厳かに舞いたいです。

―今、コロナ禍もあり戦争も起きている時代にこの作品を送るに当たって、どんなものを届けたいですか?

米吉:実際にゲームをやってみて感じたのですが、この作品の主軸は、ユウナとティーダの思いの通じ合い、ティーダとジェクト親子の関係、アーロンとジェクトやティーダと仲間たちの友情や信頼。そこにシーモアの孤独などが織り交ぜられている。他者を思う気持ちが描かれているのは、歌舞伎も同じです。

この物語では、シンという化け物がいて、その化け物は一度倒してもすぐまた復活してしまうけれど、それでも召喚士がいつかは倒すというわずかな希望に賭け、その未来を信じてとにかく今生き続ける。そういった人と人との通じ合い、手を携えていくことの大事さを、お芝居を通じて伝えられたらと思います。

橋之助:米吉のお兄さんがおっしゃった通りで、付け加えることもないのですが……。コロナ禍になってから、劇場に足を運ぶ習慣を含め、演劇の力が以前のようにはまだ戻りきっていないと感じています。

僕は歌舞伎が好きでお芝居が好きな一個人として、日常が戻っていく中で、演劇が日常の娯楽として返り咲けるようにしなくてはと思っています。不要不急じゃないぞ、必要だぞというところは揺るぎない真実だと思っていますから。そんな中、「ファンタジー」で、「歌舞伎」で、「アラウンドシアター」でという、いわば多方面の演劇が力を合わせて一つのものを作るこの作品から、芸能関係者の演劇への思いが伝わればそれもおまけとしてうれしいです。

米吉:そして、歌舞伎でやる以上は歌舞伎としてのどういう魅力を、込められるかどうか。2.5次元という言葉も生まれ、アニメや漫画、ゲームが原作の舞台がたくさんあるこの時代、それを歌舞伎でやる意義を観た方にもやっている我々にも残すためのお稽古を今重ねております。ぜひこの意義を劇場でご確認ください。

Contributor

高橋彩子
舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。「エル・ジャポン」「AERA」「ぴあ」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜を連載中。

 http://blog.goo.ne.jp/pluiedete

ステージインタビューが読みたいなら……

  • アート
  • アート

歌舞伎俳優、尾上菊之助の発案で生まれる木下グループpresents「新作歌舞伎ファイナルファンタジーX」は、名作ゲームの歌舞伎化という初めての試みだ。2023年3月の公演に先駆けて、2022年11月29日に製作発表会見が行われた。

「赤坂ACTシアター」を専用劇場として無期限ロングランする、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」。

1990年に劇団四季にて「オペラ座の怪人」ラウル・シャニュイ子爵役でデビューして以来、数々の主役を務め、現在は舞台に映像に音楽にと活躍。3キャストの中で最も長いキャリアを持つ石丸は、新たな挑戦をどう受け止めているのだろうか。

広告
広告

舞踊・演劇ライターの高橋彩子が共通点を感じる異ジャンルの表現者を引き合わせる『STAGE CROSS TALK』シリーズ。

第4回は、文楽人形遣いで、2021年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された桐竹勘十郎と、舞踊家で、愛知県芸術劇場芸術監督の勅使川原三郎が登場。

おすすめ
    関連情報
    関連情報
    広告