アラウンドシアターで作る、現代的な新作歌舞伎の難しさ
―今回は、IHIステージアラウンド東京での稽古がたっぷり1カ月準備されています。稽古をしてみていかがですか?
米吉:とにかく、この規模と機構に圧倒されていますね。東西南北に分かれて飾り(美術)がありますから、飾りごとの使い方だとか、「あれ、どっちが西だ? どっちが北だ?」など、手探り状態です。
橋之助:本当に、まずはこの劇場がいかに大変か。使いこなせればものすごく面白いものになるはずなので、そのために、自分の中にこの劇場を落とし込んでいるような感覚ですね。身体の運動量は想像していたのですが、頭の運動量もかなりのものです。
―台本を読んで、ご自身の役について感じることを教えてください。
米吉:基本的には「ファイナルファンタジーX」の物語の世界が、ゲームを遊ぶような感覚でどんどん進んでいくのですが、そこに歌舞伎ならではの表現方法、演出方法が盛り込まれています。
難しいのは、ゲームでは主人公であるティーダの目線で話が進むので、映像上はティーダとユウナがいても、プレイヤーの感覚的には「対ユウナ」という感じになりますが、芝居の場合、お客様は俯瞰(ふかん)でご覧になるというところ。ティーダもユウナも登場人物として等しく舞台にいるわけですから、例えば2人の心がどこで通ってくるのかなどはゲームよりも丁寧に組み立てていかなければならないんです。
橋之助:お兄さんがおっしゃる通り、台本はだいぶ俯瞰ですよね。ワッカについては、役の心のお稽古はこれからなのでまだ明言できないのですが、普通のお芝居のように演じていたところ、菊之助のお兄さんに「もうちょっと歌舞伎でやってください」と言われまして。
普通のお芝居は、気持ちが切り替わる時に歩いたり体を振ったりという動作が自然に生まれるけれど、歌舞伎は絵面で正面を向くところもある。そういった「型」としての歌舞伎らしさを使ってくれと。
米吉:その中でこの機構をどう使うかですよね。歌舞伎座であるとか、あるいは普通の劇場でやるのであれば、歌舞伎的な精神性の落とし込みを用いるのも難しくないかもしれませんが、今回は客席が真ん中にあって、舞台が円形状に展開して、それも、通常の歌舞伎のような具体的な美術ではなく、どちらかというと抽象的な舞台が続く。そして巨大なスクリーンで映像を映している。しっかりと美しく見せるのはなかなか大変だなと感じます。