舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」
Photo: (C)宮川舞子
Photo: (C)宮川舞子

舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」主演の一人、石丸幹二にインタビュー

人気作のロングラン公演で大人になったハリーを演じること

Hisato Hayashi
テキスト:: Ayako Takahashi
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タイムアウト東京>カルチャー> 舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」主演の一人、石丸幹二にインタビュー

テキスト:高橋彩子

「赤坂ACTシアター」を専用劇場として無期限ロングランする、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」。物語の舞台は、ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャーが魔法界を救った映画の19年後の世界だ。ハリーは成人し、魔法省の魔法法執行部の部長となっている。ハリーと妻ジニーの次男であるアルバスは、ホグワーツでドラコ・マルフォイの息子スコーピウスと仲良くなり、一緒にタイムターナー(逆転時計)で過去を変えようとするが……。

ハリー役は登場順に藤原竜也、石丸幹二、向井理のトリプルキャストが組まれ、すでに2022年6月から舞台に立っている藤原に続いて石丸が、2022年8月17日(水)夜公演でデビューする。1990年に劇団四季にて「オペラ座の怪人」ラウル・シャニュイ子爵役でデビューして以来、数々の主役を務め、現在は舞台に映像に音楽にと活躍。3キャストの中で最も長いキャリアを持つ石丸は、新たな挑戦をどう受け止めているのだろうか。

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公演が始まっている舞台にどう「乗る」のか

ー本番を間近に控えた今、どのような稽古をされているのでしょうか。

すでに幕は開き、公演が行われていますので、僕は本番が終わった後、もしくはその前に美術、照明、衣装など本番と同じ状態で、舞台上で稽古しています。別のキャストが本番をやっていて臨戦態勢ですから、無意識のうちにその熱を感じ、刺激を受けていますね。

ーそのように公演中の劇場で準備をするというのは、劇団四季では経験されたことですよね?

そうですね。劇団四季では日常茶飯事でしたから「こういう感覚だったな」と思い出します。稽古では私のためにゆっくり動かしてくれる部分もありますが、エスカレーターに乗るのと同じで、すでに動いているものとスピードを同じにして乗る方が、リハーサルがスムーズに進むということを、身体が覚えているんです。

そのためには、公演の熱やせりふの速度、客席の雰囲気などを観察しておくのが一番の近道。楽屋にいてもモニターが映し出してくれるので、一緒になってしゃべってみるなどしてイメージトレーニングをしています。

一緒に稽古を始めた共演者たちですが、実際に板を踏むとさまざまな経験が加わるので、マラソンではるか前方を走っている人を追いかけているような感覚です。

ー海外から演出家をはじめとするスタッフが来た時には、まずハリー役の3キャストが揃って稽古したのですか?

最初はそういうやり方でしたね。僕らハリーは3キャスト、ほかは2キャストもいて、いろいろな組み合わせになるよう、読み合わせから立ち稽古まではイーブンにやっていました。初日の3カ月前から読み合わせがあり、2カ月ぐらい前には稽古場に装置を立て込んでその中で動いて。そこから徐々に先発のキャストたちが慣れるための稽古にスライドしていき、1カ月前にはもう舞台稽古でしたね。

それ以後は、後から出発するキャストのための時間は少なくなりましたが、稽古には一緒に出ていました。こちらとしては、どうしたら今出ている人たちと違う個性を出せるかな?などと考えているうちに、あっという間に自分の出番が近づいてきたという感じです。

先発キャストたちは公演が始まってからも日々変わっていっているので、自分がやりたいアイデアをいきなりポンとぶつけるのも違う。エスカレーターの話と一緒で、まずは彼らのペースに乗って、タイミングを見ながら自分らしさを出していく感じになるのかなと想像しています。

大人になったハリーのもどかしさや葛藤を表現

ーハリー役3人の中で、石丸さんらしさというのはどのようなものになりそうでしょうか?

一緒に稽古をしている時期、「同じせりふを発してもこんなに違うんだね」と3人でよく笑い合っていました。それくらい感性も雰囲気も異なるので、おのずと3者3様になることでしょう。僕はほかの2人よりも年長なので、その分、人生の深みみたいなものは出てくるのではないでしょうか。

映画で描かれるハリーは子ども時代からティーンの終わりくらいまで。あの子が大人になったらどうなるのか、というところで、良い意味で「お客さんたちの期待を裏切りたいね」という話は演出家ともしていたんです。

ハリーは両親がいないまま育っているので、自身の子どもへの接し方をよく知らない。そういうハリーがどのような語り口調になるのか、などと考えて演じるわけですが、そのあたりは3人それぞれ大きく違うところですね。

ー実際、ハリーは次の世代との世代間ギャップも感じる、大人の悲哀や苦悩を持っている味わい深い役ですよね。

いい大人ですよね。それなのにまだ大人として出来上がっていなくて、妻のジニーや、ハーマイオニー、ロンがいないとやっていけないハリーがいる。

一番大きな苦悩は、息子との距離がどんどん離れていくこと。実際、自分たちが思春期だった頃を思い出しても、親に対する態度って容赦がないですよね。それを受ける側の、子どもに言葉が通じないもどかしさ。そこは大人が共感できる点なので、僕なりの解釈で取り組んでいます。

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「ハイテク」に頼らない演劇の魅力を

ー「ハリー・ポッターと呪いの子」はさまざまな趣向が凝らされていますが、石丸さんが技術的に特に難しいと感じるのはどのようなところでしょうか?

ハリーは魔法使いですから、イリュージョンを日常生活の一部として手慣れた形で見せるのが難しいところですね。イギリスから来たカンパニーのイリュージョン指導の方が、恐らく普段はマジシャンだと思うのですが「僕たちも回をこなさないと習得できない。君たちも時間をかけて自分のものにしてほしい。そのうち『どうやったの?』というレベルまでいくから」と言っていて。

演じるとか踊るとか歌うとか、そういうことは日々やっていますが、魔法を使うというのは全く経験がないので、苦戦しています。

ーハリー役の俳優は、薬を飲んでハリーになりすましたスコーピウス役も演じますね。

変身の魔法を使うことでハリーになったスコーピウスを演じるわけなので、いかにスコーピウスの俳優の個性、特徴をつかむかが大事。スコーピウス役は2人いて、全く同じ演技をしているわけではないので、それぞれに合わせて演じ分けるのが僕らの課題ですね。

考えてみれば、ハリーと息子のアルバスは性格も考え方もそっくり。ですから、ハリー役の俳優は、アルバス役とスコーピウス役それぞれ特徴をつかんで2種類の「そっくり」をやるわけです。そのために一緒に稽古もしてきましたが、幕が開いて1カ月以上経ち、彼らが変わってきているので、こちらもブラッシュアップしなければならない。大変です(笑)。

photo: Manuel Harlan

ロンドン公演より、キャストがマントを翻してさまざまな「魔法」を実現(Photo: Manuel Harlan)

ー今はCGなどハイテクの技術を使う舞台も多いですが、この作品は言わば、アナログだけれどもすごい、というところを追求している舞台ですよね。マントを翻してサッと行う転換など、実に鮮やかです。

おっしゃる通りですね。ある意味、今の演劇の風潮に対する挑戦だと思うんです。CGやプロジェクションマッピングもすごいけれど、そういう先端技術にはできないことを大事にしているところも魅力の一つ。

例えば、舞台転換に裏方さんはほとんど出てこないんですよ。ほぼ、キャストが舞台転換しています。転換のたびにマントを翻し、マジックを起こすようにして次のシーンに観客をいざなう。 そんなわけでキャストはほとんど楽屋に帰る時間がなく、4時間近く舞台上や舞台袖にいる。それだけ皆の熱や思いがこもった舞台になっていると思います。

年齢に逆らって挑戦していきたい

ー今、この舞台に出演することは、石丸さんにとってはどんな体験となるでしょうか?

僕は、どちらかというとミュージカルが多いのですが、今回は演技だけで表現していく。しかも魔法を使いながら。エンターテイメントの面白みと芝居の深みの双方を描き出すのは、大きな挑戦ですね。

さらには、ロングランを維持しなければならない。劇団四季でやっていたとはいえ、それを超えていくロングランになる可能性があるので、何度観ても観客に満足してもらえる状態を保つ努力が必要で、ハードなことだと改めて感じています。

ー体力維持が鍵になってきそうですね。

オーディションでも「基礎体力が問われる苦しい作品」「今持っている体力をより高めなければロングランは乗り切れない」と言われまして。トレーニングから食事まで、できるだけ気をつけるようにしています。 実は稽古の初めの30〜40分ぐらいは毎日トレーニングをしているんですよ。振付補が編み出したメニューで、ビリーズブートキャンプのようなものから筋トレ、ヨガまで組まれています。

困るのはトレーニングの後に稽古があるのに、そこでヘトヘトになってしまうこと(笑)。そのうち慣れてくるから、という言葉を信じてやっています。おかげで僕も体重が落ち、身体が引き締まってきていますが、周りの、特に若い子たちはアスリートのような体つきになってすごいですよ。

というのも、舞台転換でマントを振り回すのにも筋力を使いますから。そのためにも激しいトレーニングをやり続けなくちゃいけない。スポーツ選手と共通しますね。

ーこの舞台を通して、石丸さんが俳優としてどうなっていかれるのか、気になります。

また一つ、積み重なるものがあると思うんです。パフォーマンスの幅も広がっていったらいいですし、ロングランを乗り切ることで、さらに自分の可能性も広がるかな、と。年齢を重ねることに、ある意味逆らっていくのも面白いのではないかと考えています。

ーいよいよ8月17日にハリーデビューですね。観客に、何を受け取ってもらいたいですか?

映画や本で「ハリー・ポッター」を知った方に「演劇ってこんなに面白いものなのだ」ということを伝えたいです。リアルに目の前で繰り広げられる世界を五感を使って感じてもらいたい。

芝居としては、ハリーとアルバスの親子の関係性に注目してほしいですね。子どもの成長に伴って、親も成長しなくちゃいけないんだけれど、なかなか同じスピードで進まない。この2人はどうなるのか見届けてください。

ー今おっしゃった「演劇の面白さ」は、コロナ禍でこそ伝えたいものでもありますね。

今はまた感染者が増えてきてはいますが、演劇を続けることも大事だと思うんです。できる人がやって、観られる人が観る。しばらく観劇から遠ざかっていらっしゃる皆さんとも、いつかコロナ禍が収まった時、マスクを外して再会できることを祈りながらやり続けたいですね。

ーロングラン公演ですと、その可能性も広がります。

そうですね。「いつか必ず行ける!」と希望を持ってもらえるよう、頑張って続けていきたいと思います。

Contributor

高橋彩子
舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。「エル・ジャポン」「AERA」「ぴあ」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜を連載中。

 http://blog.goo.ne.jp/pluiedete

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