―間もなく、Kバレエの『白鳥の湖』が開幕。堀内さんは王子役を踊られます。
熊川ディレクターからは前回も、王子らしさはもちろん必要だけれど、何より人間としての魅力を出すべきだと言われて。結婚したくないのに結婚しなければならない、一人前の王になっていかなければならないという、母からの抑圧やプレッシャーだったり、その中で白鳥に出会って恋をして舞踏会では母に反抗して……といった人間らしさを表現して、観客の方々に共感していただけるように作っていきたいですね。
白鳥(オデット)と黒鳥(オディール)を演じる成田紗弥さんとは、2020年に『海賊』を一緒に踊って、今回で2度目。お互いに少しずつ身を任せられるようになってきたよねと話しています。
―5〜7月にはミュージカル『ロミオ&ジュリエット』にも「死」の役で出演されます。初のミュージカル出演ですね。
僕が演じる「死」は、原作にもバレエ版にもない抽象的な役ですし、音楽も振付もバレエとは全然違う現代的なもの。小池修一郎さんの演出も、死のダブルキャストでもある小㞍健太さんをはじめとする皆さんの振付も、今からとても楽しみです。
―8月にはご自身が舞踊監修をする公演『BALLET The New Classic』が控えています。どんな公演なのでしょう?
複数の演目で構成するガラ公演で、現代作品も入れますが、ほとんどは古典。振付は変えず見せ方を変えて、お送りします。きっかけは、バレエは衣装にしろ何にしろ昔からのスタイルで続いているけれど、そうではなく今の人間の感覚で解釈したらどう見えるのかな?と考えたこと。
例えば、バレエの照明は通常、舞台上が全部見えるようまんべんなく照らすことが多いのですが、そうでなくてもいいよね?とか、『眠れる森の美女』のローズ・アダージオも、ピンクのクラシックチュチュでなくてもいいよね?とか。今回、衣装をデザインしてくださるデザイナーは、よく写真を撮っていただくカメラマンの井上ユミコさんが見つけてきてくださった方なのですが、もともとバレエダンサーだったそうで、舞台上で動いた時にどうなるかということをよくわかっていらっしゃるんです。
―衣装の写真を見せていただきましたが、古典とはまるで違う斬新なものばかりで、これらを着て踊るとどう見えるのか、わくわくします。
Kバレエが後援に入ってくれましたし、中村祥子(Kバレエカンパニー名誉プリンシパル)さんも出演してくださいます。公演をゼロから作るのは大変ですが、今の僕やクリエーターの方たちの感覚で、従来とは一味違うカッコいいバレエを表現したいですね。
―2020年秋、プリンシパルに昇格。今後、どんなプリンシパルになっていきたいとお考えでしょうか。ロールモデルはいますか?
もちろん、まずは熊川ディレクター。ディレクターのようには決してなれないけれど、カリスマ的で、ダンサーとしてもちろん尊敬しますし、個人のバレエ団として大勢のダンサーを抱え、日本で一番チケットを売って公演して、男性としてもカッコいい。熊川ディレクターを若い頃から知っている方は、ストイックで誰よりも練習していたとおっしゃっていました。普段はあまりそういう素振りは見せないけれど、今でも努力し続けていてすごい。大きなお手本です。
あとは、アリーナ・コジョカルさんや中村祥子さん。アリーナさんはびっくりするくらい良い人なんです。彼女が何か飲んでいて、女の子たちが「何飲んでいるの?」と聞いたら「これ、アミノ酸で……」と説明していたと思ったら翌日には1袋持ってきてみんなにあげたり、僕がレッスンに遅れて行ったら自分のいた場所を「ショウヘイ、このバーにつかまって。私、階段の手すりにつかまるから」と気遣ってくださったり。スタジオに行ったら誰よりも先に来て身体を動かした後にレッスンに入る姿勢など、とても尊敬します。
祥子さんもみんなから尊敬されていて、それでいて決しておごらない。いつ会ってもにっこりと穏やかにあいさつしてくださって、それだけで今日もいい日だなと思えるんです。表現力も素晴らしくて、『白鳥の湖』のリハーサルで祥子さんが女性ダンサーたちを教えてくださる場面があったのですが、腕の使い方なども全部、言葉にしている。ダンサーは言葉にするのが苦手なのにそれができるということは、これまで全て考えながら踊ってこられたからですよね。
諸先輩方の背中を見てきたなかで思うのは、プリンシパルとは、カンパニーを率いるダンサーとして踊りを誰よりも高めるのはもちろんですが、常にバレエと向き合う真摯な姿勢や人としての優しさ、気配りを兼ね備えるなど尊敬に値する存在だということ。自分もそうした人物像に少しでも近づいていきたいと願っています。