森山開次 ひびのこづえ
Photo: Keisuke Tanigawa
Photo: Keisuke Tanigawa

インタビュー:森山開次×ひびのこづえ

「星の王子さま-サン=テグジュペリからの手紙-」公演に向けて

Hisato Hayashi
テキスト:: Ayako Takahashi
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タイムアウト東京カルチャー> インタビュー:森山開次×ひびのこづえ

テキスト:高橋彩子

誕生以来、老若男女に愛され続けるサン=テグジュペリの絵本「星の王子さま」。これまでにもミュージカルなどさまざまな舞台が作られているが、「KAAT神奈川芸術劇場」で2020年に初演された「星の王子さま-サン=テグジュペリからの手紙-」は、森山開次を演出・振付・出演に迎え、ダンスを中心とする新しい作品として話題になった作品だ。

この舞台を特徴づけていた要素の一つが、ひびのこづえの美しい衣装。長年タッグを組み、魅力的な舞台を送り出している森山とひびのの対談が実現した。

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その衣装だからこその動きを探して

―お二人はこれまでにさまざまなコラボレーションをされていますが、最初の出会いはいつでしたか?

森山:記憶が正しければ2004年にスタートしたNHKの教育番組「からだであそぼ」です。番組が数年間継続している間ずっとご一緒させていただいて、それ以後、舞台でお世話になっています。

ひびの:私はその「からだであそぼ」で森山開次さんという人を知ったのですが、女性ディレクターたちが開次さんに熱い視線を向けていて、「そんなにみんながきれいだと言うなら、裸で踊ってもらった方がいいんじゃない?」なんて憎まれ口をたたいて(笑)。

でも実際にお会いしたら誠実で、みんなを魅了する雰囲気を持っている方でした。何を着せても大丈夫だろうという安心感がありましたが、そういう人を見ると私は逆に意地悪したくなってしまうというか、もう少し違った見え方になったら面白いのではないかと思って、結構あれこれトライしましたよね。

森山:そうですね。ひびのさんはいつも、僕の体のラインを尊重してくださる衣装と、もっといろいろなものを付けて新しい世界を見せてくれる衣装と、両方のベクトルを提示してくれてありがたかったです。だから、番組だけで終わらず、何年もコラボレーションが続いているのだと思います。

―長くやりたいとお互いが感じた理由は何でしょうか?

ひびの:私が2007年に「水戸芸術館」で個展「ひびのこづえの品品 たしひきのあんばい」をした時、開次さんと近藤良平さんという、「からだであそぼ」に関わっていらしたお二人に、同じ条件でパフォーマンスしてもらったんです。

それぞれ全く別の面白さがあって、良平さんは我が道をいくという感じ。一方、開次さんは1回やるごとにどんどん良くなっていって。開次さんの「周りと音楽を聴く姿勢、踊る姿勢、衣装にトライする姿勢」から、一緒にやったら作品がもっと膨らんでいく予感がしたんです。そこから広がっていったと私は思っています。

森山:その時は音楽が川瀬浩介さんでしたが、当日現場に入るまで僕には聴かせないというコンセプトでした。公演自体は2回だったのですが、あまり事前の情報を入れないまま1回目をやって、じゃあ2回目はこうしようと考えるのが楽しかった。ダンスにとって音楽や美術などさまざまな人と向き合うことは重要なので、そこに取り組めてうれしかったです。

僕は踊り手として頑固なところがあるし、自分を貫くことも大事だと考えているのですが、それだけだと限界もある。こづえさんから「これで踊って」と衣装を渡されたら、一見すごく踊りづらそうで、自分だったら要求しないようなものでも踊るしかなくて、そこから「こう動いたらこうなって面白いな」「こうやって動かしたらこんな動きができる」と発見があるんです。

ひびの:踊れない人が着たら多分服に着られてグズグズになってしまうけれど、この人だったら踊りでこの服に息を吹き込んでくれるだろうと思うと、やっぱり着ていない時と違う姿が見たいじゃないですか。

森山:コンテンポラリーダンスでは、常にニュートラルだったり普段と舞台が変わらなかったりすることも多いけれど、僕の場合、演じることも含めて異なる世界観に染まることに喜びを覚えるタイプ。こづえさんの衣装は、いろいろな変身を体験させてくれます。

ボーダーを越える衣装に

―前述の「からだであそぼ」内のコーナー「踊る内臓」から生まれた「LIVE BONE」シリーズ、KAATの「不思議の国のアリス」、そして今回の「星の王子さま」でも、狭い意味での衣装の枠を飛び超えたような美術に近いボリューム、広がりを持った衣装が登場します。その面白さをどう捉えていらっしゃいますか?

森山:舞台美術と衣装は、本来は役割が分かれたものですが、こづえさんとやっているとそのボーダーがクロスしていくのが楽しくて。それは衣装と美術に限ったことではなく、衣装とダンサーの身体のボーダーも曖昧になっていく。

そもそもダンサーにとっては、衣装も美術も同じところで世界を作っていくべきものです。その意味で、クロスする部分が面白みにつながっていったらいいなと思いながらいつも取り組んでいます。

―ひびのさんは、デザインをしながら自然に役のイメージ的なものを膨らませて、大きな衣装などを作るのですか?

ひびの:そうですね。特に演劇は舞台美術がメインになることも多くて、お金のかけ方も0がいくつか違うくらいなんです。そのことにいつも疑問を抱いていて。それに、そもそもダンスでは、例えば大きな壁やタワーがあると、身体が見えてこなくなってしまう気がしています。

かといって、何もない平場で踊るというのも、観客にとっては付いていくのが難しくなるかもしれない。だったら、衣装が少し美術の役割を担って変化を手助けできれば、みんなが身体をずっと見て、その変化も目の当たりにできます。それに、どこにでも持っていけますしね。「LIVE BONE」はシアターでも公演しますが、お城の中でも屋外でもやりました。

―ひびのさんの肩書きは「コスチュームアーティスト」ですが、普段の衣服よりも、表現を担う人が着てその人と一緒に変化していく衣装の面白さみたいなものを、昔から感じていらっしゃったんですか。

ひびの:はい。とはいえ、そういう機会に恵まれないとできないことですから。私は先に演劇の衣装を作っていたのですが、演劇ではその人のキャラクターがせりふの中で決められていて、関係ない動きはなかなかできない。

一方、ダンスやパフォーマンスは身体で表現するので、衣装とは、より密接な関係を保てるところが面白いと感じています。

ですから、開次さんに出会ったのはすごくラッキーだったんじゃないでしょうか。こうやって話していて改めて、もうちょっと開次さんに感謝の言葉を伝えなきゃいけないと、反省しています。

森山:いえいえ(笑)。こちらこそ感謝しています。

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作品を作るまでのやりとりとは?

―さて、「星の王子さま サン=テグジュペリからの手紙」が待望の再演を迎えます。初演の時、お二人はどのようなやりとりをされましたか?

森山:こづえさんとの作業は、お互いのイメージの投げ合いが、楽しく重要なコラボレーションのスタートになります。僕はイメージを育てるために絵を描くのが常なので、こづえさんと話をする前に、実はすごく描くんです。

アーティストであるこづえさんにはその絵は見せませんが、それをもとに「王子はこんなかな?」とか「コロス(群舞)が黒いタイツを履いて、いろいろな形で役柄を表現していく」とか、いろいろなワードを挙げて、こづえさんがそこから発想するのを待ち、「こう来たか!」ということを楽しんで、場合によっては時々ディスカッションしたりします。

ひびの:開次さんは何でも自分でできちゃう人だからなるべく早出しするようにしているのですが、既にもう描いていたんだね! 開次さんは優しさからそれを私には見せないということを今日初めて知りましたけど(笑)、とにかく私は早く出さなくてはといつも思っていて。

そもそも衣装は、実際に着てどうかを見てもらうことが必要なので、プランだけではなく現物も大体、完璧ではないにしても稽古初日には衣装合わせができている状態に持っていきます。

この作品でも最初、物語に出てくるバラたちの顔を出してほしいと言われ、私としては、何としても顔を出さない方向にしたくて開次さんを説得したのですが、実際の衣装があって見せて納得してもらうことが大事。ダンサーにとっては多少動きづらい衣装ではあるので、その意味でも早めに渡すように心がけていますね。

森山:作り方として、動きを作ってそれを見てもらって発想してもらう方法もあると思いますが、こづえさんの時は一緒に稽古場で過ごすというやり方で膨らませていきますね。

僕は、自分だけが踊る時は、こづえさんにはほとんど注文はしないんです。全部受け入れるという覚悟を持っていて、もちろん改善して踊りやすくなる部分は言うんですけど、大きなコンセプトについて絶対にノーは言わない。

ただ、このプロジェクトで僕はキャプテンで、ダンサーたちを扱うし、長い期間の公演なので、そういう意味で踊りに支障がありそうな部分は話し合って、より良い形に持っていく努力はしています。でも、特にメインのダンサーたちは、自分がどう踊って見せるべきかが分かっていて、今回の衣装をより生かすという頭もちゃんと持っているので、一番いいところを調整していく役割だと自任しています。

初演を超える舞台を

―飛行士が砂漠に不時着し、少年の姿をした「星の王子さま」と出会うことから始まる「星の王子さま」の物語。その王子の話に出てくるバラ、狐、蛇などのキャラクターも今回、個性的なダンサーによって踊られます。それぞれの役の衣装のポイントを教えてください。まず、星の王子さまといえば絵本のイラストが浮かぶわけですが、一味違う姿ですね。

ひびの:あのお話は子どもの頃から好きだったのですが、そのまま形にしたら作品として作る意味があまりないのかなと思って。やっぱり、星の王子さまに見えるけど、ここならではのものにしないといけないという強い思いはありました。 ―黄色いスカーフがふわーっと舞い上がる場面が印象的です。

ひびの:あれは星の王子さまの絵を実現させようと思って。王子さまのスカーフは風になびいていますよね。だからバルーンを入れたんです。

森山:デザイン画を一目見て素晴らしいアイデアだな、と。でもずっとバルーンを付けていたら大変なので、どう舞台上で実現できるか一生懸命考えて。最初はバルーンで高く上がったスカーフが客席の空間の方がら見えてくるようなことも考えたのですが、コロナ対策で難しくて、かといって袖から出てくるのではもったいないから、穴からふうっと現れるようにしよう、という風に考えました。

宮川舞子

2020年初演時の舞台写真から(Photo:宮川舞子)

ひびの:小㞍健太さんが演じる飛行士とその周りの白い鳥たちは、ベルトを共通させました。飛ぶ人、という意味合いで。

それからバラはやっぱり、酒井はなさんの顔を中心に花びらで囲みたいじゃないですか。ただ、そうすると足が見えないし、踊る相手の姿も遮断されるから、踊りにくいんですよね。

バラのとげを表した青いひもも、面白いからあえて回るとびゅんびゅん当たるように作ったのですが、自分にも一緒に踊る人にもぶつかるからすごく邪魔。でも、はなさんはしっかりと踊りこなしてくれました。

狐の島地保武さんの尻尾は、人間には付いてないものがそこにだけ付いてるわけなので、それなりの重さがあって体が振られるんですよね。こちらも邪魔だろうと分かりつつ、あえて(笑)。 ―狐は黒タイツでけっこうアダルトな雰囲気でしたよね。

ひびの:だって島地さんがアダルトだから。本当はもっとすごいブーメランパンツにしようと思っていたくらいなんです。大体レースのタイツ自体、みんなを苦しませる(笑)。開次さんにも何度もはいてもらいましたけど。今回も開次さんが演じる蛇はタイツ姿で、装飾などは付けない方がいいだろうという話を最初にしましたよね。

森山:そうですね。そもそも「星の王子さま」の核に迫ろうとする時、ゾウを飲み込んだウワバミの絵なんだけれども帽子に見えたりするという話がありますよね。この作品は、視点を変えることで、人間の見え方が変わってくるとか、生き方が変わって見えるとか、そういうことを扱っていて、それは僕たちがやっているダンスの核でもあることです。

というのも、僕たちがこういうつもりで踊っても、人から見たら違うものに見える。それもいいじゃないですか。当たっていてもいいし、違っていてももしかしたら面白いかもしれない。例えば、全部を狐にしたら誰が見ても分かるけれど、耳や毛は捨てても大きな狐の尻尾だけあれば、島地くんだったら狐に見えてくるだろう、と。

そうやって、蛇も全てを蛇らしくはしなかったんです。僕はこれまでも複数のプロダクションで「星の王子さま」の蛇を演じてきたので、さまざまなアプローチの中で、観客の想像が膨らむ余地を残して、蛇が違うものに見えるようなことがあってもいいのではないかと考えました。

―いよいよ再演です。初演時に衣装を作り終えているひびのさんは、出来上がった衣装で練り上げられるのを楽しみにするお立場ですか? それとも新たに何か工夫を?

ひびの:気持ちとしては、何かやっぱり違うものや、初演でできなかったもの、見えなかったものを見たいという、開次さんに対するリクエストの気持ちはあります。それは別に、ガラッと変えるということではないのですが、人間って記憶が膨らんでいくから、同じことをやっても、初演の時よりもテンションが落ちているように思われてしまうんです。

だから再演では初演以上の何かが必要なのかな、と、今私は開次さんに勝手にプレッシャーをかけていますが、衣装でやれることはそんなにはない。できることならキャストを増やして新たな衣装を作りたいくらいだけれど、そうもいかないので、あとはパフォーマーと開次さんに託すしかないんですよね(笑)。

森山:まずは再演できる喜びがありますが、今おっしゃったような大きな課題はもちろん感じています。大きく変えはしませんが、いかに新鮮に作品に向き合えるかが大事になってくると思います。

今回は初演にはいなかった新しいメンバーも入ってきているので大きな期待もしているし、前回からのキャストも、例えばアオイヤマダさんは前回初舞台に近い舞台経験で葛藤がたくさんあったけれど、2年たって大きく変わっている。やる気、勢いも今すごくありますから、きっとまた違うものを見せてくれるでしょう。

そうやって演者一人一人がこの2年間で変わったものを存分に出してほしいし、僕はしっかりとそのかじを取って、初演を超える舞台を作りたいと考えています。

Contributor

高橋彩子
舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。「エル・ジャポン」「AERA」「ぴあ」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜を連載中。

 http://blog.goo.ne.jp/pluiedete

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