森山未來
Stylist: Mayumi Sugiyama,Hair & Make up: Motoko Suga
Stylist: Mayumi Sugiyama,Hair & Make up: Motoko Suga

インタビュー:森山未來

中野信子、エラ・ホチルドとのコラボレーションに向けて

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タイムアウト東京カルチャー> インタビュー:森山未來

テキスト:高橋彩子

ダンサー、俳優、あるいはボーダーレスな表現者として、多彩な活動を展開する森山未來。次なる舞台「FORMULA」では、脳科学者の中野信子、世界的ダンサーのエラ・ホチルドと共同で構成・演出・振付を行い、自らも出演する。

数学の世界では「公式」、料理の世界では「調理法」、心理学では「身体を動かすための手順」を意味するなどさまざまな意味を持つタイトルのもと、一体どのような作品が出来上がるのか? 創作の経緯や構想を聞いた。

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言葉と身体の関係を模索して

―今回の公演はどのような経緯でスタートしたのでしょうか?

最初に公演のお話をいただいた時、過去に「JUDAS, CHRIST WITH SOY ユダ、キリスト ウィズ ソイ~太宰治『駈込み訴え』より~」というデュオ作品を一緒に作ったエラ、そして数年前にお会いした中野信子さんと一緒に新作を作ってみたいと思い、お二人にお声がけをしました。

さらに今回は劇場の規模が大きいので、セノグラフィーや衣装などしっかり作り込む必要があると考えて、美術家の川俣正さん、デザイナーの廣川玉枝さん、音楽家の原摩利彦さん、サウンドアーティストの佐久間海土さんといった方々とのコレクティブになったという感じです。

―まず人ありきで、そこからタイトルや具体的なコンセプトを決めていったということですね。

そうですね。踊るという行為って、スタイルが決まっているものでない限り、あるいはパントマイムのように表しているものが明確でない限り、どうしても抽象的になってしまうところがある。だからバレエやストリートダンスは観ても、コンテンポラリーダンスとなると敬遠してしまう人が一定数いますよね。

でも僕は様式や説明より、人との関係や言語によって身体が動かされる感覚に興味を持っています。それは俳優業みたいなことをやっているからというのもあるし、この作品の企画時に注目していたのが舞踏だったということもあります。土方巽さんや大野一雄さんが始めた舞踏には「舞踏譜」があり、膨大な言葉で脳をバグらせる、何かまひさせるところから出てくる身体を志向していたりと、言葉と深く関わっていますから。

そうやって言葉と身体の関係性に興味を持つ中で、脳科学者・認知科学者の信子さんの、身体や表現に対する視座がすごく僕には新鮮で。例えば古典力学などでは、地球はなぜこうなのか、どうしてこの物体はこういう形状で立っているのかといったことを解き明かす。でも量子力学や認知科学になると、ある種スピリチュアルだったり、普段何となく感じていることだったりしたものを言語化しているところがあります。

例えば、信子さんとの会話の中で面白かったのはプラセボ効果。ただのブドウ糖が入っている薬包を、白衣を着た医者っぽい人に「これを飲んだら治りますよ」と渡されて飲むと良くなることがある、とか、逆に「だめだ」と言われ続けたら本当にだめになる、とか。非科学的に見えることを科学的な見地からひもとかれる面白さがある。

科学って、今は宗教に取って代わるほど皆が盲信しているものなので、それでは抽象的な身体の動きを目の前にして、それが科学的な知見で動かされているとなったら人は何をどう見るだろう?と発想したところから、動き出した部分もあります。

―情報があるかないかで効果が違うプラセボと同じように、言葉が身体、そして作品にどう作用するかということを模索するということでしょうか?

出来上がった作品の中に、実際の言葉がどの程度見えるかはまだ分からないのですが、信子さんの言葉なりテキストなりは絶対にあるということから作品が立ち上がっています。

だから、信子さんは出演しないけれど、キャストには、クロスリアリティとしての中野信子ということで「中野信子XR」とクレジットしているんです。リアルとデジタルの境目というか、彼女がいるかいないかは分からないけどでも彼女の名前や写真を置くことで何かしらの想像が生まれてくるんじゃないか。そこからどうパフォーミングアーツ、パフォーマンス公演を見せていけるかな?と考えているところです。

舞台と客席を地続きにしたい

―今、コンテンポラリーダンスではなくパフォーミングアーツ、パフォーマンスとおっしゃいましたね。

はい。僕は今回、コンテンポラリーダンス公演とは一切言わず、「没入型パフォーマンス」などと称しています。普通、舞台を見る場合はチケットをもぎられてホワイエから劇場に入って席に座って、開演時間がきたら作品を観る、というのが基本だと思いますが、今回は建物に入った瞬間から川俣さんや佐久間さんや信子さんのアート作品があります。それらを体験してもらいながら、パフォーマンスにつながるように「FORMULA」を立て付けていきたい。

というのも最近、自分自身がプロセニアムの舞台があって、ブラックボックスの中で客席と舞台が対峙(たいじ)するという構造にあまり意識が向いていないんです。虚構の世界を作り上げるのではなく、舞台と観客が地続きになるような作品の方に興味があるというか。

―地続きと言っても、観客とパフォーマーの間には必ず何がしかの線があり、何らかの虚構性が生まれるであろうこともまた面白いですよね。

舞台と客席の方向性が決まっていたとしても、インタラクションのある空間は作れるでしょうが、そうなる手前に、観客が自由な状態で作品を体感する時間を設計してみたい。そこからパフォーマンスを観る時間につながっていくようにしたいと考えています。

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エラ・ホチルドとの凸凹な協働作業?

―公演に向けて、どのようなプロセスを経たのか教えてください。

まず、2022年1月に神戸でワークインプログレス公演があったのですが、エラはパンデミックの関係で来られず、信子さんと二人で行いました。この時は最初のリサーチ期間として、とにかくいろいろな人を呼んでトークセッションをし、コンセプトを深めていったんです。contact Gonzoの塚原悠也さん、神戸のダンスボックスのエグゼクティブプロデューサーであり北方舞踏派の舞踏手だったこともある大谷燠さん、農業史が専門の藤原辰史さん、人類学の研究をしている山極壽一さん……。

その後、6月にパリで、エラと信子さんと3人での創作の時間を作り、1月にやったことを踏まえつつ、あれこれ話し合ったり、僕とエラとで身体のコミュニケーションを取ったりしながら、作品のためのマテリアルを少しずつ積み上げていきました。

―その時、エラさんはどのようなことをおっしゃっていましたか?

信子さんが膨大な知識とさまざまな考え方を投げてくれた中でエラが興味を持ったのは、脳の構造でした。ヒト科の進化の過程の中で脳はどんどん大きくなっていて、まずコアにあるのが爬虫(はちゅう)類的な脳、その上が哺乳類的な脳、さらにその上がいわゆる人類的な脳である、と。爬虫類的な脳は「盗るな、殺すな、犯すな」といった人間が宗教で必ず禁じる本能的な部分、哺乳類的な脳は家族を築いていくとか守り合っていくとかそういったことを司り、人類的な脳は合理性や理論性、想像力や共感力の部分だそうです。

エラは、この脳の層をパフォーマンスに取り入れていくのも面白いのではないかと言っています。これから作っていくので、実際にどのようなものになるかはまだ分かりませんけれど。

―以前の共演から時間がたち、今回、この題材を得て再びエラさんと動いてみて、どんな感覚がありました?

エラとは2012年に「100万回生きたねこ」という作品で振付助手として出会っているので、もう10年ぐらいの付き合いです。彼女がインバル・ピント&アブシャロム・ポラックダンスカンパニー、バットシェバ舞踊団を経てフリーになってからのソロのパフォーマンスをイスラエルで初めて鑑賞したら、身体表現はもちろんのこと、自分のテキストも活用するし、舞台美術的なものも考えるし歌も歌うし、トータルな人なのだと感銘を受けました。

そんな彼女との親和性、自分との相性みたいなものを勝手に想像したところから始まり、それが「JUDAS, CHRIST WITH SOY ユダ、キリスト ウィズ ソイ~太宰治『駈込み訴え』より~」になったとき、やはり彼女のトータリゼーションにすごく共感できました。今回も彼女の的確に物事をとらえていく力、やりたいことがクリアで曲げないところなどに対し、僕は受ける側として、久しぶりの「凸凹な感じ」に安心感も覚えつつ、僕は全体の立て付けを作って、その中でエラがやりたいことをガンッ!とやってもらうのが良いバランスなのではないかと考えているんです。

人間が生きるとは何か

―プレスリリースに「同時代に生きる私達の死生観を再考」とあります。これは具体的にはどういうことなのでしょう?

神戸でのトークセッションで、「人間を人間たらしめるものは何なのか」と聞いて皆さんから返ってきた答えが、僕には似ている印象だったんです。それは、一緒にやっている人間がお互いをどう感じながら動くかということだったり、観客との対話を感じながら空間を動かすことだったり。山極さんは「共感のレベルはシンパシー、エンパシー、コンパッションで、最上位のコンパッションが人間的な部分だ」というようなことをおっしゃっていました。

人類は、集団であること、集団でいられるようになったおかげで、外敵から身を守り、サバイブし、79億人という人口につながった。見方を変えれば、集団から分断されてしまっている状況、社会から弾き出されている状況は、生を意味しないのではないか。物理的に「人間の体が死んでいる/生きている」「動いている/動いていない」ということではなく、集団の中にいること自体が人間にとって生きていることを意味するのかもしれない。

そうした想像から、舞台上で「家族」というモチーフを使おうという話になって。家族は最小単位の社会といわれていて、それは村にも国にも発展し得るのではないかと。宇宙人が来たら人類は皆まとまるのにね、みたいな話がありますが、その意味では79億人の集団幻想だって作れる可能性が絶対にあるわけですよね。そんなふうに、死生観というところから、人間とは何か、そして集団性とは何かを、皆で考えているところです。

同調圧力だとか忖度(そんたく)といった言葉は、今ではネガティブにとらえられがちな単語だけれども、日本人は相手を思いやる能力が高過ぎるあまり、ひねくれておかしなことになるのかもしれないと思ったりもします。

―もし日本人にそういう能力が高いのだとしたら、観客の側も、今は思考がパターン化してしまって感じ取れないものを、パフォーマンスを通して受け取れるかもしれないということでしょうか?

そこまでは考えていなかったのですが……。フランスのポンピドゥー・センター・メスで初めて見た川俣さんの作品は、2011年の東日本大震災の津波にインスパイアされた、廃材を集めて中空につっていくというものでした。僕がその時感じたのは、それぞれの廃材に誰かしらの記憶があるということ。それは、作品のコンセプトが分かっていたから感じたことなんですが。

で、そういう川俣さんの目線が今回の作品に入ってくると考えたとき、川俣さんの作品は一見木材をただ集積したものに過ぎないけれど、その1ピースは誰かの記憶かもしれないし、もしかしたら脳のシナプスの一つかもしれない。だとすれば、それらが組み合わさったものは一人の人の脳に見えたり、人間同士がつながり合って生まれた造形物、あるいは人間の集団そのものみたいに見えたりする可能性もありますよね。

そんな風に、僕の中ではイメージがどんどんつながっていくので、一つのコンセプトを元にいろいろな分野のアーティストが関わっていく中で、複合的な世界を立ち上げていければと考えています。そこに生を感じるのか死を感じるのか、多幸感を感じるのか恐れを感じるのか、それは人によってさまざまでいいと思っています。

衣装提供
コート(13万2,000円/SEVEN BY SEVEN)
シャツ(4万1,800円/Tamme)
パンツ(3万3,000円)、シューズ(6万9,300円、ともにATTACHMENT、全て税込み)

問い合わせ先
Sakas PR
東京都渋谷区神宮前3−15−21 ヒルトップ原宿 301
03-6447-2762

Contributor

高橋彩子
舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。「エル・ジャポン」「AERA」「ぴあ」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜を連載中。

 http://blog.goo.ne.jp/pluiedete

映画やテレビ、舞台などでキャリアを重ね、注目を浴びる俳優、高橋一生。先月にはハードなアクションシーンを含むドラマ「インビジブル」が最終話を迎えたばかりの彼が次に挑むのは、一人芝居「2020」だ。

戯曲は芥川賞作家の上田岳弘による書き下ろしで、演出は高橋と何作もタッグを組んでいる白井晃。高橋自身が両者を引き合わせるなど、企画段階から深く関わっている。彼は一体どのような思いで、どんな舞台を世に送り出そうとしているのだろうか?

「赤坂ACTシアター」を専用劇場として無期限ロングランする、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」。物語の舞台は、ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャーが魔法界を救った映画の19年後の世界だ。ハリーは成人し、魔法省の魔法法執行部の部長となっている。ハリーと妻ジニーの次男であるアルバスは、ホグワーツでドラコ・マルフォイの息子スコーピウスと仲良くなり、一緒にタイムターナー(逆転時計)で過去を変えようとするが……。

ハリー役は登場順に藤原竜也、石丸幹二、向井理のトリプルキャストが組まれ、すでに2022年6月から舞台に立っている藤原に続いて石丸が夜公演でデビューする。1990年に劇団四季にて「オペラ座の怪人」ラウル・シャニュイ子爵役でデビューして以来、数々の主役を務め、現在は舞台に映像に音楽にと活躍。3キャストの中で最も長いキャリアを持つ石丸は、新たな挑戦をどう受け止めているのだろうか。

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舞踊・演劇ライター、高橋彩子が共通点を感じる異ジャンルの表現者に対談してもらう「STAGE CROSS TALK」シリーズ。第3弾には、発表作が常に注目を集める演劇カンパニー、チェルフィッチュ主宰で劇作家、演出家の岡田利規と、ヨーロッパを中心にさまざまな歌劇場で活躍する演出家の菅尾友が登場。

岡田は演劇、菅尾はオペラの分野で、共に演出をなりわいとする1970年代生まれ同士の2人。ベルリン在住でドイツでの活動が多い菅尾だが、岡田もドイツでの公演を多くこなし、ミュンヘンカンマーシュピーレで自作を演出した経験も持つ。前編では、それぞれのジャンルや演出についての考えを聞いた。

異ジャンルの表現者が対談する「STAGE CROSS TALK」シリーズ。劇作家、演出家の岡田利規と、ベルリンを拠点にヨーロッパでオペラを手がける演出家の菅尾友が登場する第3回の後編では、初めてオペラ演出に挑む岡田が、菅尾とオペラについて語り合う。

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熊川哲也率いるKバレエカンパニーのダンサーとして活躍し、2020年10月には最高位であるプリンシパルに昇格。堀内將平(ほりうち・しょうへい)28歳は、今まさに注目のダンサーだ。バレエを始めたきっかけから踊りへの思い、今後の出演作から、今年8月に自ら舞踊監修する公演まで、さまざまに語ってもらった。

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