30年前まで検番(芸者と料理屋・芸者屋・待合との連絡事務所)があり、芸者衆で華やいでいた荒木町。徳川家康が鷹狩りの際に立ち寄った、津の守弁財天の池など江戸情緒が残る名所も多く、今も噺家(はなしか)や作家など、粋を極めた文化人が足繁く通う一帯だ。さまざまな文化や時代が交錯する路地を進み、風情のある割烹で酔いしれるもよし。はたまた、アフリカの酒をあおり、マジックバーで遊び、カントリーソングに包まれてるもよし。個性的な店が軒を連ねる荒木町の夜を探検し、未知なる世界への扉を開いてみよう。
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Magical Bar 荒木町 隠れんぼ
一流マジシャンによるショーを目の前で楽しめるマジックバー。料金は2時間飲み放題でマジックのライブ込みで6,500円から。食事付きなど、用途に合わせてプランが選べる。
マジシャンは日替わりで、メディアで活躍する人気魔術師も登場する。ステージ以外にもテーブルマジックを披露してくれ、本格的なカクテルが飲み放題なのもうれしい。
風船の中からシャンパンが出現、火の中から花が……などサプライズマジックで祝ってくれるパーティープランも好評だ。
旬菜料理 山灯
荒木町には昔ながらの老舗も多いが、世代交代もあり、新進気鋭の料理人による伝統を踏襲した革新的な割烹も増えている。
旬菜料理 山灯は旬の食材を「正しい和食」で味わえる店。あん肝や柿のなますなど、その季節ならではの料理と燗(かん)酒とのマリアージュで夢心地になるだろう。座席は、職人の手業をライブで見ることができるカウンターや、大勢で楽しめる座敷席もある。木〜土曜は夜中まで営業しているので、さまざまなシーンに対応してくれる得難い店だ。
パインフィールド
荒木町のカントリーパブ、パインフィールドはカントリーミュージックの聖地。オーナーのサンシャイン松野はラジオ番組でも長らく活躍した、日本のカントリー界の生き字引のような存在。
運がいいとカウンター越しの生ライブを堪能でき、初心者にも分かりやすくカントリー講座をしてくれる。常連客がエルビス・プレスリーを歌い、生伴奏をカントリー調で、なんてコラボレーションに立ち合えるかも。40年以上使い込んだ鍋で煎ったポップコーンはここでしか食べられない味だ。
Kitchen428
荒木町の夜は長い。そのため深夜にちゃんとした食事ができるバーも多い。このKitchen428も毎晩27時まで営業し、『霜降り馬肉のカルパッチョ』や『エスカルゴと茸のブルゴーニュ風』など本格的なフレンチを提供している。
『鶏白レバーのムース』(800円)など軽めの前菜から、ハンバーグやステーキなどのがっつりとしたメニューまで、気軽にシェアできる居酒屋スタイル。アルコールもワイン、マール・グラッパから焼酎と幅広い。柳新道通りの路地裏にある隠れた名店だ。
トライブス
南アフリカのワイン、ケニアのビール、ガーナのヤシ酒などアフリカ大陸全域のアルコールを堪能できるアフリカンバー。
ラム酒やジンなども豊富で飲み比べてみるのも楽しい。クスクスやラクダのハンバーグなどアフリカの伝統料理も味わうことができ、なかでも南アフリカのソーセージブルボスは南アフリカ政府観光局が認定した本場そのものの味。ジャングルのジオラマがある内装も独特で、アフリカ大陸に上陸したような気持ちになれる。外のテラス席もゆったりしていて心地いい。
三櫂屋
四谷で豚しゃぶ一筋26年の歴史を持つ名店。名物の豚しゃぶ(1人前2,950円)は、ネギと湯葉だけでいただくシンプルなものだ。引き算だからこそごまかしがきかないため、素材は厳選している。
小規模農家で丁寧に育てられた豚肉の香りを生かすために、自家製たれにはあえてかんきつ類を使わず手づくり生しょうゆをベースにきりっと整え、だしには日高の極上三石ケリマイ産昆布を使用している。備長炭と南部の鉄鍋によって適温が長時間保たれ、アクがほとんど出ないのは驚きだ。地酒に合う肴(さかな)も多いので、ゆったりと過ごせるだろう。
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