Tokyo meets the world  UAE
Photo: Kisa ToyoshimaAmbassador of United Arab Emirates to Japan Shihab Ahmed Al Faheem
Photo: Kisa Toyoshima

駐日アラブ首長国連邦大使が語る、ドバイ万博に込められた​​希望のメッセージ

万博開催の意義と感染対策、産油国UAEのSDGsへの取り組みなど

Ili Saarinen
翻訳:: Genya Aoki
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ジェットコースターのようなオリンピックイヤーを東京の人々が振り返っている今、別の世界的な都市がスポットライトを浴びている。アラブ首長国連邦(UAE)で実施中の『2020年ドバイ国際博覧会』だ(2025年には大阪で再び開催予定)。

とはいえ、UAEでホットなのは万博の開催だけではない。このペルシャ湾岸の石油国は今年建国50周年を迎え、コロナ禍による渡航制限をいち早く解除し、その結果、観光客が続々と戻ってきている。また、化石燃料から再生可能エネルギーへの大規模なシフトチェンジの真っただ中にある。そして2021年4月にはタイムアウトマーケットもオープンしたのだ。

これらの話題を紹介してくれるのは、2020年のクリスマスイブに日本に到着して以来、47都道府県のうち31エリアを訪問した熱心な旅行者でもある、UAEのシハブ・アルファヒーム大使だ。東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている『Tokyo meets the world』シリーズの最新版として、同大使に、UAEの意欲的な持続可能な開発目標(SDGs)への取り組み、ポストコロナの観光政策、日本との協力関係、そして、東京からの日帰り旅行のおすすめ情報、東京で最もリラックスできる場所について聞いた。

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日本は進歩と伝統的な心を持ち合わせている

ー日本に赴任して約1年がたちましたが、この国の印象はいかがですか。

初めて日本に来たのは2003年から2004年にかけてです。当時私はアブダビ国営石油会社に勤務しており、同社でビジネス展開のために、日本で日本語を習得する人を募集していました。私はこのチャンスをものにして、やってきたのです。大分県の別府市と東京で半年ずつ過ごしました。(大使就任のために)再び日本の地に足を踏み入れた時は、故郷に戻ってきたような気分でしたよ。

UAEでは皆、日本アニメのアラビア語吹替版を観て育ち、日本の文化に浸ってきました。私たちは、自分たちと比較し、日本がいかに急速に発展を遂げたかを知っていたので、先進国のイメージを持っていたのです。最初に訪れた時には日本に華やかな光を見ましたが、今回の赴任で(UAEが日本に)いかに追いついているか、国として私たちが、どれだけ進歩しているかに気付くことができてうれしかったですね。

日本は進歩的であると同時に、伝統的なものが日本の心を保っています。それが、観光客がこの国にきっと戻ってくる理由でもあるでしょう。

ー東京でお気に入りの場所はありますか。

皇居は東京とは思えないほど、とても穏やかで静かな場所ですね。天皇陛下に信任状を奉呈しに行った時、街の雑踏から、皇居に入った瞬間に雰囲気が一変したことをよく覚えています。私は大きなリムジンに乗っていましたが、窓の外を見て自分がまだ都会の中にいることを確認しなければならないほどでした。皇居周辺はとても静かで、ランニングやサイクリングにも適しており、気に入っています。

UAE大使館は渋谷の近くにあるため、代々木公園や表参道に行って散歩やランニング、サイクリングをするのも好きですよ。たまに銀座で会議があると約9キロの距離を歩いて帰ったり、サイクリングでは朝に25キロ、夜に25キロほど走ったりする日もありますね。東京でのサイクリングはとても気持ちが良いんです。ただ、交通量が多いのが難点ですが......(笑)。

週末には、電車や車に乗って県外へ出かけることにしています。比較的近場でお気に入りの場所は、日光です。自転車に乗って中禅寺湖から温泉まで走り、また下ってくる。日光は東京よりも10〜15度ほど気温が低いことが多いので、気候の変化を楽しむことができます。

ーオリンピックが終わった今、東京や日本の将来に期待することは何ですか。

観光客が戻ってくることがとても楽しみですね。私が着任した12月以降、観光客の出入国を経験していませんが、日本が主要7カ国(G7)の中で最も新型コロナウイルスのワクチンを接種している国の一つになることで、状況が変わることを期待しています。

訪日観光客の数を見ると、2010年に1000万人でしたが、その後のプロモーション活動などにより、2019年には3000万人に増加。東京2020オリンピックまでには4000万人という予想でしたが、コロナ禍が始まってしまいました。

しかし、観光は必ず立ち直るでしょう。私の日常的な仕事の一つは、日本を訪れたい人々からの問い合わせに答えることです。「日本にはいつ行けるようになりますか?」という質問は、私の国、そして世界中にどれだけ日本のファンがいるかを物語っています。

万博では「物事は正常に戻っている」ことを発信したい

ー2025年には大阪万博が開催予定ですが、今年はドバイで万博が開催されていますね。UAEは困難な状況化の中で、このような大規模なイベントを実施するに当たり、どのような対処をしたのでしょうか?

万博とオリンピックが同じ年に開催されるのは今回で3回目ですが、どちらも延期になったのは初めてのことです。『ドバイ万博』では、世界に向けて「物事は正常に戻っている」という希望のメッセージを発信したいと考えていました。オリンピックを巡る東京へのプレッシャーは大変なものでしたが、思い切って開催に踏み切ったのは素晴らしいことだったと思います。東京オリンピックの成功が、ドバイ万博の成功にもつながっていくのではないでしょうか。

万博終了時(20223月)には、2500万人の来場者を見込んでいます。全ての参加国が熱心に取り組んでおり、最初の6週間で350万人の来場を記録。20211月から10月の間に、2050万人の旅行者がドバイ空港を利用しました。同空港では1日に10万回、アブダビ空港では2万回のPCR検査を行うことができます。UAEでは1日合計30万件のPCR検査を実施していますが、1日当たりの感染者数(報告)は60件以下です。

また、「Al Hosn」という全国共通のアプリケーションがあり、さまざまな場所へ入場する際に使用されています。UAEに行く予定がある人は、ワクチンの接種証明書をアップロードし、このアプリをスマートフォンにダウンロードしてください。日本での証明書が反映され、UAE全域で利用できるようになります。

私たちの国境は以前から開放されているので、「日本はいつ観光客の受け入れを再開するのか」という問い合わせがよくあるのです。

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産油国であると同時にゼロカーボンで大きな役割を果たしたい

ー日本とアラブ首長国連邦の関係についてはどうお考えですか。

来年はUAEと日本の関係が50周年を迎えます。日本とUAEの関係は非常に緊密ですが、それは両国の歴史が似ているからでもあるでしょう。日本は明治維新後の50年間で封建的な国から工業国へと移行しました。対して、UAEも(1971年の建国以来)インフラ、医療、教育などの面で急速に発展を遂げた国です。

日本もUAEも、2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出量をゼロにするという目標を掲げています。私たちは産油国ですが、ゼロカーボンで大きな役割を果たしたいと考えているのです。UAE政府は、最後の石油1バレルが出荷された時に泣くのではなく、それを祝いたいと発表しています。そのためには今から準備が必要でしょう。

私たちは、2007年から日本と協力して(化石燃料から)自然エネルギーへの移行を進めています。UAEには世界最大規模の太陽光発電所があり、1キロワット当たりの発電コストは1.35セントと、世界で最も安価。UAEでは、エネルギーの約36%をクリーンエネルギーで賄うことができるようになるでしょう。

日本では、エネルギーミックスの中で石炭を維持していますが、排出量を相殺してカーボンニュートラルにするために、アンモニアや水素エネルギーの導入を推進しています。

ここで私たちの出番です。私たちは、日本が技術を持っている水素とアンモニア燃料を(UAEで生産し)日本に供給する契約を結びました。また、2013年から炭素の回収と貯留を行っており、その量は約80万トン、自動車なら20万台分と同等です。2030年までにこの数値を6倍にしたいと考えています。

さらに昨年は、アラブ・イスラム諸国初の惑星間探査機である火星探査機を、日本と共同して鹿児島県種子島から日本のロケットを宇宙に送り出しました。

UAEの国営石油会社は今後原子力と太陽光発電のみを利用

ー日本ではSDGsが注目されるなど、持続可能な開発への関心が高まっています。再生可能エネルギーについて触れられましたが、UAEが取り組んでいる主な持続可能性のための取り組みは何ですか。

UAEの国営石油会社は、今後原子力と太陽光発電のみを利用する方向に動いています。これにより、CO2排出量の約3分の1が削減され、ゼロカーボンの目標に近づくでしょう。我々の地域では初となる原子力発電所を開設し、4基の原子炉のうち2基がすでに稼働を始めました。この発電所が全て稼働すると、320万台の自動車が道路から消えるのに相当するCO2排出量を削減できます。

CO2排出量を削減するために行っていることは、石油の使用量を減らすだけではありません。私たちはすでに多くのマングローブを植林しており、今後5年間でさらに多くの植林を行う予定です。マングローブ林は、熱帯雨林よりも1ヘクタール当たりの炭素吸収量が多く、見た目も美しく、生物多様性にも役立つでしょう。

さらに、UAE30カ国以上のエネルギープロジェクトに参加しています。エネルギー関連の投資ポートフォリオは、カリブ海の再生可能エネルギーファンドを含め50ギガワット以上をカバーしており、それによって世界(の脱炭素化への取り組み)を支援しているのです。日本には再生可能エネルギーの技術があり、困難な状況にあっても前進する日本人特有のメンタリティーがあり、日本の将来もきっと明るいと信じています。

シハブ・アハマド・アル・ファヒーム(Shihab Ahmed Al Faheem) 

駐日アラブ首長国連邦大使

もっと『Tokyo meets the world』シリーズを読む……

  • Things to do

『東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会』(以降『東京2020』)が終わった今、多くの人は、新たな東京のビジョンを指し示すための新鮮なアイデアやインスピレーションを求めていることだろう。これまでも、東京在住の駐日大使へのインタビューシリーズ「Tokyo meets the world」を通して、持続可能な取り組みに焦点を当てながらも、幅広く都市生活における革新的な意見を紹介してきた。

今回は、2020年秋から東京に在住しているフランスのフィリップ・セトン大使にサッカー日本代表監督フィリップ・トルシエのアシスタントを務めたことでも知られているパリ出身のジャーナリスト、フローラン・ダバディがインタビューを実施。グリーンエネルギーや都市計画など、日仏両国が直面しているサステナビリティに関するさまざまな課題を語ってくれた。

また、『東京2020』のレガシーが2024年のパリオリンピックにどのような影響を与えるか、パラリンピックがどのように社会変革に貢献できるかなどについても提言。さらに、東京でおすすめの美術館や午後に食べたい懐かしいフランスの焼き菓子についても教えてくれた。

  • Things to do

駐日大使へのインタビューシリーズ「Tokyo meets the world」第3回は、インド。2019年1月から大使に就任したサンジェイ・クマール・ヴァルマに、国際情勢から東京での生活まで幅広く話を聞いた。大使は、両国間のビジネスや技術などの交流を深めるため尽力しながら、博物館巡りや皇居の庭園を散策する時間も大切にしている。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談では、新型コロナウイルス感染症への対応からSDGsに対するインドのアプローチなど、重要な問題を語った。また、東京で一番のインド料理店を選ぶことができない理由や、インド人が日本のカレーをどう思っているかなどについても自身の考えを伝えてくれた。

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  • Things to do
コーディネート:Hiroko Ohiwa

東京から世界中のイノベーティブな視点を幅広く取り上げるため、東京在住の駐日大使にインタビューしていく『Tokyo meets the World』シリーズ、第2弾はベルギー王国。

ベルギーといえば、多くの日本人にはチョコレートやワッフル、ビールなどが身近だろう。しかし、この西ヨーロッパの王国が、世界的な人気キャラクター、スマーフの生まれ故郷であるとともに、世界第4位の洋上風力エネルギー生産国であり、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を推進する先駆者でもあることも知ってほしい。

2019年に就任したロクサンヌ・ドゥ・ビルデルリング駐日大使にインタビューを依頼したところ、快く応じてくれた。ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントで、SDGs関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司と対談を実施。SDGsや環境に優しい世界経済に対するベルギーの貢献について詳細に語った。

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  • Things to do

ラテン系のリズムが好きな読者ならご存知の通り、東京は意外にも世界有数のタンゴの街だ。コロナ禍以前は、首都圏で少なくとも10以上のミロンガ(定期的に開催されるタンゴのイベント)が開催されており、その数はおそらくブエノスアイレスに匹敵する。

しかし、アルゼンチン共和国(以下、アルゼンチン)の東京への貢献は情熱的なダンスだけではない。がっつりとしたサンドイッチの「チョリパン」や肉料理の「アサード」といったおいしいアルゼンチン料理が楽しめる。さらには、同国の国民的な菓子である「アルファホーレス」や人気チョコレート『ボノボン』の日本限定品をコンビニエンスストアで買うのが好きな人も多いだろう。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回は2021年4月に就任したギジェルモ・フアン・ハント大使に話を聞いた。自国がこれだけ文化的で食生活も豊かなため、比較的スムーズに公務を開始できたのではないだろうか。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、ハント大使は東京の印象、日本でアルゼンチンの牛肉がより手に入れやすくなるかもしれない理由、そして日本とアルゼンチンがよりグリーンでサステナブルな社会に向けてどのように協力しているかについて語ってくれた。

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