Ambassador of the Kingdom of Belgium to Japan, Roxane de Bilderling
Ambassador of the Kingdom of Belgium to Japan, Roxane de Bilderling(Photo: Kisa Toyoshima)
Ambassador of the Kingdom of Belgium to Japan, Roxane de Bilderling(Photo: Kisa Toyoshima)

駐日ベルギー王国大使に聞く、カーボンフリー経済への道しるべ

SDGsに向けたベルギーと日本のパートナーシップ

Ili Saarinen
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コーディネート:Hiroko Ohiwa

東京から世界中のイノベーティブな視点を幅広く取り上げるため、東京在住の駐日大使にインタビューしていく『Tokyo meets the World』シリーズ、第2弾はベルギー王国。

ベルギーといえば、多くの日本人にはチョコレートやワッフル、ビールなどが身近だろう。しかし、この西ヨーロッパの王国が、世界的な人気キャラクター、スマーフの生まれ故郷であるとともに、世界第4位の洋上風力エネルギー生産国であり、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を推進する先駆者でもあることも知ってほしい。

2019年に就任したロクサンヌ・ドゥ・ビルデルリング駐日大使にインタビューを依頼したところ、快く応じてくれた。ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントで、SDGs関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司と対談を実施。SDGsや環境に優しい世界経済に対するベルギーの貢献について詳細に語った。

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ブリュッセルはエネルギー効率化において先進的な都市の一つ

ー日本では、SDGsが注目されるなど、持続可能な開発への関心が高まっています。ベルギーはサステナビリティに対してどのように取り組んでいるのでしょうか。また、日本の取り組みについてはどう思われますか。

ベルギーも日本も、SDGsにはとても熱心に取り組んでいると思います。気候変動やグリーンエネルギーは、両国のパートナーシップによって目標達成に貢献できる分野です。また、健康維持に向けた取り組みという点では、両国は全世界のワクチンへのアクセスを改善するコバックス(COVAXCOVID-19 Vaccine Global Access)の活動に実際に貢献しています。

また、ベルギーの当時の開発協力大臣(現首相)が民間企業の参加を促すために始めた「SDGsプラットフォーム」は着目すべき取り組みです。企業が目標達成のために署名する憲章を制定したもので、後に他国でも採用されました。

ほかにも、SDGsが発表された当初は「人々がSDGsを理解できないのでは」という懸念がありました。そこでベルギーの漫画家、ペヨの「スマーフ」キャラクターが、SDGsを推進するためのシンボルの一つとして使われました。

ー日本とベルギーが一緒にできることはたくさんあるのですね。

そうですね。気候変動の面では、日本は最近、カーボンフリー経済への取り組みを再確認しましたね。もちろん、私たちも脱炭素社会を目指していますから、これは喜ばしいことです。この分野では、ベルギーと日本が協力してできることがたくさんありますし、すでに多くのことが行われています。

まず、ベルギーは世界第4位の洋上風力エネルギー生産国ですが、その投資の一部は日本の協力を得て実現したものです。また水素に関しては、先日、日本で初めての水素を燃料とする旅客船の進水式に出席しました。これはベルギーと日本の企業による共同事業であり、この分野における多くのパートナーシップへの道を開いています。海運業はより環境に優しい技術の恩恵を確実に受けることができる分野であり、それは世界中の貿易に影響を与えるでしょう。

また、エネルギーの効率的な供給にも積極的です。ベルギーの企業で、日本の高圧線にセンサーを設置し始めた会社があります。この「インテリジェント」なセンサーによって、エネルギーをより効率的に供給することができるのです。

さらに、エネルギーの効率化についても日本とベルギーは協力できるでしょう。ブリュッセルは、エネルギー効率の高い建物を建設することにおいて、先進的な都市の一つです。古い建物がたくさんあり、改築の必要があるのですが、その際にブリュッセルは、エネルギー効率の高い建物に投資するという計画性のある方法を取りました。またゼロエミッションの建物だけでなく、そこに建物がないよりはあった方がいいという考えに基づきポジティブな印象を与える建物にも投資をしています。

周りを見渡してみると、東京では、次々と新しいビルが建っています。ですからこの分野でも両国はうまく協力していけると思います。環境に配慮したビルに投資することで、日本が目標としている脱炭素社会の実現に貢献できる可能性があるのです。

明治神宮の森が好き

ー日本に対する大使の印象を教えてください。また、就任前と後では、考えには変化はありましたか。

アジアでは日本が初めての赴任地です。以前はアフリカに赴任していたので、その点ではかなりの違いがあります。大使として来日する前に、外務大臣の公式訪問に同行する機会がありました。その時体験が素晴らしくて、駐日大使のポストを希望し、願いがかなったというわけです。

日本での生活で一番実感したことは、地方と東京の生活がいかに違うかということですね。私にとって予期せぬことだったので新鮮でした。地方の街は充実していて、多くの発見があり、すてきだと思います。もう一つ日本の素晴らしい点は、どこに行っても無料で清潔な公衆トイレが使えること。とても快適です。

ーすでに日本国内をかなり旅しているのですね。

はい、もちろん仕事で色々な場所を訪れますが、プライベートでも時間があれば、家族と一緒によく旅行に出かけています。最近は伊豆半島に行きました。緑が鮮やかな森の中を抜ける、小さい曲がりくねった道がとても美しかったのをよく覚えています。私は自然が好きなので、東京にいても、都市の喧騒(けんそう)から逃れ、自然とのつながりを取り戻したいとよく思っています。

日光にある中禅寺湖も素晴らしいですね。九州も好きで、鹿児島まで家族旅行も楽しみました。小さな路地や歴史的建造物のある京都も大好きな場所の一つです。

ー東京でお気に入りの場所などはありますか。

いくつかだけに絞って挙げるのは悩ましいですね。ですが、先ほど話した通り、私は自然がとても好きなので、よく緑の中へ散歩に出かけます。なかでも、明治神宮の森は大好きな場所の一つです。とても静かで、巨大な都市の中にあるにもかかわらず、印象的な雰囲気があります。また、皇居や赤坂御用地の周辺、柴又や下北沢、谷中のような個性的で小さな街を散策するのも好きです。

柴又が好きなら、主人公の寅さんが柴又出身の映画(『男はつらいよ』)を観た方がよい、と先日勧めてくれた人がいました。もちろん、観てみようと思っています。映画やアニメは自国の文化を宣伝する優れた方法ですが、日本はそれをとても効果的に行っています。

日本はマンガやアニメでポジティブなイメージを印象づけるのが上手です。ベルギーにも「タンタン」や「スマーフ」などのコミック文化がありますが、両国のコミックアーティストを結びつけるために、もっとできることがあるはずだと考えています。

例えば、『フランダースの犬』というアニメは日本ではとても人気がありますが、ヨーロッパではほとんど知られていません。物語の一部はアントワープを舞台にしていて、アントワープの大聖堂の前には少年と小犬の銅像があります。日本人観光客はみんな知っていますが、通りすがりのベルギー人に聞いても何も知らないでしょうね(笑)。

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東京でお気に入りのベルギー料理の店

ー外務省にいた頃は、新霞ヶ関ビルにあるベルギー料理の小さなレストランをよく利用していました。おいしいコーヒーとさまざまな種類のビールが楽しめます。東京でお気に入りのベルギー料理の店はありますか。

夫の料理がとてもおいしいので、家で食べるのが一番好きです(笑)。お店では、ベルギーの駅や主要な町の名前を付けたレストランチェーン、ベルジアン ブラッスリーコートや、デリリウムカフェがあります。ほかにも、新宿のブラッセルズビアプロジェクトや丸の内の東京ビアパラダイスもいいですね。また、シャン・ドゥ・ソレイユというレストランではケータリングもやっています。

ピエールマルコリーニゴディバ、マダム ドリュック、ガレー、レオニダスなど、ベルギーのショコラティエのチョコレートは、日本でも人気がありますね。また、マネケンというブランドのベルギーワッフルは多くのスーパーで販売されています。

ほかにも、『ベルギービールウィークエンド』は、日本全国の数都市で開催されていて、ビールだけでなく、フライドポテトやチーズなど、ベルギーの代表的な料理を味わうことができる素晴らしい機会です。音楽が流れると、ブリュッセルのグランプラスにいるような気分になりますよ。

今年は緊急事態宣言のためいくつかのイベントが中止になってしまいましたが、今後は豊洲(2021917日(金)~26日(日))などで『ベルギービールウィークエンド』が開催される予定です。

ー東京でベルギーやその文化を知るにはどうしたらいいでしょうか。

一番の方法は、(大使館の)SNSをフォローすることです。イベントを開催したり、ベルギーの伝統的な料理のレシピの紹介するシリーズなどを発信しています。ベルギー文化のさまざまな側面にスポットを当てており、日本とのつながりを見出せるでしょう。もちろん、バーが再開されたら、飲みに行くのも文化を知る良い方法です。

学生交換プログラムや奨学金制度もありますので、学生の読者の方はそちらも検討してみてはいかがでしょうか。留学卒業生とは常に連絡を取り合い、ベルギーでの経験について話してもらう機会を設けるようにしています。

欧州連合(EU)やフランコフォニー国際機関(フランス語圏)のメンバーとして、学校を訪れ、ベルギーのことを話し、ベルギー文化を広めてもらっています。

今でも東京オリンピックが好奇心を刺激することを願っています

ー今年の東京オリンピック・パラリンピックを安全に開催するための議論が続いていますが、大会後の東京や日本はどのように変化するとお考えですか。

オリンピックがどのように開催されるのか、観客の入場は許可されるのか、など多くの不確定要素があります。大会は盛大なパーティーになる予定でしたから、私たちの文化を紹介する絶好の機会でもありました。しかし、今大会はそうした状況ではなく、とても残念です。人々の大会に対するイメージも変わってしまっています。

とはいえ、今夏の大会はアスリートたちがその瞬間のために5年前から準備し、懸命にトレーニングを重ねてきたことを強調することが重要だと思います。

オリンピック・パラリンピックは、本来、多文化共生や寛容性を象徴する祭典です。コロナ禍以前の私なら、大会中のあらゆる交流が日本人の海外に対する見方を確実に変えていくだろうと話していました。ですが、現状では海外の人たちとの一体感を得るのは少し難しいですね。それでも私は、今でもこのイベントが好奇心を刺激することを願っています。もし、それができたなら大きな成功と言えるでしょう。

パラリンピックに関して話すと、身体的なアクセスや社会的な受容性など包括性の面でまだまだ改善すべき点があります。今大会がそういったことにおける人々の認識を変えることにつながれば、それは素晴らしいことだと思います。

ロクサンヌ・ドゥ・ビルデルリング(Roxane de Bilderling)

駐日ベルギー王国大使

1974年生まれ、2000年にベルギー外務省入省。2002年から2007年まで在ケニアベルギー大使館一等書記官(ソマリア、エリトリア、コモロ、セーシェル、マダガスカル管轄内)、国際連合環境計画・国際連合人間居住計画(ハビタット)常任委員会副代表。2007年から在南アフリカベルギー大使館参事官、在コンゴ民主共和国ベルギー大使館参事官、ベルギー外務省 大臣付顧問(アフリカ政策)、駐ケニアベルギー大使、国際連合環境計画・国際連合人間居住計画(ハビタット)常任委員会代表などを歴任した後、2017年にベルギー外務省 大臣官房長として従事。2019年に駐日ベルギー王国大使に着任。

高橋政司(たかはし・まさし)

ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント

1989年、外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局にて経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。 2009年、領事局にて定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。 2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、ユネスコ(国連教育科学文化機関)業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」などさまざまな遺産の登録に携わる。

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