Tokyo meets the world: Panama
Photo: Kisa ToyoshimaAmbassador of Panama to Japan Carlos Peré
Photo: Kisa Toyoshima

駐日パナマ大使が感じた素晴らしき日本と知っておくべきパナマの今

東京散歩で発見したこと、伝統音楽ティピコの魅力やカーボンマイナスの国になったワケ

翻訳:: Genya Aoki
広告

激動のオリンピックイヤーが終わった今、多くの人は、これからの東京や日本の新しい方向性を示す新鮮なアイデアやインスピレーションを求めていることだろう。タイムアウト東京は『Tokyo meets the world』シリーズを通して、東京在住の駐日大使へのインタビューを続け、文化、観光、都市生活に関して幅広い革新的な意見を紹介してきた。

その中でも、より環境に優しく、幸福で安全な未来へと導くことができる持続可能な取り組みに特に焦点を当ててきた。

今回は2019年10月に来日し、東京の街歩きを精を出すうちに、路地裏のラーメン屋を愛するようになったというパナマ共和国(以下、パナマ)のカルロス・ペレ大使に話を聞いた。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、パナマのカーボンマイナスへの取り組みが世界の模範となることや、有名なゲイシャコーヒーの生産がSDGsとどのように結びついているかを説明。また、パナマのストリートフードや民族音楽、同国発の寿司チェーン店がラテンアメリカで旋風を巻き起こしていることなども紹介してくれた。

関連記事
Tokyo meets the world

歩くことは東京を知る最適な方法

ー赴任したのはコロナ禍の直前でしたね。どのようにして東京になじんでいったのでしょうか。

ちょうど天皇陛下が即位の礼を行った時期に来ました。家族一緒に来られなかったので大変でしたが、そのおかげで時間ができたため、東京の街をあちこち歩き回ったんです。小さな路地を通って、おいしいラーメン屋や小さな寿司屋を発見しましたよ。

週末には、16キロほど歩いた日もあります。ドライバーにスカイツリーまで送ってもらい、そこから以前住んでいた渋谷まで3時間くらいかけて歩くのですが、コロナ禍の影響もあって人通りが少なく、楽しかったですね。

歩くことは街を知るのに最適な方法です。車を運転していると通り過ぎるのが早いし、自転車だと気をつけないといけないので、私は東京の皆さんに歩くことをお勧めしています。歩くことで街をより深く知り、健康も維持できるでしょう。東京は安全なので、どこへでも歩いて行けますよ。今は自分が発見した場所に家族を連れていくなどして、東京の生活を楽しんでいます。

今では日本の大ファンに

ー大使就任後、東京や日本に対する印象はどのように変わりましたか。

日本にいると、「なぜ今まで訪れなかったのだろう」と何度も自問してしまいます。日本のことを知りたいという気持ちはありましたが、あまりにも遠い国だと思っていました。しかし、今では日本の大ファンです。可能な限り全ての人に日本を訪れ、文化、料理、人々の優しさ、自然を体験してほしいと思っています。日本は私の期待以上の国です。安全で、教育水準が高く、公共サービスや交通機関が充実しています。

私たちラテンアメリカ人は(日本人より)もう少し陽気で、表現が大胆で声が大きいのですが(笑)、私は日本で過ごす全ての瞬間が楽しくて仕方ありません。

東京は、世界で最も人口の多い都市の一つですが、私の国と比べて渋滞がほとんどないことには感心しました。また、日本の歴史について学ぶことも好きです。本を読み、かつての日本がどのようにして今の状態になったのか自分の目で確かめています。個人的には、日本は世界で最も強い経済力を持っていると信じていますが、それは自分の目で見て体験したからこそのものです。

ー東京以外の場所にも足を運びましたか。

はい、2019年11月に妻と京都に行きましたよ。これほど多くの人が一つの場所に集まっているのを見たのは初めてでした。その後、パンデミックの最中にも再訪したのですが、その時はまるで街を独り占めしていると感じました。そのほかにも、沖縄、長崎、広島、ニセコを訪れたことがあります。ニセコには素晴らしいスキー場がありますし、信じられないほどおいしいラーメンがあり、ラーメンのためだけにまた訪れたいくらいです(笑)。

今治を忘れてはいけませんね。今治はパナマ市の姉妹都市であり、造船業が盛んなこともあって、私たちにとって非常に重要な場所です。私ももちろん訪れたことがあります。日本が所有する船舶の60%はパナマの旗を掲げていますし、日本はパナマ運河を世界で2番目に利用しているんですよ。

次は福岡、そして沖縄の石垣島に行きたいと思っています。(日本の)冬は寒過ぎるので、春になったら旅行を再開したいですね。

広告

パナマが持つ恵まれた立地条件

ーパナマ運河の話が出ましたが、パナマの立地条件は世界でも有数です。その立地条件が国の大きな強みですよね。

私たち(パナマ)は地理的に恵まれた位置にあります。世界の貿易の8%、日本で使われる液体天然ガス(LNG)の80%がパナマ運河を通っています。また、パナマには国連のアメリカ大陸「人道的ハブ」があり、自然災害が発生した時に速やかに中南米諸国に配布できるよう、必要物資が保管されているのです。海底インターネットケーブルもパナマに敷設されています。南はアルゼンチンから北はカナダまでつながっています。

また、パナマは高度な銀行システムと米ドルの流通により、ラテンアメリカでビジネスを展開しようとする多くの企業の拠点があります。

パナマ発の寿司フランチャイズが普及

ーパナマ料理は東京でも食べられますか。

残念ながら、日本には約100人のパナマ人しかいないこともあって、食べられません。しかし、パナマ料理に興味があるなら、チキンライスとバナナの付け合わせや「エンサラダ・デ・フェリア」というビーツ入りのポテトサラダや、タマルといったお祭りで提供するストリートフードを食べるのをおすすめします。

一方パナマでは、20年前には寿司やラーメンはそれほど普及していませんでしたが、今ではNacion Sushiというパナマ発の寿司フランチャイズがあります。中米やメキシコ、スペインにも店舗展開しており、寿司が世界的に普及していることを示す良い事例でしょう。東京で食べるようなものではなく、洋風の寿司ですけれどね。

広告

パナマ人が踊り続けてきた音楽

ーサルサやタンゴなどに比べて、パナマの伝統音楽は日本ではあまり知られていません。簡単に紹介していただけますか。

パナマの「ティピコ」と呼ばれる音楽は、あまり商業的ではないフォルクローレ音楽です。ルーベン・ブラデスや、ここ数年ラテンアメリカで最も人気のあるアーティストの一人であるセッシュのような有名なパナマ人歌手の音楽とは異なります。

ティピコは、パナマの都市から離れた内陸部で聴かれるような音楽で、人々はこの音楽で踊り続けてきました。ロス・サントス県とエレーラ県が発祥の地で、ここでは、パナマ人にとって毎年最も重要なお祭りであるカーニバルが開催されます。

サンドヴァル兄妹のサミーとサンドラや、オスバルド・アヤラなどがティピコの有名な歌手です。ティピコのほかにもサルサやメレンゲがあり、ラテンレゲエはパナマで始まったものですが、現在はプエルトリコがその市場で大きなシェアを占めています。

SDGsとゲイシャコーヒー

ー最後に、日本ではSDGsが注目されるなど、持続可能な開発への関心が高まっています。パナマが取り組んでいるSDGsについて教えてください。

パナマは、ブータン、スリナムと並んで、世界で3例目の「カーボンマイナス」の国として重要な役割を果たしています。また、パナマ運河は、環境に配慮した船舶にインセンティブを与えることで、二酸化炭素(CO2)排出量削減にも貢献していますね。大統領が力を入れている政策の一つは、パナマの飢餓をなくし、より平等な国にすることです。外務大臣と2人の副大臣は女性で、男女平等へのコミットメントを示しています。

SDGsへの取り組みは、コーヒー生産にも表れています。有名な「ゲイシャ」という豆は、エチオピアのゲシャという地域が原産地ですが、もともとは20世紀半ばに、ある科学者がコスタリカに持ち込んだものでした。1970年代にパナマのコーヒー農家が試してみようと自分の農園にも植えたのです。

そして2004年に、彼は毎年行われるコーヒーオークションに出品。通常のコーヒーの価格は1ポンド(453.6グラム)当たり、80〜90セント(※日本円でおよそ90〜102円)程度でしたが、ゲイシャは3ドル(約340円)で日本の会社に落札されたのです。これが注目され、ゲイシャの評判は一気に高まりました。2021年には、1ポンド2,800ドルで販売されています。

商品に良質なストーリーを確立するには、長い時間がかかります。ゲイシャの場合はエチオピアで始まり、気温や湿度、標高など栽培に適した条件がそろったパナマでやっと花開いたのです。これには、農家が平等な権利と適切な賃金を受け取るというSDGsの考え方が大きな影響を与えたことをぜひ知ってほしいと思います。

※日本円の為替は2021年12月13日時点

カルロス・ペレ(Carlos Pere)

駐日パナマ共和国大使

ラテンアメリカ科学技術大学(ULACIT-LIU)でインダストリアルエンジニアリングを専攻、1995年に同大学を卒業。2018年、ADENビジネススクールパナマ校(ADEN Business School Panamá)でリーダーシッププログラムを修了。507 Tactical Shopオーナー、Athens Pizza and Coffee Unitedオーナー、ケーブル・アンド・ワイヤレスパナマ法人の商業広告ディレクターを経て、2019年10月から現職。

高橋政司(たかはし・まさし)

ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント

1989年、外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局で経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。 2009年、領事局で定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、ユネスコ(国連教育科学文化機関)業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」などさまざまな遺産の登録に携わる。

『Tokyo meets the world』シリーズをもっと読む……

  • Things to do

歌手のシャキーラ、コロンビアの民族音楽であるクンビア、レネ・イギータなどサッカー史上に残る選手たちを輩出した国、コロンビア。そして、東京のコーヒーシーンでのコロンビアの存在感は、コーヒー通でなくても認めるところだろう。同国産の高品質な豆はこの街の至る所で目にすることができる。

近年では、コロンビア産の高級チョコレートも登場し、東京の人々の目にはコロンビアの食文化がより魅力的に映るようになってきた。しかし、コロンビアは食だけではない。サステナビリティを重視する早起きの国であり、日本の「母の日」の花として定着しているカーネーションの主要な供給国でもあるのだ。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回はコロンビアコーヒー生産者連合会の元代表であり、2011年8月から東京を拠点に活躍しているサンティアゴ・パルド・サルゲロ大使に話を聞いた。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、この10年間における東京の変化、現職に就任した2019年以降の日本とコロンビアの関係、オリンピック後の東京への期待などを話題にした。また、最高のコロンビア産コーヒーとチョコレートを味わえる場所も惜しげなく教えてくれた。

  • Things to do

ラテン系のリズムが好きな読者ならご存知の通り、東京は意外にも世界有数のタンゴの街だ。コロナ禍以前は、首都圏で少なくとも10以上のミロンガ(定期的に開催されるタンゴのイベント)が開催されており、その数はおそらくブエノスアイレスに匹敵する。

しかし、アルゼンチン共和国(以下、アルゼンチン)の東京への貢献は情熱的なダンスだけではない。がっつりとしたサンドイッチの「チョリパン」や肉料理の「アサード」といったおいしいアルゼンチン料理が楽しめる。さらには、同国の国民的な菓子である「アルファホーレス」や人気チョコレート『ボノボン』の日本限定品をコンビニエンスストアで買うのが好きな人も多いだろう。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回は2021年4月に就任したギジェルモ・フアン・ハント大使に話を聞いた。自国がこれだけ文化的で食生活も豊かなため、比較的スムーズに公務を開始できたのではないだろうか。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、ハント大使は東京の印象、日本でアルゼンチンの牛肉がより手に入れやすくなるかもしれない理由、そして日本とアルゼンチンがよりグリーンでサステナブルな社会に向けてどのように協力しているかについて語ってくれた。

広告
  • Things to do

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている『Tokyo meets the world』シリーズ。

今回はメキシコのプリーア大使とORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、大使が女性の地位向上を重要な課題としている理由や、東京のタコス事情、日本とメキシコをつなぐ歴史や、両国の精神的な共通点など、さまざまな話題について語ってもらった。

  • Things to do

体の白いスフィンクスに気付いたかもしれない。このスフィンクスはエジプト大使館の前に立ち、仲間のファラオ像と一緒にちょっと不釣り合いだが、長年にわたってこの街の名物になっている。それは大使館自体も同様で、そのオープンさと多くの地域活動のおかげで、東京の外交機関としては珍しいレベルで街とのつながりを持つことができている。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回はエジプトのアイマン・アリ・カーメル大使に話を聞いた。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談は、エジプト大使館の独特の存在感やエジプトと日本との長い関係、東京で食べられるエジプト料理など、幅広い話題で盛り上がった。大使はまた、エジプトの学校が日本の教育に倣って、より全体的な方向に教育を進めようとしている理由についても語ってくれた。

おすすめ
    関連情報
    関連情報
    広告