Tokyo meets the world
Photo: Kisa Toyoshima Ambassador of Mexico to Japan Melba Pría
Photo: Kisa Toyoshima

駐日メキシコ大使に聞く、女性躍進を国家が優先させるべき理由

メルバ・プリーアが語る日本の女性たちへのメッセージや東京のタコス事情

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テキスト:Ili Saarinen
コーディネート:Hiroko Ohiwa

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている『Tokyo meets the world』シリーズ。

今回はメキシコのプリーア大使とORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、大使が女性の地位向上を重要な課題としている理由や、東京のタコス事情、日本とメキシコをつなぐ歴史や、両国の精神的な共通点など、さまざまな話題について語ってもらった。

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メキシコの政治における女性代表率は49%を占める

ー日本ではSDGsが注目されるなど、持続可能な開発への関心が高まっています。このテーマについてどのようにお考えですか。

メキシコも日本もSDGsに熱心に取り組んでいます。気候変動や貧困対策など、私たちが共に取り組めることは多くあります。なかでも特に注目しているのが、女性の問題です。メキシコは日本と同じように非常に伝統的な国ですが、女性に関することはいくつかの点で優れた成果を上げています。

メキシコの女性はいまだに家庭内暴力や、世界中の女性が直面している現実的な問題も数多く抱えています。現実的な問題に悩まされていますが、女性代表の割合や、なりたいものになれる可能性は日本よりもメキシコの方が高いでしょう。

政治における女性代表という点では、2021年の6月に行われたメキシコの総選挙で、女性の下院議員が全体の49%を占めました。選挙前は48%でしたから、事実上の平等が成されています。この平等に達したのは、近年の20年の間に全ての政党の男女が集合し、『私たちはこうしたい、私たちの国にはこうあってほしい』と合意したからなのです。

自分のやりたいことを仕事にすることと、母親になることは決して相反するものではありません。女性は常に働いています。その違いは給料をもらえるか、もらえないかです。仕事をせずに母親になりたいという選択はとても良いことですし、専業主婦になることを決めた女性を私は喜ばしく思います。しかし、ほかに選択肢がなく、生活のために低賃金のパートタイムの仕事をしなければならない場合は別です。

私たちは娘たちが誇りを持ち、力を持ち、自立できるように、時間とお金と愛を注いでいますが、いざ仕事のことになると、家庭か仕事かを選ばなければなりません。どうしてでしょう。

日本のような国で、そんなことはあってはならないのです。私はメンタリングやそのほかの取り組みを通じて、日本の若い女性たちに、世の中にはロールモデルがいること、自分がなりたいと思うものには何でもなれることを知ってもらうために、自分の役割を果たしたいと思っています。

アウトドアや美術館が好きな人にとって東京は最適な都市

ー日本に赴任されて2年になりますね。日本に対する現在の印象と、就任する前と後の変化について教えてください。

私が初めて日本を訪れたのは1980年代でしたが、私自身も日本も当時とは大きく変化しています。私は日本の多くのことを愛していますが、住んでみるとまた違った見方ができます。その土地ごとが持つ微妙な違いや幸福度がよく分かるのです。

ー東京でのお気に入りの場所はありますか。

私はアウトドアが好きで、美術館にもよく行くのですが、東京ではその両方を楽しむことができますね。幸運なことに、大使館のすぐそばには皇居や赤坂御用地などの自然があり、よくウォーキングやランニング、サイクリングなどをします。先日は、自転車で荒川まで行きました。75キロも移動したにもかかわらず、一日中ずっと都内にいたのです!

美術館については、日本人の美を創造する能力は非常に高く、どこを見ても美に満ちています。小さな美術館も素晴らしく、大きな美術館や展覧会もまた魅力的です。素晴らしいアーティストも大勢います。アウトドアや美術館が好きな人にとって、東京は最適な都市ではないでしょうか。

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東京には150軒ほどのメキシコ料理店がある

ー東京でメキシコ料理を食べるなら、どこがおすすめですか。

大使館では、日本でメキシコ料理を作るためのレシピ集の作成や、YouTubeチャンネルを開設しています。レシピ集は『メキシコのキッチンから和の食卓へ』というタイトルで、日本語で書かれており、無料でダウンロードできます。

ほとんどのレシピはYouTubeにもアップされているので、自分でメキシコ料理を作ってみるのもいいでしょう。レシピ集に掲載されている食材は全て日本でも手に入れることができますし、それらを購入できる場所や日本の食材で代用する方法も紹介しています。また、日本国内のメキシコ料理店を集めたインタラクティブマップもありますよ。

東京のレストランについては、都内に150軒ほどのメキシコ料理店があり、Netflixのシリーズ『タコ・クロニクル(Taco Chronicles)』で紹介された店もあります。先日、東京駅でとてもおいしいタコスを食べました。東京にはメキシコ人、日本人それぞれの素晴らしいシェフがいるメキシコ料理店が本当にたくさんあります。

双方に富をもたらす好循環を生み出してきた

ーメキシコと日本の関係はどうですか。

とても豊かで多様な関係を築いています。非公式には400年以上前から関係がありますが、当時は日本もメキシコも今とは異なる国家でした。現在のような公式な関係になってからは約130年になります。いずれにせよ重要なことは、お互いに尊敬の念を持って、対等なパートナーとして接してこそより良い関係になれると理解することです。

メキシコは19世紀に、日本と対等な関係で総合的な自由貿易協定を結んだ最初の国でもあります。私たちは、国際関係の基本原則の一つである法による統治と、非紛争を信じている点で共通しています。

貿易や通商関係も重要です。日本の企業がメキシコで成功することで、メキシコに雇用が生まれ、それがメキシコの幸福につながります。メキシコのビジネスマンが日本に来る場合も同様でしょう。私の仕事は、メキシコのビジネスマンが日本との取引で成功するために必要な手配をすることです。私たちは何十年も前から取り組み、双方に富をもたらす好循環を生み出してきました。

日本の大手商社は、1950年代からメキシコとビジネスを行っています。日産自動車は1960年代にメキシコに上陸し、最初の工場を開設しました。現在でもメキシコには日本国外で最大の日産の工場があります。

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私たちの「お盆」はとても華やかな時間

ー日本とメキシコは精神的な面でも共通点が多いと思います。お盆と「死者の日」(Día de Muertos)の伝統も似ていますよね。

そうですね。メキシコ人はとてもアニミズム的で、昔のメキシコの宗教は神道に似ています。月や星、雨や雷などの神々がいました。季節を信じ、作物の成長には水が不可欠だと理解していたのです。自然との関係、そして敬意と畏怖は何千年も前から存在しています。

Día de Muertos(死者の日)は大きなお祭りです。死者が家に帰ってきて、その年のニュースを聞きたがっていると信じられています。祖先が好きだったものをテーブルに並べて食事をしたり、墓場に行って音楽を演奏したりしますが、それはその日に生者と死者の世界が一緒になるからです。決して不気味で悲しいものではありませんし、誰もあなたに取りついてくることはありません(笑)。私たちの「お盆」は、とても華やかな時間なのです。

自然面での日本とのつながりといえば、1985年のメキシコシティ地震の後、とても重要な地震や津波を研究するセンターが実質的に日本から寄贈されたことが挙げられるでしょう。このセンターは、日本国民と日本政府からの寄付によって建設されたものです。

また、メキシコにおける現役の地震と津波の専門家の多くが日本で学んでいます。日本とメキシコは同じ太平洋岸の国であり、津波は両国の海岸を襲う脅威となるため、単に連帯というだけにとどまらない関係を構築しているのです。

ー日本からの観光客にとっても、メキシコは人気のある旅行先ですね。

ひと昔前は、メキシコに大勢の日本人観光客が訪れていました。バスから降りては大量に写真を撮っていましたよ(笑)。今でも日本からの観光客は多いですが、目的は変わってきているようです。団体旅行者だけではなく、冒険を求めて来た人も多くいます。

日本の若い旅行者がもっとメキシコに来てくれるといいですね。日本の多くの若者が、近隣の国への旅行もせず、家の中で過ごすのが好きだということには驚きました。私たちは、日本の若者たちがもっと冒険し、大胆になることを奨励すべきではないでしょうか。旅をすることで、世界に対する新しい見方ができるようになりますし、自国の良さにも気付くことができるのだと思います。

メルバ・プリーア(Melba Pría)

駐日メキシコ大使

1958年メキシコ市生まれ。社会学士。戦略的計画と公共政策を専攻し、それぞれの修士号を取得。大学院で国家安全保障および戦略的研究を学ぶ。対外関係省(SRE)での長いキャリアを有す。1979年から在イスラエル メキシコ大使館政治部、領事部に勤務。1983年にメキシコ社会保険庁出版局編集部長、文化振興部長に就任、1991年から外務大臣顧問、1992年から国営航空会社の民営化プロセスに参画。渉外、イメージ、トレーニング部門の再編に従事。1994年から公共教育省(SEP) チアパス駐在特別出張所所長 、1998年国立先住民庁(INI)長官 、在外メキシコ人コミュニティ局長、SRE全国州政府連邦政府間連絡局長、同市民団体応接局長を歴任。2007年から駐インドネシア大使 、2015年から駐インド大使を務め、2019年6月から現職。

高橋政司(たかはし・まさし)

ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント

1989年、外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局にて経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。 2009年、領事局にて定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。 2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、ユネスコ(国連教育科学文化機関)業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」などさまざまな遺産の登録に携わる。

『Tokyo meets the world』シリーズをもっと読む

  • Things to do

新型コロナウイルスの世界的流行により日本のインバウンド観光は一時的に停止状態を余儀なくされているが、東京の多文化的な雰囲気はほとんど影響を受けていない。大きくは、この都市に住む多くのコスモポリタンな住民のおかげといえる。

この困難な時期にあっても、東京の国際コミュニティーは、ウイルスから身を守りながら東京を楽しむ新しい方法や、グリーンでサステナブルな未来の築き方まで、インスピレーションやアイデアの源であり続けているのだ。

我々が愛してやまないこの都市から世界中のイノベーティブな視点を幅広く取り上げようと、東京在住の駐日大使たちにインタビューシリーズを実施。今後数カ月にわたり、トップ外交官の協力のもと、各国のSDGsの取り組みから穴場のおすすめレストランまで定期的に紹介していく。

1人目は駐日イタリア大使、ジョルジョ・スタラーチェ。2017年から東京に駐在しているスタラーチェは、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司と、クリーンエネルギー、サステナビリティ、東京の優れたイタリアンレストランなどについて語り合った。

  • Things to do

東京から世界中のイノベーティブな視点を幅広く取り上げるため、東京在住の駐日大使にインタビューしていく『Tokyo meets the World』シリーズ、第2弾はベルギー王国。

ベルギーといえば、多くの日本人にはチョコレートやワッフル、ビールなどが身近だろう。しかし、この西ヨーロッパの王国が、世界的な人気キャラクター、スマーフの生まれ故郷であるとともに、世界第4位の洋上風力エネルギー生産国であり、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を推進する先駆者でもあることも知ってほしい。

2019年に就任したロクサンヌ・ドゥ・ビルデルリング駐日大使にインタビューを依頼したところ、快く応じてくれた。ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントで、SDGs関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司と対談を実施。SDGsや環境に優しい世界経済に対するベルギーの貢献について詳細に語った。

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  • Things to do

駐日大使へのインタビューシリーズ「Tokyo meets the world」第3回は、インド。2019年1月から大使に就任したサンジェイ・クマール・ヴァルマに、国際情勢から東京での生活まで幅広く話を聞いた。大使は、両国間のビジネスや技術などの交流を深めるため尽力しながら、博物館巡りや皇居の庭園を散策する時間も大切にしている。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談では、新型コロナウイルス感染症への対応からSDGsに対するインドのアプローチなど、重要な問題を語った。また、東京で一番のインド料理店を選ぶことができない理由や、インド人が日本のカレーをどう思っているかなどについても自身の考えを伝えてくれた。

  • Things to do

かつては海洋帝国であり、アラブで最も古い歴史を持つ国であるオマーン・スルタン国(以下オマーン)。近年「これから観光で行くべき国」として注目を集めている。アラビア半島の南東端に位置する同国は豊かな自然、多様な食文化、そして日本も登場する魅力的な歴史を有しながらも、まだ「マス・ツーリズム」の影響を受けず、独自の魅力を色濃く残す国だ。

東京在住の駐日大使へインタビューをしていく「Tokyo meets the world」シリーズ。第4弾となる今回は、オマーンのモハメッド・アルブサイディ大使に、なぜオマーンが探検好きの旅行者を引きつけるのか、その理由を聞いてみた。また、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談では、日本とオマーンのつながりや、お台場や山梨で休暇を楽しむ理由について語るとともに、東京で本格的なオマーン料理が食べられる店などについて教えてもらった。

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