Tokyo meets the World, Italian ambassador
Photo: Kisa Toyoshima
Photo: Kisa Toyoshima

駐日イタリア大使に聞く、日伊のSDGs未来予想と日本の強み

ジョルジョ・スタラーチェが語る、グリーンエコノミーと東京の心地よさ

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コーディネート:Hiroko Ohiwa

新型コロナウイルスの世界的流行により日本のインバウンド観光は一時的に停止状態を余儀なくされているが、東京の多文化的な雰囲気はほとんど影響を受けていない。大きくは、この都市に住む多くのコスモポリタンな住民のおかげといえる。

この困難な時期にあっても、東京の国際コミュニティーは、ウイルスから身を守りながら東京を楽しむ新しい方法や、グリーンでサステナブルな未来の築き方まで、インスピレーションやアイデアの源であり続けているのだ。

我々が愛してやまないこの都市から世界中のイノベーティブな視点を幅広く取り上げようと、東京在住の駐日大使たちへインタビューシリーズ「Tokyo meets the world」を実施。今後数カ月にわたり、トップ外交官の協力のもと、各国のSDGsの取り組みから穴場のおすすめレストランまで定期的に紹介していく。

1人目は駐日イタリア大使、ジョルジョ・スタラーチェ。2017年から東京に駐在しているスタラーチェは、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司と、クリーンエネルギー、サステナビリティ、東京の優れたイタリアンレストランなどについて語り合った。

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Tokyo meets the world

グリーンエコノミーの領域で、イタリアと日本は重要な役割を果たすことができる

ー現在の日伊関係についてどう見ていますか。

日本とイタリア間には多くの共通の関心事が存在しています。ともに第二次世界大戦で敗戦を喫しましたが同時に平和を勝ち取りました。つまり、両国ともに天然資源に乏しいながらも、国民の努力と技能により世界でもトップクラスの経済大国を築き上げたのです。

また、いずれも国際市場に依存しています。イタリアは日本と同様、世界最大の輸出国の一つです。両国は外交政策において、超大国との緊張関係の緩和に長らく注力してきました。その流れの中で、イタリアと日本が共に非常に重要な役割を果たすことができ、また実際に果たしている領域があります。グリーンエコノミーです。

グリーンエコノミーにおける日本の目標は、イタリアの目標と合致しています。アメリカの新政権、中国、ロシア、欧州連合(EU)がそれぞれ前向きに対応し、対話することができています。イタリアでは2019年の段階ですでに国内の電力の35%が再生可能エネルギー由来になりました。石炭、石油由来はわずか25%となっており、グリーンエネルギーのリーダーといえます。またイタリア人は1986年の国民投票で原子力を拒否しています。日本ではグリーンエネルギーにより構成される経済を目指そうとする動きが非常に強くなってきているので、両国がともに取り組めることはたくさんあるでしょう。

ー日本は世界の環境問題の解決において、より大きな役割を果たすよう努めるべきだと思いますか。

そうすればもちろん国益に敵うでしょうし、グリーンエコノミーによって日本に多くのビジネスチャンスがもたらされると思います。

ー日本では国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」が大きな注目を集め、持続可能な開発への関心が高まっています。イタリアのサステナビリティへのアプローチはどんなものがありますか。

イタリアの地方自治体は非常に活発に取り組んでおり、現在はモビリティが大きな焦点です。自転車や車のシェアリング実験が盛んに行われています。コロナ禍により多くの会社でイノベーションが起こりました。オフィスに以前のように全従業員を出社させない企業や、従業員の半数をリモート勤務にしてオフィススペースやそのほかで節約を図る会社もあります。またオンライン会議が、首脳会談でも利用されるほど便利であることに気付いてしまいました。

今後、歴史的な市街地の保護に取り組んでいるイタリアの地方自治体は、車などの乗り入れを禁止する方向に動いていくでしょう。イタリアの主要都市は古く、市街地は中世から続くもので、歩行者のみ入場可とするところも多数あります。一方、ますます多くの人が市外に移住していくことでしょう。

おそらく日本の首都圏でも同じようなことが起こると思います。郊外に住居を求め、たまにしか都心を訪れないというスタイルになっていくのです。これは環境面においても、日々の生活という面においても非常に有益なことだと思います。

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マンガで見たことがある風景だった

ー東京での生活はどうですか。

イタリア人としては、東京にいると安らぎを感じずにはいられません。街を歩いていると、ローマよりもはるかに多くのイタリアの国旗を目にするからです。多くの街角にイタリア料理店があり、イタリアの国旗をブランドとしてどの店も掲げている。日本人にとって、イタリアの国旗はオシャレさ、おいしい食事、良い生活、幸せを象徴するものなのです。以前、日本の地方の町で、「洋食」の店がイタリアの国旗を掲げていたのを見たこともあります(笑)。

日本人はイタリアのライフスタイルに非常に魅力を感じてくださっていますが、日本人がイタリアに行って目にされるのは、「クール」な国としてのイメージがある日本に魅了された(特に若い世代の)イタリア人です。日本はさまざまな理由でクールだと思われていますが、日本人はマンガや、その文化的メッセージなどのソフトパワーの価値をまだ過小評価しているのです。

マンガは全ての世代の西洋人に、日本の景色や都市の様子を描いてきました。私が初めて日本に来た時、建物や日本独特の電線を見上げながら狭い路地を歩いたのを覚えています。まるでデジャヴのような感じがしました。マンガで見たことがある風景だったからです。

このソフトパワーは、イタリア人が第二次世界大戦後にアメリカ映画を通じて経験したことに似ています。誰もがアメリカ映画やアメリカの都市の風景を大量に見ていたので、みんなアメリカがどんな感じか知っていました。日本のソフトパワーはイタリアで強力な存在感を放っています。今、ローマに行けばラーメン店や寿司屋が目に入る……日本とイタリアの両国がお互いに強く、深く引かれ合っているのです。

ー私も子どもの頃はイタリアに住んでいましたが、ローマの「リストランテ トーキョー」でよくとんかつを食べていました。故郷の味が恋しいとき、東京で行くのはどんな店ですか。

この質問には非常に外交的に答えなければいけませんね(笑)。一般社団法人日本イタリア料理協会(ACCI)は、非常に多くの会員を擁しています。ただし、会員になるための条件があって、日本にある全てのイタリア料理店が会員になれるというわけではありません。日本人の友人から聞いた話では、わずか20年前は、西洋料理の店へ行くとなると通常はフランス料理店だったそうです。今ではイタリア料理店の数はフランス料理店の約10倍になっている。これは大きな変化です。

イタリア料理店では、料理がとても重要なのはもちろん、雰囲気も同じくらい重要です。ある程度くつろげる空間であってほしいし、お客さんとシェフとの間の会話も大事―それはまるで母親と会話するように(笑)。そんな家族的な雰囲気は、寿司屋やとんかつ店など、すてきな日本料理店でも見られることでしょう。 

駐日大使に就任してから、日本でどんな変化を目にしましたか。

この数年間日本に住むことができて、大変光栄に思います。日本のように豊かでダイナミックで重要な国では、物事は4、5年スパンで変わるものですが、私の任期中においてはいくつかの動きが日本の外交政策のダイナミクスを変え、日本の社会にも大きな変化が見られました。

一つの大きな要因は、過去5年間で中国の経済的、技術的魅力が高まったこと。これに伴い、日本を含むこの地域全ての国々への関心が集まってきています。中国の外交、軍事面における影響力も強くなってきました。これは日本の外交政策や安全保障における優先順位の考え方とともに、経済戦略においても大きな変化をもたらします。

中国の成長は日本の外交政策のビジョンを変化させました。日本は今、国民の安全を保障するためには自らの力に頼らなければならないということを、以前よりもずっと強く意識しています。同盟関係も結びますが、日本の技術、経済力を基盤とした独自の安全保障を構築することの必要性を認識しているのです。

日本でもヨーロッパでも、コロナ禍によりサプライチェーンの重要性が浮き彫りとなリました。政府が保護しなければならない経済の戦略分野もあります。マスクや人工呼吸器などの確保にあたり、ヨーロッパやアジアの民主主義国はサプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性に対して無防備で、完全に中国市場に依存しなければなりませんでした。

ー開催されるかどうかはさておき、オリンピックの後や来年以降の東京や日本で楽しみにしていることはありますか。

オリンピックやほかの大型イベントの後に待ち受ける問題は世界共通です。すでに各イベント開催によって発展を遂げている状態からその街をさらにどのように発展させていくか、ということです。

ミラノでは2015年に万国博覧会が開催されましたが、会場は、MIND(Milano Innovation District)というテクノロジーが集まる地域に建設されました。多くの投資を呼び込むことに成功し、経済のサクセスストーリーになりつつあります。大学、病院、ハイテクのインキュベーター、ロボティクスの開発が進められたことに加え、多くの企業がオフィスを設置し、万博のような大型イベント後の開発として最も成功を収めた例の一つになったのです。日本も、イベント後の開発に非常にイノベーティブなアプローチを取れる準備ができているのではないかと思います。

ジョルジョ・スタラーチェ (Giorgio Starace)

駐日イタリア大使。
1959年2月23日、ヴィテルボ市生まれ、1982年にボッコーニ大学経済学部卒業。1985年にイタリア外務省入省。翌年、外務省経済局。外務省の各部署のほか、在グアテマラ・イタリア大使館経済・商務担当書記官、在中国イタリア大使館一等書記官、在ニューヨーク国際連合イタリア政府代表部一等参事官、在インド・イタリア大使館一等参事官、イタリア農業政策大臣外交全権大使、在アラブ首長国連邦・イタリア大使、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)イタリア政府代表、イタリア外務・国際協力大臣リビア担当特使などを歴任の後、2017年に駐日イタリア大使として着任。2016年には、イタリア共和国功労勲章(OMRI)コンメンダトーレ章を受勲した。既婚者で、マテルダ・ベネデッティ夫人(医師)との間に一男(ジュリオ)一女(シルヴィア)がいる。

高橋政司(たかはし・まさし)

ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント。
1989年、外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局にて経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。 2009年、領事局にて定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。 2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、ユネスコ(国連教育科学文化機関)業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」などさまざまな遺産の登録に携わる。

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