Tokyo meets the world Colombia
Photo: Kisa ToyoshimaAmbassador of Colombia to Japan Santiago Pardo Salguero
Photo: Kisa Toyoshima

インタビュー:駐日コロンビア共和国大使が打ち明ける7のこと

コロンビア産コーヒーやカカオ、東京五輪、サステナビリティへの取り組みなど

Ili Saarinen
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歌手のシャキーラ、コロンビアの民族音楽であるクンビア、レネ・イギータなどサッカー史上に残る選手たちを輩出した国、コロンビア。そして、東京のコーヒーシーンでのコロンビアの存在感は、コーヒー通でなくても認めるところだろう。同国産の高品質な豆はこの街の至る所で目にすることができる。

近年では、コロンビア産の高級チョコレートも登場し、東京の人々の目にはコロンビアの食文化がより魅力的に映るようになってきた。しかし、コロンビアは食だけではない。サステナビリティを重視する早起きの国であり、日本の「母の日」の花として定着しているカーネーションの主要な供給国でもあるのだ。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回はコロンビアコーヒー生産者連合会の元代表であり、2011年8月から東京を拠点に活躍しているサンティアゴ・パルド・サルゲロ大使に話を聞いた。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、この10年間における東京の変化、現職に就任した2019年以降の日本とコロンビアの関係、オリンピック後の東京への期待などを話題にした。また、最高のコロンビア産コーヒーとチョコレートを味わえる場所も惜しげなく教えてくれた。

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Tokyo meets the world

1. 日本に残っている伝統的な側面に衝撃を受けた

ー日本に赴任されてから10年がたちますが、日本の印象はどのように変わりましたか。

日本に来る前は、私も妻も日本全体、特に東京は近代的だと思っていたのです。しかし、日本の文化や宗教、自然、環境と結びついた伝統的な側面が多く残っていることを知り、とても驚きました。

赴任したばかりの頃、日本の人々や日本社会に対して、私は何を期待すれば良いかすらも分かりませんでした。一例を挙げましょう。私がコーヒー連合会の代表になった時、ボゴタの日本大使公邸に昼食会に招待されました。実はその日、私は遅刻してしまったのです。大使はとても親切に私の事情を理解してくれましたが、それと同時に、約束の時間を守ることの大切さを教えてもらいました。

堅苦しいと思われる日本の習慣の多くは、ここでの生活に入っていくための鍵です。それ以降、私にとっても時間を守ることは大切なルールの一つになりました。我々ラテン系の人々にとって、このような習慣を生活に取り入れるのはとても新鮮なことです。コロンビアでもこのような価値観を取り入れられるといいですね。

ー風習と言えば、コロンビア人は早起きと聞いたことがありますが本当ですか。

うーん......どうでしょうか(笑)。もちろん、本当のこともありますよ。私は日本に来たばかりの頃、(コーヒー連合会で)朝9時から仕事をしようと決めました。今となっては当たり前のことなのですが、当時は2011年3月の東日本大震災の影響で、節電や、そのほかのいろいろな困難が重なってしまい、オフィスに人が出社するのは10時半ごろだったそうです。

しかしそれでは、出勤してコーヒーを飲んだらもう昼食の時間で、午前中は何もしていないことになりますよね。だから私たちは9時に始めるように定めたのです。コロンビアでは一日の始まりが早く、私が大学に通っていた頃は朝7時からの授業もありました。田舎では朝早くから畑仕事もしていますよ。

2. 妻と一緒に東京の街を散策するのが好き

ー東京でお気に入りの場所はありますか。

それは、年とともに変化しています。私には息子(11歳)と娘(9歳)がいるのですが、子どもたちが小さい頃はよく一緒に公園を訪れていました。南麻布に住んでいた時は、有栖川公園がお気に入りでしたね。

今は、妻と一緒に街を散策するのが好きです。歩いてみると、小さな店やレストラン、知らなかった寺社など常に面白い発見があり、飽きることがないのが東京の良いところですね。東京は広大なので、全てを見て回ることは難しいでしょう。しかし私は探索を続け、この街の全てを楽しみたいと思っています。

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3. 日本人の海外への関心が着実に高まっている

ー日本に来てから、どんな変化を感じましたか。

東京がオリンピック開催権を獲得した2013年以降、日本や日本社会は外に対してよりオープンになりました。日本人の海外への関心が着実に高まっていることを肌で感じますが、コロナ禍によって、多くのことが変化できずに停滞していると実感することも多いです。

私が日本のコーヒー連合会に来たばかりの頃、(2012年に)日本事務局開設50周年を迎えたので、業界向けの祝賀会を準備することになりました。招待状はメールで送ろうとしたのですが、それだけでは不十分でした。日本ではファクシミリ(FAX)の方が一般的だったのです。私はFAXという通信手段が現役であることに内心衝撃を受けていました。日本が変わるには時間がかかるものですが、オリンピックと新型コロナウイルスによって、難しいと思われていた多くの変化が加速したとも感じています。

4. オリンピックは「困難な時代でも物事は成せる」という事実を証明した

ーオリンピック・パラリンピックが終わった今、東京や日本はどのように進化していくと思いますか。

今回の大会は、パンデミックや1年間の延期など、非常に特殊なものでしたが、結果的には海外への関心が高まったのはないでしょうか。私が選手村を訪れた際、とてもうれしいことがありました。ある子連れの家族が「海外の選手と触れ合いたい」という理由で、さまざまな規制があるにもかかわらず、このエリアを訪れていたのです。全てが落ち着けば、再びそうした交流は活発になると思います。

今大会は社会の視野を広げ、1964年の東京オリンピックのように新しい日本の姿を見せてくれたと感じています。このような困難な状況の中で大会を成功させたことは、将来的には勇気ある正しい決断であったと評価されるでしょう。難しい決断ではありましたが、世界に大きな影響を与えました。日本社会にとって、このような困難な時代でも物事は成し遂げられるという事実を示すものとなったと思います。

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5. 東京で本物のコロンビアの味を味わえる場所

ー東京で本物のコロンビアの味を味わえる場所はどこですか。

日本でコロンビアといえば、コーヒーはもちろんですが、高品質なカカオも輸出しています。コーヒーもカカオも産地にこだわっている日本の高級食材市場なら安定して手に入れることができますよ。

コロンビア産のカカオを扱っている店としては、東京駅にあるカカオ ハンターズ プラス(CACAO HUNTERS Plus)は外せません。日本人のカカオ専門家と、以前コーヒー連合会に勤務していたコロンビア人起業家とのコラボレーションによる店です。また、コロンビアのコミュニティーと共同でプロジェクトを展開しているメゾンカカオは、東京駅や鎌倉に店を構えていますね。

コーヒーに関して話すと、日本ではコロンビアのコーヒー豆は非常に多く取り扱っています。本当に感謝の念に堪えません。青山のロハスビーンズコーヒー(lohasbeans coffee)は素晴らしいパートナーです。質の高いコーヒーや、さまざまなコロンビア製品を提供しています。

6. カーネーション大国が持続可能性に気を配るわけ

ーコロンビアは日本に花を輸出していますね。これはどのようにして実現したのでしょうか。

コロンビアの花業界は、持続可能性や労働条件にとても気を配っています。労働者の多くは女性で、その収入で家族を養っていることが多いのです。もともとはアメリカ市場を中心に発展してきた産業ですが、ヨーロッパやアジアへの輸出も始まりました。物流が課題になっています。距離があるため飛行機で輸送しなければなりませんが、コロンビアから日本への直行便は旅客機はおろか、貨物便もありません。

何年か前に、コロンビア政府と民間企業が協力してコロンビア産の花を日本に広めました。活動の成果が実り、今では日本で流通しているカーネーションの約7割がコロンビア産となっています。

花の場合、産地を認知してもらうのは少し難しいですよね。そこで、現在は花の産地をしっかりと伝え、コロンビア産の花を買うことで、持続可能性や社会の重要なグループの収入に貢献できることを知ってもらおうとしています。

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7. コロンビアの特筆すべき移民問題への貢献

ー日本ではSDGsが注目されるなど、持続可能な開発への関心が高まっています。花以外にも、コロンビアはこの問題にどのように取り組んでいるのでしょうか。

今でこそSDGsが話題になっていますが、実はコロンビアは10年前からSDGsに向けた政策を率先して実施していました。私たちの政府は、現在のSDGsの策定に積極的に参加したのです。これは重要な貢献であり、多国間主義とサステナビリティに対する私たちの長年のコミットメントに合致するものです。

環境面では、コロンビアは日本と同様に脱炭素社会の実現に向けた取り組みを推進、支援しています。実はアマゾン川流域の大部分はコロンビアにありますが、近隣諸国と協力して、自国の領土内だけでなく地域全体のケアに努めているところです。

もう一つ特筆すべき貢献は、移民に対する私たちの姿勢でしょう。特に、隣国のベネズエラからの移民に対するコミットメントです。コロンビアは小中規模の国であり、発展途上国ですが、ベネズエラ(の難民危機)に対処するために、連帯感、開放性、寛大さを示そうと努めてきました。

世界中の多くの国にとって移民は難しい問題ですが、ベネズエラから我が国に到着した約200万人の人々に対して、コロンビアは連帯感と寛大さを持って行動したことは正しいことだと思っています。コロンビアの人口が4500万人であることを考えると、これはかなりの数です。10年かけて居住者ビザを取得する機会を提供し、社会福祉のネットワークの一部となることを目指してきました。

最近では、アフガニスタンから逃れてきた人々にもコロンビアは門戸を開き、そのうちの何人かは現在、少なくとも一時的にコロンビアに滞在しています。困難な状況下でも、私たちは(移民に関して)正しいことができると示しているのです。

サンティアゴ・パルド・サルゲロ(Santiago Pardo Salguero)

駐日コロンビア共和国大使

ボゴタのロスアンデス大学経済学部卒業後、ニューヨークのコロンビア大学で国際関係学修士号を取得。経済交渉や貿易、国際関係に関連する分野で広範な経験を持つ。米州機構の貿易コンサルタント、R&O国際戦略コンサルタント社共同経営者、国家貿易協議会(Analdex)副総裁、民間企業連合委員会の国際貿易交渉推進コーディネーターを歴任後、コロンビア貿易産業観光省にて自由貿易協定(FTA)の交渉責任者を務め、欧州連合(EU)、韓国、パナマ、トルコとの交渉を主導。前職は東京に拠点を置くコロンビアコーヒー生産者連合会アジア局長であり、アジアにおいてコロンビアコーヒーの付加価値戦略の実施を主導。2019年4月から現職。

高橋政司(たかはし・まさし)

ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント

1989年、外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局で経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。 2009年、領事局で定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。 2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、ユネスコ(国連教育科学文化機関)業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」などさまざまな遺産の登録に携わる。

  • Things to do

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回はエジプトのアイマン・アリ・カーメル大使に話を聞いた。エジプト大使館の独特の存在感やエジプトと日本との長い関係、エジプトの学校が日本の教育に倣って、より全体的な方向に教育を進めようとしている理由についても語ってくれた。

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  • Things to do

今回は、オマーンのモハメッド・アルブサイディ大使に、なぜオマーンが探検好きの旅行者を引きつけるのか、その理由を聞いてみた。また、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談では、日本とオマーンのつながりや、お台場や山梨で休暇を楽しむ理由について語るとともに、東京で本格的なオマーン料理が食べられる店などについて教えてもらった。

  • Things to do

今回はメキシコのプリーア大使とORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、大使が女性の地位向上を重要な課題としている理由や、東京のタコス事情、日本とメキシコをつなぐ歴史や、両国の精神的な共通点など、さまざまな話題について語ってもらった。

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