Ambassador of Egypt to Japan Ayman Aly Kamel
Photo: Keisuke TanigawaAmbassador of Egypt to Japan Ayman Aly Kamel
Photo: Keisuke Tanigawa

駐日エジプト大使が語る、エジプトの学校が日本式教育を取り入れたわけ

エジプト大統領が感銘を受けた「特活」やオリンピック後の東京のこと

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コーディネート:Hiroko Ohiwa

代官山のTSUTAYA BOOKSへ行ったことがあるなら、通りの向こう側からT-SITEの建物を見つめる2体の白いスフィンクスに気付いたかもしれない。このスフィンクスはエジプト大使館の前に立ち、仲間のファラオ像と一緒にちょっと不釣り合いだが、長年にわたってこの街の名物になっている。それは大使館自体も同様で、そのオープンさと多くの地域活動のおかげで、東京の外交機関としては珍しいレベルで街とのつながりを持つことができている。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回はエジプトのアイマン・アリ・カーメル大使に話を聞いた。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談は、エジプト大使館の独特の存在感やエジプトと日本との長い関係、東京で食べられるエジプト料理など、幅広い話題で盛り上がった。大使はまた、エジプトの学校が日本の教育に倣って、より全体的な方向に教育を進めようとしている理由についても語ってくれた。

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エジプト外務省には日本専門家のチームがある

ー2017年10月から東京に駐在されているそうですが、日本に対する印象はどのように変わりましたか。

2010年から2014年までオーストラリアに赴任し、アジア地域の他国を訪れましたが、大使になる以前に日本を訪れたことはありません。そのため、この国について私が持っている知識と実際に体験したことは全く違うものでした。

エジプト外務省には、日本の文化、振る舞い、マナー、エチケットなど日本の伝統が国の発展にどのような影響を与えてきたかを理解するための日本専門家のチームがあります。しかし事前に聞いた話だけでは、日本の生活の中で遭遇するあらゆることに対して十分な準備はできません。

私は日本で高く評価されている国を代表しているため、とても幸運でしょう。古代エジプト文明は、価値観や習慣、伝統の面で日本と共通する部分が多く存在します。私たちは共に偉大な歴史を持ち、何世紀にもわたって素晴らしい発展を遂げた国であり、日本の人々は両国の関係を強化しようとする私の努力を歓迎してくれています。

我々の関係は、1864年に遣欧使節団がヨーロッパへ向かう途中にエジプトに立ち寄り、スフィンクスやピラミッドの前で写真を撮った時までさかのぼります。このような歴史があるからこそ、私は政治、経済、文化、教育などの分野で、私たちの関係をさらに発展させることができたのです。この4年間で全ての分野に置いて大きな成功を収められて、大変うれしく思っています。

代官山は東京で最も美しい街の一つ

ーエジプト大使館は代官山のランドマークのような存在ですね。この界隈(かいわい)はいかがですか。

東京で最も美しい街の一つである代官山に大使館があるのは、幸運なことだと思います。独自の雰囲気や建築的な魅力があり、近くには目黒川が流れているため、桜の季節は気持ち良いですね。代官山にある小さなショップやブティック、文化施設も面白いですし、渋谷にも近いので、ナイトライフやショッピングが好きな方にもお勧めでしょう。この街にはあらゆるものが少しずつあるのです。

大使館自体が古代エジプトを表現しています。入り口にはファラオの像が置かれ、ファサードは古代の神殿のようで、中には小さな博物館もあるのです。ここは、近隣の文化に貢献できているのではないでしょうか。人々は、毎日のように大使館の前で足を止めて写真を撮っていますが、これは私たちにとっても大変うれしいことです。私たちの文化や文明の象徴を見ることで、いつか彼らがエジプトを訪れてくれるかもしれません。

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エジプトは日本の教育システムを導入している

ー地元の小学生も大使館に招待しているそうですね。

そうですね。日本の学校では早い段階から古代エジプトの歴史を教えています。生徒たちが大使館に来て、スフィンクスや古代エジプトの王や女王の像など、本で読んだことのあるものを自分の目で見られるのは素晴らしいことです。コロナ禍の前には、生徒を大使館に招いて「オープンデー」を実施していました。東京都の小池百合子知事と協定を結び、毎月、都立学校の生徒を招待していたのです。

数校から30〜40人の子どもたちがクラスごとに大使館に来て、1日を過ごします。大使館にある古代エジプトの像を再現した小さな博物館で、子どもたちに現代と古代エジプトの生活を比較した動画を見てもらいました。エジプトというと、ナイル川にワニがいて、ラクダが道を歩いていて、砂漠にオアシスがあって……というステレオタイプなイメージを持っている人が多いと思います。

しかし、カイロはアフリカ最大の首都であり、現在は日本の協力を得て、アフリカで最も高い建物とアフリカ、中東最大のビジネス街を擁する「新行政首都」という新しいスマートシティを建設中です。

また、エジプトは日本の教育システムの一部を導入し始めています。エジプトの小学生の一部は、日本の小学校で採用されている「特活」(掃除、昼食、自主的な話し合いなど教科以外の活動)と呼ばれるシステムで学んでいるのです。これは、エジプトの200の「エジプト・日本学校」に適用される予定で、すでに約50の学校が実施。専門家である日本の学校の校長や理事がエジプトに滞在し、学校の運営を監督しています。

そのきっかけとなったのは、2016年にエジプト大統領が日本を訪れた時です。彼は、日本の小学校では、通常の教育に加えて生徒が自分のクラスに責任を持ち、掃除をしたり、クラスの役員会を開いたりして、責任感を養っていることに深い感銘を受けました。これは、日本人の性格の本質を幼い頃から構築していることを示しているのではないでしょうか。

私たちはこのシステムを非常に高く評価しており、アフリカや中東の国では、エジプトが初めて学校で実施したのです。大使館を訪れる東京の小学生にビデオで紹介していますが、古代エジプトの建築物や現代のエジプト、そして自分たちの経験に近い教育システムに感銘を受けて帰っていく子が多いですね。

ーそれでエジプトへ行ってみたいと思う生徒さんも多いのではないでしょうか。

そうですね、訪問した生徒の多くは、その後、手紙や絵を送ってくれます。家に帰って両親に大使館での体験を話し、「家族がエジプトに興味を持ったので、早く行きたい」と書いてくれるのです。このような取り組みは、革新的な外交の方法でしょう。エジプトと日本の人々の距離を縮めることは、外交でも成功するために不可欠なものだと考えています。

これから日本でもエジプト料理のレストランが増えてくる

ー東京でエジプト料理を食べるならどこがいいですか。

エジプト料理を提供している店はいくつかありますが、まだ私たちが望むほどではありません。東京に長年住んでいるエジプト人の中には、この分野で活躍している人もいますが、その規模はとても小さいものです。日本に住んでいるエジプト人は約2000人なので、オーストラリアやアメリカ、カナダなど、エジプト料理の選択肢が多様な国と比べると、コミュニティーはそれほど大きくありません。

東京では(選択肢が限られていますが)ラム肉のグリルや、20年ほど前から日本に入ってきたエジプト料理であるモロヘイヤなどの料理を食べることができます。エジプトでは少し違った食べ方をしますけどね。

エジプト料理と中東料理には共通点が多いので、レバノン料理やトルコ料理のレストランでも同じような味が楽しめるかもしれません。しかし、日本でもエジプト料理のレストランが増えてくると思っています。というのも、新しい味を求め、より多くの種類の料理を楽しむ日本人が増えているからです。エジプト人コミュニティーには、日本でもっと多くのレストランを開くようにアドバイスしたいですね。

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日常生活の再開に向けた取り組みが必要

ー最後に、オリンピックとパラリンピックが終わった今、東京は新型コロナウイルス感染症に対してどのように取り組むべきでしょうか。

コロナ禍の影響が懸念されましたが、東京2020大会は非常にスムーズに開催されたと思います。ワクチン接種者の数が増え、パンデミックやウイルスに対する人々の意識が高まっている今、日本は比較的うまくいっていますし、対策も功を奏しているのではないでしょうか。

日本の人々は必要な感染対策を大いに順守し、その重要性も理解しています。コロナ前から、人々がマスクをするのに慣れていることも大きな助けとなっていますね。東京はこれから少し楽になってもいいかもしれません。私たちは、日常生活を停止してコロナ禍に身を委ねることはできないのだから、ウイルスに対処する努力は不可欠でしょう。そのためには、再開に向けた取り組みが必要です。

エジプトは2020年7月に観光客に門戸を開き、安全な観光シーズンを成功させました。ヨーロッパ各国から観光客が訪れ、1、2週間の休暇を過ごし、何の問題もなく帰国しました。私たちは状況に応じて、ウイルスを拡散させないための安全対策を講じなければなりません。いずれにしても、人々は自分や他人を守るための意識を高めていますので、ウイルスの脅威を克服するまで、街の生活は比較的スムーズに続けられるのではないでしょうか。

アイマン・アリ・カーメル(Ayman Aly Kamel)

駐日エジプト大使

高橋政司(たかはし・まさし)

ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント

1989年、外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局で経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。 2009年、領事局で定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。 2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、ユネスコ(国連教育科学文化機関)業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」などさまざまな遺産の登録に携わる。

Tokyo meets the worldシリーズをもっと読む……

  • Things to do

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回はギリシャのコンスタンティン・カキュシス大使に話を聞いた。日本との関係、コロナ禍でのオリンピック・パラリンピック開催の意義、東京でのストレス解消法、さらにはおすすめのギリシャレストランなどについて語ってくれた。

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