Photo: Kisa Toyoshima|Ambassador of Chile to Japan Ricardo G. Rojas
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駐日チリ大使に聞く、日本で楽しめる「チリの食」と外交樹立125周年で注目すべきこと

日本で人気のチリ産食品や125周年記念イベント、同国のSDGsについて

Ili Saarinen
翻訳:: Genya Aoki
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世界中で規制が撤廃され、コロナ禍の終わりが見えてきた今、コロナ終息後の東京の新しい方向性を示す、斬新なアイデアやインスピレーションが求められている。

タイムアウト東京は『Tokyo meets the world』シリーズを通して、東京在住の駐日大使へのインタビューを続け、都市生活に関する幅広い革新的な意見を紹介。とりわけ、環境に優しく、幸せで安全な未来へと導くための持続可能な取り組みについては大きく取り上げてきた。

今回は、チリ共和国のリカルド・ロハス大使に話を聞いた。20216月に来日し、日本での生活はまだ始まったばかりだが、オフィスから見える東京タワーや増上寺、白馬のスキー場など、さまざまな日本の魅力をすでに感じている。

2022年には、日本とチリの外交関係樹立125周年を記念して、大使館がイベントなどを開催する予定だ。今回のインタビューでロハス大使は、そうしたイベントへの期待感を語った。

また、『東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会』(以降『東京2020』)が未来に与え続ける影響について考察し、チリのその独特な地理的条件を生かした持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みを説明してくれた。

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ーこれまでの日本の印象を教えてください。

日本は驚くべき国です。私は今回が初めての来日ですが、日本は非常に現代的であることと伝統を重視することを両立させていて、私はそれがどのようになされているのかに注目してきました。伝統は日常生活の一部となり尊重されている一方で、都市や交通機関など近未来的なものも発展しているのです。日本は、そういう「伝統と現代性の融合」が際立っていますね。

2022年に私たちは外交関係樹立125周年を迎えます。チリを代表して日本で活動できることは光栄であり、特権だと思っています。この節目の年を記念して、大使館では、記念イベントやさまざまな活動のプログラムを1年間にわたって実施する予定です。俳句コンテストや映画祭、自然災害や天文学などをテーマにしたセミナー、125年間の相互関係に焦点を当て、未来を展望するポッドキャストなどがその一例です。

ー東京での生活はいかがですか。お気に入りの場所などはありますか?

気に入っているのは、主に徒歩や自転車で行ける場所、具体的には公園や主要な名所です。東京での生活は、コロナ禍の影響もあり、街の探索はあまりできていませんが、劇場が再開しているので、近いうちに行ってみたいと思っています。とはいえ、『東京2020』開催中はチリのパラリンピック選手団が三鷹市を拠点としていたものですから、少しづつ色々な場所を訪れるようになりました。

首都圏を離れたのは一度だけですが、長野の白馬にスキーに行きましたよ。山はどこも見どころ満載で、雪質も申し分なく、本当に気持ちが良かった。新幹線での移動もとても快適でした。これから迎える初めての桜の季節を楽しみにしていますし、夏には南の島にも行ってみたいですね。セーリングが好きなので、小さな船を借りられたらいいなと思います。

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日本のワイン輸入量第1位は7年連続でチリ

ー日本で故郷の味を味わうならどこに行きますか?

どこでも、慣れ親しんだ食材を見つけることができます。というのも、幸いなことに日本はチリが食材を供給している重要な国のひとつですから。そうした食材を私たち流に調理しています。チリ産のワイン、サーモン、フルーツなどはどこのスーパーでも購入できます。

日本が輸入しているサーモンの90%以上はチリ産です。ブドウ、レモン、サクランボ、キウイ、ブルーベリーなど南半球産の生鮮果物も多く輸入しています。春のブドウの季節には、日本の店にチリ産のブドウがたくさん並びますね。

チリのパタゴニア地方にあるプンタ アレナスで生産される(栄養価が高く低カロリーな)おいしい羊肉も2021年度から日本への輸出をスタートしています。

このほか、日本のワイン輸入量第1位は、2015年から2021年まで7年連続でチリです。現在私たちは、ワイン生産におけるサステナビリティに注力しています。チリから輸出する80%以上のワインをサステナブル認証を取得したワイナリーから調達するという、サステナビリティ規範の運用を始めました。サステナブルであることは、私たちの競争力にもつながるのです。

南三陸町のモアイ像

ー食品輸入の話が出ましたが、そのほかにチリと日本の関係で注目してほしい点はありますか?

日本とチリの両国は、いくつかの記憶に残る歴史的な事柄で結ばれています。例えば、私たちは自然災害に見舞われた歴史を共有しています。1960年、チリで発生した大地震による津波が日本の三陸沿岸に到達し、宮城県南三陸町や岩手県大船渡市などで142人の犠牲者を出しました。自然災害からの復興という共通の経験を持つ両国の友好を深めるため、チリは1991年に南三陸町にイースター島のモアイ像のレプリカを贈呈しました。

2011年の東日本大震災でモアイ像は倒壊してしまいましたが、2012年3月にチリのセバスティアン・ピニェラ大統領が南三陸町を訪れ、新たなモアイ像の寄贈を約束。イースター島の彫刻家が制作した高さ5メートル、重さ6トンの新しいモアイ像は、2013年5月に再び南三陸町の地に立ちました。

このモアイ像に関する日チリ協力は1988年にまでさかのぼります。当時のイースター島の知事が、倒れたモアイ像を起こすのに十分な大きさのクレーンを探していたことがきっかけでした。日本のクレーンメーカーであるタダノは、修復を目的にクレーンを1台寄贈。また、1991年から1993年にかけて、日本の専門家がイースター島を訪れ、発掘調査や修復作業を手伝いました。

アフ・トンガリキにある有名な「15体のモアイ像」はこの共同作業の成果であり、ここは現在イースター島で最も人気のある観光スポットとなっています。

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ー『東京2020』が終わった今、これからの東京や日本に期待することは何ですか。また、東京や日本が今後どのような方向に進むと思いますか?

まず、この最も困難な時期に『東京2020』を開催するためになされた多大な苦労を評価すべきです。大会は大成功を収め、日本と日本人の逆境に立ち向かう力が証明されました。

施設の改修や新設されたスタジアム、さらにはキャッシュレス決済の拡大といった、大会のために実施・導入されたことは、日本に再び(海外からの)観光客が戻ってきたときにも好影響を与え続けます。より多くの人々が日本を旅行し、日本での時間を楽しむことができるでしょう。これは特筆すべきことで、何年間も続く効果といえます。

また、大会を開催したことで、開催国として日本は世界との一体感を強めることができました。それは誰にとっても有益なことでしょう。チリの選手たちは、日本での経験を非常に高く評価しています。こうした成果は、オリンピックやパラリンピックの選手を受け入れてくれたホストタウン、つまり地域社会の努力によるところが大きいのです。

日本とチリは防災やグリーンエネルギー分野で協力

ー日本ではSDGsが注目されるなど、持続可能な開発への関心が高まっています。チリが取り組んでいるサステナビリティの取り組みにはどのようなものがありますか。また、その分野で日本と協力する機会はありますか?

チリはSDGsに積極的に取り組んでおり、2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする)になることを目標としています。すでに消費エネルギーの40%以上を再生可能エネルギーでまかなっており、2025年までには石炭を使用する発電施設のほとんどを廃止する予定です。

チリは砂漠があるおかげで、豊かな太陽光と南から吹く風を得ています。これら(の資源)を(太陽光発電や風力発電として)利用することで、製造過程で二酸化炭素を排出しないグリーンアンモニアやグリーン水素を製造し、日本などのエネルギー消費国へ提供することが可能になるでしょう。また、環境分野での計画や戦略、法整備により、海洋保護などの分野でも発展しています。

日本で(サステナビリティのために)開発されている技術には感銘を受け、注目しています。日本とチリの両国は、これまでさまざまな自然災害を経験してきたということもあり、防災やグリーンエネルギーなどのいくつかの分野ですでに協力しているところです。

もう一つ取り上げたいSDGsは男女平等です。3月11日に誕生したガブリエル・ボリッチ大統領は女性の労働参加に力を入れており、24の閣僚ポストのうち14を女性が占めています。SDGsの課題とコミットメントは広範かつ野心的であり、その達成には国内および国家間の協力と連携が不可欠だと考えています。

リカルド・ロハス(Ricardo G. Rojas)

駐日チリ共和国大使

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  • Things to do

歌手のシャキーラ、コロンビアの民族音楽であるクンビア、レネ・イギータなどサッカー史上に残る選手たちを輩出した国、コロンビア。そして、東京のコーヒーシーンでのコロンビアの存在感は、コーヒー通でなくても認めるところだろう。同国産の高品質な豆はこの街の至る所で目にすることができる。

近年では、コロンビア産の高級チョコレートも登場し、東京の人々の目にはコロンビアの食文化がより魅力的に映るようになってきた。しかし、コロンビアは食だけではない。サステナビリティを重視する早起きの国であり、日本の「母の日」の花として定着しているカーネーションの主要な供給国でもあるのだ。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回はコロンビアコーヒー生産者連合会の元代表であり、2011年8月から東京を拠点に活躍しているサンティアゴ・パルド・サルゲロ大使に話を聞いた。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、この10年間における東京の変化、現職に就任した2019年以降の日本とコロンビアの関係、オリンピック後の東京への期待などを話題にした。また、最高のコロンビア産コーヒーとチョコレートを味わえる場所も惜しげなく教えてくれた。

  • Things to do

ラテン系のリズムが好きな読者ならご存知の通り、東京は意外にも世界有数のタンゴの街だ。コロナ禍以前は、首都圏で少なくとも10以上のミロンガ(定期的に開催されるタンゴのイベント)が開催されており、その数はおそらくブエノスアイレスに匹敵する。

しかし、アルゼンチン共和国(以下、アルゼンチン)の東京への貢献は情熱的なダンスだけではない。がっつりとしたサンドイッチの「チョリパン」や肉料理の「アサード」といったおいしいアルゼンチン料理が楽しめる。さらには、同国の国民的な菓子である「アルファホーレス」や人気チョコレート『ボノボン』の日本限定品をコンビニエンスストアで買うのが好きな人も多いだろう。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回は2021年4月に就任したギジェルモ・フアン・ハント大使に話を聞いた。自国がこれだけ文化的で食生活も豊かなため、比較的スムーズに公務を開始できたのではないだろうか。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、ハント大使は東京の印象、日本でアルゼンチンの牛肉がより手に入れやすくなるかもしれない理由、そして日本とアルゼンチンがよりグリーンでサステナブルな社会に向けてどのように協力しているかについて語ってくれた。

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  • Things to do

激動のオリンピックイヤーが終わった今、多くの人は、これからの東京や日本の新しい方向性を示す新鮮なアイデアやインスピレーションを求めていることだろう。タイムアウト東京は『Tokyo meets the world』シリーズを通して、東京在住の駐日大使へのインタビューを続け、文化、観光、都市生活に関して幅広い革新的な意見を紹介してきた。

その中でも、より環境に優しく、幸福で安全な未来へと導くことができる持続可能な取り組みに特に焦点を当ててきた。

今回は2019年10月に来日し、東京の街歩きを精を出すうちに、路地裏のラーメン屋を愛するようになったというパナマ共和国(以下、パナマ)のカルロス・ペレ大使に話を聞いた。

ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、パナマのカーボンマイナスへの取り組みが世界の模範となることや、有名なゲイシャコーヒーの生産がSDGsとどのように結びついているかを説明。また、パナマのストリートフードや民族音楽、同国発の寿司チェーン店がラテンアメリカで旋風を巻き起こしていることなども紹介してくれた。

  • Things to do

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている『Tokyo meets the world』シリーズ。

今回はメキシコのプリーア大使とORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談で、大使が女性の地位向上を重要な課題としている理由や、東京のタコス事情、日本とメキシコをつなぐ歴史や、両国の精神的な共通点など、さまざまな話題について語ってもらった。

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