Shuwa
Shuwa Yayoicho Residence(Photo: Shuwa Residence Encyclopedia)
Shuwa Yayoicho Residence(Photo: Shuwa Residence Encyclopedia)

日本を代表するビンテージマンション「秀和レジデンス」の魅力をマニアに聞いてみた

『秀和レジデンス図鑑』著者に聞く、意外な歴史的価値

Tabea Greuner
翻訳:: Genya Aoki
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東京の街を散歩していると、独特のざらざらした白壁の地中海風マンションに出くわしたことはないだろうか。「秀和レジデンス」として知られるこのレトロな建物は1960〜80年代に建てられ、現在でも熱狂的なマニアが存在するほどの人気を持つビンテージマンションだ。

「秀和レジデンス」の特徴は青い屋根、質感の異なる白いラフウォール、曲線を描くアイアン塀。それに加えて、床のタイルの配置がかわいらしい。特に1960~70年代に建てられたものはこうした傾向が強い。全国に134棟が建設され、うち30パーセントが東京都渋谷区と港区に集中している。

2022年2月22日に発行された『秀和レジデンス図鑑』(トゥーヴァージンズ)の著者で、中古マンションのリノベーション会社であるStyle&DecoのCEO谷島香奈子と「秀和愛好家」のhacoにこの稀有な魅力を持つマンションについて聞いた。自身も住人である谷島は、住み心地の良し悪しや、愛すべき住民同士のコミュニティーについて語ってくれた。

※このインタビューは、内容を明確にするため一部編集を行っています。

ー秀和レジデンスシリーズは、なぜ一棟ずつ異なって見えるのでしょうか?

haco:一棟ごとにさまざまな建設会社と職人が雇われました。外観デザインに関して大まかなガイドラインがあったそうですが、職人は自分たちのアイデアを実践することが許可されていました。

谷島: 1960年代に秀和レジデンスの設計に携わった人と話をしたところ、設計の決定も建物を建てる場所に基づいていることが分かりました。(そのため)どの外観デザインがそのエリアに最も合っているかを判断するために、近隣の歴史をリサーチしたそうです。

ー創業者の小林茂が「秀和レジデンス」を建設するきっかけは何だったのでしょうか?

谷島:当時、(小林は)銀座の一等地に複数の飲食店がテナントとして入る「ソシアルビル」を設立するなど、さまざまな建物に興味を持っていたそうです。

haco:1964年に東京オリンピックが開催された影響でマンションの需要が高まり、事業が成功すると考えたのでしょう。

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日本初のローンでの購入が可能になったマンション

ー秀和レジデンスはどんな人々のために建設されたのでしょうか?

谷島:初期の秀和レジデンスは、医者や芸能人など裕福な人々のために建設されました。しかし、日本は1964年の東京オリンピック(景気)後に反動不況に陥ってしまいます。そのため、一般の人々でも購入できるよう、1967年に新しいコンセプトで秀和外苑レジデンスが完成しました。銀行との提携住宅ローンで購入できる日本初のマンションとして、歴史的にも重要な建物です。

ーなぜ、ヨーロッパのスタイルを取り入れたのでしょうか?

谷島:当時、日本人は海外のライフスタイルに憧れていたんです。1960年代に実際に秀和レジデンスに住んだ人に話を聞くと、海外で仕事をしていた人も多く、彼らにとってはヨーロッパのライフスタイルが日本に定着したような感覚だったそうです。

haco:設計者は、ドイツやスウェーデンの建物からインスピレーションを得ていました。

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秀和の住人は家を大切にする

ー秀和レジデンスでの暮らしは、どのようなものでしょうか?

谷島:私は今、秀和レジデンスに住んでいますが以前住んでいたところと比べると、秀和の住人は家を大切にしている感じがします。子どもが小さい頃は、マンション内の子ども同士で遊んだり、入居者たちで気軽に話をしたりしていました。同じものが好きな人同士だと安心感がありますし、相手に心を開くのも早いですね。

ーどのような人が、秀和レジデンスのマンションを借りたり購入したりしますか?『秀和レジデンス図鑑』では、住民の中にはクリエーティブな人がいると書いてありましたが、そのような人は多いのでしょうか?

谷島:弊社のお客さまを見ていると、都心の秀和レジデンスにはクリエーティブな仕事や何かしらのデザインに携わっている人が多い印象です。事務所として利用できる秀和レジデンスも多いので、小規模な事務所やSOHO利用としても人気があります。

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若い人でも購入できる

ー近年、秀和レジデンスの需要は高まっていますか?

谷島:私は不動産屋なので、よく秀和レジデンスを売ったり貸したりしています。立地が良いものが多いので、実は高い需要がありますよ。でも、ヨーロッパと違って、日本では古い物件は評価されにくいので、秀和レジデンスのマンションは立地の割に手頃です。そのため、若い人でも購入しやすいのです。

ー秀和レジデンスに住むデメリットはありますか?

谷島:秀和レジデンスは古いので、耐震性のあるものは少ないんです。また、断熱材がないため、冬はとても寒くなります。マンションの自宅をリノベーションする時、断熱材をたくさん入れましたよ。

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特別な秀和レジデンス

ー東京にある多くの秀和レジデンスの中で、お気に入りを1つ選ぶとしたら何ですか?

谷島:レジデンスを1つだけ選ぶのは難しいですね。でも、私が好きなのは、青い屋根に白いラフウォールを備えた秀和レジデンス第一号、秀和外苑レジデンスかな......完成当時は「ヨーロッパ誕生」をスローガンにした立て看板があったと聞いています。

haco:(同じく)それは難しい質問です。例えば、秀和参宮橋レジデンスの住人の多くは、建物の原型を残すことを目指しています。(1968年に建てられたこの建物は)この数十年間あまり変化していません。割れたタイルを一枚ずつ交換したり、エントランスの青いビニール屋根も古くなるといつも同じタイプに交換します。

この例からも分かるように、秀和レジデンスは一つひとつが特別な存在なのです。

『秀和レジデンス図鑑』

トゥーヴァージンズ刊行、谷島香奈子・haco(著)、2,090円

各レジデンスの詳細を記録しているほか、現在の住人へのインタビューも収録。著者のウェブサイト「秀和レジデンスマニア」もぜひチェックしてみてほしい。

  • Things to do

関東大震災や第二次世界大戦の東京大空襲で大きな被害を受けるまで、東京には、現在も京都で見られるような木造の家が立ち並んでいた。その後、鉄鋼やコンクリート、独創的な形状に重きを置いたさまざまな建築物が建てられ、東京は現代的に生まれ変わった。

しかし天然素材の良さも見直されてきており、都は最近350メートルの木造超高層ビルの建設計画を発表している。このビルのオープンは2041年まで待たなくてはならないので、今の時点で鑑賞できる美しい建築物を紹介しよう。

  • ミュージアム

純喫茶や近代建築、インベーダーゲームの筐体(きょうたい)や駄菓子、昭和に流行したキッチュなアパレルやおもちゃなど「レトロ」なものが今人気だ。そこには、古き良きものを埋もれさせまいとする歴史への敬意のようなものが感じられる。ここでは、そんな長い時の洗礼を受けたからこそ、人々を引きつける歴史的な価値を持ったミュージアムを紹介する。

明治や昭和初期に建てられた名建築から、昭和の人々の暮らしに思いをはせることができる庶民的な民家や、弾痕が残る戦災建造物まで「レトロ好き」なら心ときめくこと間違いなしだ。

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  • カフェ・喫茶店

午後のブレイクタイムを素朴な空間で楽しみたい。居心地の良い空間でほっと一息をつきたい、という人は古民家カフェに立ち寄ってみよう。使われなくなった銭湯をリノベーションしたユニークなスペースや、古い建物をおしゃれによみがえらせたカフェなど、東京にはレトロでノスタルジックなスポットが点在している。

ここでは、築100年近い建物から東京都の有形文化財に指定された場所まで、ほぼ昔のままの姿で残された情緒あふれる古民家カフェを紹介しよう。熱いコーヒーとともに歴史に思いをはせれば、タイムスリップしたような気持ちになるはずだ。

  • アート

東京の銀座8丁目にある建築『中銀カプセルタワービル』を知っている人は多いだろう。箱の形をしたカプセルを積み重ねたような外観の建物は、黒川紀章による設計で1972年に完成した。建築や都市に成長と変化を取り込むことをもくろんだ「メタボリズム」という運動を代表する建築とされる。

日本のみならず世界中の人々から関心をもたれていて、新型コロナウイルスが広まる以前までは、建築の前でカメラを持った外国人観光客の姿を多く見かけたものだ。

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  • ホテル

日本の文化ともいえるラブホテル。最近はメイクラブだけでなく、女子会やデイユースなど用途も多様化している。バリ風やオシャレでシンプルな内装のラブホが増えているが令和になった今でも、レトロな内装の「昭和ラブホ」が現存していることをご存じだろうか。レトロブームの中、そんな「ラブホツーリズム」が脚光を浴びつつある。

今回は、そのなかでも特にユニークな「昭和ラブホ」6件を紹介しよう。360度ガラス張りの部屋から、かわいらしい懐かしのインテリア、世界旅行できるホテルなど「今でもこんなラブホが残っていたなんて…!」と驚くこと間違いなし。

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