日本とオランダの自転車事情
ファン・デル・フリート:私は熱心なサイクリストですが、東京での通勤距離は50mほど(大使公邸から大使館まで)なので、自転車を使う必要がありません。しかしオランダでは、雨の日も晴れの日も、冬でも夏でも通勤に自転車を使います。オランダ外務省では車を停めることができないのです。駅のすぐそばなのですが、駐輪場の数も十分にあり、多くの人は電車か自転車で通勤します。
千葉:大使は東京に来て2年以上になりますが、ママチャリやスポーツバイクなど自転車が多く走っていることに気づかれたことでしょう。東京の自転車事情について、全体的にどのような印象を持っていますか?
ファン・デル・フリート:東京はオランダとは異なりますが、これだけ自転車が使われているのは、自転車が異質なものとして捉えられておらず、それだけチャンスが多いということですね。子どもたちを自転車通園、通学させていますし、それは通勤にも拡大可能です。
レクリエーションとしての自転車もたくさんありますし、皆さん熱心に取り組んでいます。自転車専門店のワイズロードに行けば、イタリア製、アメリカ製、日本製の高級自転車が手に入り、カーボンフレームに7000ドル(日本円で約87万5,000円、※1ドル=125円 2022年4月11日中心相場)かける人もいます。
しかし、東京におけるシティサイクルや機能的な自転車の利用については、まだ多くの改善が必要だと思います。青いペンキで矢印を描き、車道と並走するレーンを「自転車専用レーン」と呼ぶこと以上にできることがあるのではないでしょうか。都内を安全に移動できる自転車専用レーンが必要です。
全ての道に自転車専用レーンは必要ありませんが、人々が街に入り、安全な道へと分岐するための動脈は必要です。これは、ほかの都市で成功したコンセプトです。そのためには、ある程度の犠牲や投資をしなければなりません。時には自動車用のレーンを削る必要があり、それは新たな渋滞を引き起こす可能性があるため、人々の憤慨につながることもあります。勇気はいりますが、必ず報われることだと私は思います。
もう一つ、オランダと大きく異なるのは、歩道を自転車で走る人がいることですね。オランダでは絶対にしてはいけないことです。
千葉:法律的には、日本でも自転車の歩道走行は※原則禁止されています。しかし道が狭いから、警察も場所や状況に応じて認めているというのが実情です。
※ただし、道路標識などで指定された場合など一部例外あり
ファン・デル・フリート:オランダの街でそれをするのは、「新幹線を普通の線路で走らせる」ようなものです(笑)。日本で自転車に乗る人は、責任感と思いやりがありますが、オランダでは自転車のスピードが速く、歩行者が邪魔者扱いなので、歩道を走れば事故が多発するでしょう。
東京は公共交通機関が発達しています。初めて訪れた時、地下鉄や電車で都内のさまざまな場所に行けることに驚きました。これだけ公共交通機関が充実していると、自転車なんて必要ないじゃないかと思われるかもしれませんね。
千葉:東京の人からすると、オランダで自転車が重要な交通手段として尊重されていることはとても印象的です。なぜ自転車がそんなに評価されているのでしょうか?
ファン・デル・フリート:まず、オランダは土地が平坦で、サイクリングしやすい国です。また、オランダのガソリンは日本よりかなり高価なので、車移動は経済的には良い選択肢ではありません。さらに人口密度が高く、車を所有する場合は駐車場代も高いですね。一方、自転車は健康的で環境に優しい。多くの実用的な理由から、自転車は素晴らしい交通手段なのです。
職場から適度な距離に住んでいる人はもちろん、そうでない人も、最寄りの駅まで、あるいは駅から職場まで、自転車で移動するのが当たり前になっています。レインスーツと防寒着を買う必要はありますが、それは誰もが持っているものです。
便利で実用的である理由は、安全性にも関係しています。自転車レーンや自転車専用道路は、都市設計や開発に完全に組み込まれています。今や、自転車道や自転車用信号機のない街を新たに開発できないほどです。オランダでは道路を自転車で安心して走れるので、利用しない手はないでしょう。安全性、利便性、健康、環境、価格と、全て好条件がそろっているのです。
千葉:通勤用の自転車を購入する場合、勤務先から何らかのサポートを受けることができますよね。
ファン・デル・フリート:はい。働いた時間を金額に換え、そのお金で自転車を非課税で購入できます。約20パーセントの割引と同じですね。