Tokyo Meets the World Jamaica
Photo: Keisuke TanigawaAmbassador of Jamaica to Japan Shorna-Kay M. Richards
Photo: Keisuke Tanigawa

駐日ジャマイカ大使が語る、ロンドンとニューヨークよりも東京に住みたい理由

東京の生活、東京でジャマイカの味を楽しむ方法、ジャマイカのSDGsへの挑戦

Ili Saarinen
翻訳:: Genya Aoki
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『東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会』が終わった今、多くの人々はこれからの東京の新しい方向性を示すために、必要かつ新鮮なアイデアやインスピレーションを求めているのではないだろうか。

タイムアウト東京は『Tokyo meets the world』シリーズを通して、東京在住の駐日大使へのインタビューを続け、都市生活に関して幅広い革新的な意見を紹介。特に環境に優しく、幸せで安全な未来へと導くことができる持続可能な取り組みに焦点を当ててきた。

今回は、2020年10月に就任してから間もなく1年半となるショーナ-ケイ M.リチャーズ駐日ジャマイカ大使に話を聞く。インタビュワーは、パリ出身のジャーナリストであるフローラン・ダバディだ。

2022年8月に独立60周年を迎えるジャマイカにとって2022年はどんな年になるのか、日本とジャマイカが同じ島国としてどのような関係にあるのか。そのほか、東京や日本の印象、東京でジャマイカの味を楽しめるおすすめの店、ジャマイカのサステナビリティへの挑戦など、さまざまな話題に渡ってインタビューが行われた。

ーショーナさんが初めて来日したのはいつごろですか? また、日本という国にどんな印象を持っていたり、注目したりしていますか?

初めて日本に来たのは2005年、当時私は国連の軍縮フェローシップ・プログラムで働いていました。私は日本の結束力と立ち直る力、そして何よりも日本人の優れた文化の1つともいえる、一貫性を持って献身的に働くことに誇りを持っている点に感心しています。

社会における日本人女性の役割も注目している事柄の1つです。彼女たちは高い教育水準を持ち、柔軟性があり、日本の真の財産と言えるでしょう。将来、より大きな役割を果たすと私は信じています。日本の女性が職場や社会全体においてもっと向上心を持って行動することを奨励していきたいです。

ジャマイカでは公的機関でも民間企業でも管理職に就く女性の数は男性よりも多いのですが、男女の給与格差はまだなくなっていません。一方、暗い面として、ジャマイカも日本も家庭内暴力の問題を抱えています。

ー(大使に)就任後、日本の印象は変わりましたか。

当時抱いていた印象や期待に応え、むしろより補強されました。とはいえ、正直なところ、この未来的な社会でファクスがまだ現役だとは思っていませんでした(笑)。

というのは冗談として、テクノロジーの最先端を行く一方で、伝統を重んじる日本の二面性を物語っていますね。また、日本では制度化された礼儀作法やおもてなしの心によって、素晴らしいサービスの質が実現されていることにも感心させられます。

今年のアカデミー賞にノミネートされた日本映画『ドライブ・マイ・カー』を観たのですが、登場人物がさまざまな悲劇を経験する中にあっても、「大丈夫です」とストイックに言い切るところがありますね。私も東京で18ヶ月近く暮らしてきて、「大丈夫です」と言えば困難な状況も何とかなることを学びました。

ロンドンやニューヨークよりも、私は東京に住みたい

ー東京での生活はいかがですか。また、東京でお気に入りの場所はありますか。

私は東京にとても満足していますし、前任者も東京を気に入っていました。仕事のことはさておき、都市生活としてロンドンやニューヨークの選択肢を提示されても、私は東京に住みたいですね。かなり国際的な都市ですし、治安も良く、何もかもが便利です。サービスも充実していて、日常生活におけるストレスから解放してくれています。

東京はとても大きな街なので、今の「自宅待機」政策では、任期が終わるまでに全ての魅力を発見することはできないでしょう。ですから、出張のとき以外は自分の住んでいる麻布十番や広尾といった国際色豊かな地域を歩いて東京を発見することにしています。週末の散歩は有栖川宮記念公園が好きで、最後はナショナル麻布スーパーマーケットで野菜や果物を買って帰ります。

しかし、東京で一番好きなエリアは中目黒ですね。素敵な川、小さなカフェ、チェーン店ではなく個人経営のセンスの良い店がたくさんあります。インテリアやアンティークの店を調べるのは私の趣味の一つなのです。

もうひとつは花ですね。私は花屋さんが大好きで、東京にはおしゃれな花屋さんがたくさんあります。中目黒のフラワーズ・ネスト(Flowers Nest)は、南国の植物や母国を連想させる花をたくさん扱っており、おすすめです。

東京以外では、週末に伊豆で温泉につかったり、長野の山でインディアンサマーを楽しんだりしました。鳥取県はジャマイカのウエストモアランド教区と姉妹自治体なので、鳥取砂丘にもぜひ訪れてみたいと思っています。

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御成門の上島珈琲店で、ブルーマウンテンコーヒーを一杯

ー故郷の味が恋しくなるときは、どこで食事や買い物をしますか。

現在、東京には本場をしのぐようなジャマイカ料理店はありませんが、ジャマイカから帰国した同胞や日本人がオンラインでケータリングを提供していますし、ジャマイカ料理を作る日本人シェフもいます。

そしてもちろん、日本のコーヒーブランドUCC(上島珈琲店)は、前世紀からジャマイカのブルーマウンテンズに農園を構え、御成門の本社近くにある同社のコーヒーラウンジやアカデミーでは、ブルーマウンテンコーヒーを提供しています。

東京以外では静岡県焼津市に、日本人とジャマイカ人のご夫婦が経営する素晴らしいブルーマウンテンコーヒーとクラフトチョコレートのカフェがあります。

※もっとジャマイカの味を楽しみたい人は、リチャーズ大使がおすすめする以下の店もチェックしてみよう。

スウィート・ジャマイカン・シングス(Sweet Jamaican Things

伝統的なジャマイカのペストリーや焼き菓子のケータリングショップ。

 Yumm Cupcakery

千葉県流山市にあるカップケーキやクッキーを提供しているデリバリースイーツ店。甘いものが好きな人のためのおいしいジャマイカ菓子が食べられる。

 ・パティパン(Patty Pan

ジャマイカンパテのオンラインショップ(全都道府県へ配送可能)

 ディーン・ジャクソン(Dean Jackson

ジャマイカ産の食材や音楽などを販売しているオンラインショップ

日本が担うインド太平洋地域の自由と解放

ー国際社会の中での日本の役割についてどう思いますか。

日本は、インド太平洋地域が自由で開かれたものであり続けるために、非常に重要な役割を果たしています。具体的には民主主義、法の支配、航行の自由、平和と安定といった普遍的な価値を確実に守っているのです。常にとても建設的なグローバルプレーヤーで、国際平和、安全、開発に積極的に貢献していますね。

カリブ海の小さな島である私たちは、日本を模範として見ています。国際協力機構(JICA)は、その専門知識を活かして150以上の発展途上国を支援してきました。

パンデミックはこれまで以上に、人、健康、教育、そして持続可能性を優先させることが地球にとっていかに重要かを教えてくれましたが、日本はまさにそれを実践しているのではないでしょうか。発展途上国がグリーンテクノロジーを利用できるように、日本はさらに多くのことができると私は信じています。

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海を持続可能なものへ

ージャマイカでは持続可能な社会の形成や環境問題にどのように取り組んでいますか。

ジャマイカは再生可能エネルギーに注目しており、その点でジャマイカと日本の関係は深まっています。例えば、日本の商社である丸紅は電力ネットワークや再生可能・効率的なエネルギーという観点から、ジャマイカの(再生可能)エネルギー目標達成を支援してきました。両国の関係は常に長期的な発展を重視しており、私たちは日本とのパートナーシップをとても大切にしています。

天然資源に大きく依存している国として、ジャマイカは持続可能性の向上と環境問題への取り組みを優先しています。これらの重要な問題に対する私たちの取り組みは、国家開発計画である「ビジョン 2030 ジャマイカ」を国連のSDGsと整合させるために継続的に取り組んでいることからも分かります。

これまでのところ、95%の整合性を達成しています。この戦略の利点は、国家レベルで設定したさまざまな開発目標に向けて取り組みながら、SDGsを達成することができることです。

ジャマイカでは、気候変動への適応、海洋ガバナンスとブルーエコノミーの活用、自然災害や経済的ショックへのレジリエンスの構築、そして先に述べた再生可能エネルギーなどが優先課題として挙げられます。2030年までに国内電力の33%を再生可能エネルギーでまかなうことを目標としており、2050年までには同目標を50%まで引き上げたいと考えています。現在、この分野をさらに発展させるために、丸紅との対話も進めています。

持続可能性や環境に関するさまざまな取り組みやプロジェクトについて、特に日本をはじめとする複数のパートナー国と協力しています。私たちが直面している問題は世界的な問題でもあり、他国と協力することで、知識や技術、ベストプラクティスを共有することができるのです。

開発政策におけるもう一つの重要な要素は資金でしょう。ジャマイカは、開発のための資金調達の問題について、小国の中で積極的に取り組んでいます。

日本はカリブ地域への投資をリードできる

ー大使として今後の目標は何ですか。

私は日本とジャマイカのパートナーシップを強化するためにここにいます。文化や教育、開発協力の面ではすでに多くのことを行っていますが、経済面ではさらにより良いことができるはずです。

我が国の首相は2019年に日本を訪れ、安倍首相(当時)と会談しました。両首相は経済的な協力関係の規模拡大を検討し、日本企業によるジャマイカへの投資が増えることを歓迎しています。日本はカリブ地域への投資をリードできると私は考えています。

二国間で言えば、ジャマイカは多くの英語教師を日本に送り込んでおり、さらにその数を増やす準備ができています。外国語能力は、日本が将来の世代のために向上させる必要のあるスキルでしょう。

最後になりましたが、ジャマイカに来る日本からの観光客を私たちは歓迎する準備を整えています。

​​昨年、東京オリンピック陸上男子110メートル障害で金メダルを獲得したジャマイカのハンスル・パーチメント選手が会場行きの交通手段を間違えたとき、競技に間に合うようにギリギリまでタクシーに乗るのをボランティアのストイコビッチ・河島・ティアナさんがサポートしてくれたことが大きなニュースになりました。

パンデミックが収まれば、私たちはすぐにでもティアナさんをジャマイカで歓迎し、我が国の公式ゲストとして待遇することになるでしょう。

ショーナ-ケイ M. リチャーズ(Shorna-Kay M. Richards)

駐日ジャマイカ大使

1994年外務貿易省入省、米国、南アフリカ、国連代表部での勤務、二国間関係局長等を歴任し、2020年10月から現職を勤めている。

フローラン・ダバディ(Florent Dabadie)

ジャーナリスト

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。99~02年、サッカー日本代表監督フィリップ・トルシエの通訳兼アシスタントを務める。現在はテレビ番組のナビゲーター、スポーツキャスターなどで活躍中。

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