阿美パン
Photo: Keisuke Tanigawa 店主の游政豪(ユ・チェンハオ)
Photo: Keisuke Tanigawa

台中から旗の台へ、台湾の町パン職人の名店「阿美パン」が商店街に溶け込むまで

台湾と日本をまたぐ庶民の味わい

広告

タイムアウト東京Things to do > International Tokyo >台中から旗の台へ、台湾の町パン職人の名店「阿美パン」が商店街に溶け込むまで

16世紀、鉄砲とともにポルトガル経由で伝来したというパン。日本でも愛好され、オリジナルに忠実な味が追求されている。その一方で、焼きそばパン、あんパン、カレーパンといった、日本人の感性で魔改造された和風パンの名作も誕生した。

お隣の台湾でも、パンは好まれて食される日常食だ。短期の観光旅行などでは、小籠包や滷肉飯(ルーローハン)、麵線といった中華系の食に目が行ってしまうが、現地では、パンは朝食の定番。さらに魔改造された台湾風パンも日本同様にいろいろあり、町のパン屋をにぎわせている。

代表的なのは「肉鬆麵包(ロウソンミェンバオ)」と「香蔥麵包(シャンツォンミェンバオ)」あたりか。肉鬆麵包は台湾の定番食材で、豚肉を使った肉でんぶ「肉鬆」をパンに乗せたものだ。ネギパンは文字通り塩味の刻みネギを乗せたパン。どちらも総菜感覚が楽しい。肉鬆麵包は甘しょっぱい肉でんぶとパンの取り合わせが日本人には斬新で、好みが分かれやすいが、香蔥麵包は馴染みやすいはずだ。

台湾パンの見た目は総じて地味め。そのせいか、日本で食べられる機会は台湾ブームの続く今でもあまりない。そういった状況の中にあって、旗の台にある「阿美(アメイ)パン」は、東京で「ガチ」の台湾パンにありつける希少な店である。

関連記事
International Tokyo

台湾で日本のパン作りに目覚める

店主は台湾からやってきた游政豪(ユ・チェンハオ)。台湾中部、媽祖(まそ)の大巡礼で知られる大甲出身のユは、日本の老舗ベーカリー「ドンク」の台湾支店で、台中を中心に数カ所にわたって働いた経歴を持つ。

少なくとも彼が働いていた時代、台湾ドンクのパンは、小麦粉の種類や味付け(台湾のパンは油分多めの傾向がある)などのクオリティーは保ちつつも、日本と微妙に異なる点があったという。

探究心旺盛なユは、本家である日本のドンクのパン作りを学びたいと来日。日本語を学び、数カ所の飲食店で修行を積んだ後、2021年に荏原町駅付近の商店街に自分のベーカリーを開店するに至った。

台湾パンは街角のパン屋の味

近所に友人が住んでいた程度の縁しかなかった場所だったが、町の気取らない優しい雰囲気が心地よく、すぐ馴染めたという。店が入っていた建物は、開店当初から数年後に建て替えが決まっていた。

荏原町から離れがたかったユは、周辺の物件を探し回った。そして、隣町の旗の台駅の商店街に納得のできる場所を見つけて移転したのは昨年2024年の10月。荏原町からも徒歩圏内なので、以前の客も引き続き愛用してくれている。街の一員として愛されている証だ。

広告

「阿美パン」は荏原町時代と同様、見かけは商店街にある庶民的な町パン屋である。台湾パンは街角のパン屋の味。それゆえ日本でも庶民派スタイルを保っている。「台湾パンを日本に根付かせたい」という本気度が伝わってくる。

しかし、店の正面を覆う赤色は、台湾(あるいは中華文化圏)における慶事の色をイメージ。エキゾチックな赤い提灯をつるし、クロワッサン風のマークは台湾の島のシルエットを模して、さりげなく台湾をアピールしている。

移転後、ひそかにガチ台湾度がアップ

以前の店に比べると、厨房(ちゅうぼう)・接客スペースともにゆとりができた。ショーケースは同じものを使用しており、品揃えに変化はない。日本人でも親しめる品揃えは現在4分の1が台湾系のパンで、残りは日本人に馴染みのあるパン類。ショーケース内は商品名の名札が黒と赤に分けてあり、赤い方が台湾系となっており分かりやすい。

広告

取材した日は、「肉鬆パン」(380円、以下全て税込み)、「ネギパン」(240円)「椰子奶酥(ミルクココナツのパン)」(250円)「葡萄奶酥(干しぶどう入りパン)」(240円)、「芋頭パン(蒸したタロイモ入りパン)」(280円)、「羅宋パン(バターたっぷりパン)」(280円)を提供。そのほかに「燒餅(サクサクの中華パン)」(塩味と甘味、各280円)といった構成だった。

味は、全体的に品が良い。以前はサンドイッチスタイルだった肉鬆パンがより現地化したスタイルになっていたり、現地の町パン屋でもよく見かける「饅頭(具なし饅頭)」(プレーン230円、黒糖240円)も揃えていたりとガチ度もアップしている。以前は売り切れ必至だった「パイナップルケーキ」(270円)も、潤沢に並ぶようになったのはうれしい。

ドンクで腕を磨いただけに、台湾系以外のパン類もウマい。パリッと仕上げたフランスパンのバケットや、ミニフランスパンにミルククリームを添えた「ミルクフランス」(270円)なども並ぶ。

「牛すじチーズカレーパン」(340円)は、「台湾パン」の表記はないが、台湾の定番の一つである牛肉麵を彷彿(ほうふつとさせるコクがある。全て合わせて約50種類。ユは、情熱を持ってこれを毎日一人で仕上げている。

広告

現地そのままの雰囲気で旗の台の商店街に溶け込む

引っ越すことについては、近所との関係に多少不安もあったというが、良好のようだ。両隣にある理髪店と理容店とも仲がよく、取材時には大家が気軽に食パンを1斤買っていく姿にも遭遇した。

ユは、この地でずっと店を続けていきたいと語る。まさに、台湾と日本をまたぐ町パン職人である。商店街に溶け込んで、現地そのままの雰囲気で味わえる庶民派の台湾パンの店は、奇跡と呼んでもいいだろう。

ちなみに店名の「阿美」は、多民族の共存する地である台湾の有名な先住民「阿美族」と同じ名前。店主にどんなゆかりがあるのか尋ねたら、全くの無関係で、同姓同名の祖母の名前だそうだ。祖母を慕うのは台湾人では普通のこと。店名にしたのも自然な成り行きだったと、気持ちの良い日本語でほほ笑んで教えてくれた。家族のつながりを大切にするあたりもまた、台湾の味である。

もっと東京の台湾を探索するなら……

  • 台湾料理

豆花(ドウファ)は台湾の定番スイーツ。豆乳に凝固剤を加えて固めたもので、ほの甘いシロップとトッピングを添えて賞味するシンプルな伝統食である。主に15時以降の気軽なおやつというポジションで、夜の締めの一杯なんていうのもイケる。店も屋台から大型店まで無数にある。

製法は豆腐に相通じるが、スイーツの方へ舵を振り切っているのが興味深い。ヘルシーかつ素朴な味わいは初めてなのにどことなく懐かしく、和菓子に通じる穏やかなおいしさがある。近年台湾ブームの波に乗って注目され、台湾の有名店も上陸、コンビニに登場したこともあるし、日本で定着しつつあると言っていいのではなかろうか。

製法がシンプルだから手軽に作れそうだが、こだわりだすと豆腐同様に深い沼にハマる。豆乳の木目の細かさ、凝固剤の種類、固めるタイミング、シロップとトッピングの味付けなど、そういったこだわりがおいしさに直結するのだ。また温と冷、両方のタイプがあり、それだけでも風合いが違ってくる。

冷えた豆花がことさらおいしく感じるの今の時期。「豆花」の文字を店名に掲げ、都内で現地そのままの味を追求する、ガチな豆花作りにこだわる個人経営の名店5軒をセレクトしてみた。

すでに名を成している有名店も少なくないので紹介に加え、東京在住の食いしん坊台灣人に試食してもらった。日本と台湾のスタンスの違いをふまえつつ、食べて回った現地人目線のジャッジはいかに?

鹹豆漿(シェントウジャン=塩っぱい豆乳スープ)や蛋餅(ダンビン=台湾式クレープ)をはじめ、飯糰(ファントゥアン=台湾式おにぎり)、三明治(サンミンチー=台湾サンドイッチ)、肉包(ロウパオ=肉まんなど本格的な台湾朝食を提供する店が、ここ最近、東京でも増えてきている。

現地の味を忠実に再現した本格メニューが楽しめるとあって、台湾ラバーや在京台湾人が足しげく通う店も多い。ここでは、そんな本格的な台湾朝食が楽しめる都内の店を紹介しよう。

広告

「ご飯食べた?」を意味する「呷飽没?」があいさつになってしまうほどおいしいものであふれる台湾。気軽に旅ができない今、台湾ロスに陥っている人も多いだろう。

そんな人の願いをかなえるべく、ここでは「東京の台湾」をピックアップ。本場の味が楽しめる料理店はもちろんのこと、現地感のある内装でプチ旅行気分に浸れる一軒や話題の新店、隠れた名店などをタイムアウト東京の台湾出身スタッフ、ヘスター・リンとともにセレクトした。台湾の豆知識も時々交えたヘスターのコメントとともに紹介するので、台湾の情報収集としてもぜひ活用してほしい。

広告
おすすめ
    関連情報
    関連情報
    広告