東日本大震災後の日本人の姿に衝撃
生まれも育ちも台北の陳は38才。飾り気のない親しみやすい人物で、滑舌よくしゃべる日本語から聡明さがうかがえる。陳は台北屈指の繁華街・西門の外れにある老舗早餐店で、学校に通う傍ら18歳から働いていた。早餐店を熟知するプロである。
陳が働いていた台北の早餐店(現存)は、常連客に恵まれて売り上げは順調、従業員も増えていった。一方で商売が軌道に乗るにつれ、物足りなさを感じるようにもなったという。毎年同じことを繰り返していれば無難に食べていけるが、それで満足できるのだろうか? 新しいことを学び、チャレンジしたい気持ちが陳の中で募っていく。
その頃、日本で東日本大震災が発生した。陳は2カ月後にあえて日本を訪れる。あちこちに震災の爪痕が残る重たい空気の中、災害に耐え黙々と回復を目指す日本人の姿に衝撃を受けたという。「台湾なら、ああはいかないですよ」と思い出すように語る。日本にはそれまでも観光目的で何度も訪れたことはあった。しかし災害時だからこそ垣間見えた民族性の違い、社会の先進的な姿は一層興味深く、学ぶことが多々あると陳は確信する。