アペロ ワインバー 青山
Photo: Keisuke Tanigawa
Photo: Keisuke Tanigawa

ナチュラルワインバーの先駆け、フランス人店主が「アペロ」にかける思い

目利きしたワインとオーガニック食材を使った料理で生産者の魅力を発信

テキスト:: Tomomi Nakamura
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昨今、ナチュラルワインはすっかりブームとなり、気軽に手に取りやすいものだと言える。しかし、無農薬・無化学肥料の有機栽培されたブドウを使い、酸化防止剤をできる限り減らした(または無添加の)ワインは、10年前では一部のマニア受けする知る人ぞ知るワインだった。

そんな2014年からフランスのナチュラルワインにこだわり、青山の隠れ家のような一角でワインバーを始めた2人がいる。「アペロ ワインバー 青山(apéro. wine bar AOYAMA)」を営む、フランス人夫婦のギヨーム・デュペリエと、クロエ・ブネだ。

自ら母国を飛び回り、生産者の顔が見えるワインと日本のオーガニック食材を使った料理を提供する彼らの店は、たちまち人気店となった。

東京で活躍する外国人にインタビューをしていくシリーズ「International Tokyo」。第10回は、日本におけるナチュラルワインの注ぎ手として、先駆者的存在の2人に同店に込められたストーリーと展望について話を伺った。

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本物志向のグルメが集う東京に憧れて

ワイン好きのギヨームが初めて日本を訪れたのは、京都に留学していた20年前。2人はその後フランスで出会ったそう。東京には以前から度々訪れることがあり、独自の文化に魅力を感じていたという。

「東京は世界屈指のグルメシティというイメージがありました。フランスにもおいしい食材はたくさんあるのですが、調理方法や提供方法が大ざっぱでも気にならない食べ手が多い。一方、日本人は誰かが手をかけ、丁寧に作った料理への意識が高い。その点が魅力的でしたね」と、ギヨームは語る。

「私たちは店を通して作り手の魅力を伝えたいという思いが前提にありました。なので、本質的においしいものが分かっている人が多く、生産者や料理人へのリスペクトもある東京という街に出店したいと思うのは、自然な流れでした」(クロエ)

マイナーだった時代にナチュラルワインを選んだ理由

一言にワインと言ってもさまざまな種類があるが、まだナチュラルワインがトレンドではなかった時代、2人がそれだけに商品を絞った理由はなんだったのだろうか?

初めはワイナリーを巡るうち、シンプルにスタンダードなものよりナチュラルワインの方がおいしいと思ったからだが、その後、よりはっきりとした理由を持つようになる。

「生産者の話を聞いていくうち、通常のワインで使われる農薬や化学肥料は土壌に悪影響を与えるのはもちろん、酸化防止剤によって、ワイン造りに関わる人の健康にも問題が出てくることが多いことを知りました。

環境や作り手のためにも、無農薬・無化学肥料の有機農法をベースにしたナチュラルワインを扱おうと決意したんです」と、クロエ。

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パリのアパートメントのようなバーは瞬く間に人気に

最近では日本でもオーガニック食材やナチュラルワインが浸透してきた。だが、それらの認知度が低かった開店当初は、どのように受け入れられていたのかも気になるところだ。

「開店当初はあえてナチュラルワインだとは言わず、自信を持って厳選したワインを提供していると伝えていたんですね。そこから興味を持ってくれた人にはナチュラルワインの解説をして、認知度が高まってから表に出すように変化していきました」と、ギヨーム。

スタッフが全員フランス人だったことや、パリジャンのアパートメントをイメージした店内にしたことで「本当にパリのよう」と興味を持ってもらえることも多く、同店は瞬く間に人気店に。週に何度か訪れるリピーターも早々にできたそうだ。

作り手と直接つながり、本当に旬のものを届ける

料理もこの店の欠かせない魅力の1つである。日本の国産食材にこだわり、短いスパンで農家と連絡を取りながら、天候や畑のコンディションなどを聞き、本当に旬のものを届けることを意識しているそう。そのため、メニューは週単位で入れ替わる。

例えば、今旬の「カリフラワー、ブロッコリー、ヴィーガンマヨ」(1,000円、以下全て税込み)は、冬野菜に米粉や水、オリーブオイルなどを合わせたビーガンマヨネーズを添えたメニューだ。香ばしい野菜とヘルシーで爽やかなマヨネーズの風味が調和したメニューとなっている。

「ビーツ、グリークヨーグルト、季節の野菜」(1,200円)も2人のおすすめの一品。グリークヨーグルトの酸味がビーツの自然な甘みを後押ししている。いずれも野菜の素材のおいしさを引き出した料理である。

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姉妹店は古きよき商店街に

2021年には、昔ながらの街並みが色濃く残る曳舟エリアにも、ワイン販売を専門にした「アペロ ワインショップ(apéro.ワインショップ)」を出店した。

戦時中、戦火を逃れたことで長屋が多く残るこの周辺は、リノベーションカフェやバルなどを営む若き店主の店が集まり、新しいカルチャーが形成されていると話題のエリアだ。

「曳舟は店同士のつながりが強く、コミュニティーとしての雰囲気が心地よいので、ワインショップの出店を決めました。私たちが関わることで、古きよき商店街を守っていきたいという思いもあります。このエリアは若いファミリー層が多く、自宅でワインを飲む習慣がある人も多いので、青山とはまた別のタイプのゲストと関われてうれしいですね」と、クロエは笑う。

長く関係を築き、生産者を守れる店でありたい

「私たちが思う本当のゴールは、ナチュラルワインやオーガニック食材を浸透させることではなく、頑張っておいしいものを作っている生産者の魅力をこの店を通してゲストに伝えることです。

安価な商品では、それを作っている人の生活を守れない。きちんと作られたものを適切な価格で購入し、生産者と長く付き合いを続けていくこと。スタッフのホスピタリティと手間で価値をプラスし、ゲストに届けることで良い循環が生まれると思っています」(クロエ)

同店ではワインに関してもスタッフが直接ワイナリーへ出向き、人として生産者と信頼関係を築くことを重視しているという。マニアに珍しいと言われるようなワインも豊富に揃えているが、ブランドとしての認知度ではなく、作り手の質を大切にしている。

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フランスと日本のワイン文化の違いとは?

ところで、フランスと日本のナチュラルワイン文化に大きな違いはあるのだろうか?その違いについて聞いてみた。

「フランスはワイン王国だけど、ナチュラルワインはグローバルトレンドだから、日本と大きな違いがあるとは言えないんじゃないかな。ただワインの楽しみ方に違いがあるとは思っています。

日本人に『ワインは好き?』と聞くと、知識があるかどうかを異常に気にするんですよね。好きか嫌いか答える前にそちらに意識がいってしまうんです」(ギヨーム)

フランス人はワインの知識がなくても気にしない人が多く、ただワインが好きなだけの場合も実際多いそうだ。

難しいことは考えずもっとワインを楽しんでほしい

「僕らは知識の有無は問わないし、スタッフに頼ってもっと気軽にワインを楽しんでほしいと思っています。アペロ ワインバー 青山という店名には、食事の前に仲間と語り合いながら、食前酒を酌み交わす、フランスのアペロ文化を日本でも浸透させたいという思いも込めている。フランス人のように遊び心を持ってワインを味わってほしいです」と、ギヨーム。

フランスでは会話が盛り上がり、夕方から始まるアペロが夜中まで続くこともあるそうだ。

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夏には移転、新たなチャレンジへの期待

「実は今年の夏に移転することが決まっているんです。もちろんこのエリアには愛着があったので、名残り惜しい気持ちもあるんですが。いいチャンスだと思って次の場所でも作り手の魅力を伝えながら、本質的においしいものを届けていけたらと思っています。

そして、これからは自分たちで農園を営むことも視野にいれていけたらと。新しいチャレンジを大事にしていきたいですね」と、クロエ。

母国であるフランスのワインをリスペクトしつつ、日本の農家にもとことん寄り添うギヨームとクロエ。人とのつながりを大切にし、どの瞬間も誠実に向き合う2人の姿は、新店でもきっと素晴らしい相乗効果を生み出すに違いない。

  • 青山

ギョームとクロエのデュペリエ夫妻が経営するワインバー&レストランは、2014年のオープン以来、忠実なファンを獲得している。ワインは、フランスのナチュラルワインにこだわり、食事は国産のオーガニック食材を使った愛情たっぷりの家庭料理で愛されている。

パリジャンのアパートメントをイメージした店内は、多く紺碧のアクセントがきいた明るくリラックスした空間で、家族連れからカップル、一人客まで幅広く利用できる。

食事は、天候や畑のコンディションなどを聞き、本当に旬のものを届けることを意識しているそうだ。そのため、メニューは週単位で入れ替わる。

例えば、今旬の「カリフラワー、ブロッコリー、ヴィーガンマヨ」(1,000円、以下全て税込み)は、冬野菜に米粉や水、オリーブオイルなどを合わせたビーガンマヨネーズを添えたメニューだ。香ばしい野菜とヘルシーで爽やかなマヨネーズの風味が調和したメニューとなっている。

デイリーワインを入手したければ、曳舟にある姉妹店「アペロ ワインショップ」をチェックする価値がある。テイスティングは1杯300円だが、当日ボトルを購入すれば無料になる。

もっと東京で活躍する外国人のストーリーを知りたいなら……

2022年8月8日、御徒町に、スタイリッシュなシューマイ店「一笹焼売」がオープンした。白を基調にした明るい店内で、中国・内モンゴル自治区呼和浩特(フフホト)の伝統的な味わいを再現した羊肉シューマイを提供している。ほかにも羊肉麺や羊スペアリブの塩ゆで、塩気がきいたモンゴル式ミルクティーなど、内モンゴルの郷土料理が楽しめる。

実はこの店、中国出身の若い女性オーナーが2人で共同経営を行っている。東京で活躍する外国人にインタビューをしていくシリーズ「International Tokyo」。第7回は、一笹焼売を経営するニキ(Niki)とキョーキョー(Kyokyo)に、日本で内モンゴルのシューマイ専門店を開いた理由を聞いた。

吉祥寺駅北口から徒歩5分。2022年4月28日にオープンしたウクライナの家庭料理店、「バブーシャレイ(Babusya REY)」がある。利用客の投稿したSNSが話題となり、1日100人以上の客が狭い階段に列を作る。

8席ほどの小さなバーを間借りして土・日曜・祝日の昼間のみ営業。「ボルシチ」やマッシュルームとジャガイモを包んだウクライナ風餃子「ヴァレーキニ」、キーウ発祥のウクライナ風チキンカツレツなどを提供している。

プロボクサーとして活躍する小笠原裕典(以下、小笠原)とウクライナ出身の妻、ビクトリヤ、その姉のエウゲニア、夫のアントンの4人で切り盛りする。エウゲニア夫妻はウクライナから3月末、ビクトリヤを頼って息子と両親と避難してきたばかり。狭いカウンターの中では日本語、英語、ロシア語が飛び交う。

東京で活躍する外国人にインタビューをしていくシリーズ「International Tokyo」。第6回は、「バブーシャレイ」の小笠原夫妻に、同店の魅力とオープンに込められた思いを語ってもらった。

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  • Things to do

東京都生活文化局の調べによると、東京都内で生活する外国人は184カ国と地域の約54万6000人(2021年1月1日時点)を数える。10年前から比較すると、その数は12万人以上増加した。

街に出ればさまざまな国旗が掲げられたレストランやショップを目にするだろう。そんな多文化都市としての横顔にスポットを当てるべく、東京で活躍する外国人にインタビューをしていくシリーズ『International Tokyo』を企画。実際に東京で生活する外国人がどんな思いで暮らし、人や街とどんな風に関係しているのかを聞いていく。

第1回は、パキスタン出身で2012年に日本国籍を取得した味庵・ラムザン・シディークに話を聞いた。味庵は、パキスタン料理店のシディークやアジアン食材店のナショナルマートなどを経営する和新トレーディングの取締役を務め、東京にハラルやパキスタン文化を浸透させている立役者だ。

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