SEX:私の場合 #2
SPUR 2021年10月号掲載(Photo: Kotetsu Nakazato)
SPUR 2021年10月号掲載(Photo: Kotetsu Nakazato)

日本のジェンダー観や婚姻制度のあれこれ、もう一度社会の前提を疑おう

SEX:私の場合 #2 あなたにとっての「性別」とは?

Hisato Hayashi
寄稿:: Honoka Yamasaki
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タイムアウト東京 > LGBTQ+ > SEX:私の場合 > 日本のジェンダー観や婚姻制度のあれこれ、もう一度社会の前提を疑おう

現在、「婦婦(ふうふ)」として3人の息子を持つ、エリンとみどり。二人が結婚した後、エリンは自身の性に対する違和感から、出身国であるアメリカ合衆国でトランジション(性別移行)を行った。

しかし、日本では同性間の婚姻が認められない。そのため、二人は婚姻関係を解消するか、本来の性ではない「男性」のままでいるかの二者択一をせざるを得ない現実に直面した。2021年、同性婚が認められない現状に対して、二人は国を相手取り裁判を起こしている。そんな二人に、日本のジェンダー観と政治について話してもらった。

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ー始めに、お二人について教えてください。

エリン:私たちは結婚22年目の「婦婦(ふうふ)」です。二人でセックスポジティビティーを文脈としたオールナイトの野外レイブ『SLICK』、クィア&フェミニズムをテーマとするパーティー『WAIFU』をオーガナイズしています。今年2月、私たちの家族の形について綴った著書『エリンとみどり ジェンダーと新しい家族の形』を出版しました。

ーさまざまな活動をされているお二人ですが、今回本の出版を決めたきっかけはありますか?

みどり:今までさまざまな活動を通して、マイノリティーとされている人たちが「少数派だけど少数ではない」ということを発信してきました。今の社会では、トランスジェンダーの人権を守る法律はなく、存在しないものとして認識されています。ですが、私たちのように生活している当事者は世の中にはたくさんいるんですね。

今回本の出版のお声がけをいただき、今までとは異なる層の人たちにも私たちのメッセージが届けられると思い、承諾しました。

ー本では自身の経験をベースに、「ジェンダー」をテーマにしています。自身のジェンダーについてはどのようにお考えですか?

みどり:私のジェンダーは昔から女性と捉えていて、それに対して疑問はありません。しかし、「女性」って何だろうとは思います。私はいわゆる「女性らしい」服装を好み、恋愛対象は男性。ステレオタイプであるような、女性にして喜ぶとされていることに対してもうれしいと感じる。

けれど、エリンと自分を比べると、私の方が性格はサバサバしていて、世間でいう「男らしさ」に当てはまってると思うんです。なので、男/女で分ける「性別」が何かということはわからないんですよね。

ー一言では表せないということですね。

みどり:そうですね。本人の自認が大事なのかなと思います。私は、相手が「自分は女」だと言うなら女だと思っています。それはジェンダー以外にも当てはまると思うんです。

例えば、生理痛がひどくて体育の授業を休みたいと言う人に対して、第三者が「私はつらくないと思うから出席すべき」と言っても、個々によって感じ方や痛みの度合いというのは異なりますよね。このように他人にはわからないこともたくさんあると思うので、自分がどのように認識しているかが尊重されるべきだと思います。

恋愛基盤の婚姻制度について考える

ー多くの国で個人の自認する性がパスポートなどの書類に適用されるなか、日本ではジェンダーに対する考えがアップデートされないのはなぜだと思いますか?

エリン:一つの理由として、考え方の違いが挙げられると思います。私の育ったアメリカでは「ダメ」だと言われなかったらやってもいいという認識。一方、日本では「大丈夫」だと言われるまでやったらダメと考える人が多い印象です。

個人的な話だけでなく、政治的な話にも同じようなことが言えます。政治家は、現状を変えることへの批判や指摘を気にして、今まで通りの法律にしておくことがベストだと思っているのかなと。

みどり:一回駆け出したら後戻りできないのは、日本の政治の特徴ですよね。失敗することは許されず、途中で修正することへの恐怖心が大きいように感じます。これだけインターネットが発達し、気軽に海外へ行ける時代で、島国根性を理由に日本独自のルールを突き通すのはナンセンスだと思いますが。

ー法律や認識を変えていくには、海外に目を向けることも大事ということですね。

エリン:日本人、外国人、トランスジェンダー、全てが同じ人間です。みんな求めているものは共通していて、幸せに人生を送ること。その幸せをつかみ取るのには、選択肢があることが一つのポイントです。法的に婚姻関係を結ぶことで、税金の控除を受けられたり、結婚相手へ遺産の相続ができます。なのでお金が直接関わる結婚制度が、全ての人に与えられないことは問題視しています。

みどり:異性間であれば、恋愛しているふりをしたカップルも婚姻制度が使えますよね。つまり、外から見たら恋愛を基盤として二人は成り立っているように見えても、実は家庭内別居をしている人もいて。

一方で、恋愛している同性カップルが結婚できない現実があります。なので、そもそも恋愛基盤として成り立つ婚姻制度という認識自体が変わるべきなのだと思いますね。

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10代の頃抱いた「なぜ?」を思い出すこと

ーステレオタイプから脱却するためにできることはありますか?

みどり:ティーンエージャー時代の疑問を思い出すことでしょうか。例えば、子どもに対して親が「恥ずかしいから裸ん坊で走り回らないで」と言うのをよく聞きますが、子どもは「なんでダメなの?」と思っていますよね。なぜ裸になるのがダメとされているのか。そういった根本的な疑問って、意外と答えられないことが多いですよね。

エリン:「なんでこれが正しいの?」「これはなんのためにあるの?」という質問に対し、ルールだからと言われると、子どもは大人を信用できない気持ちになってしまうのも当然です。結局、理由や合理性がないまま物事が進んでしまいます。特に、大人は知ったかぶりする人が多いと思うのですが、何も知らなくていいんですよね。それよりも聞く力を持つことが大事だと思います。

みどり:ルールの中で洗脳され、本当に正しいのかわからなくなっていることってありますよね。今の社会に存在する前提を一度疑い、「なぜ?」と自問自答することで、ステレオタイプがなくなることにつながるのではないでしょうか。

『エリンとみどり ジェンダーと新しい家族の形』の詳細はこちら

Contributor

Honoka Yamasaki

レズビアン当事者の視点からライターとしてジェンダーやLGBTQ+に関する発信をする傍ら、新宿二丁目を中心に行われるクィアイベントでダンサーとして活動。

自身の連載には、タイムアウト東京「SEX:私の場合」、manmam「二丁目の性態図鑑」、IRIS「トランスジェンダーとして生きてきた軌跡」があり、新宿二丁目やクィアコミュニティーにいる人たちを取材している。

また、レズビアンをはじめとしたセクマイ女性に向けた共感型SNS「PIAMY」の広報に携わり、レズビアンコミュニティーに向けた活動を行っている。

https://www.instagram.com/honoka_yamasaki/

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