セレスティア・グロウン
Photo : Kisa Toyoshima
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ドラァグクイーンの枠から頭一つ抜けた美の化身、Cerestia Grownの半生

SEX:私の場合 #19 「コンプレックスも味方につける」唯一無二の存在でいること

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Cerestia Grown(セレスティア・グロウン)は、2メートル級の身長を誇るドラァグクイーンだ。彼女の圧倒的な存在感は、新宿二丁目のクラブシーンだけでなく、メディアでもたびたび取り上げられている。加藤アゴミサイルと人気ゲイYouTuber・2すとりーと(通称「セカスト」)の動画出演で知っている人もいるかもしれない。

ゲイや女装タレント、ドラァグクイーンといえば、コミカルなキャラクター、または毒舌なイメージを持つ人もいるのではないだろうか。しかし、セレスティアはそんなステレオタイプ化されたイメージを覆し、唯一無二の存在であり続けている。

本記事では、これまでの遍歴を辿りながら、いかにしてセレスティア・グロウンという人物が確立したのか秘訣を聞いた。

高身長ドラァグクイーンとして定着するまで

セレスティア・グロウン
画像提供:セレスティア・グロウン

 ードラァグクイーンとして活動を始めた経緯を教えてください。

最初はドラァグクイーンのことを全く知らなかったし、メイク道具に触れたこともありませんでした。ですが、関西に住んでいた頃、堂山町(大阪のLGBTQ+関連の飲食店などが集まるエリア)のバーで出会った人たちに「身長も高くて目立つからクイーンになった方がいいよ」と言われたことがきっかけで、次第に興味を持つようになりました。

そこで私が最初に影響を受けたのがドラァグクイーンのViViちゃん。彼女は私にとって生みの親のような存在です。

ードラァグクイーンとしてデビューしたのはいつでしたか?

2018年3月です。就職で東京へ引っ越すことが決まってから周りの人に伝えていたのですが、イベントのオーガナイザーさんに「それなら名前をつけてから東京に行け」と言われ、クイーンデビューすることが決まりました。引越しする3月26日の2日前にデビューしました。

ーCerestia Grown(セレスティア・グロウン)という名前の由来は?

クイーンデビューを控え、自宅でメイク練習をしている際に友人たちに進捗報告で写真を見せていました。その中である友だちが「セレスっぽいね」と言い出したことをきっかけに、現在は大阪を拠点に活動をしているクイーンのアンジェリーナ・じゅり子ちゃんが「セレスティア・グロウン」と提案してくれました。

ローマ字表記は自分で決めたのですが、「セレス」はローマ神話で豊穣神の「Ceres(ケレス、デーメーテール)」に由来しています。当時大学生で植物の研究をしていたことや、農業に関わる企業に就職することからぴったりだと考えたんです。「グロウン」は「grown up(大きく育った)」の意味で、私の特徴である身長からつけられた単語です。

なので、実はCerestia Grownという名前は「大きく育った豊穣神」という意味でもあったりします。

セレスティア・グロウン
画像提供:セレスティア・グロウン

「ほかにできることがなかったから」唯一無二であること

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ーイベントに出演することもありますか?

ドラァグクイーンといえば、派手な衣装でショーを行うイメージを持つ人もいるでしょう。しかし、実際にはそれだけに留まらずショーのほかにもお店に立ってホステスをしたり、タレントとしてメディアに出演したりなど、さまざまな活動内容があります。

正直に言うと、今でこそさまざまなイベントに呼んでいただいてショーをしていますが、デビューして数年はショーに対して苦手意識がありました。クイーンさんによってはショーのアイディアがたくさん浮かぶ人もいますが、私はなかなかネタが思いつかないタイプ。好きな曲はたくさんあるけれど、ちょっと寂しい感じの曲が多く、ショーのネタにしても盛り上がりにくいんです。

一方で、身長という特徴もあって早い時期からレセプションパーティーや、二丁目でない場所でのクラブのお仕事に呼んでいただくことがたびたびありました。なので苦手なことを無理してやるよりも自分の個性を伸ばしていこうと決めました。

ーセレスティアさんを見ていると、ドラァグクイーンという枠を超えた芸術を感じさせる唯一無二の存在だと感じます。

ドラァグクイーンといえば、毒舌キャラでコメディ要素があるとイメージする人もいるでしょう。ですが、私自身はそんな風潮があまり好きではなく、そういったイメージを遠ざけていました。もともと人にズバズバ言うことができない性格なので、そういうキャラクターも演じられないし、面白いネタも思い浮かばなくて……。

時々「ブレないよね」と言われますが、それは自分を貫いたというよりも、ほかにできることがなかったから。でも、その結果として今のイメージが固まったのだと思います。

会社員とドラァグクイーンの二重生活

セレスティア・グロウン
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 ーもともとは会社員とドラァグクイーンを兼業していたとのことですが、その頃はどのように仕事をこなしていたのでしょうか。

当時営業職に携わっていたのですが、水・日曜休みの会社に勤めていました。イベントの仕事は金・土曜の週末に行われることが多いため、あまりイベントには出られない状態が2~3年続き、土日休みの会社に転職。月曜から金曜まで会社で働いて、金・土曜の夜にイベントに参加するという生活スタイルに変わりました。

しかし、それからコロナ禍になってしまい、会社員だった私はお店やイベントのみで生計を立てていた方々にお仕事を優先してもらい、ドラァグクイーンの仕事を控えていました。その結果、会社と家を行き来するだけの生活が数カ月続き、ストレスが溜まってしまって……。そこで、自分にはドラァグクイーンが必要不可欠なものなのだと実感したんです。

会社員を辞め、ドラァグクイーン一本の道を決断

ードラァグクイーンのみのキャリアを考えたきっかけは?

会社員とドラァグクイーンを兼業してから丸5年を迎えるタイミングで、これからのキャリアをどうするかを考えていました。このまま会社に留まれば、より良いポジションに就ける可能性もありましたが、果たしてそれが本当に自分の望む道なのかと。自分の人生を見つめ直すべき時期だと感じたのです。

セレスティア・グロウン
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ありがたいことにコロナ禍も落ち着きクイーンの仕事をいただくことが増え、営業職とのスケジュール調整も困難を極めました。次第に時間的な制約が増し、頭の中はドラァグクイーンのことでいっぱいになっていったのです。

そこで、お店でお世話になっている先輩方にどの程度の仕事が見込めるのか相談し、生計を立てられそうだという見込みが立ったところで会社を辞める決断をしました。会社には、正直に理由を話すことが難しかったので父親の体調不良を口実にしましたが、実際にはメディアでの露出もあったので知っていた人もいたようです。

ーご両親からの理解はありましたか?

心配させてしまうと思い、母親には後から報告しました。帰省した時、「実は……」と話を切り出したら、「見たよ」と一言返ってきました。私は会社を辞めてドラァグクイーンの活動一本にすることをSNSで報告していたので、その投稿を見ていたようです。

父親は私の活動のことを知っているのかもしれませんが、直接はいまだに伝えられていません。ドラァグクイーンをやっていること、会社を辞めたことの両方を伝えるために、まず「実は会社を辞めたんだ」と言ったのですが、父はすぐに話を逸らしました。

まだ心の準備ができていないのかもしれません。これ以上話すべきか迷いましたが、現時点では「会社を辞めた」とだけ伝えています。

元気でいることの秘訣は「楽しむこと」

セレスティア・グロウン
画像提供:セレスティア・グロウン

 ー昼間は撮影、夜は店での接客と生活リズムが不規則になっているとおうかがいしました。そうした中で、どのようにして美しさを保っているのでしょうか。

あまりおすすめはできませんが、食事の回数がとても少なくて、1日1食か2食しかとりません。クイーンの仕事中は自由に食べられる時間がないことが多いこともありますが、私自身、筋肉をつけずに体型を維持したいという思いもあって、我慢している訳ではなく無意識的に食事の優先度が下がっている可能性もあります。

ー食生活に関しては意外だなと感じました。それでも肌はとても奇麗ですし、何か努力しているのではないかと思ってしまいます。

スキンケアに関しては、メイク残りがないように洗顔を念入りにしています。不思議なことに、女装をしていない日が続くと吹き出物が出ることが多く、逆にメイクをしている時の方が肌の調子が良いことが多い気がします。これはメイクをしているからこそスキンケアを意識しているからかもしれませんね。

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 ードラァグクイーンのような体力仕事に携わりながら、メンタルや体力を維持する秘訣はありますか?

楽しくいることです。最近、周りから「いろんなお店や現場で接客ができるのってすごいよね」と言われたのですが、自分ではそう思わないんです。私の場合、人と話す時間が一番楽しくて好きです。

こうやって人前に立って、みんなでワイワイ話すのが自分に合っているんだなと感じています。

自分の理想像を持って、一人称を「僕」から「私」へ

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画像提供:セレスティア・グロウン

ードラァグクイーンとして日々気をつけている所作、言葉遣いなどがあれば教えてください。

両親がテレビに出ているオネエタレントさんを見て毛嫌いしていたのを見ていたので、最初は女装に対してあまりポジティブな感情を抱いていなかったし、ネガティブなイメージが強かったんです。コミカルなイメージのタレントと同じになりたくないと思っていたので、最初なんかは「僕」という一人称で活動していました。

それに対してお客さんの理解がなかなか追いつかず、「一体どっちなの?」と言われることもありました。それから一人称をわかりやすく「私」に変えて、女性らしい動きをすることにし、自分に合うスタイルや振る舞いを模索してきました。

私は奇麗なスタイルが好きなので、自分の理想像を持って、それに合わせて日々、調整する毎日ですね。

ー今後、新たにチャレンジしたいことはありますか?

ドラァグクイーンをしながら、体型を生かしてモデルのお仕事がしたいです。また、モデルに限らず、ドラァグクイーンでありながらさまざまな分野で活動していけたらいいですね。

ータイムアウト読者に向けて一言お願いします。

「自分の個性を大事にしてください」という言葉をよく耳にしますが、まさにそうだなと感じます。自分がゲイだからこそ、ドラァグクイーンという道に出合えました。身長も以前はコンプレックスでしたが、今ではそれが大きな武器になっています。自分の個性を大切にすることで、毎日がより幸せに感じられることもあるんだよ、と伝えたいです。

Contributor

Honoka Yamasaki

レズビアン当事者の視点からライターとしてジェンダーやLGBTQ+に関する発信をする傍ら、新宿二丁目を中心に行われるクィアイベントでダンサーとして活動。

自身の連載には、タイムアウト東京「SEX:私の場合」、manmam「二丁目の性態図鑑」、IRIS「トランスジェンダーとして生きてきた軌跡」があり、新宿二丁目やクィアコミュニティーにいる人たちを取材している。

また、レズビアンをはじめとしたセクマイ女性に向けた共感型SNS「PIAMY」の広報に携わり、レズビアンコミュニティーに向けた活動を行っている。

https://www.instagram.com/honoka_yamasaki/

ドラァグクイーンについてもっと知りたいのなら……

  • LGBT

国内最大級のドラァグクイーンショー「OPULENCE」。その演目の一つとして、新人ドラァグパフォーマーが競い合うコンテスト「Sparkle」で優勝を果たしたDerek Toro(デレク・トロ)は、「ドラァグキング」として活動するパフォーマーの一人だ。

ドラァグクイーン、ドラァグキングともに用いられる「ドラァグパフォーマンス」とは、ジェンダーの規範を曲げることを目的としたものである。一般的には、メイク、衣装、リップシンク、ダンスなどを通して、記号としてのジェンダー(社会一般的な男性・女性らしさ)を大げさに表現している。

ドラァグクイーンは大げさに女性らしさを表現するのに対し、ドラァグキングは男性的な表現をする。昨今メディアでドラァグクイーンの露出が増えつつある一方で、ドラァグキングの存在を知らない人は多いのではないだろうか。Derekが一般投票により優勝を勝ち取ったことは、日本のドラァグ界における歴史的快挙ともいえるだろう。

今回は、いまだ未知の存在であるドラァグキングについて知るべく、OPULENCEに出場したDerekにインタビューを実施。これを読めば、ドラァグキングとは何かという一端を知ることができるだろう。

  • LGBT

新宿二丁目にあるゲイバー「イーグル トウキョウ ブルー」に、3人のドラァグクイーンが集まった。座談会が行われたのは、「プライドマンス」が始まる1カ月前の2023年5月某日。

プライドマンスは、ニューヨークで起こった「ストーンウォールの反乱(*1)」がきっかけとなって始まった。LGBTQ+コミュニティーを示すための月間として知られ、日本でもキャンペーンの打ち出しやイベントの開催、企業によるレインボーグッズの販売など、クィア(*2)コミュニティーの一大イベントとなる期間だ。 しかし、当事者の声を届ける企画「QUEER VOICE」でも明らかになったことだが、「ハッピープライド!」と声を大にできない現状も同時にある。同性婚やLGBT+差別禁止法が認められないことが、クィアの生活に影響を及ぼしていることは言うまでもない。

今回、ドラァグクイーンとして活動するLabianna Joro(ラビアナ・ジョロー)Moche Le Cendrillon(モチェ)Vera Strondh(ヴェラ・ストロンジュ)の3人が集まり、単刀直入に意見を交わした。その中でも、「個人的なことは政治的なこと」とあるように、「ドラァグクイーンであることは政治的なこと」という言葉が印象的だった。ドラァグクイーンとしての活動は、政治とどう関係しているのか? さらに、プライドマンスを通して見える今の社会についても掘り下げる。

 

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  • LGBT

ドラァグクイーンは、単に派手で独創的なだけではない存在だ。豪華絢爛(けんらん)なエンターテイメントが繰り広げられる裏には、公では語られないようなさまざまなドラマがある。

ライター、ダンサーとして活動する筆者の、高校時代からの友人であるVera Strondh(ヴェラ・ストロンジュ)は、さまざまなシーンで活躍するドラァグクイーン。「一緒に踊らない?」という彼女の一言から新宿二丁目のイベントに出演した際、Veraの「ドラァグマザー」であるVictoria Strondh(ヴィクトリア・ストロンジュ)と「ドラァグファザー」のMarcel Onodera(マルセル・オノデラ)に出会った。

3人は「Strondh」(ストロンジュ=マザーのVictoriaがもともと使用していたファミリーネーム)という名前のもと、2018年から活動している。日本ではあまり馴染みはないが、ドラァグシーンでは「ドラァグファミリー」と呼ばれる家族を構築し、母親が娘にドラァグの世界での振る舞いを教えることもある。 まだまだ謎が深いドラァグファミリーの実態を、インタビューを通して明らかにしていく。

  • LGBT

性教育パフォーマーを名乗るドラァグクイーンがいる。その名もラビアナ・ジョロー。端正な顔立ち、豊満な尻、青々と生い茂った胸毛。それを笑う者でさえも、いつしか彼女の魅力に吸い込まれていく。

軽快なトークときらびやかな踊りを披露する独特なパフォーマンスは、後に問いや話題のきっかけを生み出す。それは、彼女が培ってきた性の知識と社会の影に潜む問題をパフォーマンスと融合させ、我々に問いかけているからだ。ラビアナはなぜ胸毛を見せつけ、表現し続けるのか。話を聞いてみた。

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熱気を帯びるLGBTQ+コミュニティーのパーティーシーン。ゲイ・レズビアン・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィアなど、あらゆるセクシュアリティー・ジェンダーの人たちが足を鳴らして、自分たちの存在を光らせている。

酒を飲んで交流したい人、とにかく踊りたい人、セクシーなゴーゴーダンサーにチップを渡したい人、厚化粧にきらびやかな衣装を身にまとったドラァグクイーンのショーを堪能したい人など、それぞれの楽しみ方ができる。一歩足を踏み入れるとそこにいる皆が主人公であり、オリジナルの世界観が交差するのだ。

誰もが安心して参加し、ホットなナイトライフを送れる東京のLGBTQ+イベントを紹介する。

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